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46、始まりの地 〜さらに密談

「えっ? すべて殺すんですか」


『数が多くて面倒なら、神々だけで良い。神に死はない。殺せば、光の粒となり、自分の星へ戻っていく。強制送還だ』


 アンデッドの魔王カイさんは、なんでもないことのように、恐ろしいことを話している。


 話すというか……念話だよね。今は、ゾンビの姿をしているけど、口は動いていないもんな。


 だけど神々を殺せって……そんな簡単なことじゃないよな。



「魔王カイさん、ライトよりも貴方の方が、簡単に命を刈り取れるでしょ。なぜ、動かないのですか」


 クライン様は、目の前の席に座るゾンビを、まっすぐに見ている。何かの術を使っているのかな。


 互いに、探り合うような沈黙が流れた。



『クライン、面倒なことを言うな。力を示しすぎると、おまえの爺さんが出てくるだろうが。大魔王なんてものは、やりたい者にやらせておけばよい』


(彼は、大魔王になる力があるのかな?)


 どんな風にして、大魔王が決まるのかは知らないけど、おそらく地底で最も力のある者、なんだよね?


「ふふっ、じゃあ、ライトが大魔王を狙っても?」


 クライン様の言葉に、魔王カイさんの視線が冷たくなった。いや、もう、これって敵意だよね。


『それがここに来た用件か。彼に、魔王の地位を譲れということか。だが、魔王は一族の代表だ。こんな坊やに、一族の世話ができるとは思えないがな』


「ええ、その件で来ましたよ。ライトも、魔王になるつもりはないと思います。ただ、それでは、ライトが大魔王を狙うという信憑性が薄れる。だから……」


『これだから、悪魔は嫌いだ。そもそも魔族の大半は、死なねばバカは直らないからな』


 ゾンビの放つ気配が、近寄りがたい畏怖を与える。


(うっ、怖い……)


「死んでアンデッドに生まれ変われば、すべての魔族は、貴方の下僕になりますもんね」


 クライン様の言葉には、なんだかトゲがある。



 魔王カイさんは、僕の方を向いた。


『ライト、こんな奴と関わると、ロクなことはない。主従関係を解消するがよい』


(えっ……そんな)


「魔王カイさん、それは出来ません。僕は、まだ記憶はあまり戻っていないけど、なぜ彼の配下になったのかは、思い出しました。損得ではありません。僕がそうしたいからです」


『生まれ変わったのだから、過去のしがらみに縛られる必要はない。もう、十分に働いただろう?』


「縛られているつもりはありません。僕は、たぶん、彼の配下でいることが楽しいんだと思うんです」


 すると、ゾンビが僕をジッと睨んだ。さっきまでのようなやわらかな視線ではない。探るような、冷たい視線だ。


(こ、怖い……)


『ふっ、そうか。この妙な感覚は、洗脳かと思ったが、女神の魔人がついているのか。しかし、なぜおとなしく収まっている? おまえは……魔人『リュック』は、いつも主人と離れていただろう?』


(えっ? リュックくんが、離れる?)



 僕の横に、20代後半くらいの男性が現れた。銀髪でスラリと背の高いイケメンだ。めちゃくちゃモテそうな、モデルみたいな甘いマスクだよな。


(チャラそうだけど)


 僕がそう考えた瞬間、その男性は、ケラケラと笑い始めた。あれ? この笑い声って……。


「魔王カイ、おまえのせいで、また、ライトがオレのことをチャラ男って言い出したじゃねーか。どーしてくれるんだよ」


「ええっ? まさか、リュックくん?」


「あぁ、魔道具から進化して、そろそろ100年か。最近は、大人っぽくなってきたって、言ってたくせによ〜」


 白シャツに、黒い革のズボン。どう考えても、モデルみたいなんだよね。大人っぽい色気もあるけど……チャラそう……。



「リュックくん、初期化したんじゃなかったんだね。反応がないから、心配していたよ」


 クライン様は、やわらかな笑みを浮かべている。そうか、巾着袋の状態は、一番最初の『リュック』の姿だ。


 そして、作れるポーションの種類が増えて、進化をして、巾着袋からリュックになって、大きなリュックになって、それから小さな鞄みたいになったんだっけ。


 始めは話せなかったけど、ポツポツと話せるようになって、普通に会話ができるようになって、最終的には、魔人の姿に変わったんだよな。


(すっかり、忘れていた……)



