33、アージ沼 〜赤いワンピースと白いかぼちゃパンツ
僕達は、生首達のワープで、リザードマン達の領地、アージ沼に戻ってきた。
奴らが密集して作るクッションに乗ると、ほんの一瞬でワープできるんだな。踏んだ瞬間に、もうワープが完了している感じだ。
「ワーム神のワープって、とんでもなく速いですな」
門番のリザードマンが、ぽつりと呟いた。
(うん? 生首達が、特別速いの?)
「主人の能力だけじゃなく、この子達は、神の能力も吸収したからだろうね。だから、主人が生まれ変わっても、初期化しないし」
クライン様は、やわらかな笑みを浮かべて、リザードマンに説明している。
(生首達ってすごいんだな。見た目は、気持ち悪いけど)
僕がそう考えていると、ふわふわとお気楽な顔をして漂っていた奴らは、いろいろな表情をしている。ヘラヘラしている奴もいれば、悲しそうな奴もいる。同じ顔だけど、別の個体なんだな。
少し遅れて、サラマンドラの魔王サラドラさんもやってきた。彼女は、自力で転移したみたいだ。生首達が運ぶことを拒否したのかもしれない。
「何、この臭い!? 百足魔物じゃない?」
彼女は、臭いの原因を、すぐに特定できたのかな?
「外来の魔物、一種類じゃないよ。新たに入り込んだ奴は、魔導塔から攻撃したみたいだけどね」
クライン様は、彼女と対等に話している。彼女は最古の魔王なのに、悪魔族ってすごいんだな。クライン様が特別なのかもしれないけど。
サラマンドラの魔王が現れたことで、アージ沼の住人リザードマン達は、とんでもなく警戒しているようだ。どちらも、魔族の国では、剣士だと言われているんだよね。
リザードマンは水辺の剣士と言っていたっけ。
サラマンドラは、火を操る小さなトカゲのような妖精だ。リザードマンの方が強そうに見えるけど、違うらしい。
(あっ、リザードマンの魔王だ)
ゆっくりとこちらに歩いてくるのは、リザードマンの魔王。名前は知らない。だけど、他のリザードマンよりもかなり大きい。人間の三倍くらいあるかもしれない。
初めて見たときは、ドラゴンかと思ったもんな。片目が潰れているから、めちゃくちゃイカツイ雰囲気なんだ。
「サラマンドラの魔王が、何の用だ?」
リザードマンの魔王は、クライン様に深々と頭を下げ、そして生首達には微笑みを向けた。
「はぁ? 灼眼の爺さんは、ボケたのかしら。あたしの姿が見えていないの!?」
(いや、だから、サラマンドラの魔王って言ったじゃん)
リザードマンの魔王は、不機嫌そうに彼女を睨みつけている。仲が悪いみたいだな。
「ここは、リザードマンの領地だ。サラマンドラが来る場所ではない」
「やーねー。ボケ爺さんは、忘れちゃったの? この赤いワンピースは、名探偵サラドラのときの衣装よっ!」
(えっ、衣装があるの?)
うーむ、この世界に、探偵なんて職業があるのだろうか? リュックくんは、彼女の遊びだと言っていたけど。
「魔王サラドラ、まだつまらぬ探偵ごっこをしているのか。今は、戦時だ。おまえの遊びに付き合っている状況ではないぞ」
「はぁ? 何を言ってんのよ! 名探偵サラドラに、戦時も何も関係ないわっ。あたしは、大魔王の座を狙う侵略者を排除するのよっ」
彼女は、リザードマンの魔王の顔の近くまでふわりと浮上し、ビシッと指差している。
(あっ、尾が見える)
見上げると、赤いワンピースの中が丸見えなんだよな。完全な人型かと思ったけど、ワンピースの中に尾が隠れているんだ。
すると、スーっと彼女は、地面に降りてきた。
「ちょっと、翔太! 覗き見なんて、いい度胸してるじゃない!」
「えっ……見られたくないなら、かぼちゃパンツでも、はいておけばいいんじゃないですか」
「かぼちゃパンツって何よ!?」
(そんなこと言われても……うわぁ)
彼女は、僕の頭をむんずとつかんだ。頭の中に、かぼちゃパンツの映像が次々と浮かんでくる。
「へぇ、かわいいかも」
彼女は、僕の頭から手を離すと、何かの術を使った。
「これで正しいのかしら?」
彼女は、赤いワンピースを思いっきりめくって、僕に見せた。白いかぼちゃパンツが目に飛び込んできた。
(見せるもんじゃないでしょ)
「はい、僕の頭の中から、情報を抜き出したんですね」
「いいじゃないの。別に、減るもんじゃないでしょ」
彼女は、かぼちゃパンツが気に入ったらしく、クライン様にも見せている。クライン様は、苦笑いだ。妖精って、基本、褒められたいんだっけ。
クライン様が褒めないものだから、リザードマンの方に向かっていった。
ちょっ、それって、強制わいせつじゃないの? 女の子が、かぼちゃパンツを見せるのはいいのか?
