52、ミミット火山 〜地中のジャングル
「うわ、暑いな」
生首達のワープで、僕達は、ロバタージュのギルド前から、ミミット火山に移動してきた。
むわっと熱風が吹くのが、確かに不快だな。
到着するとすぐに、レンフォードさんが何かの小瓶を飲んでいる。ポーション? 僕が見ていることに気づくと、さっと隠されてしまった。僕が見てはいけないものなのかな。
「ライトさま、みなさまがおまちです」
目の前に、キリッとした生首が現れた。族長さんだな。
「ありがとう。皆様って、クライン様かな?」
「クラインさまもおられますが、きょうりょくしゃのみなさまです」
クライン様が準備をしておくって、協力者を集めることだったのかな。
「そう、ありがとう」
「こちらのみなさまも、いどうしていただきましょうか」
生首の族長さんは、僕と一緒に来たジャックさん、レンフォードさん、そしてドラゴン族の二人をジッと見ている。
「うん、お願いするよ」
「かしこまりました」
生首の族長さんは、彼らに、ふぅ〜っと何かを吹きかけた。すると、彼らの姿が見えなくなった。
「あれ? 彼らだけ移動させたの?」
「きゃくじんは、しらべますので、あるいていってもらいます。ライトさまは、こちらへ」
生首の族長さんは、ふわふわと大きな岩へと向かっていく。ついていくと岩の向こう側には、大きな裂け目があった。
「えっ? 何か穴が空いているよ?」
「われわれのすみかです。あたまに、おはなのさいたサラマンドラには、いりぐちは、みえないのです」
(秘密基地みたいじゃん)
「サラマンドラの領地なのに、勝手にすみかを作っちゃったの? 叱られない?」
「もんだいありません。このばしょは、サラマンドラには、みつけることができません」
族長さんは、すっごく得意げなんだよね。あはは、なんだか、えっへんってふき出しを付けたら似合いそうなくらい、得意げだ。
「すごいんだね、族長さんの力?」
「は、はい」
ふふっ、照れたのかもしれない。少し頬が赤くなってる。なんだか、ちょっと可愛い。
裂け目に入っていくと、中は広く、密林のようになっていた。ここ、地中だよね? 火山の裂け目の中にジャングルがあるようで、不思議な感じがする。
だけど、さっきの場所よりも涼しくて快適だ。
密林の中を族長さんは、ふわふわと進んでいく。ゆるやかな下り坂だ。こんな場所に木々が生えているのも不思議だな。雑草も、地上の草に見える。
(しかし……めちゃくちゃいっぱい居るよな)
木々や地面や壁のあちこちに、生首達が密集している。そうか、コイツらが淡く光っているから、この場所が地上のように明るいんだ。
僕が視線を向けると、ヘラヘラするんだよね。でも、こんなに密集していて、苦しくないのかな。
あっ、僕が通りやすいように、道を開けてくれているのかも。
「ライトさま、われわれは、くっついているほうがあんしんするのです。ここにいるモノは、まだこどもなので、きんちょうしているようです」
「へぇ、そうなんだ。子供でも、この姿なんだね」
「はい、うまれてすぐに、まず、ぎたいをおぼえます」
ワープワームは、弱い火の魔物だから、主人に擬態することで、主人に媚びるんだっけ。
「そっか、すごい能力だね。僕、最近生まれ変わったからさ……赤ん坊のときって、泣くことしかできなかったよ」
「ありがとうございます」
族長さんは、ふにゃりと笑った。だけど、すぐにキリッとした顔に戻るんだよね。
しばらくジャングルの中を下っていくと、壁が現れた。ここが、生首達のすみかの端っこなのかな。
壁の前で、族長さんは止まっている。突き当たりだよね?