「オレは、ライトの負担にならねーよーに、魔力消費の少ない形態をとってるんだよ。魔王カイが、魔石の花をくれるって言うから、出てきてやったけどな」


 リュックくんは、壁に飾ってあったオブジェに触れた。すると、水色のクリスタルのようなものが、スーッとリュックくんに吸い込まれていった。



『魔人リュック、おまえは、どう考えている?』


 ゾンビが、リュックくんを睨みつけている。話を聞くために、魔石の花をやると言って、呼び出したのかな。


 魔石の花は、マナの塊だ。確か、魔人が取り込むと、エネルギータンクが増えるんだっけ。なんとなく、そんなことを思い出した。記憶のカケラを見つけたわけじゃないのにな。



「どう考えてるって、何がだよ?」


『魔人リュック、おまえは何を望んでいる? 幼子になったライトを操っているのか?』


「は? なぜ、オレがライトを操るんだよ」


『そのために、まだ闇を持たない幼子として、生まれ変わらせたのであろう? 本来ならば、ライトは、この世界に来たときと同じ、17歳の姿から始めるはずだろう』


(リュックくんが、僕を赤ん坊にしたの?)


 でも魔道具に、そんなチカラがあるのかな。転生や生まれ変わりって、神のチカラじゃないのかな。



「ライトが、赤ん坊から始めた理由は言えねー。だが、魔王カイの想像とは違うとだけ教えておいてやる」


(あっ……リュックくんは……僕のことを黙ってくれているんだ)


 僕が、通常時の戦闘力が弱すぎてウジウジ悩んでたから、赤ん坊からやり直しができるようにしてくれたんだ。


 死人に宿った生命には、体力面での限界があるって言ってたよね。


 この集落で死んだ『ライト』の身体に、僕、翔太の魂が入ったんだ。だから、いったん死んだ身体が再び成長するには、無理があった。


 そうだ。僕は、100年経っても、見た目がほとんど成長しなかった。渋いバーテンダーになりたかったのに、ずっと二十歳前後の性別不明な姿だったもんな。



『では、魔人リュック、何が望みだ? なぜ、ライトの生まれ変わり時に、離れなかった? 自由になることもできたはずだ』


「魔王カイさん、魔道具は、主人から離れると生きられませんよ。主人の魔力で生かされているんだから」


 クライン様の言葉に、ゾンビは呆れたようなため息をついた。


『クライン、生まれ変わり時に、と言っただろう? 魔人は主人の生まれ変わり時に、主人の一部を取り込み、別の独立した個体となることも可能だ。もしや悪魔は、そんなことも知らないのか』


「神族でなければ、そんなことは知りませんよ」


 クライン様が反論したけど、ゾンビは、呆れたように首を横に振っている。クライン様は、苦笑いなんだよね。



『魔人リュック、おまえの望みは?』


(しつこいな。リュックくんに何を言わせたいんだろう)



「そーだな。オレが欲しいものは、大量の魔石の花だな」


 すると、ゾンビは、カッと目を見開いた。


(こ、怖い……)


『すでに大量の魔石の花を取り込んでいるではないか。それ以上取り込みたいと? いったい何を狙っている? 魔人は、神にはなれぬぞ』


「は? んなもんになる気はねーよ」


『では、何が狙いだ?』


 魔王カイさんは、何かを恐れているのかな。やたらと、しつこい。


「腹黒女神に、何かを頼まれたか? 魔王カイ、おまえ、コミュ障の引きこもり対人恐怖症だろ。アイツに何か脅されたか」


(なんか、むちゃくちゃ言ってる)


『女神様は関係ない。すべての死霊が恐れているのだ』



 リュックくんが黙った。


 重苦しい空気感のせいで、この部屋にいたスケルトン達が、カタカタと音を立てている。


(怖がっているのかな。かわいそう)



「オレが、魔石の花を吸収する理由は、ライトが知っている。魔王カイ、おまえに話すつもりはないぜ。腹黒女神に逆らえねーだろ」


(僕が理由を知ってるの?)


『女神イロハカルティア様は、黄の星系の創造神だ。争いを嫌い、自ら参戦しない中立の立場をとっておられる。すべての者に自由を許し、序列意識も差別意識もない素晴らしい神だ。腹黒女神などという呼び方は、聞き捨てならない』


(完全に女神様の味方なんだ)


「ふん、ほーら、みろ。魔王カイ、おまえ、腹黒女神に操られてるじゃねーか」


『アンデッドの魔王カイを操れる者など、どこにもおらぬわ!』


(あ、ゾンビが怒った)


「じゃあ、そんなに気に入っているなら、腹黒女神の望みを、おまえが叶えてやればいーだろ。アイツが望むのは、理不尽な支配の排除だ』


 ゾンビが、リュックくんを睨んでいる。


 だけど、突然その表情が変わった。


『ふっ、いいだろう。その策は、悪くない。だが、魔人リュック、おまえは姿を見せるなよ?』


(その策って何?)



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― 新着の感想 ―
[一言] 序列意識が無いのに配下は序列が有るのか…|д゜)ジー 何時もショボいショボいって貶してるのは… 素の性格か…(((・・;)
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