11、ロバタージュ 〜ライトのステイタスと魔法袋
「ライトくん、カードは大切なの。失くさないようにできる?」
「はい」
冒険者カードを受け取るとき、カウンターの女性は、なぜかレンフォードさんの方をチラチラ見ながら、僕に説明をしてくれた。
カードには顔写真がついている。僕は、薄い茶髪で色白だな。それに幼児だからか、性別不明だ。
さっき、2歳児くらいだと言われたけど、幼い子の顔写真は、2歳か3歳かなんてわからない。記憶のカケラで急成長しても、しばらくは大丈夫かな。
「ライト、俺、使っていない魔法袋があるけど、いる?」
彼はそう言ってくれたけど、僕には、うでわのアイテムボックスがあるんだよね。
「レンフォードは、めちゃくちゃ良いやつなのじゃ!」
(猫耳の少女は、もらえと言っている?)
「ありがとう」
レンフォードさんはニコリと微笑み、小さな麻袋のような物を取り出した。
「ベルトにつけてもいいんだけど、とりあえず、魔法袋の紐を使って装備しておこうか」
(意味がわからない)
僕が首を傾げていると、彼は麻袋の紐を僕の腰に巻き付けた。すると、何かフワンとした不思議な感覚がして、麻袋は、僕の服にくっついた。紐は消えている?
「カードを中に入れようと意識して、手をかざしてみて」
僕は、言われたとおり、受け取ったばかりの冒険者カードに手をかざした。すると、カードが消えた!?
(えっ? 失くした?)
「この魔法袋は、中身表示ができるよ。容量が少ないからあまり使えないんだけど、ライトなら逆に使いやすいかも」
中身表示って言われても……と、考えていると、目の前に、画面のような物が浮かんだ。
(へっ? 何?)
────────────────
●冒険者ギルド登録者カード…… 1
[残、10キロ]
────────────────
「見えた? 魔法袋に触れて中身表示と念じれば、中身がわかるよ」
「みえた。のこり、10キロ」
めちゃくちゃ容量が大きいじゃないか。あと、10キロも入るってことだよな。
「容量10キロの魔法袋なら、釣り銭入れにしかならないのじゃ」
「俺は、服入れにしてますよ。お金は取られると困るから、クマさんマークの魔道具を使っています」
(クマさんマークの魔道具?)
「クマの魔道具が普及したから、この容量の魔法袋は、あまり使い途がなくなってしまったのじゃな」
せっかくくれたのに……そんな言い方をすると所長さんが気を悪くするんじゃないかな。まぁ、女神様ならいいのか。
「じゃあ、取り出してみようか。中身表示に触れても出てくるし、取り出したい物をイメージしても出てくるよ」
僕は頷き、カード出てこいと念じると、目の前の空中に、パッと現れた。しばらく静止した後、落ちそうになったので慌てて手を伸ばした。
(すごい! 魔法袋って、めちゃくちゃすごい!)
「あはは、ライトがそんなに喜んでくれるとは思わなかったよ」
「うん?」
「にへらにへらしておるのじゃ。ライトは、どこかに頭をぶつけたのか」
(いや……ぶつけてないけど)
「あはは、ティアちゃんの例えは、ぶっ飛んでて面白いね」
(確かに、ぶっ飛んでる)
「そうか? ふむ」
猫耳の少女は、なぜか、ご満悦な表情だ。うーん、よくわからない。まぁ、そっとしておこう。
「ライト、冒険者カードのステイタスを表示して見せてよ。今の状況を知っておきたい」
「たいしたことないのじゃ。しょぼすぎるのじゃ」
猫耳の少女……女神様は、僕のステイタスも見えているんだな。こんな幼児だから、そりゃ、しょぼいだろうけど。
「あはは、2歳児に負けたら、俺、泣きますよ?」
レンフォードさんがそう言うと、猫耳の少女の目が泳いでいる。彼よりも、能力が高いとか言わないよな?
あっ、でも、僕は、女神様の番犬だっけ。番犬っていう表現もどうかと思うけど、側近なんだよな。ということは、強いはず……いや……。
リュックくんの言葉が一瞬、頭に浮かんだ。通常時は、弱すぎるんだっけ。通常時じゃなきゃ、弱くないのか?
