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111、チゲ平原 〜幻術士カースの仕掛け

「記憶は、それなりに戻っておるのに、ライトは、なぜチビのままなのじゃ?」


 女神様は、僕の何かをジッと見ている。僕の身体の何かを調べているのだろうか。


(あっ、首を傾げた。わからないんだ)


「ライトがうるさいのじゃ。カースはおるか?」


 何も話してないのに、勝手に僕の考えを覗いて返事するんだよね。記憶が戻ってきた僕は、女神様の相変わらずな行動に、少し懐かしさを感じた。


 だけど、まだ、すべての記憶は戻っていないみたいだ。チゲ平原に来てから思い出したことは、遠い記憶、そして女神様に関することかな。


 この侵略戦争の記憶は、たぶん戻っていない。それに、青の神ダーラの顔も思い出せない。


 記憶が戻った部分と、今の身体に生まれ変わってから得た知識が、こんがらがってしまったような気がする。


(頭の中の整理ができていないのかな)




 猫耳の少女がキョロキョロしていると、彼女の前に、一人の男性が現れた。だけど、視線は僕に向いている。


 黒い髪に、血色の悪い青白い顔、無愛想な表情……そうだ、彼はカースだ!


「カース、お疲れ様」


「あぁ、たいして疲れてないが……おまえ、なんだかいびつなことになっているようだな。何をすっ飛ばした?」


(はい? すっ飛ばした?)


 僕が首を傾げていると、カースは、ブッと吹き出した。無表情な男が、こんな顔で笑うのは珍しいよね。


「何を笑ってんの?」


「いや、俺の主君が、こんなガキかと思ったら、笑いが抑えられなかった」


「はい? もう、感覚は戻ってると思うよ。きっと、転んでも泣かない」


「ククッ、なんだ、それ。バカじゃねーの?」


(あれ? こんなに笑う奴だっけ?)


 僕が不思議に思っていると、また、吹き出してるんだよね。もしかして、僕が変な顔をしているのかな。



「カース! なぜ、ライトはチビなのじゃ。元に戻るから任せろと、自信満々に言うておったくせに、いつまでもチビではないか」


 猫耳の少女が、威嚇するように手を振り回して、カースに文句を言っている。カースは、そんな女神様に、冷たい視線を向けた。


「ティア、おまえはバカか。コイツにまだ戻っていないパーツがあることが見えているだろ。どこか重要な部分をすっ飛ばしたから、狂ったんだ」


「のわっ? バカという方が、バカなのじゃ! おぬしが言うておった序盤の順序は、わらわが付き添ったから完璧なのじゃ」


「おまえが付き添うから、狂ったんじゃねぇか?」


「なっ? 妾は、ちゃーんと順番通りに連れて行ったのじゃ」


 そう言いつつも、猫耳の少女は何かに気づいたのか、目が泳いでいる。



 僕は、イーシアの名もなき集落跡から、イーシアの森を通ってイーシア湖へ行った。そこでアトラ様と出会ったのは、古い記憶通りだ。


 そして、イーシア湖から馬車でロバタージュへ行った。警備隊で、退屈な話を聞いて……いや、幼児だったから退屈に感じたんだけど、その後は、女神様の城へ行った。


 その後は、ハデナ火山へと行き、地底へと逃げた。でも、順番は間違えていない。昔、僕は、その順番で新しい場所へと向かったんだから。


 だけど、次の目的地のニクレア池に行ったのに、記憶のカケラは現れなかった。リザードマンのすみかには、行ったことがなかったな。そこで狂ったのかな。


 でも、クライン様と会って、記憶のカケラを見つけた。そして、生首達と会って、いろいろなことを思い出したんだよね。


 そうか、そこから先は、ほとんど身体が成長していないな。


(うん? これはカースの仕業かな)


 チラッとカースの顔を見ると、ニヤッと笑った。僕を操っていたのだろうか。



「おまえ、それは被害妄想だぜ。主人を操るだなんて、そんなことできるかよ。俺が探った記憶を、おまえも見ているだけだろ。以前は気づかなかったくせに……ガキだから敏感なんじゃないか」


(なんか、怪しい)


 カースは、フッと視線を逸らした。なんだか最近、女神様にこき使われているせいか、似てきてない?



「妾は、こんな占い師をこき使ってなど……じゃなくて、カースみたいな無愛想な男は……」


(占い師?)


