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141、湖上の街ワタガシ 〜それぞれの事情

 クライン様と話していると、僕の店の前に、テーブルが並び始めた。ポーション置き場だな。


 僕に気づいた銅貨1枚ショップの店員さんが、何か言いたそうにしている。



「クライン様、僕はそろそろ売り物の準備をします」


「じゃあ、俺は、ライトの売り場で働かなきゃね〜」


(へ? クライン様が働く?)


 僕は思わず言葉を失ってしまった。すると、僕の主君はクスクスと笑っている。


「ライトの大販売会のミッションをギルドで受けたんだよ。報酬は、10%回復の魔ポーションだということになってる。魔族は喜んで受注してるよ。一般枠は、一瞬で満員になったらしい」


「販売ミッション? あー、誰かが出してくれたのかな。カルーアミルク風味の魔ポーションなら、数はあるから大丈夫だけど……」


(報酬って、普通はお金だよね?)


「この街のギルマスの判断らしいよ。あの人、ほんとに抜け目ないよね。魔族の扱い方が上手すぎる。ちょっとコワイくらいだよ」


「今のギルマスは、他の星の神だった人ですからね。勢力争いで、星が潰されたから移住してきたんです」


「神!? そうか、なるほどね」


 クライン様はいろいろと納得できたみたいだ。深く頷いている。


 この街には、何十人もの神々が住んでいるから、あまり気にしなくなっていたけど、地底に入り込む他の星の神は、たいていが侵略目的だもんな。



「クライン様、でもギルマスは、この星に移住していますから、大丈夫ですよ。彼の星は、宇宙のどこかで無人星になっていますけど」


「あー、うん、それは恐れていないよ。この街に馴染まない人に、ティアちゃんがギルマスを任せるわけがないもんね。そういえば、ティアちゃんは居ないの?」


 クライン様は、キョロキョロと屋台を見回している。女神様は、だいたいどこかの屋台で、大量のチビっ子達と騒いでいるもんな。


(今は、無理だろうけど)


「そうですね。いませんね〜」


 上手くごまかしたつもりが、クライン様には見抜かれているようだ。僕が何かを隠していると察したみたいだな。


 だけど僕の主君は、問い詰めたりしない。ふふっと意味深な笑みを浮かべているだけだ。




「オーナー、売り物をそろそろ並べないと、暴動が起こります。開始時間は、虹色ガス灯が水色の時間からなんですよね? クマちゃんマークの魔道具販売は始まりましたよ」


「あ、ごめん。すぐに持っていくよ」


 僕は、クライン様に背中を押されながら、店の前へと移動する。



 広場には、女神様の城と同じく虹色に変化するガス灯があるんだ。これは時間とともに色が変わるから、時計としての役割がある。


 水色は、夕方を表す色だ。僕のバーも、虹色ガス灯が水色になったら、開店している。今日はまだ営業できないけど。


 赤がその日の始まり、赤→オレンジ→黄→緑→水色→青→紫、と、その色は約4時間ごとに変化していくんだ。




「あれ? 騒がしいんだけど、まさか魔族が神族の街で下品な真似をしてないよね?」


 クライン様が、よく通る声でそう言うと、一瞬で静かになった。まぁ、開始時間に遅れているから、客が文句を言うのは当たり前なんだけど。


「遅くなってすみません。虹色ガス灯の色を見てなくて……。すぐに並べますね。慌てなくても売り切れることはないので、皆さん、並んでいただけますか」


 僕がそう言うと、集まっていた魔族は、困っているようだ。並ぶ習慣なんてないもんな。



「ライト、俺が整列させておくよ。大販売会のミッションを受けた人達、キチンと仕事しなさい。騒ぎを起こさせないように」


 クライン様がそう言うと、腕章をつけた人達が慌てている。クライン様は悪魔族、大魔王メトロギウスの直系の孫だ。


 彼の言葉には、特殊な術を込めることができるらしい。今は、畏怖だろうか。女神様でも、ゾワッとすると言っていたっけ。僕は、配下だからか、何も感じないんだ。術の対象者まで指定できるみたいだ。


(悪魔の言葉って、コワイ)




 大販売会のスタッフが用意したテーブルに、僕は3種のポーションをドカッと出した。たくさんの量を見せておく方が、客は安心するんだ。


「えっ? ライトさん、何万本ですか」


「あはは、わからない。悪いけど、いつもの3種がバラバラに出てしまったから、適当に並べ直してください。管理は任せるね。こっちにも出しておくよ」



 僕は、ぐっちゃぐちゃにされているバー店内から、テーブルを外に運び出す。重力魔法を使うから、出し入れは簡単だ。


 そして、シャワー魔法を使ってテーブルを掃除した。


(これ、落書きもあるじゃん。ま、いっか)


