表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/145

24、アージ沼 〜ショータ、大切にされる

「ショータ、朝だぞ。機嫌は直ったか?」


 布をソーっとめくる怪物の顔に、僕は、一瞬ヒヤリとした。距離が近いと、やっぱり怖い。



 僕は今、リザードマンの家にいる。彼らには、名前がなく、家の特徴から家族全員がトンガリと呼ばれているらしい。


 昨日は、あの後、焦った彼らが慌てて僕の寝床を作り、そのまま軟禁された感じになったんだ。


 僕は、つるんとした巨大な陶器の深皿に、何かの草の塊と、いろいろな食べ物と一緒に入れられていた。そして、僕が逃げないようにするためか、巨大な布で皿が覆われていたんだ。


 一瞬、僕が食べられるのかと焦ったけど、違った。


 草の塊は、僕のベッドのつもりらしい。そして、僕が何を食べるかわからないから、家にある様々な食べ物を放り込んだみたいだ。何も食べなかったけど。



「……うん」


 小さく返事をすると、彼は、パッと布を外した。そして、巨大な皿ごと、僕をどこかへ運んでいく。


(まさか、食卓行きじゃないよな?)




「坊やが起きたみたいだぞ」


 僕の入った皿は、大きなテーブルに置かれた。ちょっと待って。このテーブルって食卓に見えるんだけど!?


「あれ? エサが全然、減ってないじゃん」


「死霊のエサってなんだろう? なんでも食べるよな」


「腐ったものしか食わないのかも」


(いや、腐ったものは食べないから)


 リザードマンの子供達は、僕が何も食べていないことにショックを受けているようだ。


「お腹が空いてなかったんじゃないかい?」


 大きなリザードマンが近寄ってきた。そして、僕をソーッとつまんで、すんすんとニオイを嗅いだあと、テーブルの上に置いた。


(えっ? どういう状況?)


「母さん、この子、臭くないよね」


「人化していたら、死霊でも臭くないみたいだね。坊やに、誰がエサをやるんだい?」


 大きなリザードマンがそう言うと、子供達は、両手をあげている。お手上げのように見えるけど……。


「やった! エサやり係〜」


 何か壺のような物を受け取った子供が、僕が座っているテーブルに近寄ってきた。


 大きなリザードマンは、テーブルの上に、次々と魚や肉を並べ始めた。


(ちょ、僕のことは食べないよな?)



「ショータ、こっちを向けよ。悪魔族の食べ物を、父ちゃんが買ってきたんだぞ」


「えっ? そうなの」


「そうなのだ。嬉しいだろ? あー、でも、悪魔族には戻れないけど……」


「バカ! また、そんな話をして、ショータが泣いたらどうするんだよ!」


(完全に悪魔族だったと思われてる)


 壺のような物のフタを開け、子供が僕に見せた。だけど、中に何が入っているか、よくわからない。


 大きなスプーンで中身をすくって、僕の口元に近づけられた。これは、食べないと、またショックを受けるかな。


 オレンジ色のゼリーに見える。


 僕は、スプーンから、パクリと食べた。


「うおー! 食べたぞ!」


「小さな口だな。こんなに少ししか減ってない」


(リザードマンと一緒にされては困る)


 イメージとは違う味だった。ゼリーというより、あまり甘くないプリンのようだ。不味くはないけど……。


「オラも、エサやりしたい〜」


「あたいも〜」


 自分で食べられるのに、なぜか、食べさせたがるんだよな。僕は、完全にペット扱いだ。なんだか、犬や猫の気持ちがわかってきたかも。


(好きに食べさせてくれ)


 だけど、子猫や子犬に、エサを食べさせたがる気持ちは、わかる。手から食べてくれたら嬉しいもんな。


(はぁ、仕方ない)


 僕は、いつの間にか増えているスプーンから、少しずつ、甘くないプリンを食べた。僕が食べるたびに、リザードマン達は、なんだか悶えるんだよね。


「はぁぁ、かわいいよね」


「あまり近寄るなよ、怖がるぞ」


「でも、こんなので、お腹がいっぱいになるか?」


(もう、タプタプ……飽きてきた)



 テーブルに乗っていた魚や肉は、みるみるうちに無くなっていく。生肉はそのままだけど、魚は、焼いて食べるみたいだ。各自で剣に刺して、火魔法でボゥッと焼いている。なんだか美味しそう。


「やきざかな……」


「おぉっ? 坊や、魚を食べたくなったか?」


 僕がコクリと頷くと、また、何人かが悶えるんだよな。そういう種族なのだと割り切ろう。


「じゃあ、食え」


 目の前に差し出されたのは、剣に刺さった巨大な魚だ。


「ちょっと、お待ち。それはヒレに毒があるよ。坊やみたいな小さな子は、死んでしまうんじゃないかい」


 大きなリザードマンが、子供を制した。


「うげっ、危なかったな。そうか、じゃあ、ショータが食べられる魚を狩りにいく?」


「父ちゃん、ショータのエサを狩りに行こうよ」


「わかった。じゃあ、ショータに、アージ沼での狩りを見せてやろうか。早くごはんを食べてしまいなさい」


 子供達が張り切り始めた。すごい勢いで食事がすすむ。なんだか、間違えて僕が食べられるんじゃないかと緊張する。


 なぜ、僕は、食事が並ぶテーブルの上に座らされているんだろう? 彼らの衛生観念がわからない。


(あっ……ぬいぐるみ感覚? いや、珍獣?)


