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49、始まりの地 〜反抗期で家出したことに?

「うっぷ……ぷはっ、あははは。わかっていても、土の中を通り抜ける瞬間は、息を止めてしまうよな」


 僕はクライン様と共に、地下の石室から地上へ戻ってきた。霊体化を解除すると、クライン様が楽しそうにケラケラと笑っているんだ。


(ふふっ、子供の頃と同じ顔だ)


「クライン様、霊体化するのは、そんなに楽しいですか」


「楽しいよ〜。自分ではできないことだからね。あはは、ライトが子供の姿だと、なんだか素直に話せるよ」


「うん? 今までは違ったんですか?」


「うーむ、大きな違いはないけど、なんとなく俺の方が年下だから、大人っぽく振る舞わなきゃって思っていたみたいだな。自分でも、今まで気づかなかったけど」


(主君だから、か)


「クライン様に無理をさせていたんですね。でも僕はクライン様のことを、貴方が幼い頃からずっと尊敬してたみたいです」


 僕がそう言うと、彼は少年のように、嬉しそうに笑った。そうか、今の僕が5歳児の姿だから、彼は無理に背伸びをする必要がないってことかな。




「もう赤い太陽が昇ってるな。ライト、どうしよっか。彼はもう、地底に戻ったみたいだけど」


(うん? 魔王カイさんのこと?)


 そういえば、地上には人間がいると、魔王カイさんが言っていた。でも、やはり誰も居ないようだ。もう帰ったのかもしれないけど。


「魔王カイさんは、どこから地底に戻ったんですか」


「それは、俺にもわからないんだよね。あの人の気配を探ることも難しい」


「うん? それなのに地底に戻ったとわかるんですか」


「地上と地底を行き来したら、門番が気づくからね。今、ニクレア池付近に、地上から直接転移してきた者がいるらしいよ。そんなことができるのは、魔王カイさんくらいだからね」


(そうなんだ……)


 なんだか、アンデッドの魔王って、めちゃくちゃ強いんじゃないかと思えてきた。神の力をたくさん奪っているって言ってたっけ。


 クライン様は、空を見上げている。ときどき表情が変わるから、誰かと念話で話しているんだな。




「ライトさん、やっと出てきたんっすね」


 森の中から歩いてくる男性……えーっと、ジャックさんだよね。神族で、女神様の側近のひとりだ。


(まさか、僕を捕まえに来た?)


 彼は、かなり強い剣士だよな。逃げられるだろうか。どうしよう、クライン様を巻き込んでしまう……。


「やだな、そんなに警戒しないでくださいよ。しかし、急成長っすね。映像は見てたんすけど」


(映像? あ、ワープワーム?)


「ジャックさん、あの、僕……」


「おぉー、普通に話せるようになってる! ライトさん、別に捕まえに来たわけじゃないっすよ。俺ではライトさんを捕まえられないっす」


(じゃあ、何の用なんだよ)



 クライン様が、ふと、彼の方に視線を移した。


「お久しぶりですね。そっか、イーシア付近は、ジャックさんが担当しているんでしたね」


(クライン様は、ジャックさんと知り合いなんだ)


「こんばんは。やっぱ、ルークさんとそっくりっすね。一瞬どっちかわからないっす」


(ルーク? あぁ、クライン様の息子さんだ)


「よく言われますよ。さっきは、区別がつかないと言う人にも出会いましたが」


「あはは、区別はつきますよ。パッと見た感じが似てるんっす……あー、マズかったっすよね」


 ジャックさんは、しまったという顔で僕の方を見ている。また、記憶のカケラのことかな。


「ジャックさん、大丈夫ですよ。カースさんの術だから、多少おかしくなっても、彼が調整してくれますよ」


 クライン様がそう言うと、ジャックさんはホッとした表情だ。だけど、すぐにその表情は曇った。


「無事に戻ってきてくれたら、いいんすけど」


 そっか。カースさんは、次元の狭間に入り込んでしまった大勢の人を捜しに行ってるんだよな。僕の娘も、その中に含まれているんだっけ……。



「ジャックさんは、ここで待っていたんですよね? ライトに用事ですか。でも女神様の城には戻せないですよ。せっかくの理由が崩れてしまいますから」


(大魔王を狙うと、城に戻れない?)


「噂は聞いてますよ。ライトさんが大魔王の座を狙うということは、地底に隠れている神々への強烈な牽制になりますよね。なかなかの策だと、タイガさんが言ってたっす」


 ジャックさんは、策だと言った。大魔王を狙うフリだということがわかってるんだ。


「でしょ? 一応、俺の発案なんですよ。広めるために、サラマンドラの魔王が言い出したことにしてありますけど。でもね、牽制じゃないんです。神々をすべて殺しますよ」


 クライン様は、サラリと暴露している。ジャックさんのことを信頼しているのだと伝わってくる。


「えっ? 牽制じゃないんすか? 本当に狩るんすか」


「牽制のつもりだったんですけどね。魔王カイさんの協力が得られたので、最善策に切り替えました。名探偵サラドラさんは、ただの牽制だと思ってますから、バラさないでくださいね」


「なるほど、完璧っすね。じゃあ、俺も女神様とケンカしたことにするっす」


(へ? ケンカ?)


