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145/145

145、湖上の街ワタガシ 〜みんなの期待

今回で最終話です。

いつもより少し長めです。

 カランカラン


(また、お客さんだ)


 今日から再開したバーは、ほぼ満席状態だ。新たなお客様が、少人数であることを祈りつつ、店内に入ってくるのを待った。


「いらっしゃいませ、あっ、マーテルさん!」


 いつの間にか姿を消していたリュックくんも一緒だ。


「ふふっ、ライトさん、元に戻ったのねぇ。私を呼んでいたみたいだから、来ちゃった」


 確かに、マーテルさんがいれば、スチーム星の二人の食べられる物がわかると思ってたけど……リュックくんが呼びに行ったのかな。


 リュックくんはチッと舌打ちして、カウンター席の一番奥に座った。ここは、最近のリュックくんの指定席だ。舌打ちは、女神様がいるからだよな。


 マーテルさんも、リュックくんの隣に座った。そういえば、ドラゴン族の魔王は、娘のマリーさんから、マーテルさんに戻ったらしい。一時的に交代していただけみたいだ。



「マーテルさん、助かります。スチーム星の人の食べ物や飲み物がわからなくて」


「あら、やはりあの二人の少年は、スチーム星の子なのねぇ。うふっ、人の姿は、ライトさんの変身ポーションかしら? あれがあると、スチーム星の人達は安全になるわ」


(うん? 弱い呪いのWポーションだよ?)


「あれは、最近は作ってないんです。でも安全ですか? 体力と魔力を10,000ずつしか回復できないですが」


 すると、リュックくんがため息をついた。


「おまえなー、もうチビだったときのことを忘れたのか? 弱い竜は、吸血鬼に狙われるんだよ」


 なぜかリュックくんは、吸血鬼ドラキュラ伯爵を嫌っている。地球に行くたびに、いろいろな本を買ってくるけど、ある日突然、ドラキュラ伯爵を悪役認定したんだよね。


(謎すぎる)


「吸血鬼なんて、いないでしょ。あー、そっか、血をなめられるか……だから、魔王ノムさんがゴーレムを作ってくれたんだっけ」


 マーテルさんの眷属の男性のことを思い出した。スチーム星で襲われたんだよな。



「ふふっ、ライトさん、じゃあ、これを差し入れするわ」


 彼女が魔法袋から、ドンと大きな樽を取り出した。中には白っぽい液体が入っている。この匂いは、スピンだ。


 ちょっと独特な土臭さがある微発泡の飲み物だ。スチーム星で飲んだときは、甘くて変な臭いのジュースだと思った。アルコールは感じない。


 いや、僕はアルコール耐性がありすぎるから、弱いアルコールが含まれていても気づかないんだけど。


「ありがとうございます! 早速、二人に出しますね」


 すぐにバーテン見習いの店員さんが、さっさと用意を始めてくれた。



 僕は、マーテルさんが気に入っている、カシスリキュールと白ワインを使った赤いカクテルを作る。そして、彼女の前にスッと置いた。


「キールです。いつものおつまみが無いので、ごめんなさい」


「ふふっ、久しぶりね。うん、美味しい」


 僕は、マーテルさんに笑顔を向け、そしてリュックくんの方を向いた。


「言わなくてもわかってる。タイガと買い出しに行けばいーんだろ。メニューが少ないと思ったぜ」


 リュックくんは、メニューをジッと見ている。足りない物を確認してくれてるみたいだ。


「うん、よろしくね。それから、マーテルさん、スチーム星の人の食べ物って……」


「子供達は、味の濃い物は無理ね。味覚が鋭すぎるのよ。特に塩辛いものは、痛みとして感じるわ。苦味も痛いわね。甘味は大丈夫よ。大人なら、そのうち慣れるから、あまり気にしなくていいわ。皮膚の色によって好みも違うと思うわ」


(竜は、色によって、何かが違うのかな?)


「ありがとうございます。食べ物が痛いのは困りますもんね。そういえば、スチーム星の食べ物って不思議な物が多かったな。真似をして作りたくても、わからなくて」


 僕がマーテルさんに話しているのに、リュックくんが口を開く。


「それなら、スチーム星の食べ物を買ってくればいいじゃねーか。真似しても、偽物は偽物だぜ」


「確かに、そっか。ポーションの行商に行ったときに、買えばいいかな。だけど、管理が大変かなぁ」


 僕がそう言うと、リュックくんは知らんぷりだ。ふふっ、女神様そっくりだね。でも、リュックくんが預かってくれるなら、便利なんだけどな。



 カランカラン


(もう、満席だよな)


 なぜかアトラ様が、大きな額のような物を担いで入ってきた。ベアトスさんも、その後ろから現れた。



「おぉ〜! やっと来たのじゃ!」


 猫耳の少女は、ふわふわとアトラ様の方に飛んで行った。やはり、まだ、いつものようには走れないらしい。


 大きな額を待っていたのかな。なぜ、魔法袋に入れずに、アトラ様が運んで来たんだろう?


