106、イロハカルティア星 〜魔王カイのチカラ
僕は、タイムトラベル酔いで、随分と長い時間、眠っていたようだ。その間、シャインは僕の部屋にごはんを持ち込んで食べていたらしい。
ごはんの匂いがする方が、僕が早く目覚めると考えたらしいんだ。ルシアが、笑いながら、そう教えてくれた。
(ふふっ、シャインらしいよな)
さっき、魔王サラドラさんが言っていたように、いま、僕達は、イロハカルティア星に向かって、宇宙空間を移動中だ。
神スチーム様が、砂漠に埋まっていたイロハカルティア星からの迷宮を掘り出し、迷宮都市の部分だけを宇宙船に作り替えてくれたらしい。
さすが、魔道具に最も精通している神だよね。
神スチーム様や、スチーム星の住人から見れば、迷宮都市は、箱庭に見えるらしい。だけど、それを、そのまま宇宙船にするなんて、僕には想像もできないことだ。
宇宙船の操縦は、レンフォードさんがメインで、ジャックさんと、スチーム星の人がサポートについているらしい。
(神スチーム様に仕える村の人だっけ)
それから、見た目は随分と変化したけど、ロボットに見える住人は、ゴーレムを着ているのだということがわかった。
ノームの魔王ノムさんが、110年前に残しただるまゴーレムが、神スチーム様によって、長年にかけて改良されていった結果らしい。
スチーム星の住人は、子供は人化できないから、ゴーレムの中身は竜だそうだ。だから、巨大なんだな。
目にゴーグルを付けている人達は、大人だ。人化すると、目に竜の特徴が出てしまうから、それを隠すためのゴーグルらしい。つまり、人型ゴーレムの中身は竜人だ。
(よかった、竜人が絶滅してなくて)
アンデッドの魔王カイさんは、あんな性格だから、神スチーム様とは一度も会っていないらしい。
神スチーム様も、女神様を尊敬しているみたいだから、会えば、意外に話が合うかもしれないけど。魔王カイさんは、めちゃくちゃ女神信者だからね。
魔王カイさんは、スチーム星の住人が、イロハカルティア星に向かうことが、なぜか面白くないらしいんだ。
スチーム星の住人が乗っているのは、たぶん、宇宙船の操縦サポートだと思う。だけど魔王カイさんは、その説明では納得できないみたいだ。
彼は、僕としか普通に話せない。だから、余計に話が通じないのだと思う。魔王達の話は無視するし、迷宮都市の住人のことも、遭難者達のことも寄せ付けないそうだ。
「わぁっ、見えてきた〜」
はしゃぐシャインのキラキラした笑顔に、僕も釣られて笑顔になる。
「あれが、イロハカルティア星かな?」
迷宮都市の宇宙船の中を、シャインと一緒に探検していて、宇宙船の前方の操縦席付近が、ガラス張りになっていることを発見したんだ。
シャインは、面白がって、そのガラスに顔をくっつけて、ずっと外の様子を見ている。
宇宙船は、光速を超えるスピードで進んでいるようだ。だから、進行方向の前方しか、はっきり言って見えない。
もちろん『眼』の力を使えば、横も見えるんだけど、シャインには、そんな『眼』の能力は備わっていないからな。
「イロハカルティア星っすよ」
「はいっ! 大きいですね。それに、すごくキラキラしてます」
ジャックさんが振り返り、そう教えてくれた。僕達の様子を見てくれたのかな。
まだ、はるか前方に黄色く輝く大きな星が見える。そのはるか奥には、黄色い太陽が見える。こんな太陽を創ってしまうなんて、女神様にはとんでもないチカラがあるんだ。
猫耳の少女の姿からは、全く想像できないな。
女神様のあの言動を知らなければ、絶対に崇拝してしまうよね。だから神スチーム様も、あんな風に、女神様を褒めていたんだろうな。
「星の門が見えてきました! すごく立派な門ですね。しかも、あの場所からしか出入りできないなんて、素晴らしい技術です!」
スチーム星の住人が興奮気味だ。
「俺達は、別の門から入りますよ」
レンフォードさんの言葉は少し冷たい。緊張しているのかもしれない。
「えっ? 他には門はありませんよ」
「100年ほど前に閉じた古い門があるのです。それを、ライトの配下が準備して待っています。この船が通ったら、すぐに閉鎖されますけどね」
「そ、そうなんですね。レンフォードさん、お任せします。着陸の補助は必要でしょうか」
「はい、お願いします。俺は、こんな巨大な宇宙船を操縦したことがないですから」
スチーム星の住人にも、レンフォードさんの緊張が伝わったようだ。
レンフォードさんは警備隊で、宇宙船を操縦したことがあるのかな? イロハカルティア星では、飛行機も列車も見たことはない。
(僕は、地底に引きこもってたからかな)
