44、イーシア湖 〜ライトの双子の子供のこと
「これが、あのライトか?」
「間違いない。青き死霊だ。ブリザ湿原に棲みついていた巨大魔物を、あんなに簡単に討伐してしまったぞ」
「大魔王様でさえ、手がつけられなかった魔物だぞ。全く攻撃が効かない化け物だ」
ワープワームの映像を共有していた、とある魔王達は、恐怖と強いストレスを感じていた。
「化け物の中に入り込んだワープワームは、ライトに気づかれて、消されたようだな」
「俺のワープワームは、誰にも気づかれたことがないのに」
「手の内を見られたくなかったらしいが、だいたいの映像は届いた。まさか、あんなやり方を考えるとは……」
「生まれ変わったことで、あれほど残忍になるとはな。大魔王の地位を狙っているそうじゃないか」
「マズイな。敵対すると……」
「あぁ、一族が消されるかもしれんな」
◇◆◇◆◇
「俺は、ライトを連れて地上へ行くよ。魔王様の3人に、後始末はお任せしますね〜」
クライン様は、黒魔導の魔王スウさんに、そう話すと、僕の手を握って、ふわりと空中に浮かび上った。
「クライン! 化け物を放置していくつもりっ?」
サラマンドラの魔王サラドラさんは、赤いワンピース姿に変わり、手をぶんぶん振っている。やはり、あの仕草は、威嚇なのかな。
そして、その苛立ちをぶつけるように、外来のカエル頭の兵隊に、炎を放っている。サラドラさんの炎って、半端ない威力だよな。
クライン様は、ニヤニヤしながらも、手伝う気はないらしい。魔族の間での、決まり事や面倒事があるのかな。
ノームの魔王ノムさんは、だるまのゴーレムから出てきた。そして、クライン様の方に向かって頭を下げている。
「俺じゃなくて、ライトにお礼をしているよ」
「えっ!?」
僕は、慌てて、空中でペコリと頭を下げた。
「さぁ、ライトを見せながら、イーシア方面の出入り口に向かうよ」
いつの間にか、クライン様の背には、黒い羽が生えている。遠くからでも悪魔族だとわかる羽だ。
(僕を見せるって……)
クライン様は、ニコニコしながら、僕の手を引いて空を飛んでいく。僕には、浮遊魔法がかけられているみたいだ。
(うわぁ、いろいろな種族がいる)
僕達を見上げる人達がたくさんいる。わざと見える高さを飛んでいるんだ。
だけど、僕がライトだとは気づいていないようだ。
「そのうち、さっきの情報が魔族の国に広がるよ。そうすれば、今、俺と一緒に飛んでいるのはライトだと気づく。こんな子供の状態でも、あの厄介な外来の魔物を倒したとわかると、面白いことになるよ」
クライン様は、楽しそうに笑っている。僕のことを翔太と呼んで気遣ってくれたときとは、なんだか雰囲気が変わったみたいだ。
(少年っぽくて可愛いかも)
ついつい、クライン様の子供の頃の面影と、今の彼を重ねて見てしまう。彼の本質は変わっていない。僕を守ろうとしてくれる優しい主君だ。
そして、こんな僕に心を許してくれている……とても信頼されているんだよね。
(僕の見た目は、5歳児なのにな)
彼の目にはもう、僕の姿は、彼が知るライトに見えているのかもしれない。
僕の考えが見えているのか、クライン様は上機嫌だ。僕はずっと、彼の元気な笑顔を守りたいって思ってきたんだよな。
魔族の国の出入り口の門に着いた。
門番は、見たことのない種族だ。定期的に門番は入れ替わるそうだ。
「クライン、地上へ行くのか? だが規約により、成人していない子供は連れて行けないが……」
(様呼びしないんだな)
「俺の第1配下だよ。彼の用事で地上に行くんだ」
門番の二人は、僕をジッと見ている。サーチだろうか。二人とも、頭にトサカがあるんだよな。鳥系の獣人なのかな。
「クライン、第1配下を変えたのか?」
「変えてないよ。彼は、生まれ変わったから、まだ幼い姿なんだ。青の神ダーラと相打ちになったからね」
「この子供が、うっかり者の死霊か? ステイタスは、まだ隠せないらしいな。やはり、あの深き闇を使って、隠していたということか」
「回復魔法力や補助魔法力が異常値だと記憶しているが……ふん、なるほどな。それ以上に、物理攻撃力や魔法攻撃力が高い。噂通り、ダミーの数値を見せていたのだな」
なぜか門番は頷き、納得している。僕は、何も隠していなかったと思うんだけどな。
クライン様は、僕のステイタスを、門番に見せたかったのかな。彼の表情から、そんな気がした。
「さぁ? そういう情報は、ベラベラしゃべるものじゃないからね。じゃ、ライト、行くよ」
「はい、クライン様」
僕は、一応、門番に軽く会釈をして、クライン様の後を追いかけた。
淡い光が下から上へと昇る場所に立つと、ふわっと上へ上昇した。そこは水の中だ。
慌てる僕の手を握り、クライン様はやわらかな笑みを向けた。安心しろと言われているような気がする。
そのまま、水の中を上昇していった。
◇◇◇
(うわっ、眩しい)
キラキラと輝く水面に、僕は立っている。クライン様の浮遊魔法かな。
空には、黄色い太陽が昇っている。太陽を見たのは、久しぶりだな。地底には、月のような灯りはあるけど、ずっと夜だもんな。
(イーシア湖かな)
僕は手を引かれて、湖面を歩くかのように岸へ向かって移動している。なんだか、気持ちがワクワクと高揚してくる。やはり太陽っていいな。
そっか。だから昔、地底から地上へと領地を広げようとして、戦乱が起こったんだな。タトルーク老師が大魔王だった時代に大規模な戦乱が起こったんだっけ。
湖岸には、薬草の草原が広がっている。不思議な匂いがする。でも、嫌な匂いではなくて、落ち着く匂い。こんな場所で、昼寝をしたら気持ちいいだろうな。
「ライトは、よく、ここで昼寝してたみたいだよ」
「えっ? そうなんですか」
「ふふっ、うん。薬草を摘みに来たら、そのまま寝ちゃうんじゃないの? アトラさんがよく、そう言ってた」
(アトラ様が!?)
