45、始まりの地 〜密談
イーシアの森は、木々が不思議な輝きを放ち、パワースポットのような神秘的な空気感がある。
クライン様によれば、精霊イーシア様の加護があるから、この場所はマナが濃いのだそうだ。イーシアの森は、とても広大で、数え切れない集落が点在しているらしい。
その中のひとつが、僕、『ライト』が生まれ育った集落なんだ。その名もなき集落は、『ライト』や多くの住人が伝染病で死んだとき、集落全体が焼き払われたという。
伝染病を広げないために、集落ごと焼くという野蛮なことが、当たり前のように行われていたそうだ。
「ライト、ここだね。生誕の地、そして生まれ変わりの地だ」
クライン様に連れられてきた石碑の広場。イーシア湖から、意外に近かったな。
僕は、石碑の台に触れた。
(ここで、目覚めたんだよな)
石碑を見上げると、なんだか、懐かしいような気がする。ほんの少し前のことなのに、ここで体験した地震の恐怖も、遠い昔のことみたいだ。
(野外の映画館だと思ったんだよな)
空を見上げると、何も映っていない。綺麗に晴れ渡った青空が眩しい。
(女神様のことを、女優さんだと思ったんだよな)
「ライトの爺ちゃんと会った場所は?」
「えっと、ここだと思います」
そうだ。アンデッドの魔王の手がかりを探しにきたんだよな。『ライト』の爺ちゃんが、魔王様に、この地を守る役割を与えてもらったみたいだ。
クライン様は、静かにあたりを見回している。サーチをしているのかな。
「ライト、地下室がある?」
そう尋ねられ、僕の頭には古い記憶がよみがえってきた。僕が、この世界に転生してきて、一番最初に目覚めたのは、地下室だ。
「今もあるかは、わからないですけど」
「あるみたいだよ。でも、俺は行けない場所だな。ライトが連れて行ってくれるなら大丈夫だけど」
クライン様は、楽しそうなんだよな。あー、そっか、地中に潜ったこともあったよね。なんだか僕よりも、クライン様の方が、昔のことを懐かしんでいるみたいだ。
彼は石碑から離れて、あちこちウロウロしている。そして、ニコリと微笑んで立ち止まった。
「ライト、この真下だよ」
「わかりました」
僕は、クライン様の手を取り、そして、霊体化! を念じた。重力魔法を使って、下へ下へと降りていく。
「うわっぷ……あはは、やはり、土の中に入ると、窒息してしまいそうになるよ」
「大丈夫ですよ〜。あはは」
クライン様は、小さな頃と同じ反応だな。もしかしたら、僕がいろいろと思い出せるように、気遣ってくれているのかな。
ガランとした石室に、僕達は降りていった。一筋の明かりがあるだけで、冷たくて暗い場所だ。
(ここは、遺体安置所だったよな)
隣にも、部屋があったはずだ。小さな動物が、床を駆けていく。空気は大丈夫みたいだね。
僕は、霊体化を解除した。
すると、なんだかゾクゾクっとするような何かを感じた。フワンと、何かがまとう感覚。
(バリア?)
クライン様の方を見ると、ニコニコしながらも、少し警戒しているようだった。
『そこに、誰か居るのか?』
(あっ、『ライト』の爺ちゃんの声だ)
「ライトです。僕の主君も一緒です」
『おぉ、ライトか。赤ん坊だったのに、なんだかしっかりと話せるようになっておるの』
「うん、ちょっと成長したんだ。まだまだ子供だけど」
『そうか、ここには、何をしに来たのじゃ?』
爺ちゃんの声は、心配そうに聞こえる。だけど、まるで、何もかもわかっているかのようだ。
クライン様は、シーッと人差し指で合図をして、僕の手を引いて、隣の部屋への扉を開いた。朽ちた木の扉だ。
ギギギギ
(嫌な音だな)
「やはり、そういうことでしたか、魔王カイさん」
クライン様は、僕を手招きしている。扉の先は、木造の地下室は焼けたから、ガランとした空洞のはずだけど……。
(な、何、ここ?)
僕の記憶とは違っていた。まだ、僕が得ていない記憶もあるかもしれないけど、あまりにも違いすぎる。
白い土壁の広い部屋だ。壁沿いにはズラリと、青いクリスタルのような物が並び、明るい光を放っている。
そして、リビングのようなテーブルや、大きな棚、そして奥には草のような何かの山や、小さな池らしきものまで見える。
『ライト、驚くのも無理はない。このように改造されたのは、おまえが、ここに現れたからじゃよ』
(どういうこと? 僕が現れた?)
