表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/145

105、イロハカルティア星へ 〜迷宮都市の宇宙船

 ジャックさんは、なぜか落ち着いている。ノームの魔王ノムさんも、平然としているんだよね。


(ちょ、レーザーだろ? 魔導砲なんだよね?)


 あと数分で、このスチーム星は、爆破されてしまうんじゃないの?


 僕は、胃薬味の魔ポーションにむせて、涙が出てきた。話したいのに声にならない。


「ゲボゲボッ」



 すると、ジャックさんが背中をさすってくれた。


「ライトさん、大丈夫っすか?」


「だ、大丈夫です。それより、なぜ平気な顔をしているんですか。レーザー系の魔導砲が、この星に向かっているんですよね」


 僕がこんなに慌てているのに、ジャックさんは首を傾げている。




「仕上げが終わったよっ。変なゴーレムだけど、そういう種族に見えると思うよっ」


 赤いワンピースの少女が、近寄ってきた。そして、空を見上げて、首を傾げている。


「魔王サラドラさん、魔導砲が……」


「うん? もう来るの? この時代のスチームちゃんが、撃ち落とすって言ってたよっ」


(えっ? 魔導砲を撃ち落とす?)


「神スチーム様は、そんなことができるのですか」


「うん、まぁ、この星全体が、魔道具みたいなものだからねっ。だけど、爆風が来たら嫌かも」


 するとジャックさんが、神スチーム様から預かっていた魔道具を取り出した。


「俺達は、着弾前に、元の時代に戻るっすよ。サラドラさん、住人には……」


「うん、みんな、あっちに行ってるよ。この塔付近でいいんじゃない? イロハカルティア星の人は、みんな中にいるよ」


「じゃあ、俺達も建物に入るっすよ」


 ジャックさんがそう言うと、次の瞬間、遭難者達がいる部屋へと移動していた。誰かのワープ魔法かな。


「忘れ物は、ないかなー」


 魔王サラドラさんは、なんだかワクワクしているみたいだ。


(ちょ、僕は不安しかないんだけど)


 僕の手に誰かが触れた。ルシアだ。


「父さんと兄さんは、手を繋いでおくよ。二人とも、泣きそうな顔をしてるんだもの」


「えっ……あはは。ルシア、ありがとう」


 窓の外には、大量のだるまゴーレムが居るのが見えた。確かに、そういう種族に見える。


 床に魔法陣が現れた。


 ジャックさんが、魔道具を使ったみたいだ。



 空に、何かが見えた。


(げっ? 魔導砲じゃないのか)


 大地から、モヤモヤと霧のようなものが立ち昇っていく。バリアなのかな。


 そして、空に向かって、一筋の光が突き進んでいくのが見えた。


(迎撃の魔導砲?)


 僕がハラハラして見ていると、床の魔法陣が強く輝いた。その次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。


(うっぷ、気持ち悪い)


 僕の意識は、そこで途絶えた。




 ◇◇◇



(う、うぅ……何? ハンバーグ?)


 頭が痛い。また転移酔いだな。いや、タイムトラベル酔いか。


 僕は、上体を起こし、必死に回復魔法を使う。


(ふぅ、頭痛はマシになった)


 ここは、どこだろう? 普通のベッドに寝かされていたみたいだ。宿屋のように見える。スチーム星の宿なのかな。


 ベッドから降りようとすると、ベッドのすぐ下では、水色のモフモフが眠っていた。


(ちょ、降りられないじゃん)


 ベッドの足元の方から、降りようとしたけど、床には、たくさんの皿が並んでいる。匂いの原因は、これか。



 ガチャリと、扉が開いた。


「あっ、父さん、起きたんだね。何か食べる?」


 ルシアは、服を着替えている。一瞬、アトラ様に見えて、僕はドキッとした。


「うん、食べようかな。だけど……」


 僕が、シャインを起こさないようにと、ベッドから降りる場所を探していることに、ルシアは気づいたみたいだ。


「兄さんのことは、踏んでも大丈夫だよ。ちょうど、肉が焼きあがったって……」


 ルシアの『肉』という言葉に、シャインの耳は、ピクリと反応した。そして、水色のモフモフは、ふわぁ〜っとあくびをして、人の姿に変わった。


 そんなシャインの様子に、ルシアは、ニヤニヤしている。シャインが起きると、わかっていたみたいだ。


「あはは、兄さんは、起こしても踏んでも起きないけど、『肉』って言ったら起きるんだよね」


(やはり……)


「うーん、ルシア、焼き串?」


「サイコロステーキじゃない? 父さんも起きたから、一緒に行ってきたら?」


「うん! そうする」


 シャインは、すっかり目が覚めたらしい。僕の手を握って、ズンズンと歩いていく。


 そんな僕達の後ろを、ルシアが笑いながらついて来る。まだ、記憶は戻っていないけど、なんだか、心があたたかくなってくるようだ。




 シャインは、僕の手を引いて、部屋の外へ出て、さらに建物からも出ていく。


(ここは、見たことがないな)


