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131、湖上の街ワタガシ 〜クマちゃん工房のベアトス

「おや、ライトさん、久しぶりだね」


 中央の塔2階の冒険者ギルドへ上がっていくと、この街のギルドマスターがいた。塔は、1階から3階が冒険者ギルドになっている。


 女神様が、一番ギルドのランクが高い人にすると決めているから、ちょくちょくギルマスは交代するんだけど、この人はわりと長い。他の星の神だった人だからかな。


「お久しぶりですね。新規登録と、僕の店の依頼をお願いに来ました」


 彼は、青の星系の子供達と、グールに生まれ変わった母親に視線を移した。


「街長が連れてくるということは、訳ありですか」


「ふふっ、ティア様が絡んでます。登録が終わったら、僕の店のミッションを受注してもらってください。銅貨1枚ショップの方でもどちらでも構いません」


「了解です。ライトさんの依頼は、バーの店員募集かな」


(さすが、よくわかっているな)


「そうですね。あとは、バーの再開のお知らせをしてくれる人も募集します。数日以内には、営業を再開するつもりですから」


「わかりました。じゃあ、適当に出しておきますね。新規登録はこちらへどうぞ」


 戸惑う彼らをギルマスに託し、僕は、冒険者ギルドを後にした。



 生首達を呼ぼうとしたら、もう集まってきている。コイツら、予知能力まで備わったのかも。


 生首達のクッションに乗ると、何も指示していないのに、目的の場所へワープした。 


(やっぱ、予知能力?)



 ◇◇◇



 ワープを終えたのに、なんだかヘラヘラと笑いながら、生首達は、僕の周りにまとわりついている。


 僕の姿が、元に戻ったから嬉しいのかもしれないな。街の中にいると、意味なくどんどん集まって来る。


(まぁ、放っておこう)



 クマさんマークの工房の扉を開くと、同じ神族のベアトスさんがいた。彼の居場所はなかなか掴めないのに、生首達はさすがだな。


「あっ、ライトさん。元に戻っただか」


「ベアトスさん、ご心配をおかけしました。だいたいは記憶も戻っていると思います」


「そうか、良かっただ。あぁ、綺麗な竜を連れた竜人が、第8倉庫の方に来てるだよ。魔道具についての知識が豊富で、驚いただよ」


(スチーム星の人達だね)


「遭難者がスチーム星に飛ばされていた縁ですよ。あの、ベアトスさん、ちょっと相談があるんですけど」


 僕がそう言うと、ベアトスさんは何かの魔道具を操作した。防音系の魔道具だろうな。



「これでいいだ。リュックくんの異空間ストックの件だか?」


(えっ? 知ってるんだ)


「はい、それもあります。リュックくんから聞いてます?」


「いや、リュックくんじゃないだ。ウチのレイが言ってただ。リュックくんが異空間ストックを増やしすぎて動けなくなっているって笑ってただよ」


 レイというのは、ベアトスさんが女神様から与えられた魔法袋が進化した魔人なんだ。リュックくんと違って、性別はない。女性の姿をしていることが多いんだけど。


「あはは、レイさんは、リュックくんをライバル視しているからですよね」


「ほんと、レイは性格が悪くて困るだ。レイの魔法袋の容量は無限だけど、リュックくんも、同じくらいの異空間ストックを増やしたって言ってただ。そしたら、維持だけで苦労して、動けなくなったことが楽しいらしいだ」


(まぁ、間抜けだもんね)


「あはは、そうでしたか。あの、僕の魔力では、リュックくんの異空間ストックを預かる魔法袋は、無理なんです。何とかなりません?」


「湖底の町なら、大丈夫だ。俺の倉庫もたくさん作ってあるだ。女神の城の居住区に作っていた倉庫は、邪魔だと言われて、居住区の外の畑の中に、放り出されただ」


 ベアトスさんは、温厚なクマに似たおじさんだけど、魔道具の件になると、怒るんだよな。


「勝手にですか?」


「んだ。ある日、突然、休耕中の畑に移転されていただ。女神様がやることは、むちゃくちゃだ。畑の湿気のせいで、かなりの鉱石がボツになっただ」


(あー、それなら僕でも怒る)


