55、聖地リガロ 〜呪剣を持つ青の神
「巨亀族の領地なら、合ってるっす。タトルーク老師に用があるから通るっすよ」
ジャックさんは、そう言うと、門番の人達の間をくぐり抜けて、門の中へと入っていった。
「おい、ゾンビなんかを入れるなよ!」
ジャックさんは、タイガさんが持ってきたハロウィンの衣装を羽織っているだけだ。なぜ、ゾンビに見えるんだ?
さっき、門番は、ゾンビ2人とグールって言ってたっけ。ジャックさんとレンフォードさんがゾンビで、完璧なゾンビに化けているクライン様がグール?
(許可なく入ってもいいのかな?)
「ライト、俺達、襲撃者だよ?」
クライン様に、コソッと耳打ちされた。
(あっ、そっか)
門番達は、ジャックさんを追いかけていく。レンフォードさんの合図で、僕はクライン様と中へと入った。
「さすが、ジャックさん、慣れてるね。見習わなきゃ」
レンフォードさんが真顔でそんなことを言っている。彼は、ロバタージュの警備隊の所長だよね? 襲撃を見習うの?
「ライト、強行突入の方法だよ。巨亀族の門には、人化できる奴らがいただろう? 巨亀族で完全に人化できるのは、老人なんだよ。あまり足は速くない」
(この世界の亀も遅いんだ)
ジャックさんを追いかける門番は、確かに遅い。彼は、ひょいひょいと避けて、進んでいく。
騒がしい方に、みんなが向かって行くから、僕達のことは気にしていないみたいだ。
「ライト、そろそろだぜ。俺、ライトの配下1号の役だからな」
クライン様は、悪戯っ子のように笑っている。顔にも、何かを塗ってあるみたいで、ゾンビが笑ってるようにしか見えないけど。
レンフォードさんが駆け出した。僕も、遅れないように続く。
キン!
剣が重なる音が聞こえる。
レンフォードさんについて草むらを進むと、そこには、たくさんの巨大な亀がいた。
ジャックさんが、亀が飛ばしてくる何かを剣で払い落としている。
突然、僕の身体を不思議な鎧が包んだ。
(危機が迫ってる?)
その直後、クライン様がバリアを張ってくれた。
ガチン!
ものすごい衝撃音だ。
(あっ、クライン様!)
横を走っていた彼の姿がない。後方に転がっている。僕は、慌てて、彼のそばに戻った。
レンフォードさんは、ジャックさんに合流している。
「クライン様、大丈夫ですか」
「怪我はしていないよ。パワーに吹き飛ばされただけだ。巨亀族は、物理攻撃が半端ないんだよ。気をつけろ」
「はい」
一応、クライン様を『見て』みたが、確かに怪我はしていない。よかった。
キン!
また、金属音が聞こえた。奴らが飛ばしているのは金属なのか?
「ライト、早く決着をつけなきゃいけない。俺は正体を明かせないから、頼むよ」
「クライン様、わかりました」
(とは言ってみたけど、どうすればいいんだ?)
僕達は、襲撃者だ。だから、奴らは排除しようとするんだ。攻撃をかわしてばかりでは、体力がもたない。
(そうだ、僕にはここに来る理由がある!)
僕は、彼らの方へと駆け出した。クライン様も、僕に従うかのようについてくる。
奴らを黙らせるには……やはり、驚かせるか。
僕は、走りながら、手に魔力を込めた。そして、ジャックさん達の前に到達した瞬間、巨大な亀達に向かって、氷魔法を放った。
水辺が一気に凍っていく。池の中に入っていた亀の動きが止まった。
僕の行動に、ジャックさんが目を見開いている。以前の僕は、魔法がほとんど使えなかったからだよね。
(魔族は、力こそすべて、だよな)
「タトルーク老師は、どちらにいらっしゃいますか」
僕がそう尋ねると、巨大な亀達はキョトンとしている。おかしなことを言ったのかな。
「チビが、何を……」
「侵入者は、排除する。老師の手を煩わせることはない」
巨大な亀は、慌てているようにも見える。僕達がタトルーク老師の元にたどり着くと、マズイのか。
「貴方達は、何か勘違いしてませんか。僕は、タトルーク老師を捕らえに来たんだ」
僕がそう言うと、左の方から笑い声が聞こえる。
「ライト、気をつけろ」
クライン様が小声で囁いた。
僕は頷き、左の方を『見て』みた。雰囲気の違う集団がいる。ゲージサーチをしてみると、体力1本、魔力3本。青の星系の侵略者だ。
神かどうかは、僕にはわからない。だけど、青の星系の住人が魔導系だということは知っている。
「坊やが、タトルーク老師を捕らえに来たって?」
僕の目の前に、数人がワープしてきた。その一人の目が怪しく光った。
(痛っ)
目の奥がズキンと痛んだ。だけど、それだけだ。
(洗脳かな)
