60、聖地リガロ 〜核となるクリスタル
「ほう、やはり、ライトか」
目の前に、老人が二人現れた。服は違うけど、なんだか雰囲気が似ている。双子なのかな。
「もう、頭は大丈夫ですか? タトルーク老師」
クライン様が、お爺さんにそんな……えっ? タトルーク老師って言った? あ、そうか。双頭亀だから、人化すると二人になるんだっけ。
「あぁ、まだ少し嫌な余韻は残っておるがな。アレは、青の神ダーラの直臣の呪術神だな。この気配には、覚えがある。アレを欺くために、アンデッドに化けたのか? クライン」
(クライン様だとバレてる!)
「俺は、アンデッドの魔王カイさんに、化けたつもりなんだけどねー」
「魔王カイがグールの姿をしているという噂は、誤りだ。いつもは、スケルトンじゃろう」
(グールって、ゾンビだよね?)
「スケルトンに化けるのは難しいんですよねー」
(スケルトンは、骨だけのカクカク歩くやつだよね)
そういえば、生首達のすみかのあるミミット火山に集まったとき、魔王カイさんは、スケルトンだったよな。
「しかし、ライトはなぜ、そんな幼な子の姿をしておる?」
老人のひとりが僕に近寄ってきた。
(あれ? ハデナで同じ話をしなかった?)
「タトルーク老師、ハデナ火山で会いましたよね?」
僕は、強い口調になるように気をつけた。舐められてはいけない。
「あぁ、ワシの目を突きよったのぉ。ふっ、あれでダメージを受けたのは、さっきおまえが追い返した青の神だ。いや、アホの神か。フォッホッホ」
(青をアホと言ってる?)
「女神様の警告を無視して、ハデナに上陸したのは……」
「ライト、そんな、細かいことはよいではないか。それより、見事じゃったの〜」
(話をごまかす気?)
「僕が子供だと思って、はぐらかす気ですか」
「ほう、なるほどのぅ。さっき見えたような気がしたのは、見間違いではなかったか」
(何を言ってるんだ?)
すると、クライン様と話していたもう一人の老人が、僕の方を向いた。
「ライト、以前とは異なるステイタスに育てておるのか? だが、あれはイカン」
何を言われているのかわからない。僕の何がダメだったんだろう? あっ、涙が止まらなくなったことかな。
「ふむ、自分では気づいておらぬか。他の3人は、わかっておるようじゃな。おまえの危険な邪気じゃ。アレに対する殺意か。神族にあるまじきオーラだったがの」
「えっ? オーラ、ですか」
(もしかして、『ライト』のこと?)
するとクライン様が、僕を背にかばうようにして、老人二人から離してくれた。
「タトルーク老師、ライトに妙な不安を植え付ける気ですか? 彼のおかげで助けられたというのに、困った年寄りですね」
クライン様の横顔は、険しい。タトルーク老師に対する怒りなのかな。
「偉そうなことを言うようになったではないか、クライン。まだまだ若輩者のおまえが、何を言っておる。フォッホッホ」
まるで、クライン様をあざ笑うかのような老人の態度に、僕は、めちゃくちゃムカついた。
だけどクライン様は、逆に、フッと笑っている。
「巨亀族が守り切れなかった塩のクリスタルの所有権は、悪魔族がもらいますよ。ライトが力を使わなかったら、地底から塩のクリスタルは失われていた。巨亀族には、聖地を任せられない」
「は? 何を言い出すかと思えば……くだらん」
「聖地は、本来なら大魔王が治めるべき場所ですよね。ドラゴン族は面倒くさがったようですが、爺ちゃん……現大魔王は、聖地リガロの明け渡しを100年前から要求しています」
「ふん、なぜ、メトロギウスなどに渡してやらねばならぬ? 冗談なら、もっとマシなことを言えぬのか。くだらなさすぎて笑う気にもなれぬわ」
(な、なんか、険悪な雰囲気だ……)
塩のクリスタルのことで争ってるみたいだけど……僕が冷やすのを失敗したのに、支配権って……。
クライン様が、僕の方をパッと見た。
(げっ、バレた……ど、どうしよう)
「ライト、何を言ってるの?」
「な、何もしゃべってません」
「いや、あはは、考えてること、ダダ漏れなんだけどな。まぁ、それは、昔からだけどね」
「えっ……」
クライン様は、面白いおもちゃを見つけたような顔をしている。なんだか、表情豊かだよね。ってか、僕が変な顔をしているのかな。
「ライト、上を見てごらん」
クライン様は、上を指差している。ここが外だということは知っている。月みたいな何かが出ているんだよね。
僕は、上を見上げた。
(何? 宇宙? じゃなくて、えーっと?)