「はぁ……女神様は、叱られることばかりしますよね。ウチの店も、開店できないほどぐっちゃぐちゃです。まぁ、子供達の秘密基地になっていたみたいですが」


「一度、みっちりお仕置きする方がいいだな。ナタリーさんも、ぶち切れていただ」


 ベアトスさんは、本気でお仕置きしそうで怖い。


「ふふっ、でも、こうして話していると、スッキリしますね」


「んだな。ライトさんは、俺と同じ落とし物係だから、特に共感できる点が多いだ」


 ベアトスさんは、いつもの人の良さそうな笑顔に戻った。やはり、ガス抜きは必要だよね。女神様は、わざと、愚痴られるようなことばかりしている気がするけど。




 工房の人が近寄ってきて、チカチカと光を当ててくる。合図だろうか?


「ライトさん、ちょっと防音の魔道具を切るだ」


「あ、はい、どうぞ」


 僕達の付近だけに効果のある魔道具みたいだ。ベアトスさんが魔道具を操作すると、工房の人の声が聞こえる。



「街長さんだから、大丈夫かと思って。お話中すみません」


「構わないだ。何の用だ?」


「はい、ロバタージュのギルドから宝珠が届きました。各地の宝珠が減っているので、補充が必要だとおっしゃってて……」


「あぁ、わかっただ。後ですぐにやっておくだ」


 工房の人は、魔法袋をベアトスさんに渡した。マナを通さない特殊な魔法袋だな。


 ベアトスさんは、再び、防音の魔道具を操作した。



「ライトさん、もういいだよ」


「ベアトスさん、宝珠を預かっているんですか? 落とし物係は、宝玉集めだけですよね?」


 そう尋ねると、ベアトスさんは、大きなため息をついた。


「ライトさん、宝珠は、俺が依頼を出していることにされてるだよ」


「えっ? 以前は、女神様の落とし物ミッションでしたよね?」


「んだ。女神様は、面倒くさくなったみたいだ。宝珠から得られるエネルギーは少ないから、俺の工房の動力源にするということになっただ。だけど、それは嘘だ。俺に集めさせて、城のクリスタルに補充させるだよ」



 宝珠は、女神様が城からばら撒く小さな石なんだ。地上のマナを吸収すると宝石のように輝く。これを、冒険者ギルドのミッションとして、冒険者に集めてもらっているんだ。


 冒険者は、これでマナを集めていることは知らない。単純に、女神様が城から宝石を、地上に落っことしたと思っている。


 宝珠だとは気づかず、綺麗な石として、住人がアクセサリーにしていることもあるんだ。



 一方で、宝玉は、地上の人の目には見えない。神族の『眼』には、光る強いマナを蓄えた玉に見えるが、神族以外には、ただの石ころにしか見えないんだ。


 この宝玉を集めるのが、女神様の落とし物係。僕を含めて今7人の落とし物係がいる。生意気な後輩アダンが、今、ダントツで集めていると思う。


 これは、女神様の城の巨大なクリスタルにエネルギーを補充する、重要な役割のあるものなんだ。星が生み出し大気に消えてしまううちの一部を、宝玉を使って女神様は回収しているんだ。



「もしかして、ベアトスさんも最近、宝玉集めをしていないからですか?」


「んだ。俺は最古の落とし物係だから、引退させてもらいたいだ。ライトさんも引退を拒否されてるだな? 落とし物係は、新しい転生者の仕事なのに、何かがおかしいだ」


「あー、僕も、そういえば、全く集めてないですね。闇竜のアダンは、まだずっと集めているみたいだけど」


「んだな。アダンは、宝玉集めが好きみたいだな。たぶん、天使ちゃん達が褒めるからだよ。女神様が、宝玉集めのときにはアダンにも、天使ちゃんを使わせてるだ」


(あー、確かに)


