43、ブリザ湿原 〜ライト、巨大な怪獣と戦う
巨大すぎる怪獣のようなカエルが現れた。それを守るように、人型の戦士のようなカエルが20体ちょっとかな。
怪獣みたいなカエルがボスだよな。魔法が通用しないと言っていた。人型のカエル頭も、戦士系だけど。
「ライト、でっかいのは、魔法は効かないし、剣で斬れないらしいよ〜。兵隊は、魔法に弱いんだけど〜」
そう言いつつ黒魔導の魔王スウさんは、無理と言うかのように、手でペケを作っている。
クライン様と、魔王スウさんは、たぶんバリア係だろうな。そして、剣士でもある魔王二人は、敵わないと諦めている。
(既に、倒そうとして失敗したのかな)
「ライト、大魔王を狙うなら、最高の機会だぜ。あちこちから、ワープワームが集まっているよ」
クライン様は、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。正確に言えば、大魔王を狙うフリなはずだけど。
ノームの魔王ノムさんは、今の話を聞いて驚いたらしい。彼を包むだるまのゴーレムが、ぴょんと飛び跳ねた。
(それが狙いなのかな)
魔王スウさんの城から、この場所にワープしてきたけど、よく考えたら、僕とクライン様は地上に行くと言っていたんだから、魔族の国の門に、ワープしてくれてもよかったよね。
もしくは、僕のワープワーム……生首達を使うようにと、クライン様が提案してくれたはずだ。
この外来の魔物を、僕に片付けさせて、その様子を偵察隊である他のワープワームに見せたいのかな。
(策士だよね、クライン様って)
グロッ、グロッ!
奴らの低い鳴き声は、威嚇音かな。ゾゾッとする。
(リュックくん!)
『あぁ? オレのサポートは、いらねーだろ?』
(ええ〜っ? 見捨てるの?)
『ぷぷぷ、どー考えても、おまえの本来の力の方が、こんな相手には使えるじゃねーか。デカイ化け物は、物理攻撃無効で、魔法攻撃も無効だぜ』
(じゃあ……霊体化?)
『そーだな。やばくなったら、透明化も追加だ。視聴者がいるから、綿菓子の方がいいだろ』
(綿菓子って……確かに青い幽霊だけど)
『ザコは、放っておけばいい。リザードマンより弱いからな』
(わかった)
僕は、奴らに向かって走った。5歳児の身体では、ぬかるんだ黒土を走るのは厳しい。
転びそうになるのを誤魔化し、僕は、霊体化! を念じた。
(うん? 奴らの動きが止まった?)
僕を見失ったのか、キョロキョロしている。どうやら、奴らの目には、僕の姿が見えないらしい。
僕は、巨大な怪獣に近寄り、そして『目』のチカラを使った。ゲージサーチをすると、体力、魔力、それぞれが青色二本。満タンってことかな。
ゲージの近くに、核があるはずだ。
僕は、そのままスーッと、奴の身体に侵入した。だけど、なぜか通り抜けてしまった。岩や土より抵抗が少ないな。
(もう一度!)
僕は、ゲージを目指して再びスーッと侵入した。そして、ゲージの近くの空間で、氷魔法を使った。
水分が多い身体なのか、一気に凍りついていく。
グロッ! グロッ!!
(う、うわぁ〜)
奴が暴れ、何かと一緒に僕は吐き出された。体液ではなく、砂のような何かに埋まった。
その何かから、抜け出して見ると……黒土か。この一帯の黒土は、奴が吐いたものなんだ。
ゲージ付近を凍らせたのに、奴の体力は、まだ青色だ。
(どうしよう……)
『ライト、化け物の体温が高いんだ。だけど、あと3日もすれば、コイツは死ぬぜ』
(えっ? 3日?)
