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29、ミミット火山 〜ワーム神と呼ばれる奴ら

「クライン様、でも、坊やには記憶が……」


 リザードマンの門番は、首を横に振っている。なぜ、そこで突然、僕のことが出てくるんだろう。話の繋がりがわからない。


「記憶のカケラを見つけると、翔太は記憶と共に成長エネルギーが得られるようだ。俺に会ったことで、少し成長したからね」


 すると、大きなリザードマンが僕を抱き上げ、そして、いつものようにテーブルに座らせた。


「あっ、本当だわ。坊やが大きくなっている」


(テーブルに乗せないと気づかない程度?)


 でも、さっきまでは、あんなに僕を恐れたような目で見ていたのに、テーブルの上に座らせると、目が合うと悶えるんだよね。条件反射なのかな。


(でも、僕をショータとは呼ばなくなったな)


「記憶のカケラというものを集めれば、坊やは、記憶を取り戻し、姿も成長するのですね」


「たぶんね。だけど、記憶のカケラは、俺達には見えない。何かの条件が揃ったときに、出現するらしいんだ。幻術士カースの術だからね。どういう仕組みになっているかはわからない」


(カースって、石碑の声の人だよね)


「ペンラート星の……」


「そうだよ。まだ、翔太には、その記憶はないみたいだ。記憶のカケラが現れなくなるから、翔太が知らない人の話はしない方がいいらしいよ」


 クライン様は、大きなリザードマンの言葉をさえぎった。カースという人の記憶のカケラも現れるのかな。



「とりあえず、ミミット火山に行こうか。翔太は、ワーム神のことも覚えていないんだ。リザードマンも、何人か来てほしい。この沼の臭いの改善を依頼しに行くことにすれば、不自然ではないからね」


「ミミット火山は、火の剣士サラマンドラの領地です。彼らは、剣士の中でも最も強く、その……」


 門番のリザードマンは、なんだか歯切れが悪い。


「うん、サラマンドラは、妖精だからね。この星の女神イロハカルティア様も妖精だ。やはり、似ているよね」


(女神様って、妖精? 猫じゃないの?)


 でも妖精って、弱いよな? サラマンドラって、サラマンダー? ゲームの中ではそれなりに強いモンスターだっけ。この世界では、妖精なのか。


(あっ、ゲームのことはいいや)


 なんだかクライン様が、微妙な顔をしている。僕の考えていることを覗いて……意味不明だと思ったのかな。




 ◇◇◇




 僕は、クライン様に連れられて、ミミット火山に来ている。土が赤いけど、草も生えている普通の山だ。


 クライン様の背には、さっきまではなかった黒い羽が生えている。僕は、クライン様に抱きかかえられて、ここまで飛んできたんだ。


 そういえば、ナタリーさんと初めて魔族の国に来たときも、クライン様はパタパタと飛んでいたっけ。



 門番のリザードマンは、何人かに声をかけたようだ。


 アージ沼でたまに見かけた人達が同行している。リザードマンも羽を出せるんだよな。羽のある魔族って多いのかな。




「ふふっ、みんな隠れてるね。出てきていいよ」


 クライン様がそう言うと、ワラワラと赤黒い何かが湧いてきた。赤黒いふわふわした何かに、白い顔が乗っている。


(えっ? 女神様の城にいた生首じゃないか)


 確か、ワープワームだと、ジャックさんが教えてくれたっけ。瞬時にワープができる虫ってこと?



「ライトさま、ようこそ、ミミットへ」


(しゃべった!)


 よく見ると、生首みたいな奴らは、ほとんどがヘラヘラしているけど、何体かは、キリッとした顔をしている。


「なまくび……じゃなくて、ワープワームのリーダーさん?」


「わたしは、ぞくちょうでございます。ライトさまが、ごぶじで、あんしんいたしました」


 族長さんは、ポロポロと涙を流している。


 僕は思わず、テニスボールのような頭に触れた。すると、族長さんは、安心したように、ふにゃりと微笑んだ。とんでもなく心配させていたみたいだ。


 だけど、こいつらって……。


 ぶわっと大量の生首が、僕の元に押し寄せてきた。


(うわっ、気持ち悪い)


 そう思うと、奴らは一斉に悲しそうな顔をする。なぜ、揃ってるんだよ。それに、みんな同じ顔に見える。ちょっと人間っぽいんだよな。


「ライトさまが、わかくなられたのですが、わたしたちには、てきおうのうりょくがございません。もうしわけありません」


「うん? どういうこと?」


 コイツらって、僕と、どういう関係があるんだろう? 


(あっ……ええっ?)