空一面に、プラネタリウムのような何かが見える。キラキラと輝いていて、とても綺麗だ。星? じゃないよな。地底から宇宙は見えないはずだ。
僕が変な顔をしていたのか、クライン様は、ケラケラと笑っている。
「クライン様、あの……」
「空に浮かんで見えるのが、この山の、塩のクリスタルの源、核となるクリスタルだよ。下から覗いてもわかりにくいか。外から見れば、形がわかるよ」
「これが、クリスタル? 空一面に……こんなに大きな?」
「さっき、溶かされて池になっていたのが、元に戻ったんだ。ただ冷やしただけでは、白い塩の結晶になってしまうから、俺達には復元できない。もちろん、タトルーク老師にもね」
クライン様が指差している場所に目を移すと、底が見えないほど深く大きな穴が見える。
(あっ、池の跡?)
「じゃあ、僕は、冷やし方を失敗しなかったんだ」
「うん、クリアなクリスタルだよ」
あっ、でも……。
「クライン様、池の中にいた大量の幽霊が、クリスタルに閉じ込められたかもしれません。青の神が、エサのつもりか、たくさん集めていたんです」
(あれ? 変なことを言った?)
クライン様は、首を傾げている。あっ、そっか。池の中の様子は、外からは見えないから知らないんだ。
池の中にいたタトルーク老師なら、知っているはずだ。いくら、乱反射するからとはいっても、僕でさえ、『眼』のチカラを使えば見えたんだから。
「ライト、もしかして、聖魔法を使ったことに気づいてないの?」
「あ、灼熱の棒の呪いを解除するために、使いました」
(うん? だから、何?)
「あんなに強烈な聖魔法を、特殊な密閉空間になっている池の中で使ったら、中にいるアンデッドは、すべて浄化されて消えてしまうよ?」
「あっ、幽霊もアンデッド……」
「ライト自身も、かなりのダメージを受けたでしょ。死霊の姿で、あんなのを使うんだから……。ライトを守るために、リュックくんにかなり負荷がかかったと思うよ」
「えっ……そっか、リュックくんの鎧を着てた……」
「ライト自身も、あの聖魔法、清浄の光では、かなり魔力を消費したでしょ。だから魔力切れになったんだよ」
クライン様の説明で、いろいろと、ストンと納得できた。そうか、僕は、かなりギリギリのことをしてたんだ。だから、リュックくんは眠ってしまったんだ。
「聖魔法で浄化してから池を冷やしたことで、クリスタルに戻ったんだよ。だから、この塩のクリスタルの所有権は、ライトに移る。当然の権利だよ」
クライン様は、さっきは悪魔族って言ってたのにな。タトルーク老師の方を見て、言い方を変えたみたいだ。
「クライン、おまえはいつの間に、そんないやらしいことを言うようになったのじゃ? ライトの所有になるから、その主君である自分の物だと言っておるのか」
「当然でしょう? そもそも、大魔王が聖地を治めるべきなんだ。タトルーク老師が、富を独り占めすることで、地底を危機にさらした。チカラだけでは、統治はできませんよ!」
(また、ピリピリした雰囲気だ……)
シーンとしている。
僕は、ジャックさんの方を見た。地底のことに関わらないようにしているのか、暇そうに壁をいじっている。
レンフォードさんの方を見てみた。やはり、関わらないようにしているのか、壊れた魔人をいじっている。
(どうしよう……)
「アハハハ、なんだ? 落ち着きなくキョロキョロしておるの。大人の話はつまらぬか」
タトルーク老師が二人同時に笑った。
(子供扱いして、何かごまかす気?)
僕は、キッと睨んでみたけど、老人二人はニヤニヤするだけだ。感じ悪い。
「クライン、おまえは、ワシらに何をさせたいのじゃ? まさか、本気で塩のクリスタルの所有権を取り上げようという気ではなかろう」
すると、クライン様がニヤリと笑った。
「タトルーク老師、二言はありませんね?」
(まだ何も言ってないじゃん?)
「あぁ、クラインの申し出を断ると、この塩のクリスタルを青の神に取られていたことを、地底中に言いふらす気なんだろう?」
「爺ちゃんには、もう伝えてありますけどね。洞穴内に比べて、ここの結界は緩い。クリスタル近くの結界を強めると、ふき出した塩で洞穴が埋まってしまいますもんね」
(ここは、外と念話できるんだ)
「フン、それで、ワシらに何をさせたい?」
「わかっているのでしょう? ライトが大魔王になるための支援ですよ」
金土お休み。
次回は、9月19日(日)に更新予定です。
よろしくお願いします。