その名前を聞いて、僕はドキッとした。辺りを見回してみたけど、彼女らしき姿はない。
「あはは、アトラさんは、今は神族の街にいるみたいだよ。ライトが、ティアちゃんを放置するから、彼女がティアちゃんのお世話をしているみたいだね」
「女神様の世話ですか……」
クライン様は、楽しそうに笑っている。
「ライト、やきもちかな? もうわかっていると思うけど、アトラさんはライトの奥さんだよ。だから、ティアちゃんに振り回されてるんだねー」
「えっ? 奥さん?」
(僕は、アトラ様と結婚したの?)
あれ? でも、シャインくんは、ケトラ様との子供みたいだけど……。
「ケトラさんは、妹でしょ? シャインくんは、ケトラさんに懐いてる。母親代わりとも言えるかな。アトラさんには、いろいろと役目があるからね」
「そう、なんですね。僕、勘違いしていました。シャインくんは、まだ幼いのでしょうか」
「ライトには、子供が二人いるよ。双子だったんだ。えーっと、俺の子より少し年上だから、80ちょっとじゃない?」
「ええっ? クライン様にも子供さんが? 許婚のルーシー様と結婚されたんですね」
「うん、そうだよ。ルークっていうんだ。俺よりも優秀なんだよね。神族の街の学校に通っていたからかな。かなり交友範囲も広いみたいだよ」
クライン様は、誇らしそうに話している。
「へぇ、そうなんですね。大魔王候補かな」
「シャインくんを配下にしたいみたいだけど、まだ、断られ続けているらしいよ。だからルークは、第1配下が空きになっている。なので、もう60歳になるんだけど、継承権はないんだよね」
「継承権が……」
(あれ? シャインくんって……くん呼び?)
80歳を過ぎているなら、くん呼びも変だよな。双子のもう一人の話は、全然聞かないけど。
「シャインくんは、見た目は今のライトとあまり変わらないよ。アトラさんの血を濃く受け継いでいるから、守護獣なんだ。守護獣の寿命は人間の100倍以上あるからね。まだ、赤ん坊なんだよ」
「えっ……80代で、赤ん坊?」
「うん、500歳くらいで成人らしいよ。双子の妹のルシアさんは、ライトの血を濃く受け継いだのかな。普通の人間だよ。ただ……」
クライン様の表情が暗くなった。ルシアは、死んだのかな。人間で80代なら寿命だよね。
「いや、わからないんだ。たぶん、他の星にいる。イロハカルティア星と同じく、黄の星系の星のどこかにいると思う」
「そう、なんですね」
「この侵略戦争が始まった頃に、数百人が、次元の狭間に逃れ、時空を超えてしまったようだ。ルシアさんも巻き込まれたと聞いている。カースさんが、女神様の命令で、それを捜しに行っているよ」
「カース、さん。記憶のカケラを作った人ですよね」
「そうだよ。ペンラート星の神となる力をもつ幻術士だ。ライトの配下だよ」
「ええっ!?」
「ふふっ、さぁ、ライトの生まれた地へ向かおうか」
クライン様は、僕の手を引いて、イーシアの森の中へと入っていった。
皆様、いつも読んでいただき、ありがとうございます♪
これまで毎日更新してきましたが、9月からは、金土お休み、日曜から木曜の週5日更新に変更します。どうぞ、よろしくお願いします。
それと、前作を読みに来ていただき、ありがとうございます♪
この続編よりも圧倒的にアクセスが多く、ちょっと前作に嫉妬していますが(笑)、世界観を守りつつ、これからも楽しく描いていこうと思います。
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