イロハカルティア星に接近していくと、ピカピカと光るものが見えた。立派な星の門からは、かなり離れた地点だ。
星には、淡い光の保護バリアのような膜が見える。
「あ、あの、このままだと、誘導結界に弾かれてしまいます。下手をすると宇宙船がバラバラに壊れてしまいます!」
スチーム星の住人は、慌てているのか早口になっている。
「大丈夫っすよ。この船には、魔王が3人も乗ってるっす。既に、宇宙船は、強い結界バリアで守られているっすよ」
ジャックさんがそう言ったことで、レンフォードさんは、少し表情がやわらかくなった。やはり、緊張していたんだ。
「あっ、この船を追ってくる何かもいます! 船がない? 生身で宇宙を飛んでいるのか」
また、別のスチーム星の住人が焦り始めた。
「この付近では、あれが普通っす。みんな、生身で宇宙空間を飛び回るっすよ。逆に、こんな大型の宇宙船の方が珍しいっす」
「そ、そうなのですか。なんて恐ろしい世界なんだ」
科学というか魔道具が進化しているスチーム星の住人の感覚は、僕の前世の感覚に近いかもしれない。
宇宙を人が飛んでいたら、バケモノだよね。
「あっ!」
ご機嫌で窓にへばりついていたシャインが、窓から離れた。すると、数えきれない人が宇宙船のスピードに合わせて、飛んでいるのが見える。
「囲まれたっすね。イロハカルティア星の住人を乗せていると気づいたみたいっす」
ジャックさんが、あちこちに視線を向けている。
(うわー、どんどん集まってくるじゃん)
そうか、星の再生が終わり、特殊な保護結界が消えたから、イロハカルティア星の近くには、襲撃目的の他の星系の奴らが、大量にいるんだ。
ガタン!
宇宙船が揺れた。後方から、襲撃された?
「あぁぁ、もう終わりです。どうすれば……」
スチーム星の住人は、大混乱だ。僕も、同じく、大混乱中だ。宇宙船が爆破されたら、せっかく助け出した人達が、宇宙空間に放り出される。
(即死だ!)
「ライトさん、追い払ってくださいっす」
「えっ? 僕?」
(ちょ、ちょっと待った)
『魔王カイ! ライトはビビっておる。おぬしが何とかするのじゃ! 宇宙船にくっついて、妾の星に侵入する気じゃ!』
(女神様?)
すると、目の前に、スケルトンが現れた。そして、僕をチラッと見て、ケタケタと笑うようにカタカタと音を鳴らしている。
「魔王カイさん!」
『ライト、おまえは、まだ子供の身体だから、難しいのだ。魔王カイをよく見ておけ』
そう言うと、スケルトンは、リッチに姿を変えた。そして、窓を通り抜け、スーッと宇宙空間へと出て行く。
魔王カイさんも、宇宙船と同じスピードで、宇宙空間を飛んでいる!
宇宙船を取り囲む奴らが、魔王カイさんに気づき、少し離れたようだ。
そして……。
リッチは、手のような影から、ぶわっと何かを放出した。一瞬、窓の外は、真っ暗になって、何も見えなくなった。宇宙船を何かで覆ったのだろうか。
視界が元に戻ってくると、凄い光景が広がっていた。
まるで、宇宙船から、外を飛ぶ他の星の奴らを砲撃しているかのように、凄まじい勢いで、雷撃のようなものが飛んでいく。
声は聞こえないけど、その攻撃に射抜かれて、周りを飛んでいた奴らの数が、どんどん減っていった。
(す、すごい。まるで、SF映画みたいだ)
『イロハカルティア星の門に入ります。皆さん、揺れに備えてください。操縦士は未熟ですからね〜』
レンフォードさんが、宇宙船に備え付けられた魔道具を使って、全体放送をしている。
「えっ? まだ、魔王カイさんが宇宙船の外にいますよ」
僕は、慌てて、そう叫んだ。
すると、ジャックさんは苦笑いで、口を開く。
「ライトさん、魔王カイっすよ?」
「そうですよ、魔王カイさんが外にいます」
「あはは、そっか、ライトさんは、青の神ダーラとの決戦のときまで、宇宙に出たことがなかったから、知らなかったっすね」
「へ? あ、その記憶も……」
「そうだったっすね。あはは、忘れてたっす」
ジャックさんは、ケラケラと笑った。なんだか、安心したような表情だ。レンフォードさんも、こちらを振り返っている。
(ちょ、操縦士!)
「魔王カイは、星を自由に出入りできるっすよ。だから……」
『魔王カイを放置する気か!』
スケルトンが戻ってきた。
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金土お休み。
次回は、11月28日(日)に更新予定です。
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