「ティア様、カースに占いをさせているのですか」


「なっ、なぜ、そ、そんなことは知らないのじゃ」


 ぷいっと、しらじらしい知らんぷり。はぁ、また変な遊びに、カースを巻き込んでいたみたいだな。


 だけど、そのおかげで、カースの表情が豊かになったのかもしれない。



「で? カース、何かわかったのか?」


 しらじらしく、話題を変えようとする猫耳の少女。だけど、さっき、何かに気づいていたよね?


「おまえ、何かやらかしただろ?」


「妾は、何もやらかしておらぬ」


(でも、目が泳いでるんだよね)


 女神様は、ほんと、嘘が下手だよな。というか、しょっちゅう言い逃れをしようとして嘘をつくのも、どうかと思うけど。


「ライトの記憶には、大魔王メトロギウスに関するものがない。ライトが地底に行けば、メトロギウスは絶対に接触するはずだが?」


「地底には、妾は、ホップ村を……」


「それではない。ライトが初めて地底に行ったときの話だ。ニクレア池でも何も起こらなかった。さらに、ライトが地底で数ヶ月過ごしていても、メトロギウスは接触していない」


「そ、そんなことは、あの悪魔に聞けばよいのじゃ」


(女神様の挙動がおかしい)


「メトロギウスは、必ずライトの復活を、自分の目で確認する。だから、アイツに記憶のカケラの仕掛けをしてある。なぜ、ライトが会っていない?」


「さ、さぁ? ちっとも知らないのじゃ」


(知ってるんだな)



 カースは、スーッと目を細めた。すると、猫耳の少女は、慌て始めた。


「のわっ! 妾に呪いをかける気じゃな? ちょ、ライト、なんとかするのじゃ! ひどいのじゃ!」


(呪い耐性は低かったっけ)


 女神様は妖精族だ。確か、呪詛系に対する耐性がかなり低いんだっけ。うん、だから、僕の変な呪いシリーズのポーションで、遊んでいたもんな。


「ティアが、隠すからだ。原因が探れなければ、対策ができない。何を隠している? あー、イーシア湖に赤ん坊のライトが落ちたときに、何かあったか」


(イーシア湖に落ちた?)


 そういえば、そんなことがあったような気もする。



「あれは、青の神が悪いのじゃ!」


(青の神?)


「どういうことだ?」


「青の神が、ライトを誘拐して、巨亀族のタトルークに売りつけようとしよったのじゃ! じゃから、妾は、ライトを取り戻して、イーシアに戻っただけじゃ」


(えっ? 女神様が?)


「ふぅん、魔族の国に入ったのか。いや、魔族の国の入り口には門番がいるな」


「魔族の国には、入っておらぬ。入り口で取り返したのじゃ」


 カースは、ジッと猫耳の少女を睨んでいる。女神様も、キッと睨み返している。この感じは、嘘はついていないみたいだ。



「なるほどな。その入り口で、ごちゃごちゃしていて、大魔王メトロギウスまでが出てきたということか」


「ふん、妾は、ちゃちゃっと……」


「おまえが、騒ぎを起こさないわけがない。はぁ、まさか、そんなことは想定外だった」


 カースは、腕を組み、何かを考えている。


 僕が知らない間に、僕は、大魔王メトロギウス様に生まれ変わった姿を見られたということみたいだ。


 カースは、僕に必ず接触する人物に、仕掛けをしていたんだな。しかも、身近な人ではなく、敵対する人物に仕掛けることで、より安全に、記憶を取り戻すことができるようにしていたのかな。


 青の神が、僕の記憶のカケラ集めを知る可能性を、逆手に取っての人選なんだろうけど……。




「ライト、とりあえず、今日は、迷宮都市の中に引きこもっていろ。ちょっと、調べてみる」


「うん、わかった。ありがとうね、カース」


「なっ? バカじゃねーの?」


(はい?)


 カースは、フンと顔を逸らし、スッと消えた。もしかして、照れたのだろうか。



「そうと決まれば、迷宮都市で、おかえりなさいパーティじゃな!」


 猫耳の少女は、ワクワクした様子で、草原を迷宮都市へと走っていく。


(知らないよ? ナタリーさんに叱られても)


 いや、違うか。迷宮都市の宇宙船には、スチーム星の住人が何人も乗ってきた。だから、スチーム星の住人との交流会をしたいのかな。



「ライトさん、ティアちゃんを放っておくと大変だよ」


 魔女っ子の帽子をかぶり、黒魔導の魔王スウさんは、にっこりと笑った。


「そうですね。それに、精霊ルー様を放っておくのも危険なんですけど」


「あはは、確かに危険だね〜」


 僕達は、迷宮都市の中へと向かった。



皆様、いつもありがとうございます♪


金土お休み。

次回は、12月5日(日)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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