135、ハロイ島 〜精霊ヲカシノ様に説明する
生首達のワープで、精霊ヲカシノ様、そしてアトラ様たち守護獣も一緒に、ハロイ島の草原に戻ってきた。
「へぇ、天使ちゃん達、ますますパワーアップしたね。あんなマナの暴風の中からでも、全然ワープが乱れないんだ」
精霊ヲカシノ様に褒められて、生首達はヘラヘラしている。
「そうなんですよ。僕も、さっき驚きました」
「ふふっ、天使ちゃん達に厳しいライトさんが褒めるなんて、珍しいね。あの子達、嬉しくて、すっごくはしゃいでるよ」
「あはは、ですね」
(また、狂喜乱舞だよね)
「ライト、あたしもポーションの大販売会、手伝うね」
獣人の姿に変わったアトラ様が、そう言ってくれた。
(やっぱり、かわいいな)
「はい、お願いします。たぶん魔王達も来るだろうし、ティア様が何をするかわからないので」
「ふふっ、ティアちゃんは、お祭りの準備を始めたよ〜。なぜか、お祭りになっちゃうね」
「そうですよね。しかも、テンションが上がってくると、変なことを始めるから……」
「ライトが構ってくれるのが楽しいんじゃないかなー。でも、他の星からの神々にポーションを渡すのは、危険じゃないかな」
アトラ様は首を傾げて、考えてくれている。
(くぅ〜、かわいい)
「それなら大丈夫です。僕、ちょっと考えを変えたんです。赤ん坊からやり直したことで、忘れていた前世の感覚が戻ったから」
「うん? なぁに?」
「他の星へ、ポーションの行商に行こうと思います」
アトラ様は、目をパチクリさせて、固まっている。えーっと、難しい話し方をしたっけ?
「なぜ? イロハカルティア星の名物のひとつだよ? ライトのポーションを買いに来る旅行者もいるんだよ」
「旅行者は、ポーションが欲しいだけじゃないと思います。僕が考えたのは、神戦争を起こさせない方法なんです」
そう話すと、他の守護獣達が、僕の方に意識を向けた。精霊ヲカシノ様は、楽しそうに近寄ってくる。
「ライトさん、それって逆効果だよ? ポーションを他の星に渡したら、戦闘に有利になるじゃん。ボクの幻術も、クリアポーションで解除されちゃうよ」
(やはり、そう考えるよね)
「精霊ヲカシノ様、僕も、ずっとそう考えていました。だから地底に渡すポーションの量にも気をつけていました。でも、思い出したんです。戦闘力だけがチカラではないんです」
精霊ヲカシノ様は、首を傾げている。アトラ様や守護獣達は、頭を抱えている。話が通じないかな。彼らからすれば、異世界の発想だもんな。
でも、納得して協力してもらえないと、僕は、他の星に行商になんて行けない。
「ライトさん、もしかして、他の星に恩を売って、裏切りができないようにするのかな?」
(それもアリかも。でも、違うか)
「精霊ヲカシノ様、僕が考えているのは、黄の星系に属する星が豊かになることです。ポーションが存在しない星に行商に行けば、きっとその星の人の生活が変わると思うんです」
「うん? ポーションがあれば、怪我が治せるね」
「はい、100年前の人族の集落のような星があれば、ポーションがあるだけで、伝染病で死ぬ人も減ります」
僕の……『ライト』の集落のように、伝染病を封じるために集落ごと焼き払うなんてことを防ぐことができるんだ。
「確かに、ポーションのある星の方が、黄の星系では少ないだろうね。非戦の中立の星、戦うチカラのない神が治めていたりするからね。でも、なぜそれで、神戦争が起こらないの?」
「はい、僕がポーションを行商に行くのは、黄の星系だけです。ポーション屋に来て欲しいなら、争いを棄て、黄の星系に入ればいいんです。そうして、黄の星系が大きくなれば、他の星系からは……」
「いや、逆に掠奪されるだけだよ? 弱い中立の星に魔ポーションなんかが溢れていたら、青の神々に餌を与えるようなものだよ」
(精霊ヲカシノ様は、賢いな)
精霊ルー様が、いつもバカ扱いしているけど……。やっぱ、さすが精霊だよね。
「そこなんですよ。過渡期が難しいんです。だけど、それを乗り切れば、黄の星系には……」
「あー、全部、黄の星系にしちゃうんだね。へぇ、それなら、神戦争は無くなる。だけど、何人かの神々が厄介だよね」
精霊ヲカシノ様は好戦的な笑みを浮かべている。違うんだ。なぜ、すべてを支配しようと考えるのかな。
(いや、うん、この世界の価値観だよね)
だけど、どれだけ説明しても、理解されないかな。それに、実際にやってみないとわからない点も多い。
「過渡期が一番荒れると思うので、この草原も迷惑な侵略者が来るかもしれません」
「ふふっ、こないだは隙を突かれたけど、もう同じ失敗はしないよ」
「ありがとうございます。心強いです」
「他の精霊にも、今の話を聞かせたよ。守護獣のふたつの里を守る精霊トリガと精霊ヌーヴォは、嫌がってる。負担が増えるからだろうね」
(なっ!?)
