48、始まりの地 〜アンデッドの魔王カイの決意
『まず、地底から片付けるか』
アンデッドの魔王は、死霊のような姿に変わった。いや、リッチかな。ゾゾッとする。威圧感が半端ない。
「そうですね。魔王カイさんは、地上も自由に行き来できるんですよね」
クライン様は、嬉々とした表情だ。彼は、楽しくてたまらないときに、こんな顔をするんだよね。子供の頃から変わらないな。
『あぁ、だが、地上とは言っても、太陽の下では活動に制約がかかる。迷宮に潜っている奴らなら、地底と同じように動けるがな』
(そっか、太陽は苦手なんだ)
地上はずっと太陽が出ている。昼間は黄色の太陽、夜は赤い太陽だっけ。幽霊って、暗い場所に出てくるもんな。
「ふふっ、早い者勝ちの取り合いになりますね。この星に取り残された多くは、ほとんどの魔王より弱いですからね。でも、中には厄介な神もいますが……」
クライン様は、なんだか悪戯を思いついたような顔をしている。
『そういう面倒な奴らは、ライトが直接やればいい』
魔王カイさんがそう言うと、クライン様は満足そうに頷いている。僕に殺させたい神がいるのかな。
(いや、僕に、そんな力なんて……)
「あっ、この星に移住している神々を間違えて殺さないようにしてくださいよ。ハロイ島には、それなりの数がいますからね」
『ふん、ハロイ島は、魔族が自由に出入りするだろう。そんな場所にまで行くつもりはない。強欲な奴らに任せる』
クライン様は、僕をチラッと見て、ニヤッと笑った。魔王カイさんが、こう言うとわかっていたんだろうな。
でも、魔王カイさんも、なぜか、僕の方を見ているような気がする。ハロイ島って、今までにも何度か聞いた名前だけど、確か神族の街があるんだよな。
神族の街があるから、僕の方を見るのかな?
あっ、もしかしたら、その神族の街に、僕が住んでいたのかもしれない。
僕が……いや、『ライト』が生まれ育ったこの集落は、僕がこの世界に転生して来たときに、焼き払われたみたいだもんな。
「では、早速、地底に戻って伝達しますよ」
『やかましいトカゲに話すときは気をつけろ。あのバカは隠し事ができないからな』
(魔王サラドラさんのこと?)
「もちろん、気をつけますよ。じゃあ、ライト、地下室から上へ上がろう」
クライン様は、また、霊体化したいみたいだ。そんなワクワクした表情を向けられると、なんだか僕は、自分が5歳児の姿をしていることを忘れてしまう。
『集落には、うるさい奴がいるようだ。この地は精霊イーシア様が守る慰霊の地だ。イーシアの民以外の者が来るべき場所ではないぞ』
(来たときは誰もいなかったよね?)
「俺には、この場所の結界のせいで、外の様子はわからないんですけど、誰がいるんですか?」
クライン様は、少し警戒して尋ねた。
『さぁな、人間の個体名には興味はない』
「人間ですか。てっきり、ティアちゃんかと思いましたよ。俺がライトをかくまっていると、怒ってましたからね」
(えっ……クライン様に迷惑をかけてる?)
『ティアちゃんとは、女神イロハカルティア様のことか。なぜ、あのような獣人の姿をされているのか、理解できぬ。しかし、あの姿のときには、無礼講だとおっしゃっていたが……』
魔王カイさんがどこを見て、どんな顔をしているかはわからない。リッチの姿って、全く表情も何も読めないんだよね。
「ティアちゃんは、あの姿のときは、自由に、はちゃめちゃしてますよ。神ではなく、この星の民のひとりとして、みんなに溶け込みたいみたいです」
『ふむ……だが、偉大な女神様をそのように扱うことなど、できるわけがない』
(カイさんって、めちゃくちゃ女神信者なんだな)
「魔王カイさん、そんなことを言ってると、カイはしょぼいのじゃ! と叱られますよ」
『そ、それは困る……だが……』
リッチがオロオロしていることが伝わってくる。クライン様の言葉で、そこまで焦るの? 女神様を本当に崇拝しているんだな。
でも女神様のあのセリフは、本当にしょぼい今の僕には、言わないんだよね。生まれ変わる前は、しょっちゅう言われていた気がするけど。
「魔王カイさん、ティアちゃんの、しょぼいのじゃ! という言葉には、100の意味があるらしいですよ」
『な、なんと? そのような特殊な言葉なのか!』
「ティアちゃんは、本当にダメな人には、しょぼいとは言わない。生まれ変わる前のライトは、やたらと言われていましたね。俺も、息子ができた頃から、しょぼいのじゃ! と言われるようになったんですよ」
『そ、そんなお言葉をいただいたことはない……。女神様が認めておられるという証なのだな』
(認めた証……確かにそうかも)
「ふふっ、魔王カイさんは、そもそも、自分の結界の中でしか話さないじゃないですか。いや、言葉を発することもできないんでしたっけ。念話しか使わないから、コミュ障が加速するんですよ」
『な、なんと……』
(コミュ障だから、念話なの?)