(あっ、見られてる)
女神様は、僕とリュックくんの会話を知りたいんだ。女神様が作り出した魔道具なんだよな? なのに、リュックくんのことはわからないのかな。
「ライト、さっき説明を聞いただろ? 顔写真の所に触れて魔力を流せば、ステイタスが表示されるよ」
僕が考えごとをしていたから、表示できないと思われたんだ。
「やってみる」
僕は、顔写真に触れた。なぜか、魔力は勝手に流れるみたいだ。オンオフを無意識にやってるのかな。
[名前]ライト
[ランク]G
[HP:体力] 450
[MP:魔力] 8,500
[物理攻撃力]2,100
[物理防御力]500
[魔法攻撃力]1,500
[魔法防御力]1,800
[回復魔法力]1,500
[補助魔法力]1,050
[魔法適性]火 水 風 土 他
うーん、基準がわからないから、良いか悪いかわからないな。
僕のステイタスを覗いていたレンフォードさんは、なんだか固まっている。
「ほんとだ、別人だ……」
彼は、ポツリと呟いた。
「じゃろ? 平均化したようじゃな。回復魔法特化じゃったのに。回復魔法力が、とんでもなく、しょぼくなっておる。いや、まぁ、まだチビじゃが……」
(僕は、回復特化の側近だったのか?)
回復魔法力は、特別、飛び抜けた感じではない。というか、物理攻撃力より低い。これって、生まれ変わって、かなり力が落ちたってこと?
猫耳の少女は、驚いた様子はない。わかっていたんだろう。でも、回復特化の側近が、回復魔法力が衰えたのなら……。
(僕は、クビになるんじゃ?)
それなのに女神様は、僕の世話をしてくれているんだ。これからの成長に期待しているのかな。もし、成長しなかったら、僕は……。
猫耳の少女は、何かを言いかけて、口を閉じた。たぶん、ライトは、しょぼいのじゃ! だろうな。でも、僕が幼児の姿だから、それも言えないのか。本当に、めちゃくちゃしょぼいから、言えないんだ。
(あぁ、そっか。言葉通りじゃないのか)
まだ、よくわからないけど、女神様の口癖、しょぼいのじゃ! には、いくつかの意味があるのだと思えてきた。
たぶん、本当にしょぼい人には、言わないセリフだ。
こんなことを考えていても、猫耳の少女は気づかないフリをしている。絶対に、頭の中を覗かれているはずだけど。
「ライト、どうした? 記憶のカケラを見つけた? いや、違うな。姿は変わってないし……何か思い出した?」
レンフォードさんは、心配そうな表情だ。僕が暗い顔をしていたからだな。
「きじゅんがわからなくて、ステイタスがよいかわるいか、ぜんぜんわからないから」
「あぁ、そっか。ちょっと待って」
レンフォードさんは、カウンターに戻り、さっきの女性に何かを話している。そして、何かのボードを持ってきた。
「ライト、これと見比べればわかるよ」
「うん?」
「あっ、文字が読めないかな。種族ごとの文字なんだけど」
僕は、首を横に振った。すべて、読める。冒険者ギルド登録者の大人の基準値みたいだ。
人族の場合は、体力1,000、それ以外が100。
魔族の場合は、種族により大きく違うみたいだけど、だいたい、人族の10倍から1000倍くらいか。
(僕も魔族なのかな?)
神族は、不明。正解な測定ができないと補足されている。神族って、神様のことだろうか。
「神族は、女神の転生者じゃ。その子孫もそう呼ばれているようじゃが」
「ええっ?」
「ライト、神族は、たくさんいるんだよ。ライトも神族だからね」
レンフォードさんは、小声で教えてくれた。この世界では、その3つの種族に分けられるのか。
「じゃあ、ライト、そろそろ、次の場所に行くのじゃ」
「あっ、ティアちゃん、待ってください。ライト、このミッションを一緒に受注しようよ」
レンフォードさんは、ニッと笑って、数枚の紙をひらひらさせている。
「でも、ぼく……」
猫耳の少女は、その紙をパッと奪った。そして、すぐに興味を失ったらしく、彼に返却している。
(何? 確認したかっただけ?)
「ライトが戦えないと思ってたから、採取系だけど」
「外から落ちてきた外来種の駆除じゃないのか。つまらぬのじゃ」
「ティアちゃん、他の星から持ち込まれた魔物は、さすがに厳しそうだから」
(宇宙人の魔物?)
「外来種は、最優先で駆除しなければいけないのじゃ」
「でもライトは、まだ幼児だから」
「うむむ……」
レンフォードさんは、気難しそうに口をへの字に結んだ猫耳の少女に、やわらかな笑みを向けている。
「じゃあ、急いで受注してきますね。ライト、ついて来て」
だけど少女も、カウンターについてきた。
「これ、お願いします。二人で受注しま……」
「三人じゃ!」
(えっ? まじ?)
受注カウンターの男性は、少し困った表情を浮かべながら、レンフォードさんから紙を受け取った。
「あぁ、これなら誰でも大丈夫です。冒険者カードをお願いします」
そして、少女がひらひらさせるカードに視線を移すと、彼は目を見開いた。




