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112、チゲ平原 〜パーティの準備

 迷宮都市の中では、猫耳の少女の登場に、わぁわぁと歓声があがっている。


(悲鳴も混ざっているみたいだけど)


 遭難者のほとんどはハロイ島の住人だから、女神様の地上での姿が、知られているんだな。


 だけど、迷宮都市の住人は、わかっていないらしい。女神様は、どうするつもりだろう? 素性を明かすのかな。



「ティアちゃんって、すごい人気だね」


 黒魔導の魔王スウさんは、キョロキョロと街の中を見回している。迷宮都市は、初めて来たのかもしれないな。


「女神様は、100年前の神戦争後は、地上に出入りするようになりましたからね。子供達の世話を積極的にされているから、その子供達が親になってますもんね」


「ハロイ島ができてからだよね。ライトさんの変身ポーションのおかげじゃない? だけど、あの猫耳の姿は、カチューシャだっけ」


(あー、そっか、弱い呪いのポーションのせいかな)


「あの猫耳変身カチューシャは、クマちゃんマークだそうですよ」


「神族のベアトスさんの魔道具かぁ。私も、変身できる魔道具が欲しいかも」


 魔女っ子の可愛い服を着た魔王スウさんは、変身願望が強いのかな。生まれ変わる前には、僕は彼女との交流はなかったから、よくわからない。



 僕達の姿を見つけると、遭難者達は笑顔で手を振ってくれる。だけど、迷宮都市の住人は、なんだか、反応がおかしい。


 宇宙船として、宇宙空間を移動していた間は、僕にも優しい笑顔を見せてくれていたのに、どうしたんだろう?


(なんだか、怖がられている?)




「皆の者! よく聞くのじゃ! これから、おかえりなさいパーティの準備をするのじゃ。それから、スチーム星の竜人さんいらっしゃいパーティもじゃ。あと、迷宮都市がチゲ平原に引っ越しちゃったパーティもやるのじゃ」


(意味不明すぎる)


 だけど、猫耳の少女は、遊ぶことに関してのリーダーシップは、半端ない。みんなが引き寄せられるように、女神様に注目している。


「わぁっ! ティアちゃん、すごいたくさんのパーティ」


「ハロイ島からも、呼ぶ?」


「どどーんとやるのじゃ。知り合いもたくさん呼んでよいのじゃ。迷宮都市の外のチゲ平原も、草原にしてあるから、寝転び放題なのじゃ!」


(寝転び放題?)


 よくわからないセールストークだよね。だけど、そんなハチャメチャな言葉に、みんなが笑顔になっていく。




 すると、赤いワンピースの少女が現れた、あれ? 地底に戻ったんじゃないの? そして、猫耳の少女をビシッと指差している。


「ちょっと、イロハちゃん! 迷宮都市、迷宮都市って言ってるけど、もう迷宮の中にないんだから、その呼び方はおかしいよっ」


「チッ! バカすぎる魔王サラドラにしては、まともすぎる指摘なのじゃ。ぐぬぬ……」


(おっ? 女神様が負けを認めている)



「ふふん、名探偵サラドラに向かって、何を言っているの? いまさらだわ、イロハちゃん。あーはっはっはっは」


 赤いワンピースの少女は、両手を腰に当てて、大笑いだ。


「なっ? サラマンドラの魔王サラドラ、妾がこの姿のときは、ティアちゃんじゃ。何度教えれば覚えるのじゃ?」


 猫耳の少女は、不機嫌そうに反論している。


「イロハちゃんこそ、あたしがこの赤いワンピース姿のときは、名探偵サラドラちゃんだって、何度教えれば覚えるのっ?」


 ビシッと指差す決めポーズの赤いワンピースの少女。


 白いかぼちゃパンツのチラ見せを、なぜか強調するかのように、ズイズイと猫耳の少女に迫っている。


(はぁ、どっちもどっちだよね)


 だけど、チビっ子ふたりの掛け合いを、みんなが楽しそうに見ているようだ。



「その白いモコモコは、なんじゃ?」


「ふふん、これは、かぼちゃパンツよっ! 赤いワンピースからのチラ見せが可愛いのよっ」


「なぜ、そのようなものを……ライトか」


 なぜか、僕に怒りのこもった視線を向ける猫耳の少女……謎すぎる。


「えっと、ティア様、意味が……」


「サラドラにだけ教えて、妾に教えないなんて、ひどいのじゃ! ライトはしょぼいのじゃ!!」


(もしかして、羨ましいのかな)


「あーはっはっは、イロハちゃんの負けねっ」


「ちがーう! 妾は、ティアちゃんじゃ!」


(これ、永遠に続きそうだな)


 女神様も、魔王サラドラさんも妖精族だから、互いに対抗心があるのかもしれない。特に、魔王サラドラさんは、その傾向が強いよね。



「そんなに羨ましいなら、イロハちゃんも、かぼちゃパンツを魔法で作ればいいでしょっ」


「嫌じゃ! 妾が真似をしたと、地底の魔族の国中に噂をばら撒くつもりじゃろ」


「あーはっはっは、じゃあ、イロハちゃんが悔しがっているっていう噂を流してあげるよっ」


「ぬわっ? 妾は、羨ましいだなんて思ってないのじゃ。ライトは、反抗期なのじゃ。ライトはしょぼいのじゃ!!」


(ちょ、なぜ、そうなる?)