 僕をここに連れてきてくれた門番は、食事をしながら、僕を眺めて、気持ち悪い顔でニヤけている。僕の子供達もだな。


 とりあえず、珍しいから、みんなから見える場所に置いたってことかな。


「ショータも、食べられる物は、食べるんだぞ」


「うん」


 僕が返事をすると、たくさんの怪物が悶えている。でも、みんな、優しい顔だな。


(はぁ、また、ちょっとチクチクする)


 彼らは、僕をとても大事にしてくれている。僕が、神族のライトだと知られると……彼らは、騙されたと思うのだろうか。


(罪悪感。でも……バレなきゃいいんだ)



 僕は、まだ、ライトとしての記憶はあまりない。


 女神様や、これまでに関わった人達は、今の僕のことを見ていない。みんな、生まれ変わる前の僕のことしか見ていないんだ。


 今の僕は、生まれ変わる前とは、ステイタスが違うらしい。回復特化の、女神様の側近だったみたいだけど、今の僕は、特別、回復魔法力が優れているわけではない。


 リザードマンが言っていたように、バランスの良いステイタスなんだ。逆の言い方をすれば、特徴がない。


 きっと僕は、成長しても、みんなが期待しているような神族のライトにはなれないと思う。


 ニクレア池で、記憶のカケラは現れなかった。次の目的地のホップ村は、無くなっていた。巡る順番を守らないと、すっ飛ばした地の記憶のカケラは、消えてしまうと女神様は言っていた。


(もう、無理じゃん)


 記憶のカケラを見つけると、僕はぐんと身体が成長するみたいだ。今は、3歳児くらいなのかな。まだ、2歳半くらいかもしれない。


 これで止まってしまうのかも。いや、ぐんと成長しないだけで、後は普通に成長するのかな。


 女神様は、僕が早く記憶を取り戻さないと困ると言っていた。星の保護結界が消えると、再び戦乱になりそうだからだよな。


 だけど、ライトに期待しているのかもしれないけど、僕は、生まれ変わる前とは違うんだ。みんなの期待には応えられない。


(僕、ずっと、ここに居ようかな)



 地底だと、弱い死霊には優しくしてくれる。ぎゃんぎゃんうるさい人もいない。ここの方が、暮らしやすいかもしれない。


 僕の二度目の異世界ライフは、地底でのんびりするのもいいかもしれない。


 チラッと、アトラ様の顔が浮かんだ。


(片想いだもんな。もう、いいや)


 そういえば、僕にはシャインという名の息子がいるんだっけ。泣き虫だと言っていたな。まだ、小さいのだろうか。


 だけど、きっと今の僕の方が小さいよな。母親は、ハデナのケトラ様みたいだ。ピンとこない。でも、ケトラ様なら強いから、僕なんかがいなくても、キチンと守ってくれるよね。


(ごめん、シャインくん。ごめん、ケトラ様)




「坊や、どうしたんだ?」


「悲しくなってきたのか? 大丈夫だ。ニクレア池は、きっとすぐに輝きが戻るよ」


「うん」


 僕の頭をソーッと撫でる子供達。若干、気持ち悪く悶えるけど、とても心配してくれていることが伝わってくる。


 また、胸がチクチクした。神族のライトは、死んだんだ。僕は、翔太だ。ここで生きよう。



「さぁ、狩りに出発だ!」


「やったー! 父ちゃん、腹減った」


「おまえ、いま、食ったばかりだろうが。あはは、バカだな。食ったのを忘れたのか」


「忘れた〜」


「キャハハ、兄ちゃんは、バカなんだ〜」


(仲良し家族だな)




 僕は、門番のリザードマンに、ひょいと担がれ、家から沼へと出て行った。大きなリザードマンは、すぐにぴしゃりと出入り口を閉じた。彼女は、沼の臭いが嫌いみたいだよね。


 沼の様子は、昨日とは少し変わっていた。なんだか、キラキラと輝いている。


「わぁおっ! 父ちゃん、アージが沼底から、上がってきてるよ」


「今日は、ツイテルぞ!」


「ショータ、たくさん狩ってやるからな」


(釣りじゃなくて、狩りなんだ)


 リザードマン達は、剣を抜いた。そして、子供達は、次々と、剣に魚を刺している。


(楽しそう! 僕にもできるかな)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] リザードマンさん…|д゜)ジー そうそう一杯食べさせて太らせてから美味しくいただこうね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