116、チゲ平原 〜女神様の宝探し
「ライト、暇そうにしておるなら、パフェを作るのじゃ」
猫耳の少女が、また、無茶振りをしてくる。だけど、言いたいことは、わかる。金魚鉢パフェを作らせたいんだよね。
「ティア様、この場所では、金魚鉢もありませんし、ソフトクリームもないですよ?」
「チッ! ライトはしょぼいのじゃ。妾は、ロバートやドーマンに、見せたいのじゃ!」
(なるほど……)
だけど、味覚が随分と違うみたいなんだけどな。スチーム星の住人は、味の濃いものは好まない。特に塩辛く感じるようだ。
ドラゴン族のマーテルさんの娘、マリーさんは、何でも食べるんだっけ。逆に、塩辛いものを好んでいたような記憶もある。
「スチーム星には、まだ戻らなくても良いのじゃろ?」
「えっと、わからないです」
猫耳の少女の問いに、スチーム星の子供達は、困った顔をしている。
(だよね、わからないよな)
ロバートは、この星に着いてから、態度がガラリと変わった。いや、僕が侵略者を追い払った後からかな。
なんだか、距離感がわからなくなったらしい。僕も、チゲ平原で、ドッと記憶が戻って、感覚がズレてしまったのかもしれない。
「神スチーム様から、皆さんを送り届けたら、女神イロハカルティア様が我々を転移させてくださるだろうと……」
「なっ? 妾が、皆の帰る時を決めても良いのか?」
(なんだか、嫌な予感がする)
「は、はぁ。女神イロハカルティア様に、お任せするようにとの指示を受けております」
スチーム星の住人達は、猫耳の少女の笑顔に、戸惑いが隠せないようだ。
「そうか、それなら好きなだけ、居ればよいのじゃ。スチーム星から移住してきたマーテルもおる。このまま、すぐに帰ってもつまらぬじゃろ」
「あ、はぁ」
(女神様は、何を考えているんだ?)
「おぬしらは、神スチームの魔道具に頼りすぎなのじゃ。この星で生きる者を見て回れば、何が足りないのかが、わかるはずじゃ」
(まともなことを言っている)
スチーム星の住人達は、ハッとしたような表情を浮かべ、深々と頭を下げている。ゴーレムを脱いでいるから、竜人なんだよね。
彼らは、僕達がタイムトラベルをして110年前のスチーム星で会った竜人よりも、少し小さく感じる。
この100年ちょっとの間に、スチーム星の竜人は、さらに弱くなったのかもしれない。女神様は、それに気づいているのかな。
ゴーレムが、随分と強化されていたみたいだよね。だから、退化してしまったのかもしれないな。
「子供は、二人だけなのじゃな?」
「はい、本当なら連れて来るつもりはなかったのですが、彼と親しくしてもらったようで、見送りをしたかったらしく……」
(僕は、たぶん寝てたよね)
「ふむ、そうか。ライトのせいじゃな? ライトは、すぐに寝るのじゃ」
猫耳の少女は、僕にケンカを売るような仕草をしている。だけど、その手には乗らない。
「僕は、タイムトラベル酔いをしてしまいましたからね」
「チッ、ライトはしょぼいのじゃ!」
(はいはい)
草原の方でキラリと、何かの合図のような光が見えた。すると、猫耳の少女が、目を輝かせている。
「準備ができたのじゃ! ちと、妾は、先に行くのじゃ」
そう言うと、女神様は、ぴゅーっと走り去ってしまった。ワープや転移もできるはずなのに、走るのが好きだよね。
(あっ、またびっくりしている)
突然の女神様の行動に、スチーム星の住人達は、ポカンとしている。だよね、女神らしくない行動だもんね。
「ティア様は、いつも、あんな感じなんですよ」
「そ、そうなんですか」
「はい、女神様は、妖精族ですからね。子供好きだし、イタズラ好きだし、遊ぶときは精一杯、遊ぶんですよ」
「へ、へぇ……」
彼らは、言葉を失っているみたいだ。神スチーム様とは、あまりにも違うもんな。
『皆の者! 草原に、宝箱の用意ができたのじゃ。鍵を持って近づけは、鍵の合う宝箱が開くぞ。鍵を食べてしまっていても大丈夫じゃ! さぁ、皆、草原に出てくるのじゃ』
草原に、宝箱を並べたのかな。『眼』のチカラを使って見てみると、ズラリどころではない数の、大小さまざまな箱が散らばっている。
ハロイ島に住む子供達が、まず草原に飛び出して行った。大人達も、ゆっくりと出ていく。
「皆さん、草原の散歩をしながら、ご自分の宝箱を探してください」
世話をするのは、神族の街で店をしている人達だ。迷宮都市の住人も、パラパラと外に出ていく。
だけど、スチーム星の人達は、動かないな。
「おまえらも、行って来いや。外した奴もおるかもしれんが、開かない宝箱が残ると、アイツはうるさいんや」
タイガさんが戻ってきた。忙しく、あちこちに料理を届けていたみたいだけど。
「ですが、我々は、この星の住人では……」
「そんなもん、気にせんでええ。それに、この星の奴は、竜を見ても、ビビらんで。あちこちに魔物がおるからな」
「えっ、魔物……」
「チゲ平原には、入ってこーへんから、ビビらんでええ。ほれ、行ってこい」
タイガさんが、ビビらせているような気もするけど、慣れさせようとしているのかな。
「じゃあ、僕が一緒に行きますよ」
「ライト、おまえ、あほか。片付けを手伝えや。神族の仕事や」
(あー、やっぱり?)
