38、ガラク城 〜空間魔法で作られた城
いま僕は、ガラク城という不思議な場所にいるんだ。
この城は、空間魔法で作られているそうだ。一つ一つの部屋がとんでもなく広い。だけど、城というよりも、ゴミ捨て場のような印象を受けた。
この城の主である魔王スウさんは、なぜか、サラマンドラの魔王サラドラさんと僕をここに招きたかったらしい。
魔王スウさんは、黒魔導の魔王だという。人間のような容姿らしい。攻撃魔法がとんでもなく強いけど、殴ると簡単に倒れると、サラドラさんが説明してくれた。でもそれは、サラドラさんが、剣士だからだと思うんだよね。
この場所へは、魔王スウさんのワープワームでしか出入りできないらしい。出入り口は、堅固な結界魔法が施されているそうだ。
だから、そのワープワームが、アージ沼に迎えに来たんだ。生首達とは違って、可愛い小さなこびとの姿だった。ワープワームは、主人が気に入る姿に擬態するらしい。
(なぜ、生首達は、ゴムボールみたいな顔だけなのかな?)
みんな、生首達を可愛いと言うけど、僕には生首にしか見えない。魔王スウさんのワープワームの方がかわいいよな。
でも、ワープ速度は遅かった。ちょっと乗り物酔いみたいになって気持ちが悪くなったんだ。だから僕は、こっそり回復魔法を唱えた。
「ジャジャーン! こんにっちは〜」
目の前に、魔女っ子が現れた。黒い大きな帽子に、黒いふわふわブラウスとミニスカ、そして黒いブーツ。まるで、アニメのキャラクターのような雰囲気なんだよな。
(なぜ、魔女っ子?)
魔導系の魔王なのに、魔族がよく着ている魔導ローブもない。僕は、なんだか違和感を感じた。
彼女は僕を見て、ふむふむと呟いた。そして、僕の隣に立つ彼の姿に、おおげさに驚いている。だけど、彼女の支配するワープワームで来たんだから、驚くのも変だよね。
「あちゃー。クラインも来ちゃった感じ?」
クライン様は、微笑みを浮かべているけど、目は笑ってないみたいだ。
「魔王スウさん、もしかして、ライトを呼び寄せたかっただけですか」
「ええっ? そ、そんなわけないじゃん。困ってるんだもん。えっと……アンデッドが増えたから、その、すみ分けが〜」
(しどろもどろだね)
「貴女なら、空間魔法を操って、空間を区切ることも広げることもできるでしょう?」
「あー、うーん、これ以上広くなると、迷い子になるじゃない? 困るのよねー」
すると、赤いワンピースを着たこびとが、魔女っ子をビシッと指差した。
「スウちゃん! 名探偵サラドラを呼ぶ前に、片付けなさいっ! ゴミ城が加速しまくってるじゃないのっ」
(スウちゃん? 仲良しなのか)
「サラドラちゃん! そんなことより、その白いモコモコは何なの!?」
魔女っ子は、こびとの赤いワンピースをめくっている。
(それって、スカートめくりじゃん)
「ふふん、かぼちゃパンツよっ。めくって見せるものじゃないの。赤いワンピースからのチラ見せが可愛いのよっ」
「確かに……可愛いわね。うぐぐぐ」
(なんだか、平和な雰囲気だな)
二人の魔王のやり取りを、周りで大勢の人達が優しい笑顔で眺めている。いろいろな種族がいる。すみかを失った避難者なんだな。
「翔太、帰ろうか」
クライン様が僕の手を握った。だけど、何か目配せをしている。帰るわけではないのかな。
「でも、魔王スウさんのワープワームがないと……」
「天使ちゃんを呼べば、来るよ。それに、その噴水からも、外に出られる」
「噴水?」
「あー、生ゴミ捨て場になってるかな」
クライン様の視線の先には、生ゴミ捨て場というより、よくわからない山がある。不思議なオブジェかと思ってたけど、生ゴミなのかな。
すると、魔女っ子が、慌てた様子で近寄ってきた。
「ちょっと待ってよ。名探偵サラドラを放置していいの?」
(どういう意味?)
「魔王スウさん、ライトに何をさせるつもり?」
「はぁぁ、クラインってば、やーね。ぜーんぜん、かわいくない」
「そうですか。用がないようなら、失礼しますね」
「ちょっと、待って。ごめんなさいってば〜。だって、ライトさんに会ってみたかったんだもん。えーっと、いつもは、鎧は身につけてないのね」
魔女っ子が、必死だ。僕に話を振ってくるけど、鎧のことをなぜ知ってるんだろう? あっ、そっか。ワープワームで、さっきの青の神の件を見ていたのかな。
赤いワンピースのこびとも近寄ってきた。余計に騒がしくなりそうだな。クライン様の表情が……。
「名探偵サラドラさんに任せて、俺達は帰ろう」
(なんだか、帰る帰るって言うんだよね)
クライン様は、そう言いつつ、動く素振りはない。
「ちょっと、待ちなさいよっ。まだ、あたしが謎を解いていないわ。ついて来た貴方達は、ワトソンくんなんだからっ」
(ワトソン?)
