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122、チゲ平原 〜子供達の会議

「ティアちゃん、ライトさんが困ってるよ?」


「お話があるって言ってるもん」


 子供達が、僕と女神様の間に入って、仲介を始めた。すると、ニッと女神様の口角が上がったように見える。


「ライトは、また、つまらぬことを言うのじゃ。皆が、わらわの代わりに聞いてくれたら良いのじゃ」


 拗ねているのか、何かの教育か……。まぁ、どちらにしても、ハロイ島に関わることだ。神族の街の子供にも理解できるように話せということかな。



「ライトさん、ティアちゃんが拗ねちゃったぁ」


「叱られたから拗ねちゃったの。でも、勝手に持ってきちゃダメなんだよね」


「あたいが代わりに聞くよ?」


 さっきの小芝居は、子供達にキチンと伝わっているようだ。こういうことをすると大人に叱られると、女神様は自ら実演して、子供達に見せているんだよね。


 だけど、叱られて拗ねるのは良いのかな? あ、これもまだ、小芝居が続いているのか。ケンカの仲裁方法か何かを、学ばせる気なのかもしれない。



 ハロイ島の神族の街ワタガシに住む子供達が、僕を気遣うように見上げてくる。


(そっか、見上げられるんだよな)



 生まれ変わってから、ずっと幼児の姿だったから、なんだか違和感さえ感じる。だけど、僕は子供じゃない。記憶が戻り、身体の大きさも戻ったけど、感覚がまだ追いつかないんだよね。


 僕が幼児の姿をしていたことに、全く気づいていない子もいる。僕は、以前のように街長として、キチンと話せるのだろうか。


(僕は、どうやって、接していたっけ?)


 そんなこと、考えたこともなかった。だけど、僕がこうして今、考えている頭の中を女神様は、覗いているはずだ。


 女神様は、ずっと、子供達に寄り添ってきたもんな。


(精神年齢が近いのかもしれないけど)



「ライトさん、大丈夫?」


「なんだか、変だよ? ぼくも話を聞くよ?」


 僕が黙っていると、心配そうに見上げる子供達の数が増えてきた。僕は、ちょっと気恥ずかしい気分になってくる。でも、この子達の将来を守るのは、大人の大切な役目なんだと、ひしひしと感じる。


(そっか、だから女神様は……)


 いつも子供達の近くにいるのは、もしかすると、逆に、子供達から勇気をもらっているのかもしれない。


 この100年、いや、もっとかな? 女神様の心労を考えると、想像を絶するほどの大きく重苦しいものだよね。




「皆さん、僕の話を聞いてくれますか?」


「うん、聞いてあげる〜!!」


 僕の問いかけに、子供達は、キリッとした顔で頷いている。少し離れた場所で、拗ねた表情の猫耳の少女の近くにいる子も、頷いてくれているんだよね。


(子供に理解できるように、話さなきゃ)



「皆さん、最近、ちょっと戦乱が多いですよね。他の星からの侵略者も来るし、地底では魔族が争ってるし」


 子供達は、不安げな表情を浮かべた。猫耳の少女の舌打ちが聞こえた。僕の話し方がマズかったみたいだ。


「そこで、僕は、考えたんです。地底で争ってる魔族のケンカを利用して、星の門があるハロイ島の警備強化ができないかなって」


 すると、子供達の表情は、パッと明るくなった。


(うん? なぜ急に?)


「ライトさん、魔族を警備隊長にするの?」


「警備隊長の座をかけて、ケンカになっちゃう」


「魔族が警備なんかしないよ。でも、隊長にはなりたいかも」


(なんだか、子供達が……)


