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143、湖上の街ワタガシ 〜女神様の演説

 ポーションの福袋作戦は、大成功だった。


 僕は、麻袋の10本セットを作ることに必死だったからあまり見てなかったけど、売り上げ金が、とんでもないことになっていたんた。


「異空間ストックは10個の空きができたぜ」


 リュックくんは、そう言いつつも不満そうだ。まだまだ減らしたいんだよね。


「バーが再開できたら、ポーション福袋を置こうかな?」


「あぁ、まぁ、そーだな。女神の城の居住区でも、販売会をしてほしいらしーけどな」


 でも、女神様の城の居住区では、いくつかの店で、僕のポーションを売ってるんだけな。



 ぴゅーっと、不思議な風が吹いた。


(女神様の合図だ)


 魔族の多くは、それに気づかない。地底の空には、映像は映らないもんね。



「地底の住人! 女神が何か話すらしーぜ」


 リュックくんがそう叫ぶと、福袋の販売会が一時中断された。クライン様やルークさんが、空に女神様が映るんだと魔族の人達に説明している。



 ぴゅーっと、再び強い風が吹いた。



 空には、女神様の姿が映し出された。この映像を見た人達が、ザワザワしている。僕も初めて見たときは、めちゃくちゃ驚いたもんな。


 女神様は、20代後半の姿をしている。空に映るときは、いつも淡い黄色のドレスだな。


 今の女神様は、2〜3歳の姿だ。しかも、さっきは、壁につかまらないと立てない状態だった。少しは回復したのだろうか。



『皆さん、こんばんは。女神イロハカルティアです。皆さんにお知らせすることがあります。夜の方がよく見えるので、この時間を選びました。まずは、見ていただきましょう』


 女神様がふわりと手を振ると、空は真っ暗になった。


(ちょ、みんなビビってるよ)


 虹色ガス灯の水色の光があるから、広場は真っ暗ではない。だけど空が暗いことに、人族は恐れる。魔族も、同じかな。地底は月のような明かりがあるから、真っ暗な空は初めてかもしれない。


 僕は、スチーム星でも、暗い夜空を見た。それに何より、前世では、夜は暗かったもんな。



 空の暗さに目が慣れてきた頃、女神様の声だけが聞こえてくる。


『見えますでしょうか。太陽の光を遮断いたしました。いま、皆さんに見えているのは、イロハカルティア星の外、つまり宇宙です。人族には、わかりにくいかしら。いくつかを近くに呼び寄せましょう』


(誰もわかってないよ)


 しばらくすると、星が近寄ってくるのが見えてきた。だんだん大きくなってくる。


 衝突するのではないかと、ヒヤヒヤしている人もいる。


(はぁ、なるほどね)


 ピタリと止まった大きく見える星は、イロハカルティア星の周りを回っているようだ。


 作った星を全部見せているような気がする。空を肉球マークの星がゆっくりと流れていく。左に見えなくなって、少し待っていると、右からまた肉球マークの星が登場する。



『これは、黄の星系に配置するために創った星です。ひとつひとつは、とても小さな星ですが、黄の星系を移動するときには、休憩地として利用できます』


 ザワザワと騒がしくなってきた。ほとんどの声は、疑問の声だ。なぜ、宇宙に小さな星を創ったのか、わからないよな。


『この小さな星には、神スチーム様が、魔道具を埋め込んでくださいました。ですから、通行の邪魔にはなりません。そして、このように、私と神スチーム様は、自由に配置を変えることができます』


 星に埋め込まれたのは、自由に星の場所を変えるための魔道具みたいだ。だけど、神スチーム様は、絶対に自分の都合で配置を変えたりしないよね。


『この小さな星すべてに、猫の足跡のように見える火山があります。その火山には、神族ライトのワープワームのすみかを作りました。ライトのワープワームは、地上では天使ちゃんと呼ばれていますが、地底ではその能力から、ワーム神と呼ばれていますね。このかわいい小さな星を治める神は、小さな神々なのです』


(えっ? 神々って言った?)


 広場にいた人達は、一気に大騒ぎになった。僕も、理解が追いつかない。生首達は、神じゃないよ? 魔物だよ?



「見てみろ。天使ちゃん達が、あの変な星に捕獲されてるぜ」


 リュックくんが小声で囁いた。


 僕は、空を『見て』みる。


(あー、それで星を近づけたのか)


 生首達は、空を流れる星に次々とワープしていっているようだ。女神様が、そうさせてるんだろうな。


 まぁ、遠くまで運ぶよりは効率が良いかもしれないけど、生首達の数は大丈夫なのかな。


「リュックくん、生首達が本当に神なの?」


「あぁ? まぁ、星と命が繋がれば、そいつは神だろーが、天使ちゃん達の場合は、雇われ店長みたいなもんだろ」


(雇われ店長? 雇われ神ってこと?)


