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132、湖上の街ワタガシ 〜行商の相談をする

あけましておめでとうございます♪

今年もよろしくお願いします。

「神戦争を起こさせない方法? そんなこと、できるだか?」


 クマちゃん工房では、僕の言葉に驚いたベアトスさんが、目を見開いている。


「リュックくんと話していて、だいたいの方法も整理できました。ベアトスさんも参加してください」


「いやいや、俺は戦えないだ。ライトさんと同じ落とし物係だけど、俺は、女神様の番犬ではないだ」


 女神様の側近を番犬と呼ぶんだよね。女神様は猫好きだから、番犬という呼び名を嫌がっているんだけど、自然に、そう呼ばれるようになったそうだ。



「発想の転換ですよ。僕は生まれ変わって、地底にいたときに、魔族の考え方を知りました。それに、記憶を失って子供の姿でいた時間が長かったから、前世の感覚が戻っていたんです」


 うん、そうだ。この星で神族として暮らしているうちに、完全に忘れていたことを思い出した。


(チカラは、戦闘力だけじゃない)


 たぶん僕自身が、少し戦う力を得たから気づくことができたんだと思う。思い起こせば、生まれ変わる前は、気持ちに全く余裕がなかった。



「発想を、どう転換するだ? 俺もそれに必要な戦力だか? しかし俺は、ライトさんもよく知っている通り、戦闘力はさっぱりだ」


 ベアトスさんは、思わず身を乗り出している。彼も、神戦争を起こさせたくないんだ。そして以前の僕と同じく、自分の無力さに心を痛めているんだ。


 僕も、たいした力はないけど、普通の冒険者並の戦闘力は、通常時でもあると思う。今はもう、闇を使えない場所で誰かに護衛を頼まなければいけない僕じゃない。


(あっ、だからシャインは……)


 ふと、シャインが寂しそうな顔をしていたことを思い出した。僕が大人の姿に戻ることが嫌みたいだったよな。


 これまで、シャインが僕の護衛をしてくれることが多かった。いつも、張り切っていたよな。その役割が無くなると思って、悲しくなっていたのかな。



「ベアトスさん、他の星に行商に行きませんか?」


「へ? そんな長距離の空間移動は、俺には無理だ。あっ、だから、スチーム星の竜人だか? 行商のために小型の宇宙船を造ってもらうだか?」


(あー、それもいいかも)


「近くの星なら、それもいいですね」


「まさか、星間転移だか? めちゃくちゃ揺れるだよ? 俺でさえ吐きそうになるだ。ライトさんなら、転移酔いで数日寝込むんじゃないだか」


「転移じゃなくて、ワープワームを使います。リュックくんが身軽になれば、アイツらを行商先に連れて行ってくれるから」


「なっ!? 普通のワープワームは大陸間ワープが限界だよ。星間ワープだなんて……いや、天使ちゃん達なら、可能だか。神の能力をいくつも吸収しているだ」


 ベアトスさんは何か引っかかるのか、考え込んでしまった。生首達なら、彼も一緒に連れていくことはできるはずだ。



「ライトさん、ちょっとわからないだ」


「はい、何でも聞いてください」


「なぜ、他の星に行商に行くと、神戦争を起こさせないことになるだ?」


 ベアトスさんは、それを考えようとしてくれていたのか。でも、わからないよね。この世界には、経済的な外交なんて、ないんだから。


 たぶん女神様は、これをやろうとしているのだと思う。だから、観光客や移民の受け入れを積極的にやってるんだ。


 観光だけでは、他の星が潤わない。経済的に発展するためには、輸出入が必要なんだ。



「僕の前世では、一部で戦争が起こってますけど、ほとんどの国には戦乱はないんです。その代わりに、貿易戦争をしていますけど」


「ライトさん、貿易って何だ? 聞いたことないだよ」


「自国の生産物を他国へ売り、他国の生産物を自国が買うんです。そうすることで、自国にはないものを国内で買って使うことができます」


「ほう、物々交換のようなものだか」


「お金で支払いをしますけどね。互いに無い物が手に入り、経済が発展していくんです」


 ベアトスさんは、首を傾げつつ、頷いてくれた。経済と言われても、ピンとこないよね。



「ライトさん、だけど他の星に行商に行って、物がたくさん増えると、それを奪おうとする侵略戦争が起こるだよ」


 うん、そうなりかねない。だけど、それは最初のうちだけだと思う。


「はい、だから、行商に行く星が攻め込まれると、イロハカルティア星から、防衛に行けるんです。交易している星を潰されたら、商売できません。もちろん行商に行くのは、黄の星系だけです」