(放っておくと、マズイ気がする)
「名探偵サラドラさん、かぼちゃパンツは、ワンピースをめくって見せるもんじゃないですよ。チラッと見えるのが可愛いんです」
「ええっ? それを早く言いなさいよっ!」
(いや、見せるなんて思わないし)
でも、かぼちゃパンツをはくと、体長50センチくらいだから、妙に似合うよな。
「赤いワンピースから、チラッと見える白いかぼちゃパンツって可愛いですね。名探偵サラドラさんに、よく似合ってますよ」
「そう? 翔太ってば、わかってるじゃない」
(あっ、もう、上機嫌だ。チョロい)
「サラマンドラの魔王、そんなことは、自分の領地でやれ。目障りだ」
(あっ、怒ってる)
リザードマンの魔王は、爆発寸前なくらいイライラしているようだ。僕のせいだ、やばっ。
すると彼女は、再び、ふわふわとリザードマンの魔王の顔のあたりまで浮上し、ビシッと指差した。
「名探偵サラドラが、この沼の臭いの謎を解き明かしてあげるわっ!」
「は? サラマンドラが、リザードマンに手を貸すと言うのか?」
「違うわよっ。種族は関係ないのっ。名探偵サラドラが解決するって言ってるのよっ! だから、ボケ爺も協力しなさいっ」
リザードマンの魔王は、ピクピクと、キレそうな表情だ。
「外来の魔物を追い出すことで、ここをサラマンドラの領地にするつもりか」
「はぁ? こんな水辺を領地にして、どうすんのよっ。寒くて仕方ないじゃない!」
「じゃあ、なぜ、リザードマンの沼に……」
「それは、翔太が言ってきたのよ。臭いから何とかしてくださいって」
(いやいや、サラマンドラには頼んでない)
ギロリと、リザードマンの魔王が僕を睨んだ。えーっと……どうしよう。
「リザードマン、かんちがいだ。しゅじんが、サラマンドラにたのむわけないだろう? われわれにめいじられたことを、バカがよこどりして、さわいでいるだけだ」
(あっ、生首達の族長さんだ)
リザードマンの魔王の前にワープしてきたんだ。
「ワーム神、主人と言ったか?」
「ライトさまは、われわれのしゅじん。うまれかわったことにより、きおくをうしなっておられる。いまは、ぜんせのショータとしてすごされている」
(リザードマンは、ライトを嫌っているのに……)
「なっ? ショータの正体は、うっかり者の死霊か」
リザードマンの魔王には、僕の素性は、まだ伝わってなかったらしい。はぁ、追い出されるよね。生首達の火山に家を作るかな。
「そうだ。それについては、クラインさまより、ていあんがあった」
生首達の族長さんから話を振られて、クライン様が、経緯の説明をしている。サラマンドラの魔王が提案したことにするという裏事情も、話している。
(あれ? サラドラさんは?)
クライン様が、リザードマンの魔王と話を始めると、彼女は、アージ沼の方へとふわふわと飛んでいった。
そして沼全体に、何かの術を使ったみたいだ。沼の中にいたリザードマン達は、一斉に家の中に避難している。
(ちょ、何をやってんの?)
彼女が、サッと手をあげると、沼が濁り始めた。そして……。
ザザッ!!
(う、うわぁ、何?)
沼から、見たことのない巨大なムカデのような魔物が、大量に出てきた。そして、空中にふわふわと浮かんでいる。
(くさっ!)
強烈な悪臭が、辺りに広がっていく。そのムカデを食おうとしてか、別の魔物も浮かんできた。これも、見たことのない魔物だ。
沼の中に、こんなのが居たなんて知らなかった。
「名探偵サラドラさん、臭くて鼻がもげそうですよ」
クライン様がそう言うと、彼女は、ふふんと笑った。
「まだよ。あと、もう一種類……あっ、現れたわ」
沼の中の大きな岩が動いた。あれって魔物だったのか。この臭いを嫌がっているようだ。空中に浮かぶムカデを、沼の中に叩き落としている。
「まさか、緑岩亀の仕業か」
リザードマンの魔王は、ポツリと呟いた。
「そのようね。じゃなきゃ、沼の底で百足魔物がこんなに繁殖しないわよ。それを捕食する魔物がいるんだもの」
岩のような亀が、外来のムカデを沼の底に埋めたから、増えたってこと? それを捕食する魔物の数は、ほんの数体だ。
「クライン、後始末をしなさいよ」
そう言うと、彼女は、空中に浮かぶ大量のムカデに、沼を覆うほどの強烈な炎を放った。