「ちょ、ヲカシノ様、勝手に何を放送してるんですか」
「ふふっ、だって、説明をするのは面倒でしょ? だけど、その行商には準備が必要だね」
「はい、近くの星に行く小型の宇宙船もあればいいなって、思っています。ポーションだけでは、すべての黄の星系に行商に行くには魅力が足りないから、クマちゃんマークの魔道具もと思っています」
「へぇ、ベアトスも一緒に行くなら、ボクも行こうかな」
(はい?)
精霊ヲカシノ様は、なんだかワクワクしてるんだよね。何かを思いついた顔だ。そっか、彼は、ベアトスさんと親しいよね。
「ヲカシノ様が何を行商するんですか?」
「うん? ボクは、石や木々を、美味しいお菓子に変えてあげるんだ。それに、他の星に行くなら護衛が必要でしょ?」
(護衛が目的かも)
他の星の魔物とかを、ぶっ倒したいんだ、きっと。
「ありがとうございます。これから、いろいろと考えてみます。行き先によっても、必要な物が変わると思いますから」
「うんうん、楽しみだなぁ」
(ま、いっか)
もしかすると、精霊ヲカシノ様に護衛を頼む必要が出てくるかもしれない。ただ、そのときは、この門を誰に守ってもらうかだよな。
「あー、ライトさん、女神の城に来いって、ティアちゃんが言ってる〜」
「えっ? 城ですか」
「うん、祭りの準備じゃない? ボクは、行かないからね。この草原を守らなきゃ」
精霊ヲカシノ様は、少年の姿に変わると、スッと姿を消した。
(逃げた……)
「ライト、女神様が、城の私室に来て欲しいって伝言だよ」
なぜか、アトラ様までが伝言係?
「なぜ女神様は、僕に直接言ってこないのでしょう?」
「さぁ? わかんない。断られたくないのかも。城の女神様の私室の横の物置部屋には、お祭りセットがあるよ」
アトラ様は、クスクスと笑っている。僕が、女神様に振り回されて呆れ顔をすると、よく笑うんだよね。
「はぁ、お祭りセットを選ばせるつもりかもしれませんね。大販売会は、お祭りじゃないんだけどな」
「早く行かないと、拗ねちゃうよ」
「そうですね。行ってきます。あっ、海のチョコレート色を、精霊ヲカシノ様に何とかしてもらえないか、探っておいてほしいです」
「ふふっ、わかったよー。たぶん、黄色い太陽が沈んで、赤い太陽が昇ると、海水は冷たくなるから、チョコレートは固まるかも」
(あー、確かにそうかも)
だから、女神様も精霊ルー様も、海を放置してるのかな。それに、チョコレートは海面を覆っているから、沈んでないみたいだもんな。
「それなら、誰かが荒れた海から、固まったチョコレートを回収しないといけないのかな」
「うーむ、ちょっと危険だよね。守護獣には、この海は無理だから、ヲカシノ様に相談しておくよ」
にこりと笑ったアトラ様は、とても綺麗だ。
僕は、スーッと顔を近づけて、彼女にチュッとキスをした。
「ちょっと、ライト! 突然、何? みんなが見るじゃない」
言葉では怒りつつ、アトラ様は頬が赤い。
「だって、アトラ様が綺麗だから、つい」
「コラーっ。みんなが聞いてるんだからねっ」
草原に目を向けると、確かに、守護獣達がニヤニヤしてるんだよね。
もう、彼女と結婚して100年だ。ルシアやシャインを産んでいるのに、彼女の反応は、昔と変わらない。
「アトラ様、僕、生まれ変わったから……」
「うん? うん、赤ん坊のライトは、すっごく可愛かったよー。シャインが小さかった頃を思い出しちゃった」
「そうですか? じゃあ、生まれ変わった僕の子供も……」
「わーっ! ライト、みんなが聞いてるんだからねーっ」
(ふふっ、かわいい)
アトラ様は、耳まで真っ赤になっている。
僕は、そっと彼女にキスをする。
「もうっ! みんなが見てるってば〜」
そう言いつつも、彼女は、ほわんとした顔をするんだ。なんだか誘っているかのような色気を帯びた眼差し。
「アトラ様、愛してい……」
『コラーっ! いつまで破廉恥なことを言うておるのじゃ!! さっさと、城に来るのじゃ!』
(げっ、女神様まで聞いていた?)




