表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/145

123、ハロイ島の草原 〜リュックの第2進化

 チゲ平原での子供会議は、お開きとなった。それと同時に、チゲ平原で続いていたパーティも終了を告げられた。


 迷宮都市は、チゲ平原に置いておくようだ。チゲ平原の地面に固定するために、女神様の城から、何十人もの人が派遣されている。


 この迷宮都市は、スチーム星の神が独自の技術を使って、巨大な宇宙船に作り替えたものだ。古い門の近くのチゲ平原は、宇宙船置き場としては最適だと、僕も思う。



 子供達との話し合いは、僕としては、大きな収穫があった。


 僕が提案しようとしたことと、同じ結論に導かれたけど、子供達が参加したことで、きっと神族の街ワタガシでは、積極的な協力が得られることになると思う。


 門の命名権だなんて、僕にはそんな発想はなかった。それに、他の星の人だけの店という発想も。




「ライト、竜人さん達を、ハロイ島に連れていくのじゃ。神族の街ワタガシには、ドラゴン族のマーテルもいるのじゃ」


 猫耳の少女は、僕を見上げて、手をブンブン振り回しながら、そう命じた。なぜか威嚇のポーズなんだよな。まぁ、昨日までは、僕の方がチビだったためかもしれない。


「わかりました。ティア様は、城に戻るのですね」


「ふむ、じゃなきゃ、お知らせができぬからな」


 そう言うと、猫耳の少女は、姿を消した。



「じゃあ、ハロイ島へ戻る人は、送ります」


 僕は、遭難者や、パーティに来ていた人達に声をかけた。


「綺麗な竜人さんと一緒?」


「はい、竜人さん達も、神族の街ワタガシに招待しますよ。この星で一番、魔道具の工房が密集している街ですし」


「クマちゃんマークの工房は、いっぱいあるよね」


 子供達がそう言うと、スチーム星の住人達は、目を輝かせている。ロバート達が、うっかり神スチーム様の指示をしゃべってしまったことを、大人達は知らない。


「へぇ、魔道具の工房ですか。スチーム星も魔道具は、発展しているんですよ」


「スチーム星の技術は、宇宙船でわかりますよ。僕は、魔道具のことは、あまり知らないので、興味があるなら工房を訪ねてみればいいと思います」


(芝居が上手いな)


 スチーム星の人達は、興味津々な観光客のように振る舞っている。ロバート達からの話を知らなかったら、気づかないくらい自然だ。



 僕は、人数分の生首達を呼んだ。


 迷宮都市の中でも、ふわふわと遊んでいたようだけど、アイツらは、ワープワームだ。僕は、主にワープ移動にしか使わないけど、他のワープワームの所有者は、偵察や諜報に利用している。


 だから、いつまでも迷宮都市に居させるわけにもいかない。迷宮都市の人達は、僕に見張られていると感じるからね。



 戸惑うスチーム星の人達に、子供達が生首達のクッションに乗るように指示している。


 神族の街ワタガシの子供達は、女神様に世話をされているからか、世話好きなんだよな。無防備すぎる気もするけど。


「父さん、みんな乗ったよ」


「ルシア、了解」


 僕が最後にクッションに乗ると、ふわりと僅かに浮上し、目に映る景色が変わった。



 ◇◇◇



(あぁ、懐かしい)


 チゲ平原の草原とは違う緑の草原が広がっている。そして大きな湖の上に、神族の街ワタガシがある。


「さぁ、皆さん、神族の街ワタガシですよ〜。身分証のない竜人さん達は、ご案内します」


 ルシアが、生首達のワープで移動してきた人達を、誘導してくれている。ふふっ、シャインも張り切って誘導しているね。


(もう、二人の記憶も、ちゃんと戻ってる)


 大切な家族の記憶だ。愛しい気持ちと、失くさなくて良かったという安心感で、なんだか涙が出そうになる。



「すごい! 湖に浮かぶ街なんですね」


「島じゃなくて、浮かんでいる?」


 仕組みが気になるのか、スチーム星の大人達は、湖を覗き込んでいる。


「浮かんでいるのですね。湖の底にも街がある」


「どんな魔道具を使っているんだろう」



 琵琶湖よりも大きいかもしれない湖の湖底には、神族だけの湖底都市がある。これは、ワタガシで働く人達の住居として利用されている。


 湖の上に女神様が作った街が、僕が街長を務める神族の街ワタガシなんだ。湖に浮かんでいるんだよね。


 街の中央には高い塔があり、その近くには、女神様が学長を務める魔導学校がある。学びたい人は、種族に関係なく、街に住むことができる。


 最近では、他の星から移住してきた神々まで、魔導学校に通っているようだ。この星の文化を学びたいのか、知り合いを増やしたいのか、まぁ、理由は様々だろうな。


 この魔導学校こそが、女神様がこの街を作った一番の理由なんだと思う。すべての人が身分や種族に関係なく、互いに笑える場所。それに、基本的な学問を身につけることで、何が悪いことなのかを教える場所だ。




