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139、女神の城 〜城のクリスタルとベアトス

 クリスタルのすぐそばにあったはずの非常階段のようなシンプルな階段から、クリスタルに触れることはできない。


 小さな星を20個以上創るために、女神様が膨大な魔力を消費したからだ。クリスタルは、さっきの半分くらいの大きさにまで縮んでしまっていた。


 そして、中は空っぽだ。


 黄色く輝いていたクリスタルは、今は無色透明なガラスのように見える。その底に、ほんの僅かにマナの光が残っているだけだ。


 これでは、イロハカルティア星のあちこちの機能が停止してしまう。このクリスタルは、星全体の動力源でもあるんだ。


(そうか、順番だ)


 星の魔力の消費は、クリスタルの次が、女神様の生命エネルギーなんだ。だから、ナタリーさんは、女神様が消滅する危険な行為だと、あんなに怒っていたんだよな。



 僕に、クリスタルを確認させる理由がない。ナタリーさんは、クリスタルが空っぽなのは、わかっていたはずだ。


 やはり、いま僕には、女神様の私室に居てほしくないんだろう。ナタリーさんが、何か、応急処置をしているような気がする。



 クリスタルを見ていると、涙が出てきた。


 なぜ、女神様がここまでしなければならないんだ? 多くの神々は、なぜ、戦争をしたがる?


(やはり、僕は行商に行こう)


 黄の星系だけではなく、青の星系にも行くべきかな。神族ではなく、行商人として行くんだ。星系にこだわる必要はない。


 青の星系でも、ダーラに匹敵する力を持つ星があれば、ダーラは、自分の星系の中での争いに力を向けざるをえないだろう。



 僕は、もっと、自分にできることをしていきたい。



 僕には、強い相棒がいる。そして、誰もが敵に回したくないという配下がいる。さらに大量の生首達もいるんだ。


 しかし、あの肉球模様の小さな星は、あのままで存続できるのかな。小さな星にも神は居る。イロハカルティア星とスチーム星の衛星扱いなのかな。


 魔道具を仕込まれたことで、他の星から、小さな星へのエネルギー供給ができるのかもしれない。


 でも、宇宙を漂う奴らに、支配されてしまわないのかな。目立たない小さな星だから、悪用されそうだ。


 神スチーム様がどんな魔道具を仕込んだのかは、わからないけど。



 そういえば、女神様は、あの小さな星は、天使ちゃんのすみかだから、とびきり可愛くするとか言ってたっけ。


 あの小さな星に、生首達を棲まわせるのだろうか。アイツらは火の魔物だから、火山などのある暑い場所にしか棲めないと思うけど。


 ベアトスさんも一緒に連れていくと行ったから、たくさんの中継地となる星を創ったのかな。


 生首達のワープ能力は、僕には正直なところ、よくわからない。小さな星から小さな星へと、ワープすることは可能なのだろうか。


 ここからスチーム星までは、とんでもなく遠い。生首達の中継地にするなら、小さな星の数は、全然足りないんじゃないかな。




「あれれ〜? クリスタルが空っぽになってるだな」


 背後から、のんびりとした声が聞こえてきた。僕は、涙をぬぐって、笑顔をつくる。


「ベアトスさん、宝珠のマナをクリスタルに補充するんですか?」


「んだ。ライトさんの店の前には、もう人が集まってるだよ。ポーションの大販売会の前にやっておかないと、また、うるさいから慌てて来ただよ」



 ベアトスさんは、魔道具を操作して、大量の宝珠からマナを取り出し、クリスタルへと移していく。


 キラキラと淡い光がクリスタルに吸い込まれるけど、小さくなってしまったクリスタルが吸収するから、底には全然貯まらない。



「はぁ、器に吸われてしまうだな。もしかして女神様は、今、やっただか」


(ベアトスさんは冷静だな)


「はい、さっき、宇宙空間に星を創ってました。僕のワープワームの中継地にする星らしいです」


「天使ちゃん達の中継地だか? まぁ、確かに、ここから黄の星系の端までは、ワープできないと思うだ。ライトさんひとりだけなら、可能かもしれないだが」


 ベアトスさんは、作業を続けながら、とんでもないことを言っている。そうか、黄の星系の端にあるスチーム星までの距離が、わかってないんだな。


 めちゃくちゃ速い宇宙船で何日もかかったんだ。生首達みたいなワープワームが、ワープできる距離じゃないよ。



「ベアトスさん、アイツらのワープ距離をご存知なんですか」


「うん? 距離は知らないだ」


(やっぱりね)


