64、王都リンゴーシュ 〜リュッくんと呼ぶ女の子
「まさか、ライト……さん? なぜ、そんなに小さいのよ」
女の子は、フルフルと頭を振っている。なぜか、泣きそうな顔になっているんだ。僕がチビだと悲しいのかな。
するとジャックさんが優しい表情で、女の子の目線に合わせて、しゃがみ込んでいる。
「デイジーちゃんが心配するようなことには、なってないっすよ」
「でも、リュッくんと連絡が取れないわっ」
(リュッくん? リュックくんの知り合い?)
ジャックさんは、女の子に耳打ちするような仕草をしている。
「女神様も、リュックくんと連絡取れないっす。ライトさんの見た目どおり、リュックくんも反抗期なんすよ」
(いやいや、ジャックさん……)
「ほんと? リュッくんは、死んでない?」
女の子は、僕に確認するかのように問いかけた。僕の背中というか肩を見ている。リュックを背負っていないとわかると、焦った表情をしている。
「……ないわ」
涙をこらえるのに必死な表情の女の子に、僕は、やわらかな表情で頷いた。
「リュックくんは、僕の魔力調整をしてくれてるんです。僕が魔力を使いすぎて負担をかけてしまったから、たぶん、今は眠ってます」
「でも、肩に何もないわ」
「リュックくんは、異空間で眠っているんだと思いますよ」
「嘘! 肩にいつも、何かついていたじゃない。それを通して、リュッくんは、ライトさんから魔力をもらうのに」
(そ、そうなのか)
僕の知らないことまで知っている女の子……。見た目は、普通の人間だけど、アマゾネスの王女様なんだよね。アマゾネスは、こちらの王国の人からみれば、魔族だと考えているらしい。
見た目より、年齢は上ってこと? いや、でもさっき、もうすぐ7歳になるから留学しに来たって言ってたっけ。
なぜ、もうすぐ7歳の女の子と、リュックくんは交流があるのだろう? 女の子は、僕の知らないことまで、詳しく知っているみたいだ。
「とりあえず、デイジーちゃんの私室に案内してくださいっす。もう、お使いの用事は終わったみたいっすから」
ジャックさんに、そう言われて、女の子は、しぶしぶ頷いた。
「ライトさん、デイジーちゃんを逃がさないように手を繋いでおいてくださいっす」
「えっ? 僕が?」
「な、何よっ! なぜ、あたしが男なんかと手を繋がないといけないのよ」
「リュックくんは、ライトさんのこと、大好きみたいっすよ?」
ジャックさんがそう言うと、女の子は悔しそうに口をへの字に結びながらも、僕に手を出してきた。
「そんなにチビなら、女の子にしか見えないわっ。チビの女の子が転んでは大変だものっ」
(何を言ってるんだろう?)
よくわからないことを言いながら、女の子は、僕と手を繋いでくれた。そうか、この子は、リュックくんのことが好きなんだな。
アマゾネスは、女尊男卑みたいだから、本来なら男と手を繋いで歩くなんてことは、できないのかもしれない。
だけど、この国に留学してきたのなら、強烈な女尊男卑では、学校に、うまく馴染めないよね。ジャックさんは、それを教育しようとしているのかな。
女の子は、ピューっと口笛を吹いた。
すると、ワラワラと小さなこびとが現れた。これってもしかして、ワープワーム?
黒魔導の魔王スウさんのワープワームとも少し違う。だけど、手足はあるから、生首達とは全く違うんだよな。
「アマゾネスも、女王がワープワームの支配権を持っているんすよ。デイジーちゃんの私室には、ワープワームでしか出入りできない仕様になってるっす」
ジャックさんが説明してくれている間に、足元には、ワープワームのクッションが人数分、出来上がっていた。
知り合いのジャックさんだけでなく、クライン様やレンフォードさんの分もあるみたいだ。
女王様の家族も、ワープワームを使えるんだな。女の子が、再びピューっと口笛を吹くと、景色が移動した。少し揺れたけど、酔うほどではない。
たぶん、移動距離が短いのもあるだろうけど、アマゾネスのワープワームも、それなりに能力は高いんだろうな。
「うにゃ〜!? たくさんのお客様ですぅ?」
広い部屋には、メイドさんっぽい女性が5〜6人と、鎧を身につけた女性が3人、そして、魔女っ子風の20歳前後の女性がいた。
「ミューさん、お邪魔するっす」
「ジャックさんですかぁ? デイジー様、私室に男を招くとは、大胆ですねぇ〜」
「ミュー! 違うわよっ。あたしの私室に案内しろって、うるさいんだもん。たぶん、大切な話があるんだと思う」
ミューと呼ばれた魔女っ子は、僕をしげしげと眺めている。そして、繋いだままの手を見て、首を傾げているんだよね。
(もう、手を離してもいいかな?)