 急に活発に議論を始めた。



 すると、猫耳の少女も、タタタと近寄ってくる。女神様は、これを狙っていたのか。


「地底におる魔族は、ハロイ島で、すでにケンカしておるのじゃ。じゃが、自分の領地が攻め込まれなければ、無関心じゃぞ」


「あっ、ティアちゃんのご機嫌がなおった〜」


「ティアちゃん、魔族は領地を守るよね。でも、隊長も好きだよね」


「うむ。魔族は、タイガみたいな脳筋じゃからな。強いことや、格にこだわるのじゃ」


「タイガさんは、強いもんね〜」


「タイガさんは魔族じゃないよ。神族だよ」


「ふむ、よくわかっておるな。タイガは神族なのに、脳筋なのじゃ」


「きゃはは、よくわかんないけど、面白〜い」


 女神様が会話に加わると、子供達の笑顔が輝く。さすがだな。僕には、到底かなわない。



「隊長というと、何かの隊のリーダーじゃぞ? 何の隊にするのじゃ?」


「ハロイ島を守る隊!」


「魔族は、自分の領地しか守らないんだよ?」


「じゃあ、門を守る隊!」


「だから、自分の領地しか守らないってば」


「えー、じゃあ、どうするの〜。隊の名前が決まらないと、隊長になれないよ?」


 子供達の議論は、意味がないように聞こえる。だけど、女神様は、真剣に耳を傾けているんだよね。これも、何かの教育だろうけど。



「ふむ、隊じゃなくて、門にするか。門を守りたくなるには、どうすれば良いか、考えてみるのじゃ」


 女神様が、話の方向を変えた。


「門を守ると尊敬されるよ?」


「それでは、魔族は動かないんじゃねぇか?」


「門番みたいだもんね。地底の門番は強い魔族だけど、兵みたいだもん」


「兵だったら、尊敬されてもあまり嬉しくないよね」


「門番じゃ、ダメだよ」


「守護獣みたいな感じは?」


「守護獣は、狼と虎、仲が悪いよ」


「精霊様の配下だから、魔族は、配下にはなりたくないよ」


 子供達からは、いろいろな意見が出てくる。意味不明なものもあるけど、話の中には、ヒントもある。



「皆さん、門番じゃなくて、門を守りたくなるのは、どんな人ですか?」


 僕がそう尋ねると、猫耳の少女はニッと笑った。子供達の議論を活かそうとする僕の心を見抜いたのかな。


「ライトさん、門が領地なら守るよ」


「えー、門がある草原は、精霊ヲカシノ様の領地だよ?」


「精霊の領地を魔族が奪うと、またケンカになっちゃう」


「ヲカシノ様が、マシュマロを降らせると大変だよ」


「精霊ルー様が出てきちゃう。ハロイ島が凍っちゃうよ」


「仲が悪いもんね〜」


「でも、精霊ルーちゃんは、かわいいよ〜」


 話が逸れてきた。確かに、門が領地なら、魔族は守ろうとするよな。だけど、そうなると、ハロイの神族の街を囲む草原で、戦乱が起こりかねない。



「そういえば、星の門には、名前がないのじゃ」


 猫耳の少女がポツリと呟いた。


(名前? あぁ、命名権!?)


 僕がそれに気づくと、女神様の口角が上がる。確かに、それは、名誉なことだ。格を重んじる魔族も、飛びつくかもしれない。


「ティアちゃん、じゃあ、門の名前を募集するの?」


「違うだろ。門番の名前を門の名前にするんだよ」


「えっ? あたしの名前の門?」


「レイラは、子供だから、まだ門番にはなれないだろ」


「あっ、そっか。でも、あたしの名前の門になったら照れちゃう」


「ならないから安心しろ」


「魔族も、照れちゃうかな?」


「照れちゃうだろ」


 猫耳の少女は、満足げに頷いている。そして、僕の方を向いた。アゴでほれほれと促されるんだけど……。



「皆さん、じゃあ、門の名前を付ける名誉を与えれば、魔族は門を守ってくれるでしょうか」


「うん、照れちゃうけどね」


「でも、草原でケンカしたら、ヲカシノ様がマシュマロの雨を降らせちゃうよ」


「じゃあ、無人島がいいんじゃない?」


「ハロイ諸島?」


「無人島になってるとこって、海が荒れてるよ?」


「近づけないよね?」


「強い魔族なら近づけるんじゃない?」


「渦巻きに囲まれてる島とか、いいかも」


「海が荒れすぎてるから、近づけないよ?」


「でも、タイガさんは、近づけるよ? ナタリーさんに怒られたら、あの島で昼寝するって言ってた」


(すごい話まで、出てきた)


 子供達の情報網って、とんでもないな。


 話が逸れて、昼寝で盛り上がり始めている。女神様は、そんな意味のない雑談も、聞いているんだよね。


 僕が提案しようとしていたことが、子供達の口から出てきた。もちろん、そんな風に、話を誘導しているのは女神様だ。でも、門の名前の命名権を争うという発想は、子供達の雑談の中から、女神様がひらめいたのだろう。



 いつのまにか、無人島でのうんこの話になっている。


「あの島で、うんこをすると海の渦巻きの中に……」


「海に、うんこパフェができちゃう」


「きゃはは、魔族が集まったら、海が、うんこパフェだらけになるよ」


「バカか。うんこパフェは食べられるけど、うんこは食べられないぞ」


「きゃはは、やーだ、きたな〜い」


(ハロイ島の子供達は、うんこ話が好きだよね)



「ふむ、そうと決まれば、地底だけじゃなく、すべての種族に、門の名前をつけて照れちゃう権利の争奪戦の知らせを出すのじゃ!」


「おーっ!!」


 話が決まると、子供達は、キラキラとした笑顔を見せた。達成感なのかな。



「ライトさん、他の星の侵略者を減らす方がいいよ」


 ひとりの子供が、僕にそう言ってきた。何か思いついたのだろうか。


「どうすれば減るのかな? 教えてくれる?」


「他の星の人専用のポーション屋を作るの。悪い人には売らないの」


「悪い人は、盗んで行くぞ」


「えー、ダメかぁ」


(いや、ダメじゃない。めちゃくちゃ良いヒントだ)



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