「やぁ、ライトさん、戻ったね」


 ふわっと甘い香りをさせて、僕の背後から抱きついてきた人……。まぁ、匂いでわかるんだけど、これ、やめてほしいんだよな。


 以前、アトラ様が変な誤解をして、ややこしくなったことがあった。彼が変なことばかり言って、彼女をからかうからなんだけど。



「精霊ヲカシノ様、それ、やめてくださいって言いましたよね?」


「ふふっ、そんな前のことなんて、忘れちゃったよ。みんなも、おかえりなさい。あとで、クッキーを撒きにいくね〜」


「わぁっ! ヲカシノ様だぁ!」


「クッキー、待ってる。どこで撒くの?」


「足湯のある広場だよね?」


 子供達や遭難者の女性達が、彼のクッキー話に食いついた。


「うん、足湯の近くは怒られるから、ライトさんのバーの前にしようかな」


「わかったぁ。待ってる」



 10歳くらいの少年の姿をした彼は、この場所を守ってくれている精霊ヲカシノ様だ。幻想の世界ヲカシノ山にいる精霊なんだけど、最近は、ずっと、このハロイ島の門を守ってくれている。


 見た目が、アイドル系のかわいいイケメンだから、神族の街ワタガシでは、ヲカシノ様のファンクラブができているそうだ。戦闘狂なんだけどな。


 そういえば、ドラゴン族の城に預けてきた、アマゾネス国のミューさんも、ヲカシノ様のファンクラブの会員だったはずだ。


 僕が経営するバーに立ち寄ると、彼女はいつも、ヲカシノ様ファングッズを見せてくれるんだよね。


 アマゾネスの王女デイジーさんの母親のことも、思い出した。現女王のローズさんだ。彼女も、この街の魔導学校の卒業生なんだ。


 ローズさんは、リュックくんと、この街で出会ったんだよね。まさか魔人のリュックくんが、誰かに恋愛感情を抱くほど成長するとは思わなかった。


(ふふっ、なんだか、楽しい)


 こんなことを考えていると、リュックくんはすぐに怒ってくる。魔人には感情がないと言われていたけど、リュックくんは特別なんだよな。



(あれ? 変だな)


 そういえば、リュックくんがいつからか、何も話さないんだよな。まさか、かなりの負担をかけてしまったから、壊れてないよな?


 リュックくんは、僕の魔力で育った魔道具だから、僕が生きている限り、消滅することはないはずだけど……。


 地底のニクレア池で、僕の姿が戻った後、僕からかなりの魔力を吸収していた。もしかして、リュックくんは、飢餓状態だったのかもしれない。



(リュックくん!)


 そう呼ぶと、肩にリュックが現れた。ずしりと重い。


 草原にリュックをおろして、ふと、形が変わっていることに気づいた。登山に行くときのような大きなリュックだ。


「あっ、リュックくん、これ、第2進化の姿じゃん」


 そう呼びかけても返事がない。


(どうしたんだ? ちょ……)


 僕は、嫌な汗が出てきた。もしかして、本当に壊れて、ただの魔道具リュックになってしまったんじゃないだろうか。


 リュックを開けてみると、中身はぎっしりと入っている。どうしようか。とりあえず、店に……と思ったけど、重くて持てないんだよな。


 重力魔法を使うか。だけど……。



「ライト、中身を出してやれよ。限界を超えたみたいだぜ」


「カース!! そうなの?」


 目の前に、カースが現れた。なんだか、面白そうな顔をしている。


「ふん、記憶も、だいたい戻ったか。いろいろと絡まってたから、苦労したぜ」


「そっか、ありがとう。リュックくんは、どうなってんの? 壊れてないよね?」


「は? どうすれば壊せるのか、俺が知りたいぜ。ただ、異空間へのストックが増えすぎて、その維持だけで限界らしいな」


 そう言うと、カースは、ポンと袋を放り投げてきた。


(魔法袋かな)


「カース、これ、くれるの?」


「は? おまえの魔法袋だろ。俺は、こんなに魔力を取られる魔法袋なんて持ってないぜ」


 装備してみると、グンと魔力を吸われた。あぁ、これは、帝国側で見つかった大容量の魔法袋だ。普通の人が装備すると魔力切れで倒れるから、呪具だと言われていたものだ。


「確かに、これは、僕のものかも」


「長い間、使わないと使えなくなるって言って、リュックが俺に預けてたんだ」


「そっか、ありがとう」


 僕は、リュックの中身の移し替えを始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