黒いふわふわとした霧のような個体が、楽しそうに話している。黒い幽霊、いや、死霊だよな。
「爺ちゃん、あの……」
僕は、どれが『ライト』の爺ちゃんか、わからなくなってきた。目の前には、たくさんの死霊が、ふわふわと飛び交っているんだ。
たくさんの、骨だけのスケルトンもいる。それに、目立たないけど、ゾンビのような何かもあちこちに座っている。
(ここは、アンデッドの隠れ家?)
『クラインか? いや、ルークか?』
奥のテーブル席で座っているスケルトンが、こちらを向いた。目がないから、どこを見ているか、わからないんだけど、ガイコツ頭がこちらを向いたんだ。
「クラインですよ。ライトの主君は俺だからね」
『どちらも気配が似ているから、区別がつかない。まさか、ここを探し当てるとはな。大魔王のサーチか』
「いえ、爺ちゃんは、関係ないですよ。おそらく、この場所には、入って来られないでしょう?」
『ふっ、悪魔の言うことは、大半が嘘だからな』
そう言われて、クライン様は苦笑いだ。しかし、アンデッド達の声って、念話だろうか。不思議な声だな。
『魔王様、ワシの孫のライトは、正直な子ですぞ。何やら、用事があるようじゃ。聞いてやってもらえませんか』
黒い幽霊が、こちらを向いているスケルトンの付近を、ふわふわと漂っている。あれが、『ライト』の爺ちゃんかな。
『まぁ、座りなさい』
その声と共に、椅子がパッと現れた。
(これに座ればいいのかな)
クライン様が座ったのを見て、僕も、すぐ横の椅子に座った。すると椅子が勝手に動いていく。そして、スケルトンの向かいの席で、止まった。
焦ってクライン様の方を見ると……なぜか、楽しそうなんだよね。
『ふむ、その反応は、クラインか。ルークなら、こんなことで感情を動かさぬ』
「クラインだと言ってるじゃないですか。魔王カイさん、そんな姿をしているから、見分けがつかないんですよ」
クライン様がそう言うと、スケルトンは、姿を変えた。おどろおどろしいゾンビだ。
そしてギロッと、鋭い視線をクライン様に向けている。
「魔眼は、やめてくださいよ。俺も子供じゃない。レジストしたくなるんでね」
(魔眼って何!?)
『話とは、何だ?』
ゾンビが僕の方を向いた。クライン様に向ける視線とは違う。なんだか、温かさを感じる優しい眼差しだ。
「あの、僕……」
(だけど、頭が真っ白だよ)
「魔王カイさん、変なオーラを出すから、ライトが萎縮しちゃったじゃないですか。俺から話しますよ」
『ふん、悪魔の言葉など……』
「じ、じゃあ、僕が話します」
クライン様は、ニコリと笑った。
「ライト、この結界の中では、言葉の取り消しができない。それに、怯えながら話すと、言葉に襲われるよ」
(な、何? それ)
クライン様は、嘘やゴマカシは通用しないって、言ってるのかな? 怯えながらって……恐ろしいゾンビなのに。
『悪魔の言葉など、気にせずともよい』
「は、はい」
『何が望みだ?』
「えっ……」
何かを願いに来たと思われたのかな。確かに、願いといえば、願いか。
「あの、僕は、地底で、大魔王の地位を狙うフリをしたいんです。外からの侵入者が……他の星の神が大魔王になってしまうと、取り返しのつかないことになるから……」
『それは、その悪魔の入れ知恵か』
「えっ? えーっと、クライン様の案ですけど、魔族の国では、魔王サラドラ様が発案者ということになっています」
『あのやかましいトカゲか。そういえば、そういう噂が流れてきた。神族のライトが、大魔王の地位を狙っているとな』
(こんな場所にまで? すごい)
「サラドラさんが噂を流しています」
『地底を牽制するには、青の神ダーラを消滅に追いやったライトが、確かに適任だ。だが、悪魔を連れてきたということは、大魔王になる気はないということか』
ゾンビの目が光った。ゾゾゾッと背筋が冷たくなる。サーチなのかな。
「僕は、まだ、記憶の大半を失っている状態なので、正直なところ、どうすれば良いのかわからないんです。でも、もうこれ以上、戦乱は起こってほしくない」
『そうか。だが、必ず起こる。星の保護結界が消えると、攻め込んでくるぞ』
(やはり、そうなんだ)
クライン様も、固い表情だ。神々の侵略戦争を引き起こさないようにする方法はないのかな。
「何か、良い方法はないでしょうか」
そう尋ねると、ゾンビは、ニヤーッと笑った。
(こ、怖い)
『簡単なことだ。この星にいる侵略者をすべて殺せばいい。ライトなら、それができるだろう?』




