表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/145

7、イーシアの森 〜変身!?

 猫耳の少女が、風の刃を放った。すごい威力だ。


 しかし、奴らが言うように、風魔法は奴らに届かず、かき消されている。奴らの鎧が怪しげに光った。魔法を無効化する鎧なのか。


「クッ!」


 少女は、僕達にバリアのようなものを張った。だけど、それも、奴らが近寄ると、かき消される。少女は、魔法しか使えないみたいだ。


 奴らに斬られたアトラ様の身体から、ドクドクと血が流れる。


(こんなの、嫌だ!)



 僕の中で、何かがプツリとキレたような感覚。そして……。


『ライト、おまえの怒り、オレがサポートする』


(えっ? 何?)


 聞いたことのない声が聞こえた。でも、なぜか僕は、ホッとしている?



 その次の瞬間、僕は何かに覆われた。ふわりと身体が軽くなる。まだ、僕は、上手く歩けない赤ん坊だけど、自分の足でしっかりと立っている。


(変身したのか?)


 僕は、黒い鎧のような物に覆われている。頭も何かで覆われているみたいだ。


(僕には、こんな能力があるの?)


「な、なんじゃ?」


 猫耳の少女は、僕の姿を見て驚いている。


『ボケっとしていないで、アトラの回復をしろ! 腹黒女神!』


(えっ? 僕の声?)


「のわっ!? リュックに乗っ取られたのか」


(はい?)


 意味不明なことを言った少女は、ハッとしてアトラ様に淡い光を放った。すごい! 一瞬で血が止まった。



「なんだ? このチビ」


「ガハハ、まだ歩けないような赤ん坊が、コロンコロンな鎧を身につけてるぜ」


(笑われてる)


 だけど、僕は、なんだかできるような気がする。



『おまえら、余裕ぶっこいてんじゃねーぞ』


(僕の声だけど、誰が喋ってるの?)


「あはは、話せないんだろ。こんな距離で、念話を使うか? それで脅しているつもりか、坊や。いや、女神の番犬ライト!」


(なぜ、僕の名を知ってる?)


「おまえの能力は熟知している。まだ、闇は一つしかないこともわかっているんだ。もう一つの闇が備わる前に、殺して捕らえねばな」


(もう一つの闇? 殺して捕らえる?)


 コイツら、死体の収集家か? 変態じゃん。



 奴らは、ヘラヘラ笑いながら、僕に向かって、剣を振った。


(あれ? 遅い)


 僕は、簡単に避けることができた。


「は? 何だと?」


「すばしっこいチビだな。その鎧は、体力強化の魔道具か」


 奴らの表情が引き締まった。


(でも、怖くない)


 突然、僕の両手に、剣が現れた。


「生意気に、剣なんか使えるのか?」


(また、笑っている)


 奴らは、僕のことをよく知っているみたいだ。僕が生まれ変わる前の力のことを言っているのか。僕は、剣を使えなかったのか?


 奴らが、一斉に動いた。


(えっ? 未来が見える?)


 一人が、僕を斬りつけて、右に避けたところにもう一人が飛び込む気だ。そして、それを避けたら、あの飛び上っている奴が僕の背後に降りてくる。


『ライト、全部斬るぞ』


(うん、わかった)


 僕は、最初にフェイントをかけてきた奴を無視して、右に飛び、飛び込んでくるのを待った。そして……。


 ザッ!


 右手で斬りつけ、そしてフェイントを外されて、こっちに向かってきた奴を左手の剣で止め、右手の剣で、斜めに斬り裂いた。鎧しか斬れないな。


「は? 何だと?」


 あとは、上から落ちてくる奴だ。


 左手の剣は弓に変わった。右手には、弓矢が握られている。僕は、素早く、上から落ちてくる奴に弓矢を放った。


「グハッ!」



『鎧のバリアは消えたぞ!』


(また、僕の声だ)


 猫耳の少女は、風の刃を放った。


「グッ、く、くそっ」


 三人とも、魔法を弾けないとわかると、顔色を変えた。そして、逃げ出した?


「ティ……じゃなくて、猫ちゃん、逃がしてしまっては……」


「構わぬ。去る者は追わずじゃ。逃がす方が良い。あの厄介な鎧が通用せぬと知られるからの」


 アトラ様は、頷いている。あっ、斬られた怪我は大丈夫なのだろうか。



 彼女のことが心配になってきたときに、僕を覆っていた鎧がスーッと消えた。うん? 後ろの方に収納されたような気がする。リュックから鎧が出ていたのかな?