「スチーム星は、めちゃくちゃ遠いですよ」


「竜人さん達が、いろいろと話してただよ。彼らの高速宇宙船でも、数日かかるみたいだな。だけど神スチームは、転移事故でスチーム星に落ちてきた人達を、星へ返してるだよ?」


 あー、確か、そんなことをスチーム星でも聞いたっけ。ただ、イロハカルティア星は遠いから、神スチーム様の魔道具を使って転移で送り返すと、みんなの到着点がバラバラになるらしい。


「神スチーム様の魔道具ですよね。砂漠に落ちてきた人を定期的に送り返すという話は、聞きました」


「神スチームの魔道具というより、神スチーム自身が魔道具みたいなものらしいだよ。思念体の神にできる移動なら、天使ちゃん達にもできるだ」


(はい? いや、ないない)


「ベアトスさん、さすがにそれは無理ですよ。アイツらは、火の魔物ですよ?」


「うん? だけど、地底ではワーム神と呼ばれてるだよ。天使ちゃん達は、ライトさんが殺した神の能力を得ているだ。ある日、突然変わってびっくりしただよ」


(ダーラとの決戦後かな?)


「アイツら、変わりました? 青の神ダーラとは相打ちになったし、何も能力は奪ってないと思いますけど」


「最近のことだよ。ライトさんがチビっ子で、大魔王を狙っているという噂を聞いた頃だな。思念体の神の能力を得たみたいだ」


「あー、何体か神殺しをしましたね。地底でも、王都でも」


 生首達は、特に変わった様子はないんだけどな。


「思念体の神は、実体を持たない代わりに、空間移動能力は高いだ。天使ちゃん達は、交代しないで、この城とワタガシを平気な顔で往復してただ。いつもなら、マナを回復する時間がないときは、交代していただ」


(えっ……何も気にしてなかった)


 そういえばワープした後は、いつもならすぐに消えていたっけ。あれは、交代していたのか。


 僕が大人の姿になったから、いつまでもそばにいるのかと思ってた。交代の必要がなくなっていたってこと?



 ベアトスさんは、やっと補充作業を終え、魔道具を片付け始めた。


 城のクリスタルの大きさは変わらないな。だけど、枯渇状態が改善されたのか、底に少しだけキラキラとしたマナが貯まっている。


「少し、マナが貯まってますね」


「んだな。かなりの量をため込んでいただが、これっぽっちにしかならないだ。ほとんどをクリスタルに吸収されてしまっただ。大きな星を創っただか?」


「いえ、小さな星をたくさんですよ。肉球に見える変な模様があって……」


『何が変なのじゃ! このかわいさがわからぬのか。ライトはしょぼいのじゃ。しょぼしょぼりんなのじゃっ! クマ、勝手に補充するでない! かわいい猫のお散歩を見たければ、後で空を見るのじゃ!』


(耳が痛い……)


 突然、大音量の念話だ。


 めちゃくちゃギャンギャンうるさい声に、僕は少しホッとした。だけど、後で、ということは、やはり今は処置中かな。



「ライトさん、女神様は機嫌が悪いだ。とばっちりを受ける前に、退散する方がいいだよ」


「あはは、そうですね。後で、ってことは、また、空に映る準備中かもしれませんね」


「んだな。ワタガシの中央広場に戻る方がいいだよ」


 ベアトスさんも、何となく今の女神様の状況がわかっているみたいだな。


(女神様は、弱っているところを見せたくないんだ)




 僕達は、女神様の私室の外から、ワタガシに戻ると言うと、ナタリーさんの返事だけが聞こえた。


 一瞬不安になったけど、ナタリーさんの声に焦りはない。今までに比べれば、マシなのかもしれないな。


 100年前にも同じことをしたとき、女神様はしばらく立つことができなかったと、ナタリーさんは言っていた。赤ん坊の姿になったから立てないと僕は解釈していたけど、違う気がする。


 それほど、負担が大きいことなんだ。


 自分の生命エネルギーをマナに変えて、ギリギリまで使い果たすんだもんな。負担が小さいわけがない。


 さっき、壁に寄りかかっていたのも、肉球にご満悦だったのもあるだろうけど、あまりにも不自然だもんな。


(だけど、気づかないフリをしておこう)


 女神様が芝居臭さのない芝居をしているときは、必死なんだ、きっと。本気で隠したいということだよね。




「ライトさん、天使ちゃん達で戻りたいだ」


 女神様の私室のある城を出て、虹色ガス灯の広場に戻ってくると、ベアトスさんがそんなことを言った。


「はい、じゃあ、呼び……ふふっ、もう来てますね。最近、なんだか予知能力みたいなものがあるんですよ」


「ライトさん、それは違うだ。天使ちゃん達のスピードが速くなっただよ」



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