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133、ハロイ諸島 〜猫耳の少女を捜しにいく

 店の前に戻ってくると、子供達の賑やかな声が外にまで聞こえていた。必死に片付けているみたいだ。戻ってくるのが、早すぎたのかもしれない。


(あっ、売り切れのままだな)


 僕は、店の前に置いてあるポーションの自動販売機が気になった。いつも、リュックくんが補充してくれている。


 ここしばらくは、ずっと売り切れ状態が続いていたんだろう。だから、こんな貼り紙が……。



 僕は、貼り紙を剥がし、ポーション3種類の補充を始めた。


【もうポーション屋はいない】

【街長は消滅した】


 ポーションを買いに来た人の絶望かもしれない。僕のポーションは、バー店内の自動販売機でも売っているけど、売り切れランプがついていたよな。



 街のいくつかの店でも、僕のポーションを販売しているはずだ。十分な在庫は渡してある。それに、僕以外のポーションも売っている。


 だけど、僕の店で買う方が安いんだよな。だから、お金に余裕のない人が、リュックくんが補充する時間に並んでいることもあるそうだ。


 この貼り紙は、僕の心に突き刺さった。


(やはり、もっと早く戻るべきだった)


 僕は、ハロイ島のことについての記憶を失っていたから、子供のように拗ねたり、泣き喚いたりしていた。まぁ、子供だったんだけど。


 いまさら後悔しても遅いけど、自動販売機の補充を誰かに頼んでおくべきだった。僕は、まだまだ未熟だな。




「あっ! マスター?」


 僕が暗くなっていると、輝く笑顔の女性が近寄ってきた。バーの常連さんだ。


「こんにちは、お久しぶりです」


「戻ってきたんだね。嬉しいよー。あぁ、この貼り紙、何度剥がしても貼られるんだよね」


 彼女は、僕の手元を見て、そう呟いた。


「剥がしてくれてたんですね。ありがとうございます。補充されていなかった怒りでしょうね」


「ん〜、たまにティアちゃんが補充していたみたいだよ。と言っても、月に一度くらいかな」


(えっ? 女神様が?)


「そうでしたか」


「うん、でも、すぐに売り切れちゃうからね」


「やはり、そうですよね」


「マスターが戻ってきたお祝いで、パーッと、ポーションの大販売会をしてみたら? ただで配ると転売するバカがいて揉めるからさ」


(あっ、確かに)


 僕の意識は、星の外へ向いていたけど、まずは、この街の人を安心させることが大切だ。


「いいアイデアですね。さっそく、今夜やろうかな? バーは、まだ営業できないんですけど」


「ほんと!? やった! あー、店の中は、ぐっちゃぐちゃでしょ? ケトラちゃんが、自由にさせてたよ」


 ハデナのケトラ様は、店でたまにホール係をしてくれている。あー、ハデナ火山で……変なことを言っていたよな。シャインの母親だとか。


(彼女の気持ちは、わかっているけど……)


 姉のアトラ様への対抗心かと思っていたけど、実際にはよくわからない。でも、ケトラ様は守護獣だから、種族的にはまだまだ子供なんだよね。



「ケトラさんには、ホールを任せていたから、営業していない間は、子供達の秘密基地にしていたんでしょうね。たぶん、そそのかしたのはティア様だと思いますけど」


「うんうん、ティアちゃんは。よく走り回っているから、そうだと思うよ。じゃあ今夜、広場で、ポーションの大販売会をやる?」


 自動販売機から、パナシェ風味のクリアポーションを大量購入しながら、常連の女性は尋ねてきた。


(せっかく補充したのに)


 まぁ、自動販売機で買うのが好きな人もいるんだよな。魔道具ではないシンプルな機械が、楽しいらしい。


「はい、今夜、この広場でやりますよ」


「じゃあ、宣伝しておくよ。バーの方は、まだ数日かかるよね? 完全に廃墟状態だし」


「あはは、そうですね。いま、子供達が捨てられたくない宝物を、必死に回収していますから」



「広場なら、カフェラテもできるかしら? 他のカフェのカフェラテって、なんだかイマイチなのよね」


 この女性は、いつもカフェラテからなんだよな。コーヒー中毒なのかもしれないと心配になる。


「じゃあ、ホットドリンクくらいは、用意しますね。あー、面倒だから、ティア様を捜しますよ」


「うふふ、それがいいよ。ティアちゃんがいれば、すぐに祭りが始まるもの。あの行動力ってすごいよね。さすが、女神様のペットだわ」


(あー、彼女も知らないんだっけ)


 僕は、やわらかな笑顔を浮かべておく。そういえば、このごまかし笑顔、久しぶりに使ったかもしれない。




 僕は、自動販売機を再び補充した。


 店の中からは、僕の話し声に気づいたのか、チラチラと様子を窺う顔が見える。


(ふふっ、焦ってる)