「ふぅん、だけど、生首達の数って大丈夫なのかな。みんな居なくならない?」


「は? 何十億体いるんじゃねーの? もう、カースにもわからねーらしーぜ」


「えっ? 何十億?」


「あぁ、あまりにも多いから、仕事がなくてヒマみてーだな。おまえが生まれ変わったときに、一気に数を増やしていたぜ。おまえの盾になれなかったからだろーな」


 青の神ダーラとの決戦のときかな。


 生首達が盾になろうとしたけど、僕は追い返したんだっけ。僕としては、無駄死にをさせたくなかっただけだ。でも、真面目な族長さん達は、自分達の力不足だと感じたのかもしれない。


「そっか。みんなに無理させてるね」


「別に、たいしたことじゃねーだろ」


 リュックくんがそう言ってくれると、少しホッとする。たぶん、一番無理をさせてるもんな。



『皆さん、なぜ私がこの小さな星を創ったのかを、お話しましょう』


 空が明るくなってきた。生首達の引っ越しが終わったのかな。そして、空には、再び女神様の姿が映る。


 ザワザワしていた人達は、空を見上げ、だんだん静かになってきた。



『私の配下である二人の神族が、他の星へ行商に行きたいと言い出したのです。まずは、親交のある神が治める星へ行くつもりのようですが、いずれは、黄の星系のあちこちに行くようになるでしょう』


 広場にいた人達の視線は、僕に向いた。もう一人は誰だ? という声が聞こえる。タイガさん案が多いな。


『その二人の神族が作るものを買うために、他の星から大勢の旅行者が、ハロイ島を訪れています』


 クマちゃんマークだという声があがった。やはり、ベアトスさんの魔道具を買うために、この星に来る人が多いんだな。


『ですが、二人の目的は異なるようです。他の星との交易を通じて、一人は珍しい鉱石を手に入れたいようです。もう一人は、宇宙船に憧れてしまい、宇宙船を作るために荒稼ぎに行きたいようです』


(はい? 何それ)


 なんだか、周りの人達の目が……。


 今ここで、ポーションの大販売会をしているのは、宇宙船のためだと思われてるよね。


「腹黒女神、しばいたろか」


「ちょ、リュックくん、その関西弁はダメだよ。すぐにタイガさんの真似をするんだから」


「は? おまえなー、いつまでオレを子供扱いしてんだ?」


「リュックくんは、ずっと僕の子供みたいなもんでしょ。僕の魔力で育ったんだからさ」


 僕がそう言うと、リュックくんはプィっと明後日の方向を向いた。女神様がよくやる仕草だ。



『その神族が宇宙船を作ったら、ハロイ島から他の星への観光ツアーができるようになると思います。宇宙船作りには、スチーム星の方々も協力してくださるそうです。私も、宇宙船で旅に行ってみたいものです。では、皆さん、夜分に失礼いたしました』


 女神様が、やわらかな笑顔で手を振り、空に映る映像はスーッと消えた。


(まさか、宇宙の旅に行きたいアピール?)


 他の星への観光ツアーとか言ってたよな。女神様は、たぶん、僕達の本当の目的を隠すために、適当に話してたんだとは思う。だけど適当な嘘話のつもりが、その気になってきた……のでなければ良いんだけど。




「ライトさん、宇宙船を作るなら、ポーション屋だけでは厳しいんじゃないか?」


「福袋なんかじゃなくて、ちゃんと定価で売るべきだろ」


「街長、それなら、宇宙船作りのために、寄付金集めをしてもいいんじゃないかい?」


 たくさんの人が、僕の近くに集まってきた。


「えーっと、そうですねぇ……」


 僕が返事に困っていると、さらに人が集まってきた。


「でも、ポーションをわざわざ買いに来る人の星に行けば、値段は10倍でも100倍でも売れるかもしれないね」


「それなら、行商に行く準備も必要だね」


「小型の宇宙船なら、そこまでのお金はかからないんじゃないかい?」


「女神様を乗せるとなると、小型の宇宙船というわけにもいかないんじゃない?」


 みんな楽しそうな顔で、勝手に話し合いが始まった。僕は、口を挟む隙がないな。



「おーい、みんな! まだ、福袋は残ってるぜ。宇宙船を早く見たい奴は、買っていってくれ」


 リュックくんは、いつの間にか、また福袋を増やしている。さらに異空間ストックを減らすチャンスだもんね。


 再び、ポーションの大販売会が始まった。



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