 僕が首を傾げると、ジャックさんは、話を続けた。


「ライトさんは、女神様とケンカをして家出したことになってるっす。ライトさんのことを尋ねられたら、反抗期で、地底に引きこもってると説明してるみたいっす」


「あはは、ティアちゃんらしい説明だね。それなら好都合だよ。上手く話が繋がる」


 クライン様は、楽しそうに笑ってる。


「地底に引きこもるついでに、大魔王を狙うことにした感じっすね」


(僕は、別に、引きこもってないよ?)



「ジャックさんが、女神様とケンカしたことにするというのは、ライトの味方に付いてくれるってことですか?」


「俺ではあまり役に立たないけど、まぁ、連絡係っす。状況が変わっていたら、ライトさんに味方しろと、タイガさんに言われてるっす」


(タイガさん、会ったことないよね)


 僕の味方というのは嬉しいんだけど、ジャックさんは人間なんだよね? 大丈夫なのかな。


 僕が個人的に大魔王を狙う上で、邪魔な神々を排除するという作戦だけど……。




「ライトさん、とりあえず、ハデナのミッションの終了報告に行かないといけないっすよ? レンフォードさんから、ライトさんを見つけたら、警備隊に来るようにと伝言っす」


「あっ、何もしなかったミッション……」


「レンさんが一人で仕事をしても、ティアちゃんを含めて3人に、同じ報酬が出るから大丈夫っすよ」


(すっかり忘れてた)


 ハデナ火山でミッションの途中で、僕は、巨大な亀……タトルーク老師を追いかけるようにして、地底へと逃げたんだ。



「じゃあ、地底の準備は進めておくから、ライトは、終了報告に行っておいで。ジャックさん、ライトを連れて行ってもらえますか?」


「了解っす。俺は、城に戻れないから、喜んで連れて行きますよ」


(ケンカしたことにするから、か)


 クライン様は、ジャックさんに僕を預けるんだ。僕は、どうやって地底に戻ればいいのかな?


「ありがとう。あはは、ライト、そんな顔をしていると、見た目通りのチビっ子に見えるよ?」


(どんな顔?)


「ライトさんは、クラインさんと離れるのが寂しいんすね」


「えっ? いえ、あの….」


 ジャックさんがそう言うと、クライン様は、くすぐったそうな笑みを浮かべた。


「ライト、移動には天使ちゃんを使うだろ? あの子達は、地上も地底も、自由に行き来できるからね。ライトも、魔王カイさんと同じく、居場所がつかみにくいだろうね」


(あっ、生首達を使えばいいんだ)


「は、はい」


 僕が返事をすると、クライン様は、ふわりと微笑んだ。



「ジャックさん、用事が終わったら、ライトと一緒に、地底の天使ちゃん達のすみかに来てもらえますか? 城に戻れないなら、寝る場所に困るでしょ」


「了解っす。えーっと、イタイ魔王のいる火山でしたよね……」


(イタイ魔王!?)


 ジャックさんは、魔王サラドラさんが苦手なのかな。



「じゃあ、俺は、これで。ライトが地底に戻ったら、作戦開始できるようにしておくよ」


 クライン様は、悪戯っ子のような笑みを浮かべ、スッと姿を消した。



「えっ? クライン様も直接、地底に戻れるんだ」


「ライトさん、彼は、イーシア湖に転移したっす。湖底に、出入り口があるんす」


 ジャックさんの説明に、僕は頷いた。


「僕、イーシア湖から、ここに来ました」


「じゃあ、わかるっすね。えーっと、これからロバタージュへ行くので、天使ちゃん達を呼んでほしいっす」


「あ、はい」


(あ、そっか。ワープで行けるんだ)


 以前、イーシアからロバタージュへ行くのは、結構、大変だったよな。


 森も深いし、森の外から馬車に乗らないと行けなかった。そういえば、馬車で料金詐欺に遭ったんだよね。


 あのときは、ずっと、女神様が僕の手を引いて歩いてくれたっけ。女神様は、口は悪いけど、リュックくんが言うほど腹黒じゃないと思うんだけどな。



 空から、赤黒い雪のようなものが降ってきた。



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― 新着の感想 ―
[一言] イヤイヤ…(-д- 三 -д-) レッサーパンダ並みに腹黒だよ
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