 僕が、店に入ってくるかどうかを心配しているみたいだ。扉を押さえようという作戦まで聞こえてくる。


 同じ扉で出入りする、銅貨1枚ショップの営業妨害になるじゃん。



「街長さん、登録してきました」


 店の2階に隠れていた青の星系の子供達と、『ライト』がグールに生まれ変わらせた母親が戻ってきた。


「店のミッションを受注してくれましたか?」


「はい、銅貨1枚ショップの方の仕事ですが」


 不安そうにしているけど、銅貨1枚ショップなら働く人が多いから、好き仕事を選んでもらえる。


「そうですか。銅貨1枚ショップでは、これが銅貨1枚で買えるのかと、お客さんが驚くようなものを常に開発しています。他の星で生まれた皆さんの知恵を借りることができると嬉しいです」


 僕がそう言うと、ホッとしたような笑顔を見せた。


「とりあえず、店を見るようにと言われました」


 ガタン!


(あっ、バリケードを作った?)


 僕が店に入ってくると思ったんだな。仕方ないか。


「銅貨1枚ショップには、店員さんが何人かいるので、仕事の説明をしてくれますよ。僕は、今夜、広場でポーションの大販売会をすることになったので、ちょっとまた行かないといけない所ができたので」


 ガタガタガタ


(ふふっ、扉が壊れるよ〜)


 子供達の焦りが、『眼』の力を使わなくても伝わってくる。ずっと世話をしてきた他の星の子供達が、店に入れないのはマズイもんね。


 バリケードを必死に片付けているようだ。


「わかりました。では、銅貨1枚ショップの店員さんに、教えてもらいます」


「うん、よろしくお願いします」


(早く離れる方が良さそうだな)


 僕は、生首達を呼び、ハロイ諸島の無人島へと移動した。



 ◇◇◇



「あれ? 全然揺れなかったね」


 僕の周りをヘラヘラしながら、ふわふわと浮かぶ生首達は、僕がそう言うと、めちゃくちゃに飛び始めた。


(狂喜乱舞だよね)


 たまに褒めると、こうなるんだ。


 だけど生首達の能力は、今までとは明らかに違う。ハロイ諸島には、ワープや転移を弾く濃いマナの流れがある。しかも、荒れた海に囲まれた無人島は、たどり着くだけでも大変なんだ。


 だから大きな島なのに、ここは無人島になっている。


 生首達でさえ、この場所へのワープは、かなり揺れたんだ。だけど、今は全く揺れなかった。


(新たな神の能力かな)


 この半年ちょっとで、生首達は二度、僕の盾となって、神の能力を吸収したためか。


 これなら、きっと、他の星へも余裕で行けるよね。




 女神様の姿を捜して、僕は無人島の中を歩いていく。


 あちこちで派手な戦闘が起こっているから、生首達は少し離れた場所にワープしたようだ。


 星の門の命名権を争うという、僕からすればどうでもいい競争なのに、魔王クラスが、わんさか居るみたいだな。



「あーはっはっはっ! 名探偵サラドラに、そんなへっぽこ攻撃は効かないわっ」


(あれ? 戦闘形態じゃん)


 サラマンドラの魔王サラドラさんは、炎を纏ったトカゲの姿をしている。


「だから、サラドラはバカなのじゃ! わらわは、風の刃しか使っておらぬ。火には水じゃ。じゃが、妾は、火に弱い風属性の刃を鍛えておるのじゃ!」


(へぇ、まるで僕に説明してるみたいだ)



「あの、ちょっとお邪魔します」


「ライトは、邪魔なのじゃ」


「うん? ライト? なんだか変わったわね」


(サラドラさんには、この姿は初めてかも)


「魔王サラドラさん、これが僕の姿なんですよ。それより、サラドラさん、どうして名探偵を名乗ったんですか?」


「なっ? ライトは、大人になったら、あたしが名探偵サラドラだってことを忘れちゃったの?」


 ワナワナと怒りに震える炎を纏うトカゲ。


「あれ? 赤いワンピースを着ていなくても、名探偵でしたっけ」


 僕がそう言うと、彼女は、赤いワンピースを着た少女の姿に変わった。白いかぼちゃパンツのチラ見せも完璧だ。


(こんなに小さかったっけ)


 確かに5〜6歳の姿の僕よりもかなり小さかったけど。猫耳の少女がとても大きく見える。


「イロハちゃんが挑発してくるから、うっかりしていたわ」


「ふふっ、かぼちゃパンツも完璧ですね。可愛いです」


「ふふん、当然よっ」


 ビシッと猫耳の少女を指差す、赤いワンピースの少女。二人とも、頭に花が付いてるんだよね。


「なっ? 猫がかわいくないと言っておるのか。ライトは、しょぼいのじゃ!」


「ティア様、そんなことより大切なお話が」


「嫌じゃ」


(えーっ?)



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