「ライトさま、このさきで、みなさまが、おまちです」
族長さんの近くまで行くと、壁の先が見えた。向こう側からこちらは見えていないようだ。マジックミラーみたいな感じかな。
クライン様の姿が見える。そして、サラマンドラの魔王サラドラさん、黒魔導の魔王スウさん、あっ、リザードマンの魔王や、ノームの魔王ノムさんもいる。
それに、知らない人も何人かいる。
あっ、スケルトン!? あれって、もしかして……。
そこに、ドラゴン族の二人と、ジャックさん、レンフォードさんが合流した。声は聞こえないけど、賑やかな雰囲気だな。
サラドラさんが、マリーさんをビシッと指差している。彼女は、名探偵の衣装らしき、赤いワンピースだ。
(えっ……スカートめくられてるじゃん)
彼女は、白いかぼちゃパンツの自慢をしたのだろうか。
「ライトさま、まいりましょう」
「うん」
目の前の壁が、一瞬で後ろに移動したように感じた。僕は、もう壁の先の部屋にいる。だけど、部屋の中の人達には、僕の姿は見えないみたいだ。
数歩、彼らの方へと歩いていくと、クライン様が僕に気づいた。
「あっ、ライト、彼らとは別の道? 遅かったね」
「えっと……はい」
ワープなら、速いはずだもんな。でも、生首達のすみかを通ってきたとも言えない。
すると、魔王サラドラさんが、タタッと駆け寄ってきた。そして、ビシッと僕を指差した。
「ライト、もしかして、ワーム神のアジトを突き止めたのねっ! 名探偵サラドラの目はごまかせないわっ」
(えーっと、どうしよう)
すると目の前に、族長さんが移動してきた。
「ライトさまに、われわれのこどもを、みていただいただけだ。バカは、ひっこんでいなさい」
(あちゃ……また、毒舌だよ)
「な、何ですって!? 子供部屋に主人を連れて行ってたの? あんたこそ、バカじゃないの。意味不明なことで、あたし達を待たせるんじゃないわよっ」
たぶん、客人を調べる間の、時間稼ぎだったんだろうな。僕が先にここに着くと、他の人はどうしたってことになる。
族長さんは、そんな彼女を無視してるんだよね。
「名探偵サラドラさん、子供達も、同じ姿をしていたんですよ。僕、びっくりしました」
「えっ? 幼虫の頃って、虫でしょ?」
「虫もいたのかな? あちこちに密集していたから気づかなかったですけど」
すると、彼女の頭の上の花がピコっと動いた。
「ワープワームって、いつから主人に擬態するのかしら? 謎だわ」
(ありゃ、マズい予感がする)
「この名探偵サラドラが、ワーム神の擬態の謎を解いて……」
「おい! アホのサラドレ、遊んでんと、こっち来いや」
思わず、ビクリとするほどの大声が、彼女の決めポーズの邪魔をした。それに、名前を間違えてるし、なんか強烈な話し言葉……。
魔王サラドラさんは、キッと、その声の主を睨んでいる。
見た目は、ちょいワル系の中年の男性だ。渋いな……うらやましい。僕は、あんな大人になりたいんだよな。
(あれ? クライン様が笑ってる)
「ライトも、こっちに来て。協力者を紹介するよ」
クライン様に手招きされ、僕は、彼の近くへ駆け寄った。
ジャックさんとレンフォードさんは、ちょいワル系の男性と顔を見合わせている。
「ライト、まだ記憶は戻ってないんだよね。彼は、ライトの教育係で……」
「クライン、なんで俺の記憶のカケラがないんや?」
ちょいワル系の男性は、気が短いみたいだ。クライン様は、苦笑いなんだよね。
「それは、俺には、わからないですよ。ライトは、名前は知っているはずですけど……」
(名前を知っている?)
「あっ、タイガさん?」
そう言うと、彼はパッとこちらを向いた。合っていたみたいだ。たぶん、僕は世話になってたんだよね?
「ライト、なんで、記憶のカケラがないんや?」
「僕には、わからないです……。カースさんの術だから……」
「は? カースをさん呼びか。まぁ、ええわ。いろいろと仮装用のもん、持ってきたで。ハロウィンでもやるんか?」
(ハロウィン?)
タイガさんって、もしかして……そっか、日本人だったんだよな。誰かから聞いた知識はあるけど、記憶は戻らない。
「ライトの記憶……人だけじゃない無理か。場所も、記憶のカケラの出現条件に影響あるね。タイガさんとは、地底で会ったことないのかな」
クライン様は、難しい顔をしている。もう、別にいいんだけどな。
「わぁっ、何、これ? 変なのばっかり〜」
黒魔導の魔王スウさんは、タイガさんがドサッと魔法袋から出した服を見て、顔をしかめている。
ゾンビに化けるための服かな。ハロウィンの季節のテーマパークで見たような感じのものばかりだ。
すると彼が魔王スウさんに、何か目配せをした。
「サラドラちゃん、ここから地底全体に、作戦開始の合図をしてくれる?」
「ええ〜、一斉に伝達するなら、マナが足りないよっ。外に出てよ〜」
「火山が苦手な人もいるよ」
魔王サラドラさんは、ぷくっと膨れっ面をした後、手をヒラヒラとさせている。魔王スウさんが、何かを渡した。
「マナを集めてくるから、待ってなさいよねっ」
そう言うと、魔王サラドラさんは、ジャックさん達が現れた方へと走っていった。階段があるみたいだ。
「やかましい奴がおらんようになったから、作戦の確認をするで」
タイガさんは、ニヤッと笑った。




