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108、チゲ平原 〜帰還、そして

「チビ、発見だよーん。あれ?」


 赤い土の平原に降り立つと、僕は、マフラーのようなもので拘束された。パステルピンクのマフラー?


 駆け寄ってきたのは、ピンクの髪をツインテールにした若い女性だ。パッションピンクのふりふりスカートが目に痛い。


(精霊ルー様かな)


 僕を拘束したマフラーがふわりと解けた。


「あんた、誰? シャインくんじゃないわ。弟? わかったわっ! 隠し弟がいたのね」


(はい? なぜ弟?)



「ルーちゃん、そのチビは、ライトさんだよ。シャインくんは、あっちでしょ」


 魔女っ子が近寄ってきた。


「なっ、何ですって? なぜ、ライトが、こんなチビなのよっ」


「ルーちゃんは、湖底に引きこもってたから、知らなかったの? 青の神ダーラと相打ちになっちゃって……」


「あんた、ダーラと相打ちって……バケモノじゃない」


(うー、目が痛い)


 至近距離で、めちゃくちゃ弾丸トークだし、ちょろちょろと動くんだよね。ほんとにコミュ障なのかな、この人。




「精霊ルー様、目印の光、ありがとうございました。宇宙船からでも、よく見えましたよ」


 レンフォードさんが、降りてくると、精霊ルー様の表情は、ガラリと変わった。


「そ、そう、警備隊も……なら、あたし……だと……」


(声が小さくて、聞こえない)


「はい、助かりました。さすがですね」


 レンフォードさんがそう言うと、精霊ルー様は、また、何か返事をしたみたいだけど、全く聞こえない。


(な、なるほど、コミュ障かも)


 にこやかな笑顔を浮かべ、レンフォードさんは、宇宙船から降りた人達の元へと、歩いて行った。


 迷宮都市には、迷宮都市の住人が残っているみたいだ。レンフォードさんは、遭難者達をどこかへ連れていくようだな。



 僕の目の前には、目障りな花がピコピコしている。魔王サラドラさんは、なぜか、僕のすぐ目の前に立つんだよね。距離感が近すぎる。


(女子3人……うるさくなりそうだな)


 僕は、ソーッと離れようとしたけど、赤いワンピースの少女が、僕の行く手を阻む。



「ライト、チゲ平原に迷宮都市を置いておくと、迷宮都市じゃなくなるわよっ」


 僕を、ビシッと指差して、意味不明なことをおっしゃっている。


「迷宮にあったから、迷宮都市だから、チゲ平原にあるなら……」


「チゲ都市だなんて、変だわっ! センスがないわっ」


(知らないよ〜)


「じゃあ、名探偵サラドラさんの出番じゃないですか? 宇宙船でもある迷宮都市の新たな名前を……」


「名前を付けるなんて、何の謎もないわっ」


 そう言いつつ、頭の上の花が、ピコピコと激しく動いている。その先のパッションピンクの服のせいか、目がチカチカしてくる。



「サラドラちゃん、なんだか、少し雰囲気が変わったわね。ほんの半日なのに」


 魔女っ子スウさんが、魔王サラドラさんに優しい笑顔を向けている。彼女が、個性の強い人達の調整役なんだな。


 片付けられないゴミ城の主人を演出しているけど、黒魔導の魔王だけあって、知能が高いんだと思う。それに、対人関係に優れているんだよね。


「スウちゃん、半日? うっそ、すんごく長い旅だったよっ。あっ、そっか、時を超えたんだっけ」


(半日?)


「星の保護結界が消えて、半日よ。ハロイ島には、続々と、星の門を通って、いろいろなのが来てるよ」


「じゃあ、地底に戻らないと。ライト、大魔王になる?」


(は、はい? あれは、お芝居でしょ)


「サラドラさん、僕には無理ですよ。こんなチビだし」


「うん? カースがなんとかするんじゃないの? とりあえず、あたし達は、ライトの味方だからねっ」


(ま、まじ?)


「ありがとうございます。そう言ってもらえると、嬉しいです」


 なんだか、サラドラさんが、天使に見える。目障りな花だとか言ってごめんなさい。


 彼女は、満足げに頷いている。


「だから、ライトの街の劇場、あたしも行ってもいいよねっ」


(えっ? あー……それが目的?)