チラッとジャックさんを見ても、何の反応もない。僕の考えを覗く力はないんだっけ? でも、クライン様の方を見ても、ふんわりと微笑まれただけなんだよね。
「このチビっ子は、誰ですかぁ? シャインくんに似ているけど、髪色が違うから謎ですぅ」
「ライトさんだよ。でも、チビだから、女の子みたいだから、チビの女の子が転ぶといけないから、手を繋いであげているのっ」
(また、この不思議な言い訳だ)
「へっ? あー、生まれ変わってチビになっちゃったんですねぇ。イーシアの子って、チビの頃は、男女の見分けがつかないですよね〜」
(イーシア?)
あっ、僕が……『ライト』が生まれ育った土地の名前だ。確か、イーシアの森って、たくさんの小さな集落があるんだよな。
メイドの人達が、お茶をいれてくれた。
僕は、女の子に手を繋がれたまま、ソファに座らされた。クライン様達は、テーブル席に座っている。
女尊男卑の国だから、男は同じテーブルについてはいけないとか、何か決まりがありそうだな。
「大切なお話って何ですかぁ?」
ミューさんは、テーブル席に座った。
「デイジーちゃんの保護に来たんすよ」
「デイジー様の保護? アマゾネスへの帰還はしませんよぉ? デイジー様が家出しちゃったんですからぁ」
(えっ? 留学じゃなくて、家出?)
女の子の顔を見ると、ぷいっとそらされた。僕と手を繋いでいない方の手で、紅茶を上品に飲んでいる。
なんだか、このしらじらしい目の逸らし方って、誰かに似ているよね。
「アマゾネスへ戻すわけじゃないっす。ただ、デイジーちゃんが、青の神に狙われているから、保護しに来たっす」
(この女の子が狙われている?)
ミューさんは、一瞬、目を見開いたけど、すぐに、ふぅ〜っと、ため息をついた。
「そうじゃないかと思ってましたよ〜。デイジー様が、この部屋を出て、城をウロウロしていると、いろいろなことが起こりますからぁ」
「ワープワームで監視してたんすね」
ジャックさんがそう尋ねると、ミューさんは、コクリと頷いた。
「でも、デイジー様は、おとなしく保護されているような方ではないですよぉ。お母様のローズ様より、圧倒的にやんちゃなんですぅ」
(だろうね、全然、怯えないし)
「それはわかる気がするっす。そこで、考えたんすけど、ライトさんと一緒に行動させるなら、大丈夫っすよね?」
ジャックさんは、何か合図をしながら、しゃべっている。僕に聞かせたくない話なんだろうな。
「あたしは、コソコソ逃げたりしないわよっ」
ガシャンと乱暴にカップを置くと、女の子は立ち上がった。僕の手を離さないから、僕まで立たされた形だ。
「デイジー様、そんな、ガシャンってしないでください〜。ミューは、ビクッとしてしまいますぅ」
「あら、失礼。でもねー」
「デイジーさん、いま、地底で起こっている騒ぎを知りたくないですか?」
クライン様が、紳士的な笑顔を向けて、小さなレディに話しかけた。
「何かしら?」
「王宮の人には言わないでくださいます?」
「言うわけないわ。何かしら?」
クライン様は何か術を使っているのかな。メイドさんや騎士風の人も、彼の話に注目している。
「ライトがね、大魔王の座を狙っているんですよ」
「ふぅん、つまらない話ね」
女の子は、興味を失ったようにソファに座った。僕も、それに合わせて座る。女の子は、めちゃくちゃ力が強いんだよな。
だけど、クライン様は話を続けた。
「地底では、ライトの味方をしている魔王が何人かいるんですよ。もちろん、俺達3人もライトの味方です」
「魔王?」
魔王という言葉に、女の子は関心を示した。
「はい。ローズさんと親しい魔王も、協力してくれていますよ」
「ふぅん、そう。ミューと同じ趣味の人ね」
また、女の子は興味を失ったみたいだ。ミューさんと同じ趣味? 魔女っ子の服のことを言っているのかな。
しかし、地上の小国の女の子が、魔王を知っているなんて、驚きだ。あっ、ハロイ島か。この女の子の母親は、神族だと言っていたっけ。
「黒魔導の魔王スウさんも協力者ですが、ドラゴン族の魔王ですよ」
「ふぅん、マーテルさんね」
「いえ、今の魔王は、マリーさんですよ」
すると、女の子は勢いよく立ち上がった。
「お姉様!?」
(へ? お姉様?)