 そのテーブルの上に、さらに大量のポーションを出していく。


 普通はクリアポーションが売れるけど、魔族は、10%回復ポーションの方が人気かな。火無効付き1,000回復ポーションは、あまり売れない気がする。


 僕は、モヒート風味のポーションを多く出しておいた。



「ちょ、マスター、こんなに大量に売るんですか。売り上げ金の管理がコワイです」


 銅貨1枚ショップの店員さんが、表情を引きつらせていた。まぁ、そうだよね。


「大丈夫ですよ。僕の主君も、ギルドミッションを受けてくれたから。それに、魔族はあまりお金に困ってないと思います」


 するとクライン様は、店員さんに腕章が見えるように、向きを変えてくれている。


「あの方が、マスターの主君?」


「うん、そうですよ。彼はルークさんの父親です」


「まぁっ!」


 店員さんの顔は、一気にキラキラと輝き始めた。


(ふふっ、やっぱりね)


 クライン様とルーシー様の息子、ルークさんは、今、この島にある学校で、非常勤講師をしているんだ。ルークさん自身も卒業生なんだけど、女神様に押し付けられた感じだっけ。


 教室での授業ではなく、学外での実習の補佐についている。だからか、女性ファンが多いんだ。学外で危険な目に遭ったときには必ず助けてくれるし、カッコいいもんな。それに、大魔王を継ぐと噂されている。


 クライン様やルーシー様にとっては、自慢の息子だけど、彼にはまだ、継承権がない。たぶん、60代だったと思うけど、まだ、第1配下を得ていないからだ。


 僕は、クライン様の第1配下なんだけど、悪魔族にとって、配下の順番や質も重要らしい。


 クライン様は来る者は拒まない主義だから、たくさんの配下がいる。その種族もバラバラだ。弱い配下も大勢いる。


 もう100年以上前になるけど、クライン様は、僕を第1配下にすると言ってくれたとき、その理由は、僕がいじめられないように守ってあげるため、だったんだ。ほんの5歳だったクライン様は、弱かった僕にとって、大切な小さな主君になったんだ。


(懐かしいな)




「ちょっと、シャイン!」


「ルーク様、僕は無理です〜」


(あっ、またやってる)


 ルークさんも、腕章をつけている。ミッションを受けてくれたみたいだ。だけど彼の場合は、目的は魔ポーションじゃないだろうな。


 もう50年以上ずっと、ルークさんはシャインを第1配下にと、口説いている。シャインは種族的にまだまだ幼児なんだけど、ルークさんは諦めないんだよな。


 子供の頃にシャインがルークさんを助けたことで、仲良くなったらしい。シャインは、すぐに泣くし、すぐに忘れてしまうから、学校ではいじめられがちなんだ。だから、第1配下にしてやると、ルークさんが言い出したみたいだ。


(ふふっ、父親とそっくりなんだよね)


 だけど、シャインは逃げ回っている。まだシャインは、80年以上生きているけど、人間でいえば1歳に満たない幼児だもんね。



「ルーク、遊んでないで、客を整列させなさい」


 クライン様がそう言うと、ルークさんはペロっと子供のように舌を出している。ふふっ、こういうところは変わらないな。


 あぁ、そういえば、ルークさんとシャインには共通点がある。二人とも、腹ペコキャラなんだ。シャインは守護獣だから、大食いなのはわかるけど、ルークさんは悪魔族だ。ちょっと意外な気がする。



「父さん、ルーク様に断ってください」


 僕のそばにシャインが寄ってきた。いつものように涙目なんだよね。


 悪魔族の中でも能力の高いルークさんに、配下になれと言われたら、僕でも戸惑ってしまう。だけど、ルークさんがシャインを第1配下にすると言い出したのは、まだ幼い子供の頃だ。


 シャインが断り続けるから、ルークさんがここまでのチカラを持つようになったと、父親のクライン様は言っていた。


 守護獣を配下にできるほどの魔族になりたいと、苦手だった剣術も磨き、リュックくんも驚くほど、ルークさんは強くなっている。


(だから、余計にシャインは逃げるんだけど)



「シャイン、それなら、ルークさんに絶対に勝てることで勝負をしてみたら?」


「勝負?」


「うん、それでルークさんが負けたら、こう言うんだ。僕は、自分より劣る人には仕えませんってね」


 すると、シャインは、キッと睨むような目をした。


「ルーク様は、優れた人ですっ!」



金土お休み。

次回は、1月16日(日)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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