126、ハロイ島の草原 〜リュックくんと話し合う
「なんじゃ!? いま、妾に黙って、内緒話をしておったじゃろ」
(あれ? 現れた)
リュックくんの私用鞄に、ポーションを詰め込んでいると、猫耳の少女が現れた。
「ライト、腹黒女神が、近寄って来たじゃねーか」
「ふふっ、本当だね。店のソフトクリームの機械を弁償しに来てくれたのかな」
僕がそう言うと、猫耳の少女は、しらじらしい知らんぷりだ。
以前の僕なら、ただ振り回されて疲れると思っていたけど……生まれ変わって、少し印象が変わったかな。
(なんだか、かわいらしく見えてしまう)
「ティア様、これあげますから、海の色を何とかしてください」
たぶん、女神様は、これが目的で現れたんだよね。まぁ、リュックくんが復活したから、様子を見に来たのかもしれないけど。
僕は、猫耳の少女の目の前に、カルーアミルク風味の魔ポーションをチラつかせる。
「のわっ、コーヒー牛乳ではないか! 海の色も、コーヒー牛乳色じゃな」
(芝居が下手くそだよね)
いま、初めて気づいたかのような……まぁ、いっか。
もし、本当に知らなかったら、絶対にもっと騒ぐもんな。誰が海をチョコレート色、いやコーヒー牛乳色にしたかも、わかっているらしい。
「じゃが、1本か? たんまりと余っているのではないのか?」
僕の手元から顔を覗き込む猫耳の少女……。以前の僕なら、少しイラつくところだけど、今の僕は違う。
「ティア様、そんなに欲しいなら、無条件でたくさん差し上げましょうか?」
「嫌じゃ! 妾は、正当な報酬を要求しておるのじゃ」
(こういうとこ、不思議だよね)
正当な報酬と言いつつ、ゴネたり値切ったりするんだよな。たぶん、2本目を勝ち取るという遊びなんだと思う。
「じゃあ、1本ですね。ティア様なら、10%も魔力を使わないはずです。カルーアミルク風味の魔ポーションは、魔力10%回復ですよ?」
「じゃが、念のためじゃ。飲もうとして蓋を開けた後に、うっかり転んでしまうかもしれぬではないか」
(苦しい言い訳だな)
「それなら、僕が飲ませてあげましょうか?」
すると、猫耳の少女は、ワナワナと震えている。ふふっ、どう言い逃れるのかな。
「嫌じゃ! ライトがこぼすかもしれないのじゃ」
「じゃあ、ストローをつけましょう。絶対にこぼさないように」
「嫌じゃ!」
(あれ? 言い訳がない)
「どうして嫌なんですか?」
「うぬぬぬ……コーヒー牛乳は、せっかく美味なのに、ストローで飲むと味が落ちてしまうのじゃ!」
「それはおかしいですねぇ。僕の前世では、コーヒー牛乳にストローをつけて販売している物もありますよ」
「ぬわっ? うぬぬ……それは、ただのコーヒー牛乳じゃろ。これは、魔ポーションじゃ。違うのじゃ!」
「飲み方に違いはありませんよ。えーっと、ストローは……」
魔法袋を探る仕草をすると、猫耳の少女は、パッと、カルーアミルク風味の魔ポーションを、僕の手から奪った。
「ライトは、しょぼいのじゃっ!!」
くるりと背を向け、海に向かって走る猫耳の少女。
(ふふっ、勝ったな)
「ライト、おまえ、忍耐強くなってねーか?」
リュックくんは、私用の鞄を片付けながら、そう呟いた。
「そう? 生まれ変わってすぐのときは、女神様に世話をされてたからかもね」
「ふぅん、まぁ、3日もすれば、またイラついて、怖い笑顔を張りつけて喋ってるんじゃねーか」
「そうかもね〜」
(3日も、もたないかもしれないけど)
「アイツ、海は放置して、無人島へ行ったみたいだぜ」
「えっ? 無人島は、門の命名権争いが始まってるよね?」
「参加するんじゃねーか?」
「えっ? 女神様が? なぜ?」
「オレが知るわけねーだろ」
大丈夫なのだろうか。地底の戦乱を思い出し、嫌な汗が流れてくる。女神様にもしものことがあったら……。
まぁ、万が一、死んでしまっても、神は自分の星で復活するんだろうけど。
「ライト、腹黒女神が死ぬわけねーだろ。100年前にやったのと同じ方法で、大幅に魔力量を増やしたみてーだぜ」
「黄色の太陽を創ったときみたいに?」
「あぁ、星の保護結界は消えたが、アイツは、城でも、ずっとあの姿だ」
「猫耳カチューシャが気に入ってるからでしょ?」
「それもあるかもしれねーが、ずっと眠っていない。たぶん、まだ成長が続いてるんだぜ」
もしかして、まだ、子供の姿なのだろうか。
女神様は、消滅の危険をおかして、星の保護結界に自分の生命エネルギーを利用したことで、生まれ変わったのだろう。
赤ん坊からやり直すから、より一層成長できると言っていた。僕も、それは身をもって実感したけど。