「あ、いてっ」


 立っていられなくて、僕はその場に転がった。赤ん坊って、頭が重いのか。いや、足がグラグラなのか。


「ライト、大丈夫?」


 アトラ様が獣人の姿に戻って、駆け寄ってきた。僕は、あやうく泣きそうになるのを我慢した。この身体は、すぐに泣くよな。なんだか僕は、赤ん坊の身体に乗り移っているかのような、妙な感覚だ。


「あい、だいじょぶ」


「ライト、頭を打ったでしょ。血が出てるよ」


 そう言われて、さっき転がってぶつけたおでこに触れてみると、ほんの少し血がついた。すり傷かな。


「ふぇえぇ〜」


(うげっ、まじ? また、泣くか)


 だけど、なぜか構ってほしくて泣いてしまう。僕には、どうにも止められない。


「ライト、痛かったね〜」


 アトラ様に頭を撫でられ、嬉しくなる。


「ふぇぇ〜ん」


 嬉しくなったのに、なぜ泣いてんだよ。僕は、アトラ様にぺっとりとくっついて泣いている。はぁ、情けない。



 ふと、視線を感じた。チラッと顔を横に向けると、少女がジト目を向けている。羨ましいのだろうか。


「なっ? 羨ましいわけないのじゃ! ライトは情けないのじゃ、泣き虫なのじゃ。だから、シャインも……な、なんでもないのじゃ」


 少女は、しらじらしい知らんぷり。ふぅん、隠し事ができないんだ。僕に知られたくないことを言ってしまったら、明後日の方を向くらしい。


(猫だもんな、仕方ない)


「そ、そんなことより、さっきの真っ黒なヤツはなんじゃ? 魔人化したのかと……じゃなくて、うーむ……」


(あっ、頭を抱えてる)


 なんだか面白いな、この猫。自分で、ダーッと突っ走って失敗するタイプだ。今もよくわからないけど、僕が聞いちゃいけないことを口走ったみたいだ。


 だけど、さっきの不思議な声は、少女のことを、腹黒女神って言ってたっけ? 女神様の猫なんだよね? でも、そういうあだ名なのかもしれない。あまり、深く考えないでおこう。たぶん、何かを知ると、記憶のカケラの出現の邪魔になるんだろうし。


 僕がいろいろと考えていると、少女はギクリとしたり、ふにゃっとしたり、その表情が忙しい。ふふっ、やっぱり、面白い。




「次の馬車がそろそろ来るよっ」


 アトラ様は笑顔だ。さっき斬られたところは、大丈夫なのかな。獣人の姿だと、服で見えない。


(あれ?)


 アトラ様の身体の中が『見える』んだ。そうか、透視か。だけど、獣人の姿だとよくわからない。


「けがは……」


「大丈夫だよ。猫ちゃんが治してくれたから」


「ほんと?」


わらわは、回復魔法くらい、ちょちょいなのじゃ!」


 ドヤ顔の少女。ということは、完治できてるんだ。よかった。猫なのに、すごい魔法を使うんだな。


(また、目が泳いでいる)


 少女は、猫じゃないってこと? 


「わ、妾は、女神の猫じゃ!」


(怪しい……)


 まぁ、いいか。詮索しない方がいいような気がする。僕がそう考えると、少女は明らかにホッとしている。ほんと、隠し事が下手なんだな。




「じゃあ、ライト、またねっ」


「あい、あとらさま」


 アトラ様は、森の端で手を振っている。彼女は精霊イーシア様の守護獣だから、イーシアの森から出られないのだろうか。



 少女は、僕の手を引いて、ゆっくりと歩いてくれている。アトラ様と別れた後は、言葉数が少なくなった。


「ライト、足元を見るのじゃ。つまずいて転びそうなのじゃ」


 意外にも、少女はいろいろと気遣いをしてくれる。子供の扱いに慣れているらしい。確かに、注意をされた所は、気づかなかったら転んでいたかもしれない。




 馬車の停留所には、軽装の男達がいた。


「なんだ? 獣人の姉弟か?」


(絡まれてる?)


「弟ではないのじゃ」


「そんな赤ん坊を連れて、どこへ行くんだ? お嬢ちゃん、獣人は、捕まると売られてしまうぜ」


(えっ? 人身売買?)


「ふん、妾は、高ランク冒険者じゃぞ。しょぼい人間に捕まるわけがないのじゃ」


「高ランク? あはは、何を……うげっ、まじかよ」


 少女は、何かのカードを、まるで印籠いんろうのように見せている。が高い! 控えおろう! とか言いそうだな。


 すると、少女は、バッと僕の顔を見た。その表情は、なんだか、キラキラと輝いている。


「金さんじゃな?」


(金さん? 何のこと?)


「違うのか。うぬぬ……」


 よくわからないけど、また頭を抱えている。まぁ、そっとしておこう。



 馬車が来た。



 僕は少女に、ひょいと抱きかかえられて乗せられた。意外に力持ちだよな。いや、魔法を使っているのかもしれない。


「お嬢ちゃん、弟の世話かい? 偉いね」


 御者ぎょしゃにそう言われて、少女は、適当な笑みを浮かべている。弟ではないと説明するのが、面倒くさいんだろうな。


「ロバタージュに行きたいのじゃ」


「弟の分はタダでいいよ。お嬢ちゃんの分は、銅貨5枚ね」


「銀貨しかないのじゃ」


「じゃあ、お釣りは、銅貨50枚ね」


 銀貨は、銅貨100枚なのかな? それならお釣りは95枚? だけど少女は銅貨50枚を受け取り、馬車に乗り込んだ。


(うん? 文句を言わないの?)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今回に丁度良い画像が有るけど…|д゜)ジー ここだとUP出来ないのが辛い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