レンフォードさんが、慌てて何かの小瓶を取り出している。洗脳解除の薬? 僕は大丈夫だけど。
「そうですよ。貴方は亀じゃないですよね。こんなところで何をしているんですか。まさか、この巨亀族を占拠している?」
「あれ? アンデッドには術は効きにくいのか」
「呪術か……なるほど。タトルーク老師が、女神様の警告を無視して地上に上陸したのは、貴方達のせいか。巨亀達を操るなんて、許さないよ」
僕の言葉に、池で凍っている亀達は、何かバタバタし始めた。コイツらも操られているのかな。
「あはは、許さないって言われてもねー」
『横に飛べ!』
リュックくんからの念話で、僕は横に飛んだ。すると、目の前にいた男が、真っ赤に燃える何かを僕に突き出したんだ。
(あぶない……何あれ)
『灼熱の呪剣だろ。アイツ、神だぜ。狩るぞ』
「へぇ、すばしっこいね。的が小さいから、外してしまったじゃないか」
リュックくんは、映像を見せてきた。
奴は、クライン様を狙うんだ。そして、あの燃える呪剣で、この一帯を焼き払う。むちゃくちゃだな。
僕は、あの燃える呪剣から、クライン様を守るバリアを張ろうとイメージした。すると、彼を、ぷよぷよなゼリー状の何かが覆った。
(げっ、バリアじゃない……)
焦ったけど、もう遅い。奴は、クライン様に燃える呪剣を突き出している。だけど……。
ぷよんっ
奴は、ぷよぷよのゼリー状の何かに弾かれるように、ひっくり返った。すんごい弾力の……バリア?
そして、燃えていた剣から炎が消えている。ぷよぷよなゼリー状の一部に、こげたような跡がついている。
『ライト! 狩れ。やられるぞ』
「わかった」
奴は、再び、呪剣に炎をまとった。
「な、なんだ? 妙な……こうなれば、仕方ない」
ゴォォ〜
呪剣の炎が大きくなった。これを振り回されたら、この辺りは火の海だ。
(リュックくん!)
『あぁ、わかってる』
僕は、奴に向かって駆け出した。僕の両手には、剣が現れた。炎には氷だ。僕は、剣に氷魔法を付与した。
そして……。
「な、なんだ? チビ」
奴が、僕に剣を向けた。だが、遅い!
僕は、ダッと飛び上がり、奴の頭上から左手の剣を振り下ろした。
すると、奴は、バリアを張ったらしい。
左手の剣は、バリアにカチリと当たり、弾かれた。
硬いバリアだ。
僕は、バリアを足場にして、奴の横に降りた。そして一瞬、右手を霊体化してバリアをすり抜け、奴の腹に剣を突き刺した。
「うぎゃぁぁあ! な、な、なぜだ」
硬いバリアの中で、奴が持っていた呪剣が燃えあがっている。体勢を崩して、自分で呪剣の炎に触れたようだ。
奴の身体には、僕の氷の刃が残っていたのに、圧倒的に呪剣の炎の方が強い。
(魔法では消せないのか)
奴は、何かの術を使っていたが、すぐに動かなくなった。バリアを解除すればよかったんじゃないの?
「ひゅ〜、ライト、強いじゃん。しかし、アイツ、自滅だな」
クライン様に褒められると、無条件に嬉しい。
(あっ……あの光……)
バリアが消えると、呪剣も消えている。そして、一筋の光が上へと上がっていく。その光の一部が、僕の方へ迫ってきていた。
(い、嫌だ! 何かわからないけど、いらない!)
僕は、強烈な嫌悪感を感じた。だけど、逃げても光は追ってくる。
(嫌だ! 助け……ん?)
僕を囲むように、生首達の壁が現れた。
そして、僕を追いかけてきた淡い光は、生首達に吸収されたみたいだ。
「えっ? キミ達、大丈夫? たぶん、めちゃくちゃ変なものだよ。どうしよう。大丈夫かな」
生首達は、一瞬、ピカピカと点滅したけど、何事もなかったように、ヘラヘラしている。
「ねぇ、大丈夫? 頭おかしくなったりしてない?」
僕の言葉は理解できているみたいで、コクコクと頷いている。そっか、コイツらは話せないんだな。
「あはは、やっぱり、ライトさんは、ライトさんっすね。行動がブレないっす」
ジャックさんが、笑ってる。
「えっと?」
「ライトは、昔から、神の力を嫌がるんだよね。神を倒しても、能力を分け与える光をぶった斬ったりしてたよ」
クライン様も、笑ってる。
「もったいないですよね。次は俺にくれてもいいんだよ?」
レンフォードさんが冗談っぽく、変なことを言ってる。
そうか、僕が嫌がるから、生首達が壁になって吸収してくれたんだ。
「ワーム神……ということは、神族のライト!?」
氷の池の亀達が、驚きの声をあげた。
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