「自分の配下を相手に、言葉を話す練習をするべきですよ。そうすれば、ティアちゃんとも、普通に話せるようになります」
『い、いや、だが……』
(念話でも、コミュ障になってきた?)
「まぁ、ティアちゃんが望むように、特に青の星系の神々を殺して星へ強制送還をしていれば、彼女の方から何か言ってきますよ。ねぎらいの言葉は、ないでしょうけどね」
『ねぎらいでなければ……お叱りか』
「ティアちゃんの立場で、神々を追い返す行為を褒めることはできないでしょ? 彼女は、共存することを願っている。一方で、共存する気がない神々が邪魔でも、非戦の星系の創造神ですから……」
『確かに、女神様のお立場では、侵略者を排除したくても、それができぬ。そうか、だから、この策なのだな。大魔王争いを装って、邪魔な侵略者を排除すれば、星の保護結界が消えた後の危険を減らせる』
魔王カイさんは、自分で自分に言い聞かせるように、話している。ぶつぶつと、なんだかちょっと怖い。
(ひとりの世界に入ってしまった?)
クライン様は、静かに彼の様子を見ている。何かを待っているみたいだ。
非戦の星の内乱という理由で、侵略者を排除したいというのは、大魔王様も同じ考えのようだ。
その内乱の方法が、大魔王様だと、女神様の城への攻撃という案になるのか。そうすれば、女神様の側近や軍隊が、地底に攻め込む理由になるからだ。
だけど、魔王カイさんが言っていたように、愚策だ。そんなことをすると、本当に内乱が起こってしまう。一部の地底の権利者は、既に他の星の神々に操られているんだから。
そっか、僕が大魔王の座を狙うということで、アンデッド達を使って、他の星空の侵入者を強制送還することは、確かに最善の方法だ。
僕に味方するフリをして、他の魔王は討伐に参加できる。クライン様が嬉しそうに話していたけど、ゾンビに化ければ、僕の配下のフリができる。
それに、僕が動きすぎると、女神様の側近や軍隊も、神族である僕を制する目的で、自由に動ける。
(僕が、とんでもない罪人になりそうだけど)
でも、大魔王争いは、普通によくあることみたいだ。ということは、僕は、神族ではなく、魔族として行動すればいいんだ。
『クライン、この魔王カイが、ライトの配下のフリをすればよいのだな?』
(えっ? それって……)
「ふふっ。それがベストですね。魔王カイさんのプライドが大丈夫なら、ですけど」
『チカラだけで魔王を決めるのであれば、このチビの方が、魔王カイよりも上だ。だから、構わぬ。だが、魔王を譲るわけではない。坊やには、神族としての使命がある。魔王として、アンデッドの世話をする余裕はないだろう』
(あれ? なんだか話が……)
僕は、魔王になるつもりも大魔王になるつもりもないんだけど?
「それでいいですよ。周りは、魔王カイさんが、ライトの配下として動くなら、ライトがアンデッドの魔王になったと噂するでしょうけどねー」
『ふん、他者の噂など、どうでもよい。魔王カイは、命が続く限りアンデッド達を守ると、女神イロハカルティア様への忠誠を誓ったときに約束をした。アンデッドの魔王の座を譲るつもりはない』
(頑固というか、真面目だな……)
クライン様は、満足げに頷いた。その表情は、とても明るい。さっきまでの子供っぽい表情とは違って、穏やかな雰囲気だ。
「さぁ、ライト、地上に行こう!」
(あっ、また、子供っぽい表情に変わった)
「はい、クライン様」
僕は、彼の手を取り、霊体化! を念じた。クライン様は、壊れたテレビの画面のようになるんだよね。
「ライト、ワシらも協力するぞ! 石室からしか出られないから、こっちじゃ」
(あ、『ライト』の爺ちゃんか)
「爺ちゃん、ありがとう。無理しないでね」
どの死霊が、爺ちゃんなのかはわからないけど、死霊が浮かぶ中を通り抜け、一応、あちこちにぺこぺこしておいた。
そして、石室を上へと上がっていった。