『あぁ、倒し方としては、正解だ。だが、見せ方としては失敗だぜ。派手なことをしねーとな』
(えーっ!? じゃあ……)
『やり直しだ! 中に入って、魔法を撃ちまくればいーんだよ。ヤバくなったら、オレがガードするから心配するな』
(わかった。やってみる)
奴は、核の近くが凍っていることに気づいたらしい。身体を揺らして暴れている。何かが張り付いたとでも感じたのかな。
僕は、奴の目を狙って、小さな火の玉を放った。
目に当たったけど、ジュッと音を立てて消えた。やはり、目でも、魔法は効かないんだ。
すると僕のいた場所に、大量の砂が降ってきた。敵がいることを理解したらしい。
その砂の山に、人型のカエル頭が突撃していく。僕は、もうとっくに離れているんだけど。
(やっぱり、見えていないんだ)
僕は、巨大な怪獣にスーッと侵入した。そして、そのまま身体から出てしまわないように付近を凍らせた。
また、奴は暴れている。だけど、今度は吐き出されない。そうか、さっきは、奴の胃の中にいたのか。
(使える魔法を全部試してみよう)
まずは、火魔法! 辺りに炎が広がる。だけど、怪獣の皮膚は貫通しないんだな。
霊体化を使っていると、炎の中にいても全く熱くない。
次に、水魔法! 炎を消してしまった。ぶわっと水の中に入ったような感じだ。うーむ、これは、意味ないか。
これを凍らせる、氷魔法! げっ、僕も完全に氷の中じゃないか。場所をちょっと移動しよう。
重力魔法を使って、氷の中から脱出した。
次は、雷撃を使ってみたいけど、さすがに感電してしまいそうだよな。土魔法は、コイツはそもそも、土とお友達だから効かないよね。
あとは、風魔法かな。僕は、ビュッと風を巻き起こした。
(あっ、マズイ)
僕は、クルクルと風に巻き込まれ、そのまま外に出てしまった。
(うー、目が回る)
幸い、化け物の身体から出ると、回転は止まった。奴は、無反応だ。やはり魔法は効かないんだな。身体の中で剣を振り回せば、ダメージを与えられるかも。
(リュックくん、剣を出して)
『は? 何するんだ?』
(魔法は効かないから、次は剣で刺してみる)
『ライト、おまえ、バカか?』
(ひ、ひどくない? まだ5歳児の身体だから、弱いに決まってるじゃん)
『ゲージサーチ、してみろよ』
(うん? 残量確認?)
僕は、奴のゲージサーチをしてみた。すると、ゲージは、上が黒で、下が青。
(あれ? 黒って……)
『ぷぷぷ、死んでるってことだ。おまえが、火魔法を使ったときに奴の核にビビが入った。それで、再生できなくなったんだ』
(うん?)
『凍らせたものを急にあんな温度で熱すると、割れるだろ。そのあと、水魔法を使ったことで、奴の臓器全体に熱湯が広がって、機能不全を起こして倒れたぜ』
(熱湯?)
『で、氷魔法だろ? 完全に心停止だ。そして、風魔法で、内臓をぐちゃぐちゃにして、出て来たわけだ』
(えー、なんか、グロい)
『知らねーよ。おまえがやったことじゃねーか。ぷぷぷ』
僕は、霊体化を解除した。
(う〜、クサイ)
火水風の弱い魔法を同時発動して、僕は身体を洗った。シャワーを浴びたみたいにスッキリするんだよね。
巨大な怪獣は、もう、ピクリとも動かない。
(これ、食べられるかな? リュックくん、やっぱり剣……あっ、ありがとう)
僕の右手には、剣が現れた。リュックくんの鎧はないんだけどな。
僕は、重力魔法を使って、巨大怪獣の上に移動した。霊体化していないと、身体って重いよね。
巨大怪獣に、ツンツンと剣を刺してみる。だけど、めちゃくちゃ弾力があって跳ね返されるんだよな。
(あっ、僕が出てきた場所が凍ってる)
スーッと移動して、凍っている場所をツンツンしてみる。うん、これは切れそうだな。
僕は、剣を突き立て、そのまま重力魔法で降りながら、下までツツツと切ってみた。皮が厚いな。もう一度かな。
切った場所は、シャーベット状に凍っている。そっか、内臓は水魔法を使ったあとに凍らせたから、めちゃくちゃ冷たくなっているのかも。
「ライト、おーい。何やってんの?」
クライン様が、近寄ってきた。
「怪獣を切ってます」
「なぜ、切れるんだよ? 切ってどうする?」
「食べられるのかなぁって思って」
「…………ライト、腹が減ってるなら飯に行こう。外来の魔物なんか、食べちゃダメだろ」
あー、そっか。外来の魔物だった。
「はい、クライン様」
「これ、凍らせたのか? それだけで死ぬのか」
さっきのリュックくんの説明は、する気になれない。あまりにもグロテスクだ。
すると、魔女っ子も近寄ってきた。
「ライト、あちこちのワープワームを始末したわね〜」
魔王スウさんは、なんだか変な顔をしている。
「えっ? 何もしてないですよ」
「巻き込まれて殺されちゃったよ〜」
「へ? す、すみません」
(どこに居たんだろう?)
すると、クライン様が口を開いた。
「ライトが吐き出されたとき、一斉に大量のワープワームが奴の口の中に突入していったから、自爆だろう?」
「違うわよ。ライトが、どこかの臓器に入り込んでめちゃくちゃしたのよ」
「凍らせたんだろう?」
「それだけなら再生するわよ。たぶん、事前に核を凍らせてたのね。そのあと体内を火の海にして、水魔法、そして凍らせたよね? 奴の身体から出るために風魔法も使ったでしょ」
「へぇ、先に核を壊したのか。ライト、賢いじゃないか」
クライン様は、ニコニコしているんだけど、映像を見た魔女っ子は変な顔だ。だよね、グロかったよね。
僕は、苦笑いを浮かべるしかなかった。