 ベアトスさんが、パチンと手を打った。


「女神様は動けないだが、商人は動けるだ。商売を邪魔されたくないという大義名分があるだ! ライトさんや俺と商売をする星は、俺達の魔人が守るってことだな」


(うん? 話が少し違うけど)


「たぶん、その噂だけで大丈夫ですよ。女神様なら、他の星の神々に噂をばら撒くのは得意ですからね」


「んだな。妖精族は、そういうところが恐ろしいだよ」


 ベアトスさんは、何度も力強く頷いている。変な噂を流されて苦労したことがあるのかな。



「最初は、そんな感じで、親しい星から行商に行きたいんです。少しずつ行商先を増やしていけば、黄の星系の星は豊かになっていくはずです」


「ライトさん、そうなると、やはり大規模な侵略戦争が起こるだよ。リュックくんとレイだけでは、多くの星は守れないだ」


「中途半端なときが一番危ないですよね。だけど、黄の星系が、圧倒的に大きくなり豊かになれば、世界の勢力図は変わりませんか?」


 ベアトスさんは、ポカンとしている。


(うーむ、伝わらないかな)


 赤の星系よりも、そして青の星系よりも、圧倒的に大きくなれば、簡単には攻め込むことはできないはずだ。


 そもそも、非戦の中立の黄の星系に戦争を仕掛けること自体が、全知全能の創造神から咎められるべきことなんだから。



「ライトさん、わかっただ! この世界すべてを黄の星系にするだな? そうすれば、黄の星系の創造神イロハカルティア様が、神戦争を禁止することができるだ」


「ええっ!? そこまでは、さすがに無理だと思いますよ。青の神ダーラがいる限り、絶対に無理です」


 僕がそう言うと、ベアトスさんはガクリと肩を落とした。


 リュックくんと、ある意味、発想が似ているんだよな。なぜ、すべてに生首達を置いて監視しようとか、すべてを黄の星系にしようだとか言うんだろう?


 すべてを支配しないと安心できないのだろうか。


(うん? もしかして、ダーラも同じ?)


 僕も、これまでの自分の考えを振り返ってみる。僕も……同じだったかもしれない。



「すべてを黄の星系にしなくても大丈夫だと思います。でも、僕の計画には、イロハカルティア星に魅力があると思わせる必要があります。ポーションのある星には、ポーション屋は不要です」


「んだな。とりあえず、やってみないとわからないだ。他の星との商売なんて、考えたこともなかっただ」


「きっと、お互いに良い効果があると思います」


「他の星に行商に行くということは、他の星の鉱石が手に入るということだな。これは、魅力的な探検ができるだ」


(鉱石が好きだよね)


「じゃあ、お金の代わりに、対価を鉱石でもらうのも良いかもしれませんね」


「んだ。銅貨は差がないが、銀貨や金貨は、星によって純度が違うだ。同じように使えることがおかしいと、女神様に言ったことがあるだ」


(えっ? 共通なの?)


 他の星にも、金貨、銀貨、銅貨があるのか。知らなかった。そういえば、バーでは、デザインの違う銀貨や銅貨で支払う人もいるよな。国が違うのかと思っていたけど。



「じゃあ、価値の高い金貨は、星ごとに交換レート制にする方がいいですよね」


「ライトさんの言葉は難しいだ。だけど、女神様には、却下されただ」


「えっ? 純度が違うのにですか?」


「んだ。いちいち細かいことを気にするなと言われただ。きっと、面倒くさいだよ」


(あー、だろうな)



「ライトさんが、ポーションを売るなら、俺は何が良いだか? 武器になるものは売りたくないだが」


「星によって、必要な物が変わると思います。住人の魔力の低い星は、普段から魔道具を使っているかもしれません」


 ベアトスさんは、軽く頷きながらも、もう何を作るかを考えてワクワクしているみたいだ。


「ベアトスさん、その前に、リュックくんを動けるようにしないといけないので、倉庫をお願いします」


「それも考えているだ。女神様にも、協力してもらうだよ。黄の星系全体のことだから、女神様も動いてくれるだ。ちょっと、行ってくるだよ」


 ベアトスさんは立ち上がった。



「あっ、女神様は、いま、ハロイ諸島の大きな無人島にいるみたいです」


「へ? 何かの競争をすると演説していた無人島だか?」


 僕が頷くと、ベアトスさんは、呆れ顔になっていた。だよね、自ら参加するとか、おかしいよね。


「とりあえず、ライトさんは、店に戻ってくれていいだ。ちょっと考えておくだ。あー、その前に、宝珠だな」


 ため息をつくベアトスさんに、軽く会釈をして、僕は生首達を呼んだ。



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