なんだか違和感を感じていたけど、僕は、ピンと来た。
魔王サラドラさんの名探偵ごっこや、魔王スウさんの魔女っ子って、どう考えても小説やマンガだよね?
「あの、もしかして、日本の小説やマンガを読みました?」
そう問いかけてみたけど、二人の魔王は首を傾げている。違ったのかな。同じような文化がこの世界にもあるの?
『あー、それは、オレだ』
(うん? リュックくん、何?)
『オレが、日本へ行ったときに買ってきた本を題材にして、ハロイ島の神族の街の劇場で、役者が芝居をやってるんだよ』
(えっ? 日本に行けるの?)
『あぁ、そういう手段があるけど、転移酔いするライトには無理だぜ。コイツらは、その芝居を見て、影響を受けてるんだ』
(えー、著作権侵害じゃん)
『は? 異世界だから関係ねーって、タイガが言ってたぜ』
(タイガさんって、知らないんだけど)
『そのうち、絶対に関わってくる。女神の番犬16人のひとりだ。物理攻撃力は、一番強いぜ。脳筋だけどな』
(ふぅん、そっか)
『コイツらは、ライトの味方になる。テキトーに手懐けとけ』
(えっ? 無理だよ、そんな)
『クラインは、その見極めをするために、ついてきたんじゃねーか? それから、ここの避難者の治療をしてやれ。スウは、それが目的だ。サラドラは、掃除をしに来たみてーだぜ』
(うん?)
クライン様の視線は冷たい。無言なのは、彼女達の思考を探っているのかな。
「もう、ごめんなさいってば〜。本当に困ってるの。助けてくれたら、宿泊永久に無料にしてあげる〜」
魔女っ子は、必死だ。
「ライトに、何をさせる気なんだ?」
クライン様に睨まれて、魔女っ子は、ため息をついた。
「私ってば、黒魔導の魔王じゃない? 回復魔法ってあんまり使えないのよ〜。ライトさんのポーションも無くなっちゃったから……」
「ライトに、怪我人の回復をさせたいの?」
クライン様がそう尋ねると、魔女っ子は、コクリと頷いた。本当に困っているように見える。そうか、大勢の避難者がいるみたいだもんな。
「名探偵サラドラには、床がだんだん見えなくなる謎を解いてほしいの〜」
(片付けてほしいのね)
「スウちゃん! それって、こないだも同じこと言ってたよねっ。掃除すればいいだけでしょ」
魔女っ子は、首を横にふるふると振っている。
「その掃除が、謎すぎてわからないもん」
「ゴミを集めて、燃やせばいいでしょっ」
「えぇ〜、空間魔法の結界を維持しながら、極炎魔法なんて使えないよー」
「スウちゃん! 極炎魔法なんか使ったら、地底の半分が吹っ飛ぶじゃないのっ。絶対にダメっ!」
「ほら、サラドラちゃんが、そんな難しいことばかり言うから、私、できないんだもん」
クライン様が、僕の手を引いて、スタスタと歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ごめんなさいってば〜」
泣きそうになる魔女っ子。
「魔王スウさん、貴女は、名探偵サラドラさんと一緒に、片付けをしなさい。俺とライトは、怪我人の治療をする」
「きゃん、クラインってば、カッコいい〜」
「ちょっと、クライン、どうして名探偵サラドラが、ゴミ城の片付けをしなきゃいけないのっ! 全く、謎がないわよっ」
「深い謎があるじゃないですか。この散らかり具合は、尋常ではない。ということは、何かをゴミの中に隠しているのかもしれませんよ」
クライン様がそう言うと、赤いワンピースのこびとの目が輝いた。
「あーっはっは、ゴミに隠したスウちゃんの秘蔵のゴミを、名探偵サラドラが探し出してあげるわよっ」
(秘蔵のゴミ?)
「サラドラさん、関係ないゴミは、迅速に焼却する方がいいですよ。避けたゴミ山に、再び隠されるかもしれないからね」
「クライン、さすがねっ。ちゃっちゃと焼却して、秘蔵のゴミを探し出すわっ。あーっはっは」
「えー、サラドラちゃん、変なものを燃やさないでよ〜」
赤いワンピースのこびとは、ゴミをスーッと空中に浮かび上がらせると、炎を放って一気に焼却している。す、すごい。サラマンドラって炎を自在に操るんだ。
「さぁ、翔太。バカは放っておいて、治療に回ろう」
「はい、クライン様」