 僕にへばりついた生首達が、一斉にチカチカと点滅を始めた。ミミット火山の草原と赤い土に映えて、なんだか、クリスマスのイルミネーションみたいだな。



(イーシア湖……)


 イーシアの草原の景色が頭に浮かんだ瞬間、コマ送りのフイルム映画のように、何かの映像が、次々と頭に流れ込んでくる。


 これは、コイツらの記憶みたいだ。僕らしき姿が見える。17歳の頃の僕だ。そして、アトラ様がいる。


 僕は、アトラ様にプロポーズしたんだ!


 それを祝福するかのように、コイツらが……生首達が、クリスマスのイルミネーションのように点滅して、進化を遂げたんだ。



 コイツらには、もともとは別の主人がいた。ワープワームは、主人に擬態する。前の主人は、髪の毛がヘビの、メデューサのようなレアモンスターだった。


 僕が、そいつを倒したことによって、コイツらの支配権が僕に移ったんだ。


 ワープワームは、火の魔物だ。一族の数はバラバラだけど、その一族ごとに族長がいる。そして、一族ごとに異なる主人に支配されているみたいだ。



 生首達は、僕が主人になり、進化をしたことで、治癒の息を吐けるようになった。


 ハデナ火山の地下迷宮で、何か事件が起こったんだ。その記憶は、まだぼやけている。


 その何かがあったときに、生首達が多くの人達を救ったんだ。地下迷宮で怪我をしている人に、治癒の息を吹きかけ、そして地上へとワープさせた。


 それ以来、生首達は、人間から天使ちゃんと呼ばれるようになったんだ。天使のように微笑んで治癒の息を吐くから、なのかな。


 さらに、映像が続く。


 見たことのない人がたくさん出てきた。そして、空? 何か、キラキラするものを、コイツらは吸収した。


 すると、大気から、マナを吸収する能力が備わったみたいだ。


 空を見上げてクルクルと回っている。クルクル、ヘラヘラ……なんだか、アホの子みたいなダンスだな。これで、マナを吸収できるらしい。


 やっと、映像が終った。


(長かった……)


 僕にまとわりついていた生首達は、スーッと離れていった。



「ライトさま、わたしたちは、ちていでは、ワームしんとよばれております。マナをきゅうしゅうするチカラは、かみのちから。だから、ワープワームのなかでは、かみとよばれているのです」


(ワーム神? えっ?)


「もしかして、変な魔物を支配してる?」


「そとからきたまものは、つかえそうなモノは、はいかにいたしました」



 僕は、クライン様の方を見た。


「翔太、天使ちゃん達に関する記憶が戻ったんだね。天使ちゃん達自体が、記憶のカケラの役割を兼ねていたのか。なるほど、驚いたな」


「いろいろと思い出しました。長い映像だったんです。アトラ様のことも」


 クライン様は、僕の顔をジッと見ている。そして、微かに頷いた。


「プロポーズまでの記憶かな。天使ちゃんに関することは、随分と先の記憶まで得られたみたいだね。うーん、順番をすっ飛ばしているけど、大丈夫かな?」


「クライン様、僕は、以前の僕には戻れません。だから、気にしなくていいんです」


(僕は、回復特化の側近には、戻れない)


「ふふっ、どんな風に育つのか楽しみだね。今の翔太は、俺が初めて出会った頃くらいにまで、急成長したけど」


「えっ?」


「話し方というか、声の感じも変わったでしょ」


「そういえば、言葉がはっきりと発音できているような気がします」


 身体をみてみると、うん、だいぶ大きくなっている。この服って不思議だよな。成長に応じてサイズが変わるとは聞いていたけど。



 リザードマン達は、僕の方を見て、めちゃくちゃ驚いている。もう、さすがにペットには見えないだろうな。


 背は、クライン様の腰くらいかな。手足も、だいぶ長くなった。まだまだ大人には、ほど遠いけど。


(出会った頃のクライン様と同じかぁ)


 今の僕は、5歳児くらいかな。うん、急成長だ。かなり長い映像だったからかもしれない。いや、これは、生首達のチカラか。




「坊やが、急に……」


 門番のリザードマンは、なんだか複雑そうな表情だ。もう、可愛いと言って、悶えたりしないだろうな。


「オジサン、僕、記憶のカケラが見つかると少し成長するんだ。こんなに急成長したのは、初めてだけど」


「そ、そうか。いや、しかし……本当に急成長だな。可愛かった坊やが……いや、今でも十分、可愛いんだが」


(うげっ、まだ気持ち悪い顔して悶えてるよ)


「トンガリのとこの死霊の坊やが、まさか、ワーム神の主人だったとはな。しかし……うわぁ!」


(熱っ! 何?)


 突然、火の雨が降ってきた。



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― 新着の感想 ―
[一言] そこは(ケトラの事は)思い出さなくて良い…( ;゜皿゜)ノシ イロハちゃんは神様のイメージだったけど… 今話で猫妖精…ケットシーになった…|д゜)ジー アラタナモフモフガ…
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