表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/145

17、ハデナ火山 〜女神イロハカルティアの覚悟

 僕達の目の前に突然現れた猫耳の少女……女神様は、手をブンブン振り回して、大変だとアピールをしている。


 だけど、一緒にミッションをしていたはずのレンフォードさんの姿がない。


「あの、レンフォードさんは?」


「レンフォードは、よいのじゃ! わ、わらわは帰るのじゃ……っと、のわっ!?」


 すると、猫耳の少女の前に、赤い髪の少女が現れた。



「ティアちゃん! 薬草畑をぐちゃぐちゃにしたらダメって言ったよね? もう絶対にしないって約束したよね!?」


(薬草畑?)


「うぬぬ……ぐちゃぐちゃになどしておらぬ。じゃが、それなら、妾が魔法でちょちょいと直してやるのじゃ」


「魔法で育てた薬草だと、お兄さんのポーションの材料にはできないの。何度も何度も言ったよね!?」


「ぐぬぬ……妾の魔法で育てた薬草で、ポーションを作れないライトがしょぼいのじゃ! あ、いや、なんでもないのじゃ」


(お兄さんって、僕のこと?)



 猫耳の少女が、タジタジになっている。


 赤い髪の少女は何者だろう? 後ろ姿だけど、見た感じでは10歳前後に見える。頭の上には耳があるから獣人かな。猫耳の少女の友達だろうか。


 どうやら、赤い髪の少女が育てている薬草畑を、猫耳の少女が荒らしたみたいだな。


 ジャックさんに視線を移すと、思いっきり苦笑いしている。赤い髪の少女って、女神様より偉い人なのかな?



「ハデナは、守りをフニャフニャにしておるのじゃ。ケトラが来てはいけないのじゃ!」


(ケトラ? アトラ様と名前が似てる)


「ティアちゃんが、薬草畑のバリアを壊すからでしょ!」


「ち、違……おぉ、きっと、それは、レンフォードじゃ」


「違わないよっ。ここには、精霊ハデナ様がバリアを張ってくれているの。レンさんみたいなハーフの魔族が、ハデナ様のバリアを壊せるわけないでしょ」


「ご、誤解じゃ。妾は、ちと、パリンとしただけで……あ、いや、あっちの方に、外来の魔物が入り込んだのじゃ!」


 赤い髪の少女は、僕に背を向けて仁王立ちだ。そして、首を横に振っている。めちゃくちゃ怒っていることが伝わってくる。


「ティアちゃんが壊したから、魔物が入ったんでしょ」


「そ、そうじゃ。妾がぐちゃぐちゃにしたのではなくて、魔物が悪いのじゃ。魔物がぐちゃぐちゃに……」


(あはは、言い訳が苦しい)


 薬草畑のバリアを壊したから、魔物が入り込んで、薬草畑を踏み荒らしたという感じかな。


「ティアちゃん!! 嘘をつくなら、特大金魚鉢パフェを食い逃げしたこと、お兄さんに言うよっ」


「うぬぬぬ……ケトラは、しょぼいのじゃ」


(なんだか、平和なケンカだな)


 女神様は、反論できなくなると、しょぼいのじゃと言うみたいだ。最後の悪あがきのような反論なのかな。



「ケトラさん、ここの守りは手薄にしているから、ハデナの守護獣が居たらダメっすよ。ハロイ島に戻ってくださいっす」


(赤い髪の少女は、ハデナの守護獣?)


「そうじゃぞ。ジャックの言うとおりじゃ。ケトラは、ハデナに来てはいけないのじゃ」


 猫耳の少女は、ジャックさんの言葉に、勢いを取り戻したみたいだ。見ているだけなら、ほんと面白い。ふふんと、ふんぞり返っている。


「ジャックさん、なぜティアちゃんを自由にさせてるの? キチンと監視しなさいよ」


「俺には無理っす。ティアちゃんのお世話は、ナタリーさんかライトさんにしか、できないっす」


(えっ……僕?)


「じゃあ、ナタリー様がいる城に閉じ込めておきなさいよ」


「無理っす。ナタリーさんとタイガさんが、行けって言ったみたいっす」


「ハデナに?」


「ハデナというか、イーシアというか……」


「えっ、お姉ちゃんのとこに……うん? なぜ、イーシア? あっ……まさか、お兄さんが復活した?」


(お姉ちゃん? アトラ様のこと?)



 突然、赤い髪の少女が振り返った。猫耳の少女の視線をたどったのか。ジャックさんも、僕を見ている。


(えーっと……)


「シャインくん? じゃなくて……えっ?」


 目をパチクリさせる赤い髪の少女。やはり、10歳前後かな。なんだか、アトラ様に似ている。アトラ様よりは、やんちゃで悪戯っ子な雰囲気だけど。


(あっ、キラッと光った)


 少女の肩に、キラッと光る何かが見える。記憶のカケラだ!