 記憶が戻ってきた今、女神様の意味不明な言葉に反論する気にもならない。


 だけど、しょぼいのじゃって言われなくて、悩んでたこともあったっけ。女神様は、むちゃくちゃなようでも、言ってはいけない言葉は、絶対に言わないんだよね。



 あっ、迷宮都市の人達の僕に対する視線が、少し変わってきたみたいだ。


 猫耳の少女に言い負かされているように見えるからかな。たぶん、女神様は、意識していないだろうけど……。もし意図しているなら、神すぎる。


(あっ、得意げな顔をした)


 僕が迷宮都市の住人に怖がられていることに気づいて、フォローしてくれたのか。


 だけど、そもそも、僕のことを制御不能な反抗期の危険人物扱いをしたのは、女神様だよね。


 侵略者を追い払うためだってことは、わかっているけど、カースが術を被せたり、リュックくんが協力したからなのに……。


 まぁ、僕が、5〜6歳児の姿でも、十分な戦闘力があると、この星の住人にも知らせたかったのかもしれないけど。




「さぁ、皆の者、パーティの準備じゃ。サラドラも参加したければ、準備を手伝うのじゃ」


「イロハちゃんは、何もしないの?」


「妾は、ハロイ島の神族の街ワタガシに行って、パーティ料理の出前を頼んで来るのじゃ。精霊ルーは、もうワタガシに戻っておる。魔王カイは、おるか?」


(なぜ、魔王カイさん?)


 女神様に呼ばれて、スケルトンか姿を現した。地底に戻っていたんじゃないの? 地上だと、ずっと太陽が沈まないから、アンデッドの魔王には辛いよね。


 魔王カイさんは、話せない。コミュ障なのに、こんなに注目されている中に登場するだけでも、かなりの覚悟だよな。


「魔王カイ、魔族の国に、ライトの覚醒を知らせるのじゃ。どぶわぁっとやるのじゃ」


(意味がわからない)


 スケルトンは、猫耳の少女にかしずき、スッと姿を消した。魔族の国に噂を広げるために、なぜ魔王カイさんを使うのかな。



「イロハちゃん! それなら、あたしの役目じゃないのっ」


 赤いワンピースの少女が、ビシッと女神様を指差している。だよね。噂をばら撒くのは、魔王サラドラさんの特技だもんな。


「サラドラが騒いでも、誰もビビらぬではないか。地底には、追っ払うべき奴らが、小競り合いをしておるのじゃぞ?」


「あー、魔族の国には、まだ居たっけ。あたしんとこは、もう追い払ったよっ」


「ふむ、神殺しをしておった報復じゃろ。タイガの腹黒作戦は、甘いのじゃ」


(確かにタイガさんの作戦だけど)



「そうだっけ? 忘れてたよ。でも、魔王カイが何をするの? アイツ、めちゃくちゃコミュ障だよっ」


「魔王カイじゃぞ?」


 猫耳の少女がそう言うと、赤いワンピースの少女は、ブルっと震えた。なんだか、引きつってる?


「まさか、ニクレア池を、どっぱーんって」


「ふむ、どっぱーんで済むかのぉ?」


(謎すぎる会話だ)


「そ、そう。それなら、あたしはここに居ようかな〜っ。あっ、竜人ちゃんのお世話をしないとっ」


 魔王サラドラさんは、逃げるようにどこかへ消えていった。地底に行けと言われたくないからかな。



「ライトは、迷宮都市に引きこもっておるのじゃ。カースが、こんがらがった何かを何かしておる」


「は、はぁ」


 カースは、迷宮都市から出るなと言っていたっけ。記憶のカケラの回収がおかしくなったから、調べてるんだよね。




「のわっ、じゃあ、皆の者、よーいどんじゃ!」


 猫耳の少女はそう言うと、姿を消した。なんだか、慌てていたようにも見える。



 女神様が転移していった直後、その場所には、タイガさんが現れた。


「チッ、ライト、あのババァ、どこへ行きよったんや? ナタリーがブチ切れとんで」


「パーティの準備だそうですよ」


「はぁ、また、変な遊びを思いつきよったんかいな」


 そう言いつつ、タイガさんは、集まっている人達をぐるりと見回した。


「おまえら、女神に準備させてると、面倒くさいことになるで」


(あ、あちゃ……)


 猫耳の少女は、正体を明かしていない。それを、タイガさんがバラしたんだ。


 ティア様の正体を知らなかった迷宮都市の住人は、雷に打たれたかのように、固まってしまった。




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