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58、聖地リガロ 〜クリスタルを溶かす灼熱の棒

 僕は、霊体化した状態で、池に近寄っていった。池のほとりに浮かぶ男性は、僕に気づかないのか無視している。


 いや彼、タトルーク老師は、ジャックさんに気を取られているみたいだ。ジャックさんは、わざと引きつけるように、派手に声をあげている。


 空高くに浮かんでいた魔人は、迎撃しようと、剣を抜いた。空中で、剣がぶつかり合う音が響く。



『ライト、ジャックなら余裕だから、池の中に集中しろ。青の神の中でも、厄介な奴だぜ』


(リュックくん、わかった)



 僕は、スーッと、池の中に入っていった。


 塩のクリスタルが溶かされてできた池だと言っていたよな。キラキラと輝く水が、普通の水ではないことがわかる。霊体化している状態だと、全く沈まないんだ。


 僕は、重力魔法を使った。すると、やっと沈み始める。


『ライト、あの赤い棒を凍らせろ』


(呪剣? 大きいよね)


『剣の形状はしていない。ただの灼熱棒だな。クリスタルを溶かすために作り出したんだろ』


(凍らせられるかな? 魔法は効かないみたいだったよ)


『だから、おまえにしか出来ねーんだよ。あの赤い棒は、強い呪詛の塊だぜ? 呪い解除をすれば、後はただの熱い棒だ』


(えっ? 呪いの解除って……)


『今のおまえに撃てるかは、わからねーが、二つの異なる闇がぶつかるとき、起爆剤として蘇生魔法をぶち込めば、効果が反転して、稀に闇の反射が起こる。聖魔法だぜ』


(な、何それ。僕にできるのかな)


『とりあえず、やってみろ。霊体化した状態での聖魔法は、ダメージ食らうかもしれねーけどな』


(えっ……死ぬんじゃ……)


『ライト、おまえは半分アンデッドだぜ? 死なないから、アンデッドなんだ。オレの鎧もあるから、まー、気にするな』


(気にするよ!)


 だけど、やるしかないんだよな。僕にしかできないことなんだから……。


 池の中に、青の神が居るって言っていたけど、澄んだ水の中に、人の姿は見えない。



『ライト、クリスタルが乱反射しているから、何も見えねーんだ。『眼』のチカラを使えよ。青の神には見られてるぜ』


(えっ……まじ?)


『やばくなったら、透明化も使えよ。気配が消せる』


(わかった)



 僕は、透視をしようと『眼』に力を込めた。


(うわっ、何、ここ)


『見えたか。おまえも仲間だと思われてるんじゃねーか』


 僕を真っ直ぐに見ている黒い幽霊以外に、数え切れないほどの幽霊がいる。灼熱の池でも、幽霊……死霊は、普通に泳げるんだ。


(リュックくん、僕を真っ直ぐに見ている幽霊がいる)


『それが青の神だ。塩のクリスタルは、エサ箱にもなっているみてーだな。戦乱で死んで死霊となった奴らを、ここに監禁しているよーだぜ。だから、クリスタルを溶かしたのかもしれねーな』


(巨亀が近寄らないように、じゃないの?)


『クリスタルの中は、外からは見えねーからな。オレも、こんな風に泳げねー。あっ、気をつけろ』


(うん? うわっ)



 僕を真っ直ぐに見ていた黒い幽霊が、影のようなものを、ビヨーンと伸ばしてきた。僕は、重力魔法を使って、なんとか回避した。


(うー、動きにくい)


 池の中は、とんでもなく水の抵抗が強い。


 この山が祀っている塩のクリスタルなのに……もう冷やしても、クリスタルには戻らないだろうな。




 僕は、赤い灼熱の棒を目指して、進んでいく。僕を真っ直ぐに見ていた黒い幽霊の姿が消えた。


『おまえが透明化を使わないから、ただの死霊だと思われたみたいだぜ』


(うん? どういうこと? 奴は消えたよ?)


『あぁ、ジャックの方へ行ったみてーだな』


(えっ? 僕、侵入者なのに? ってか、ジャックさん、マズイんじゃ)


『ここからは、抜け出せないと思ったんだろ。死霊を監禁してるって教えただろ。さっさと、やろうぜ』


(わ、わかった)


 早く片付けないと、ジャックさんが危険だ。僕は、赤い灼熱の棒へと、必死に移動した。




 僕は、灼熱の棒に触れようと意識した。すると、僕の手が半分霊体化が解除され、壊れたテレビ画面のように見える。


もし、完全に解除してしまうと、僕、溶けるよな。


(やばい、怖くなってきた)


 棒に触れると、棒からブワッと黒い液体のようなものが噴き出してきた。そして僕のまわりを取り囲んだ。


(何? これ)


 じわじわと広がり、完全に僕を包もうとしている。


『我に従え、我に従え、我に従え、我に従え….』


 嫌な声が聞こえる。恐ろしい声だ。ねっとりと、まとわりつくような声……。


(嫌だ!)