「あの……かたに……」


「何かついてる? 急いで来たから……えーっと?」


「とどかないので、すわってください」


「はいー?」


 少女は、目をパチクリさせながらも、かがんでくれた。僕は手を伸ばし、記憶のカケラに触れた。


 その瞬間、コマ送りのフイルム映画のように、何かの映像が頭に流れ込んでくる。そして遠い記憶として、頭の中に残った。



(ケトラ様……)


 赤い髪の少女は、アトラ様の妹だ。そして、ハデナ火山の精霊ハデナ様の守護獣だ。


 よみがえってきた記憶は、初めて出会った頃かな? 今とは、雰囲気が違う。年齢は変わらないように見えるけど、もっと気性が荒く、不安定な危うさがある。


 彼女は、この100年で、落ち着いたみたいだな。


(アトラ様をライバル視してたっけ)


 だから、薬草畑なのかな。この場所がイーシアみたいな雰囲気なのは、イーシアを守るアトラ様への対抗心かもしれない。



「ケトラさま、ぼく、ライトですよ」


「あぅ、嘘っ、お兄さん? なぜそんな幼児なの? シャインくんよりも、めちゃくちゃ小さ……」


「ケトラ! ライトの記憶のことを聞いておらぬのか」


 猫耳の少女にそう言われても、彼女は首を傾げている。


「ライトは、生まれ変わって、記憶の引き継ぎができなかったのじゃ。だから、今は、記憶のカケラを探して縁のある地を巡っておるのじゃ」


「えっ? 忘れちゃったの?」


「いま、ライトは、ケトラに関する記憶のカケラを見つけたようじゃ。しかし、まだ、ほんの一部じゃろ。ライトが知らぬことを言うでないぞ? 記憶のカケラが出現しなくなるのじゃ」


 ケトラ様は、まだ理解が追いつかない様子だ。


「シャインくんは……」


「だから、それはまだ言うでない!」


(いや、もうわかってるよ)


「シャインくんは、ぼくのむすこなんでしょ? かおも、ははおやも、まだわからないけど」


「ぬわっ! ぎ、ギリギリセーフか?」


 猫耳の少女は、焦っている。だけど、もう、そんなことで騒がなくていいよ。


「シャインくんの母親は……あたし」


「えっ!?」


(アトラ様じゃなくて、妹のケトラ様?)


「おわっ、ケトラ、何を口走っておるのじゃ!?」


(どうしよう……)


 今の僕は、アトラ様の方が好きみたいだ。ケトラ様は、可愛らしいけど、そういう対象には見えない。



 グラッ!



 突然、突き上げるような大きな地震が起こった。


(あれ? 猫耳の少女が変な顔をしている)



 レンフォードさんが、こちらに駆け寄ってきた。


「ミッションの採取は、終わりましたよ。結局、俺一人で、やってるじゃないですかー」


(猫耳の少女は、何をしていたんだ?)


「ティアちゃんは、魔物退治っすか」


「そうなんですよ。あれ? ハデナの……」


 レンフォードさんは、そう言いかけて、口を閉ざした。僕に配慮してくれているんだな。


「レンフォードさん、いま、ケトラさまのこと、すこし、おもいだしました」


「そうか、それはよかった。一瞬、失言をしたかと焦ったよ。でもなぜ地震なんて、ハデナの守護獣がいるのに、勝手に……あっ!」


 レンフォードさんは、どこかを見て、固まっている。視線を追うと、山の頂上付近から、なにかが吹き出しているのが見える。オレンジ色の水みたいな……。


(あっ、ここ、火山だよな?)



 グラグラと、大きく揺れた。



「どうして?」


 ケトラ様も、呆然としている。


「外来の魔物が進化したかもしれないっす。タイガさんが狩れない個体がいると言ってたんす」


(猫耳の少女の顔色が悪い)


「ティアさま、どうしたんですか」


「な、なんでもないのじゃ……くっ」


(いや、辛そうなんだけど)


「ライトさん、女神様の生命は、星と繋がってるっす。誰かが火山を噴火させて、強制的に星のエネルギーを奪っているっす」


「じゃあ、まポーションを……」


「魔力じゃないっす。いや、魔力も奪われているけど、生命エネルギーっす。だけど、なぜ、火山の噴火くらいでそんなに……まさか、また、やったんすか」


 突然、ジャックさんが焦り始めた。


(何をやったんだ?)


「ジャック、誰にも言うでない。妾は、もっと強くなる必要があるのじゃ。妾にもっと力があれば、ライトも、大勢の民も、死なずに済んだのじゃ」


(何? ジャックさんの顔色も悪くなってる)


「だから、ずっと、チビ猫変身魔道具をつけてるんすね。とりあえず、城に戻りましょう」


「いや、それはできぬ。火山の噴火エネルギーで、外来の魔物が大増殖し始めておる。この付近の町が潰されてしまうのじゃ」



 猫耳の少女は、胃薬味の魔ポーションを飲み始めた。


「ライトさんの魔ポーションじゃないと追いつかないっすよ」


「必要以上に回復すると、妾が成長できぬのじゃ!」


 猫耳の少女……女神様は、いつもの道化とは違う、見たことのない表情を浮かべていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ケトルウァァァ…ヽ(´∀`≡´∀`)ノ 久しぶり~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