「アトラ! イーシアの加護は、ガッツリじゃな?」


「はい、精霊イーシア様に特殊加護をお願いしました。魔法袋に入れられないから、天使ちゃん達に運んでもらったんですけど、ティアちゃん、これは何ですか?」


「クマ、はよ、ここに設置するのじゃ!」


 女神様は、アトラ様の質問をスルーして、ソワソワわくわくしているようだ。なんだか嫌な予感がする。


 さっき女神様が指差していた壁に、ベアトスさんが金属を貼った。不思議な色の金属だな。そして、その上に被せるように、大きな額を貼り付けている。


(あっ! 立体に見える!)


 大きな額は、宇宙の写真かな。ベアトスさんが設置した金属に魔力を流すと、平面の写真は、立体的な映像の一部に見えるようになった。


 精霊イーシア様の特殊な加護って何だろう? イーシア様は、水を司る精霊だ。防水加工みたいなものかな。



「はぁぁあ、完璧じゃ。かわいいのじゃ。妾は、いつまでも見ていられるのじゃ」


 女神様が、また壊れている。壁に張った額を眺めて、恍惚とした笑みを浮かべているんだけど……。


(なぜ、こんなとこに写真?)



「ライト、怖い顔してるよーっ」


「アトラ様、なぜここに、あのような写真が勝手に貼られてしまったのでしょう?」


「ナタリーさんに叱られたみたいだよー。ずっと、私室の壁にへばりついていたみたい」


「確かに、あんな感じで、へばりついてましたね〜。テーブルのお客様の邪魔ですよね。イーシア様の特殊加護ってなんですか?」


「手で触れても汚れないように、かなー? よくわかんない。湖に落としても濡れないと思うよ」


(やはり、防水加工じゃん)




「ライトさん、なぜ、あの変な模様の星の写真を飾るだか?」


 ベアトスさんが、カウンター席に座った。僕は、冷えたエールを出した。


「ベアトスさん、それは僕の方が聞きたいんですけど……ナタリーさんに引きこもりを叱られたからだとか」


 アトラ様の方を見ると、うんうんと頷いてくれる。


「でも、この店に引きこもるだけだと思うだ。店の客が、チビっ子だらけになるだよ」


(ちょ、やめて。大人な雰囲気のバーに……)


「ふふっ、でも、ティアちゃん、おとなしいね」


「笑顔が怖いだよ。アブナイ人みたいだ」



 すると、リュックくんが、奥のカウンター席から立ち上がり、つかつかと近寄っていく。


「腹黒女神! 勝手に何をやってんだ」


「のわっ? リュックはうるさいのじゃ。主人を見習うのじゃ。ライトは、何も騒いでおらぬぞ」


「は? 呆れてるだけだろーが。何だ? これ。こんなとこに、浮き出すように見える額は、迷惑だぜ」


「浮き出る方がかわいいのじゃ。クマに魔道具を作ってもらったのじゃ。猫のお散歩星じゃ」


 まぁ、浮き出して見えるだけで、実際には浮き出してないから、邪魔じゃないけど……へばりついている猫耳の少女は、通行の妨げになっている。


「なぜ、勝手に貼ってんだよ? カウンターから見たら、店の中にヘンテコな星が浮かんでいるみたいに見えるじゃねーか」


「なぬ!?」


 女神様は、カウンター席のマーテルさんの方へと、ふわふわと飛んでいく。そして振り返って、目を見開いた。


「猫の肉球が浮かんでおるのじゃ! はぁぁ、かわいいのじゃ。店の中を猫がお散歩しているのじゃ」


(ヘンテコには反論しないんだ)