 アダンは、かわいいものが好きだもんな。ダークドラゴンが、かわいいグッズに笑みを浮かべるだなんて、いまだに信じられないけど。


「道案内に生首達を使ってるんですね。ワープには使ってないと思いますけど」


 そして、見つけた後は、生首達を腕の中にキュッと抱きしめて、お礼を言ってるんだよね、あのアダンが。




「ライトさん、じゃ、湖底に倉庫を作るってことでいいだか?」


「あ、はい。ついつい、話がそれてしまいましたね」


「んだな。久しぶりに話せて楽しいから、いいだが。倉庫の容量は、どれくらいだか?」


「うーん、リュックくんは、10エリアまでにしろと言ってたんだけど……」


「リュックくんの異空間ストックは、いくつあるだ? レイは、同じくらい詰め込んでいると笑ってただが、500エリアを超えただか?」


「いま、999エリアだと言ってました」


 一瞬、ベアトスさんは固まっている。だよね、僕もびっくりしたもんな。


「そ、それは、湖底では無理かもしれないだ。一つの倉庫で、圧縮しても10エリア分だ。ポーションは、圧縮しにくいから5エリア分だな。在庫を減らす方法を考えるだよ」


「はい、それについては、考えています。ベアトスさんも、一緒にいかがですか?」


「何をするだ?」


「僕、神戦争を起こさせない方法を、考えたんですよ」



浴衣を着た猫耳の少女が現れた!


作者「あっ、もうすぐお正月だから、お年玉を持ってきてくれたのですか?」


ティア「ちがーう! 妾は、おこづかいが少ないのじゃ。お年玉が欲しいならライトに言うのじゃ」


作者「ええ〜っ」


ティア「そんなことより、見るのじゃ! 祭りの着物じゃぞ」


作者「確かに、浴衣ですね。お正月らしくありません」


ティア「作者が、お話をさっさと終わらせようとしておるのじゃ。賢い子は、気づいておるぞっ」


作者「ちょ、いきなり爆弾発言!? そ、そんな言い方……。サブタイトルを見てくださいよ。この続編は、ダーラとの決戦後、ライトが今まで知らなかった世界を見て、すっごいアイデアを思いつく……」


ティア「嫌じゃ」


作者「でも、その、これで会えなくなるわけではなくてですね……」


ティア「知っておる。じゃが、お話を読んでいる子は、不安になっておるのじゃ。不安で、年越しそばがのどに詰まってしまったら、どうするのじゃ?」


作者「いや、あの……」


ティア「いつじゃ?」


作者「はい? 何がですか?」


ティア「いつから、次のお話が始まるのじゃ?」


作者「ちょ、まだ、この物語は終わっていませんから、完結時の後書きでお知らせします」


ティア「ダメじゃ! それでは年越しそばが、のどに詰まってしまうのじゃ。いつから続々編を始めるのじゃ?」


作者「ええっと……」


ティア「ほれほれ、いつじゃ?」


作者「1年くらい……」


ティア「ちがーう! 見るのじゃ! 妾は何を着ておる?」


作者「浴衣ですね」


ティア「うむ。着替えておいたのじゃ。良い子の皆、よく聞くのじゃ! 作者は、しらばっくれておるが、続々編を浴衣の季節から始めるつもりじゃぞ」


作者「ちょ、まだ、これから構想を練って書き溜めも……」


ティア「さっさと、ねりねりカキカキすれば良いのじゃ」


作者「秋くらいかも……」


ティア「ダメじゃ!」


作者「どうしてですか」


ティア「妾は、ハロウィンの服を持っておらぬ」


作者「じゃあ、ゾンビ服をあげます」


ティア「ゾンビ服は、かわいくないのじゃ」


作者「猫耳もつけます!」


ティア「うぬぬぬ……猫をゾンビにしてはいけないのじゃ! よいな、浴衣の季節じゃからなっ」


腕を振り回して作者を威嚇すると、猫耳の少女は、タタタと走り去ってしまった。


◇◇◇


皆様、今年、本作を見つけて読んでいただき、ありがとうございました。お話はもう少し続きますが、サブタイトルの回収で、続編は完結とさせていただく予定です。


続々編は、神族の街ワタガシでのスローライフと、他の星へのポーションの行商のお話になります。そして、因縁の青の神ダーラとの関係に決着も。


以上、長すぎる予告でした(〃艸〃)


金土お休み。

次回は、1月2日(日)に更新予定です。


皆様、良いお年をお迎えください♪


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