スチーム星の人達は、恐る恐る草原へと出て行った。そして、子供達に囲まれて、宝箱探しを始めたようだ。
広い草原のあちこちを探し回るのは、大変そうだな。だけど、自分達の姿を見られることに、少しずつ慣れていっているみたいだ。
「ライト、おまえ、どれくらい戻ったんや?」
タイガさんは、乱暴に片付けながら、そんなことを尋ねてきた。ちなみに、僕は何の手伝いもしていない。
「女神様は、ほとんどの記憶が戻っていると、言ってましたけど、僕としては、わからないです」
「ふん、まぁ、せやろな。カースが慌てて地底に行ったから、ねじれとるんやろ。リュックは、どういう状況や?」
そうか、タイガさんは、リュックくんと親しいよね。
「リュックくんは、姿は見せられないみたいです。一度、魔人化した状態で、出てきましたけど」
僕がそう答えると、タイガさんはホッとしたように、息を吐いた。リュックくんの状況を心配してくれているんだ。
「リュックは、かなり無理したみたいやからな。初期化したんちゃうかと思ったわ。魔人化できるなら、まぁ、大丈夫やろ。あとは、おまえの魔力値が上がるのを待つだけや」
「僕、この5〜6歳で、成長が止まってしまったから」
「あぁ、まぁ、ババアの失敗やろ。カースが何とかしよる。それよりも、これから、どうするかやで」
タイガさんは、少し深いため息をついた。
(疲れが溜まってるのかな)
「これからの、侵略者対策ですか?」
「あぁ、せや。おまえ、大魔王になるけ?」
「なりませんよ」
「ふん、しょーもないやっちゃな〜。地底が、いつまでもガタガタしとるから、つけ込まれるんや」
(タイガさんも、僕を大魔王にさせたいのかな)
「どうすれば、神戦争は無くなりますかねぇ」
「ライト、あほか。そんなもん、無くなるわけないやろが。絶対神でも居れば、話は別やけどな。ババアに、そんなチカラはない」
(だよね、僕もそう思う)
僕は、ふと、黒魔導の魔王スウさんが言っていた言葉を思い出した。僕に大魔王になれと言うのは、絶対的な強者だと考えているからかな。
タイガさんも、きっと同じ考えだ。だけど、地底はそれで収まっても、一時的なことだよな。きっと、他の星系の神々は、小さな綻びを突いてくる。
草原では、スチーム星の人達も、宝箱を開けて笑っているみたいだ。彼らからすれば、珍しいものなんだろうな。
(うん? アレって……)
「タイガさん、宝箱の中身って……」
「あぁ? 大人が開けとるのは、どこかの金券とか、おまえのポーションやろな。子供のは、たいてい日本の駄菓子や」
「作為的に、鍵を渡したんですか?」
「仕組みは、知らん。クマの魔道具や。料理を食べたり、飲み物を飲んだら、宝箱は開く仕掛けになっとる」
「えっ? 鍵は?」
「ババアの嘘や。まぁ、何個か鍵は見えるとこに置いてあるらしいけどな。鍵なんか食うたら、腹いたなるやんけ」
(鍵を食べたんじゃないのか)
「そんなつまらない嘘を……あー、ごはんを食べさせるため?」
「せやろな。子供が嫌がりそうなもんを集めて、宝箱の鍵が隠れてるとか言うて、食わせとるで。まぁ、好き嫌いをなくす作戦なんちゃうか」
「シャインは、女神様の話を信じてますよ? 鍵を食べても、宝箱が開くと消えるって、力説してました」
「ふん、いつまでも、サンタクロースを信じるタイプやな。おまえに、似てるで」
タイガさんは、ニヤッと笑った。
「ふふっ、まぁ、息子ですもんね。そこの記憶はないんですけど」
「せやろな。大事な記憶が戻ってへんって、カースは焦っとったからな。今夜は、ここに引きこもっとけよ? 明日は、おそらく地底やで」
僕は、軽く頷いた。
(明日か……大丈夫かな)
皆様、いつもありがとうございます♪
金土お休み。
次回は、12月12日(日)に更新予定です。
今日から、新作始めました。1話が短めなので、まだよくわからないかもですが、よかったら覗いてみてください♪