 他のお客さんも、面白がっているから、まぁ、いっか。おそらく魔力を遮断すれば、写真に戻るのだろう。


 子供達も、目をキラキラさせている。見る角度によっては、立体的なプラネタリウムみたいな感じだろうか。



 カランカラン


「すみません、テーブルは満席で……」


 店員さんが断ってくれているのを無視して入ってきたのは、赤いワンピースの少女と、魔女っ子だった。サラマンドラの魔王サラドラさんと、黒魔導の魔王スウさん。


 二人の魔王の登場に、店内にいた魔族に緊張が走った。


 だけど、二人は静かだった。入り口から見ると、やはりプラネタリウム状態なのかな。



「ライト、この店は、宇宙にあるの? ワーム神のいたずら?」


 サラドラさんは、宇宙にワープしたと感じだのだろうか。


「名探偵サラドラさん、これは写真なんですよ。ベアトスさんの魔道具で、見る角度によって見え方が変わるんです」


 そう説明しても、魔王サラドラさんは固まっている。頭の上の花も動かない。



「不思議ね。近寄ると星は消えちゃうわ」


「ですよね。スウさん、カウンターで良かったらどうぞ」


 マーテルさんが手を振ると、スウさんは彼女の隣に座った。



 すると、突然、魔王サラドラさんが、僕をビシッと指差した。頭の上の花は、ピコピコと激しく揺れている。


「ライト! わかったわっ! ここは、秘密基地ねっ」


「はい? 何の基地ですか?」


 秘密基地という響きに、猫耳の少女は反応した。ソファ席では、チビっ子達も、立ち上がっている。


「それは…………イロハちゃん! 白状しなさいっ」


 ビシッと猫耳の少女を指差す赤いワンピースの少女。


「うむ、よかろう。皆、よく聞くのじゃ」



 女神様は、店内にいる客を見回している。


「この店は、宇宙船の旅の秘密基地じゃ! 宇宙船の旅に行きたい者は、この店に集まれなのじゃっ」



(はい?)



「マスター、まだまだ資金が足りないんだろ? 店でもポーションの福袋を売ってよ」


「協力するぜ。宇宙船の旅に行きたいからな」


 お客さんが、ガヤガヤと騒がしくなった。そんな様子を、女神様は満足そうに眺めている。宇宙に行きたい人を集めるために、勝手にプラネタリウムにしたのかな。


 リュックくんは、ため息をつき、せっせとポーションの福袋作りを始めた。



「さぁ! 皆の者! 宇宙船の旅の相談も、この店でやるのじゃ。今日は、秘密基地結成の祭りじゃ! パァッと楽しむのじゃ! 小皿は食べ放題じゃぞ。広場に持って出ても良いのじゃ」


 女神様の意味不明な祭り宣言で、店内は一気に騒がしくなった。そして店の前の広場には、臨時のテーブル席が、勝手にできていく。


(はぁ、まぁ、いいけど)



「ライト、俺も手伝うよ」


「マスター、俺達も」


 常連さん達が、手伝いを始めてくれた。


「ありがとうございます。開店初日から……すみません」


「ティアちゃんが、こんなに張り切っているから、止められないだろ」


 常連さん達は、そう言いつつも、楽しそうだ。やっと、彼らが望む日常が戻ってきた。それに、宇宙船の旅も楽しみなのかな。




 僕は、壁に張られた宇宙の写真に、目を移した。


 女神様が創った小さな星が並んでいる写真だ。僕達が移動しやすいように、ワープワームの中継地となる星だ。


 ここまでのことを女神様はやってくれたんだ。あとは、僕達にかかっている。


 もう絶対に大規模な神戦争を起こさせないために、僕は、ポーションの行商にいく。ベアトスさんは魔道具だ。


 黄の星系を豊かにして、青の星系にも行商にいく。そして、青の神ダーラとの決着もつけなければ。


 僕は、ふぅ〜っと息を吐いた。


(できるだろうか……)



「やるしかねぇだろ?」


 僕の視線を遮るように、カースが現れた。


「うん、そうだね」


「楽勝だろーが」


 リュックくんも、その横に並んだ。


 僕には、優秀すぎる配下がいる。強すぎる相棒がいる。それにたくさんのアイツらもいる。


 きっと大丈夫だ。



「よし! 頑張ってみようか!!」




 ───────── 《完》 ─────────



皆様、これまで読んでいただき、ありがとうございました! おかげさまで何とか完結まで走れました。


この物語は、「カクテル風味のポーションを」の続編です。えー、知らなかったよ! という方、よかったら1作目も読んでみてください♪


そして、年末にご案内していましたが、続々編、シリーズ本編の3作目は、今年の夏頃から始める予定です。


他の星への行商と、ワタガシでのスローライフを描いていきます。青の神ダーラとの決着もあります。


3部作のような感じになりますが、続々編で、ほんとにほんとの完結にする予定です。


また、夏以降にお会いできたら嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪


あぁ〜! 最後にお願いですっ!

ブクマは外さず、そのままでお願いします。減ると寂しくなってしまいますので〜(*´-`)



【2022.8.29 追記】


一昨日から、続々編始めました。

「カクテル風味のポーションを 〜魔道具『リュック』を背負って、ちょっと遠くまで行商に行く〜」

よろしくお願いします。


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