「あはは、僕の記憶が戻ってから、言ってもらえますか」


「そうね、その前に、片付けないといけないことがあるもんねっ」


 そう言うと、魔王サラドラさんは、その表情を引き締めた。迷宮都市の名前を考えるのだろうか。



 迷宮都市の中にいるスチーム星の人達は、チゲ平原には、出て来ない。目立つと思っているのかな。


(いや、違うかな)


 知らない星に来たからだよね。迷宮都市にいれば、神スチーム様が設置した魔道具もある。


 星の保護結界が消えたイロハカルティア星には、怖くて降りられないのかもしれない。




「じ、じゃあ、ライト、バイバイ!」


 なんだか急に慌てて、魔王サラドラさんが姿を消した。転移したのかな。


「魔王カイも地底に戻ったわ。ここの守りは、私とノームの魔王が担当するね。ルーちゃんが張ったバリアの維持をするよ」


 黒魔導の魔王スウさんは、あちこちに気配りをしてくれる。


「あの、僕は何もわからないんですけど……」


「あぁ、精霊ルーちゃんのことは、放っておけばいいよ。今は、どこかに隠れちゃったけど」


 そういえば、派手なピンクの姿は見えない。


「なんだか、みんな、すごく慌ただしく動いているけど……」


「うん、そうだね。たぶん、カースさんが指示してるんだよ。ここで、ボーっとしていると危ないもん」


(カース? どこに?)


 魔王スウさんも、そういえば、余裕のなさそうな雰囲気だ。チゲ平原を守る役割だと言っていたから、かな?



「あの、魔王スウさん、僕も、どこかに移動しますね」


(どこに帰ればいいか、わからないけど)


 ジャックさんの姿が見えないな。シャインは、ルシアと一緒に、ハロイ島へ戻ったのだろうか。



「うん? ダメよ。ライトさんは、ここにいないと」


「どうしてですか?」


「だって、ライトさんを捜しているんだと思うよ」


「誰……あ、カースが、ですか?」


 魔女っ子は、首を横に振っている。


「星の保護結界が消えたでしょ。星に残っていた神々は、ほとんど殺して、星に強制送還したから……」


「復讐に来るんですか」


「ライトさんが、地底の覇権を握るために、殺させたことになってるの。だから、特に青の星系の神々が、ライトさんを見つけ出そうとしてるみたい」


 もしかして、魔王サラドラさんが離れていったのは、僕の近くにいると危険だからかな。


 魔王スウさんが警戒しているのも、そう考えると納得できる。


 カースが僕の前に姿を現さないのは、敵に、僕がライトだと知らせるようなものだからかも。


「じゃあ、僕がいる場所は、危険ですよね」


「うーん、そうね。だから、ここに居る方がいいみたい。私は、ライトさんとずっと喋っていてくれと言われてるの。たぶん、遭難者を避難させる時間稼ぎね」


(やはり、そうか)


「ずっと、ですか」


「うん、この半日で、いろいろ入って来てるの。地底は、小さな戦乱が起こってる。だから、領地を守る魔王は、地底に戻ったのよ」


「魔王スウさんも、ガラク城があるのに……」


「私のとこは、大丈夫。見つけられないよ。ノームも、城に引っ越してきたから、魔王ノムも、ヒマなのよ〜」


(地底は、もう戦乱……)


「宇宙船というか、迷宮都市の中に、スチーム星の人達がいるんですけど……」


「あぁ、弱い竜人なんだよね。マーテルさんが、見張ってるんじゃないかな。宇宙船の中にいる方が守りやすいよ」


 魔王スウさんは、だんだん、余裕のない表情になってきている。辺りを警戒して、固い表情なんだよね。


(もしかして……)



「あの、スウさん、もしかして、僕は、おとりですか?」


「えっ? えーっと、何かしら?」


(図星みたいだ)


 もうチゲ平原では、迷宮都市の中にいる人達以外に、赤い土の上で喋っているのは、僕達しかいない。


 遭難者達はシャインも含めて、すべてレンフォードさんが移動させたし、魔王カイさんと魔王サラドラさんは、地底へ戻った。


 精霊ルー様は、どこにいるかわからないけど、精霊だもんな。


 姿を見ていない魔王ノムさんと、ジャックさんは、迷宮都市の中だろうか。



 魔女っ子の落ち着きがなくなってきた。警戒が半端ない。もう、話をしなくなっている。


 黒魔導の魔王をここまで警戒させるなんて……。



「ライトさん、何か来る」


「えっ? どうすれば……」


「わかんないよ。もう少し、離れようか」


 そう言いつつ、魔王スウさんは、迷宮都市からじわじわと離れていく。だけど、赤い土の平原から出る気はないみたいだ。


「スウさん、あの……」


「困ったなぁ。私には無理すぎるかも」


「どういう状況なんですか」


「ガッツリ囲まれてるよ。サラドラちゃんが、チゲ平原にライトさんがいるって、噂を流したみたい」


「えっ!?」


(魔王サラドラさんが、裏切った?)


「たぶん、カースさんの指示だと思うんだけど……こんなに来る?」


「えっ、カースの指示?」


(ちょ、どういうこと?)



 空にいくつもの歪みが現れた。あれは……転移の歪みだ。


 そして次々と、その渦から、人が出てくる。


(ここに、おびき寄せたのか?)



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