「女神様は、次は何を狙ってるのかな?」
「神々に攻め込まれることがないほど、強くなりてーんだろ。妖精族だから、無茶なことだぜ」
リュックくんは、口では、女神様のことをボロカスに言うけど、でも、僕よりも深く理解しているんだよな。
「チカラでは抑えられないでしょ。でも戦闘力だけが、チカラじゃないよね」
「あぁ? ライト、意味わからねーけど」
僕は、空を見上げる。太陽が沈んでも別の太陽が昇るんだよな。無数の星には、太陽から遠く離れていると、ほとんど夜ばかりの暗い星もある。
スチーム星が、黄の太陽系の一番端っこだっけ。厚い雲に覆われていたのは、太陽の光が届かないからだよな。
(だから、弱いんだ)
「リュックくん、太陽から離れた星って、マナが薄いよね?」
「まぁ、そーだな。オレは、吸収できねーが、カースは、そんなこと言ってた。マナが薄いと、寝てもなかなか回復しねーだろ? だから、カースは、スチーム星には行きたくねーんだよ」
(でも、行ってたんだよね)
「リュックくん、スチーム星にポーションの行商に行こうか」
「は? いちいち、あんなデカイ宇宙船を動かすのか? それこそ、エネルギーの無駄遣いだろ」
「やっぱり? 遠すぎるよね。でも転移は無理なんだよな」
「じゃ、ワープワームを使えば……あっ! アイツらをあちこちの星に棲ませて、監視すればいいんじゃねーの?」
「そんなことをしたら、その星の神に生首達が殺されるだけじゃん」
僕の反論で、リュックくんはガクリと肩を落としている。それだけ、真剣に考えてくれてるんだよね。
(でも、ワープワームかぁ)
リュックくんのように監視目的ではなく、ワープ目的だとしたら、話は変わるかも。
生首達は、僕の神殺しによる神の能力を、いくつか得ている。だから、通常のワープワームとは、別の種族だと言えるほどの違いがあるんだ。
僕は、再び空を見上げた。
(この距離も可能かも)
生首達は、同じ一族がいる場所は、どんな場所にでもワープができる。ということは……。
「リュックくん、あの星まで行けるよね?」
「は? 突然、何を言ってんだ? オレは、身軽なら、時も次元も越えて、昭和の地球にだって行けるんだぜ?」
「身軽? あー、異空間ストックか。ベアトスさんに、魔法袋を譲ってもらおうかな」
「あぁ、異空間ストックは、10エリアまでにしてくれ」
「ええっ? いま、1,000あるんだっけ」
「1エリアを空けたが、維持にめちゃくちゃ魔力を取られるんだからな」
巨大な魔法袋を確認すると、中身は90%近く入ってる。1エリア分の収納にこれ1つ使うなら……無理だな。
「僕の魔力では、魔法袋をそんなに増やせないよね」
「だから、作りすぎだって、言ってただろーが」
(うん、言ってた気はする)
「ベアトスさんに相談に行こうかな。異空間ストックを減らせたら、生首達を親しい星に連れて行ってくれる?」
「親しい国なら、偵察する必要は、ねーだろ」
「違うよ。ポーションを行商しに行くんだってば」
リュックくんは、キョトンとした変な顔をして固まっている。そして、フッと笑った。何、その顔? ちょっとイケメンだからって、ずるいんだけど?
「ふーん。全部の星にワープワームを配置できれば、神戦争は無くなるかもな」
「へ? リュックくん、何を言ってんの?」
「だって、そーだろ? 腹黒女神でさえ、あんなに必死に欲しがるんだぜ? ポーションが存在する星は、わずかだからな」
「僕は、黄の星系だけに行商に行けば、経済的に豊かになる手助けができると思ってるんだ。体力10%回復のモヒート風味のポーションがあるだけでも、生活は変わると思う」
「あぁ、そっちの作戦か。腹黒女神が喜びそーだな。でも、黄の星系がデカくなってきたから、また神戦争が起こってるんだぜ?」
「うん、わかってる。デカイだけじゃだめなんだよ。圧倒的にデカくならないとさ」
僕がそう言うと、リュックくんは、ニヤッと笑った。
(僕の考えを知ってるはずだもんね)
リュックくんと話していると、頭の整理ができてきた。まずは、親しい星から行ってみればいいよな。
「リュックくん、とりあえず、神族の街ワタガシに戻ろうか」
無人島も気になるけど、大きな魔法攻撃は起こっていないから、大丈夫だよね。
リュックくんは、僕の肩に戻ってきた。
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金土お休み。
次回は、12月26日(日)に更新予定です。
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