 僕は、激しい嫌悪感を感じた。僕の身体から……青い幽霊の身体から、黒い何かが噴き出してきた。


(えっ、な、何?)


『翔太、蘇生魔法を唱えて』


(誰?)


『早く、完全に覆われる前に』


(う、うん、わかった)


 僕は、蘇生魔法を唱えた。



 ピカッ!



 すると、僕の身体から噴き出した黒い何かが、強い白い光に変わった。


(あっ……これは、闇の反射だ!)


 異なる二つの闇がぶつかるとき、そこに蘇生魔法をぶち込むと、二つの闇の効果が反転する。


 闇を蘇生するというのも変な感じだ。だけど、闇とは反対の属性、しかも精霊が使う聖魔法になるんだ。これを闇の反射と呼ぶ。 


 稀に起こるタイミングの難しい現象だけど、僕は、ほとんど魔力のなかったときから使える。僕は、なぜか、これを失敗したことがない。



『翔太、上手くできたね』


(えっ? 誰?)


『俺だよ。ライトだ』


(ええっ!? この身体の持ち主の『ライト』なの?)


『そうそう。あはは、なんか変な感じだな。翔太の方が、いつも俺を支えてくれていたのに、今は逆だ。俺が、上手くコントロールしなきゃ、バランスを保てない』


(えーっと?)


『カースは、翔太が17歳の姿になるまで、俺は寝てろって言ってたんだけどな。目覚めたってことは、俺が必要になったということだな』


(今の、闇の反射って『ライト』がやったの?)


『いや、俺は、それには関わってない。関わると、下手すると俺が浄化されてしまうだろ。聖魔法も蘇生魔法も、アンデッドには即死級のダメージになるからね』


(ということは『ライト』ってアンデッド?)


『少し違うかな。俺は、闇そのものだから、姿を持たない。もう少し翔太が成長すれば、俺にも形作ることができるはずだけどな』


(そっか。よくわかんないけど『ライト』と話せて嬉しいよ。僕の中で眠っているのは知ってたんだ。あっ、『ライト』の爺ちゃんに会ったよ)


『爺ちゃんは、俺達の集落にいるだろ? 生まれ変わる気もないみたいなんだよな』


(それは、『ライト』のことが心配だからだよ)


『そうかもな。そろそろいけるんじゃない?』


(うん? 何?)


『あはは、もう、翔太って、見た目どおりの子供かよ。闇の反射、清浄の光が収まってきただろ。いま冷やさないで、いつ冷やすんだよ』


(あっ、燃えてる棒! 忘れてた)


 ケラケラと『ライト』が笑う気配がした。だが、そのまま眠ったのか、彼の声は聞こえなくなった。




 僕は、赤い灼熱の棒に向かって、氷魔法を放った。


 ピキッと、一気に氷が広がっていく。池の中の様子がさっきとは違う。『眼』を使って透視をしてみても、たくさんいた黒い幽霊が見えない。


(あれ? 『眼』のチカラが上手く使えてないのかな)



『ボーとしてねーで、そこから出ろ。クリスタルになっちまったら、閉じ込められるぞ。クリスタルは、霊体化しても通り抜けできねーからな』


(えっ? リュックくん、それ、早く言ってよ)


 僕は、重力魔法を使って、必死に移動した。さっきよりも、さらに動きにくい。



 なんだか、身体が持ち上げられるかのように、見える景色が高くなっていく。


(ま、マズイ気がする)


 僕は、全力で池から脱出しようと、重力魔法を強化した。


『ライト、横じゃなくて、下へ行け。そのまま、真っ直ぐに下だ』


(わ、わかった)


 地面に潜るのか。下の方が確かに移動しやすい。だけど、動きにくい。やばい、やばい、マズイ、マズイ……。



 ドタッ!


(い、痛くはないけど……)


 急にスポンと何かから出た感覚のあと、地面に激突した。霊体化していたのに、勝手に解除されている。


『お、おまえなー』


 目の前に、小瓶が出てきた。胃薬味の魔ポーション?


(リュックくん?)


『すぐ飲め! 直ちに飲め! 魔力値ゼロだ。オレが供給してる。もう、もたねぇぞ』


 僕は慌てて、小瓶を飲み干した。身体の中を駆け巡る感覚。確かに魔力値ゼロだったのかも。


 グラリとめまいがする。リュックくんの鎧が消えた。


(えっ? リュックくん!)


『鎧の維持ができねー。ガンガン飲め』


 地面にどさっと胃薬が出てきた。リュックくんは、開けてくれない。いや、余裕がないんだ。


(ま、まずい)


 僕は、必死に飲んだ。胃薬は、やはり5本目くらいからは、キツい。だけど、そんなことを言っていられない。


 リュックくんは、僕が魔力切れになっても、リュックくんの魔力を僕に供給してくれていたんだ。あの池に入る前に、魔ポーションを飲むべきだった。


(どうしよう、リュックくんが死んでしまう)



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― 新着の感想 ―
[一言] クリスタルに閉じこめ…|д゜)ジー いや…なんでもないよ…♪~(・ε・ )
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