 スチーム星の街並みは、確か、何もかもが巨大だったよな。ロボットみたいな住人は、子供のうちは、人化というか小型化ができないって言ってたっけ。


 でも、この街は、僕達のようなサイズに合わせて作られているようだ。


(あっ、でも、ロボットみたいな人もいる)


 シャインが向かったのは、大きな広場だった。そこには、巨大なロボットみたいな住人が、二人座っている。


 地面に座っていても、周りの建物から、頭が飛び出しているように見える。


(うん? あの子)


 僕が、気づいたときに、彼も僕に気づいたらしい。神に仕える村に生まれたのに、何もできない子だとか言われていたよね。


 名前は、確か…… ロバートだっけ?



「あー、小さい生き物! イロハカルティア星の神に仕える村の子なんだろ?」


(覚えてくれてる!)


「はい、ライトっていいます。確か、ロバートさん?」


「うへぇ、ロバートだよ。すっげ〜、小さいのに頭がいいんだな」


(名前、合ってた)


「ゴーグルをした人が教えてくれたんですよ」


「そうか。あはは、大人は、みんな怖いからな。でも、おまえが帰るって聞いたから、俺、ついて来たんだ。こっちは、ドーマンだ」


 もう一人のロボットみたいな人は、さらに背が高そうだ。二人だけなのかな。いや、大人は、小型化できる。


 広場には、ゴーグルをつけている人が数人いるようだ。子供は、この二人だけなんだな。




 僕が、彼らと話していると、シャインが、何かを持ってきた。満面の笑みなんだよね。肉だろうな。


「父さん、もらってきました。あっ、竜人さんの分は、もらってないです」


(竜人さん?)


 すると、巨大なロボットのような二人は、手を振っている。


「俺達は、そんな焼いた塩辛い物は、食べられないから」


(あれ? 竜人さん?)


 どう見ても、ロボットみたいだよね。シャインから、皿を受け取り、パクリと食べた。あれ? これって、普通に……美味しい。うん?



『ライト、そいつらと話せるのか』


 目の前に、突然、スケルトンが現れた。その瞬間、ロバート達は立ち上がり、逃げるようにして離れていく。一歩が大きいから、もう、どこに行ったか、わからないな。


「魔王カイさん、怖がられていますね。あの子達は、まだ子供なんです」


『ふん、そんなことは知っている。なぜ、竜人を乗せているのかを知りたいだけだ』


 スケルトンは、カクカクと歩き回る。ちょっとイラついているみたいだ。だけど、アンデッドの魔王カイさんは、迷宮を守っていたんじゃないの?


(それに、竜人って……)


「魔王カイさん、あの子達は、スチーム星の住人です。竜人というのは……」


『は? スチーム星は、竜の星だろう? 神スチームが、イロハカルティア星に連れて行けと言ったらしいが、なぜ、そんなことになった? 弱い竜人は、何の戦力にもならん』


(うん? イロハカルティア星に?)


「魔王カイさん、僕、さっき起きたばかりで、意味がわからないです。というか、貴方は、迷宮を守っていると、魔王二人が言ってましたけど?」


 すると、スケルトンは、くしゃりと崩れるように、シャインが置いた空き皿の中に倒れた。な、何?


『チッ! バカが来る。魔王カイは、ここには居らん』


(はい? それで皿に?)




「やっほー、ライト、やっと起きたわねっ」


 赤いワンピースで、ビシッといつもの決めポーズの少女。


「魔王サラドラさん、僕、かなり寝てました?」


「うん、スチームちゃんの城に戻って、砂漠の迷宮を掘り出して、スチームちゃんが迷宮都市を宇宙船に作り替えて、バイバイまたねって言って、迷宮都市の人達と、迷い子見つかりましたパーティをして、竜人ちゃん歓迎パーティをして、それからえっと……」


(は、はい?)


 少女の頭の上の花が、ピコピコと激しく動いている。


「あ、あの、いま、僕はどこにいるんですか?」


「うん? 迷宮都市の宇宙船の中だよっ。たぶん、明日くらいに、イロハカルティア星に着くみたい」


「えっ? 宇宙船!?」


「うん、転移だと、ライトが寝るでしょ? イロハカルティア星に着いたら、すぐに動けないとダメなんだって」


 ちょっと、待って。迷宮都市が宇宙船に? 神スチーム様は、確かに魔道具を作る能力が高いらしいけど……。


「僕のせいで、宇宙船?」


「うん? この人数の正確な転移が、イロハちゃんにはできないからじゃない? あーはっはっは。時間調整もしてるから、昨日、次元をぶわって越えたよっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