103、スチーム星 〜族長テルマの失敗
「その数なら、容易い。1,021個のゴーレムで良いのだな」
ノームの魔王ノムさんは、族長テルマさんに確認するかのように尋ねている。
だけど、今、この瞬間まで、数万人は居ると思っていた住人があまりにも減っていて、彼女はすぐには返事ができないようだ。
「地上には、もう、竜がいないのなら、地下に危険が及びそうですね。地上との出入り口は、完全に壊してしまう方がいい」
レンフォードさんが、強い口調でそう言うと、彼女は、ハッとしたようだ。
「神スチームが、封じているので、大丈夫かと……」
「その神スチームの城が無事ならな」
魔王ノムさんは、何かを察知したのか、イライラしているように見える。
「城に置いてきたゴーレムが壊されたね。だから、もっと強いゴーレムを置いてくればよかったんだよっ」
赤いワンピースの少女は、なんだか好戦的な笑みを浮かべている。もしかして、地下に侵略者が来ているのかな。
「おまえはバカか。過剰な支援はできない」
魔王ノムさんは、相変わらず魔王サラドラさんに冷たい視線を向けている。
もちろん、彼女は気にしていないけど、二人の様子に、族長テルマさんが、ハラハラしているんだよね。
「どうしてよっ。何をしても歴史は変わらないよっ」
「過剰な支援をすると、つじつま合わせのために、何かが起こる。それに巻き込まれると、次元の狭間に落ちるぞ」
(助けに来たのに、遭難してしまう?)
「大丈夫だよっ。ライトがいるもん」
「バカか。ライトは、転移が絡むと失神するだろ」
「あ……ライトってば、お子ちゃまだから、すぐに寝るのよね」
(いや、体質だと思うけど)
なんだか、たくさんの視線が突き刺さる。
「とりあえず、族長さん、住人を集めてくださいっす。この場所なら、イロハカルティア星の遭難者もいるから、他の場所より安全っすよ」
ジャックさんがそう言うと、族長テルマさんは頷いた。そして、淡い光を放っている。やはり、念話なんだろうな。
「この塔の前の広場に集めろ。土があるから、ゴーレムの調整が楽だ」
魔王ノムさんがそう言ったことで、イロハカルティア星の遭難者が、窓の外を見に行った。
「ライトさん、やはり、ここが探し当てられたみたいっすよ」
ジャックさんが小声で囁いた。
「えっ? 侵略者にですか?」
「神スチームが、城と地下のどこかを転移魔法陣で繋いでいたみたいっすね。神スチームは、殺され、復活するまでのわずかな時間に、転移魔法陣は、占拠されてるっす」
(弱いな、神スチーム……)
そうか、自分の星で殺されたら、すぐに復活できるんだ。だけど、その能力の一部を奪われる。さらに弱くなるよね。
「じゃあ、地下に……」
「時間の問題っすね。まぁ、こっちの方が戦力は、上っすけど」
窓から外を見ていた人達が、ルシアに何か合図を送っている。竜人が集まってきたのかな。
「父さん、族長が強制転移を使って集めているよ」
(父さん? あ、僕のことだよな)
ルシアは見た目年齢は、30代だから、なんだか違和感だな。シャインの場合は、見た目年齢が僕と同じ5〜6歳だから、いいんだけどさ。
「強制転移?」
「うん、だから、招かざる者まで一緒に転移してくる。すでに、竜は、襲撃されていたみたい」
(おいおい、それって敵を招き入れてるんじゃん)
「それだけ、この星の竜には余裕がないってことだよね。ちょっと『見て』みるよ」
僕は、『眼』の力を使って、窓の外を見てみた。たくさんの竜人がいる。そして、まだ、十数人だけど、竜人ではない武装した人もいる。
竜人が集まっているためか、侵略者は、まわりをキョロキョロして様子を見ているようだ。
いや、この街に驚き、警戒しているのかもしれない。
「じゃあ、僕が行ってくるよ」
「えっ? 父さん、こんな場所で闇を使うと、結界が消えてしまうよ」
(そんなに、僕の闇は破壊力があるのか)
「ルシア、大丈夫だよ。闇は、まだ上手く使えないんだ」
「えっ? ちょ、それなら……」
(そんなに焦るほど、僕は弱かったのか)
「大丈夫だと思うよ。以前の僕とは少し違うから」
「父さん、僕も行きます!」
シャインが、キリッとして立ち上がった。やはり、僕は、信用がないらしい。遭難者の人達も不安げだ。
「うん、じゃあ、シャイン、行こうか」
「はい!」
目の前で、目障りな花がピコピコしている。
「ちょっと、お子ちゃまだけで何を言ってるの! あたしも行くからねっ」
「魔王サラドラ、結界を壊すなよ? 多重結界は、中からの衝撃には弱いからな」
「ふふん、名探偵サラドラに、不可能はないわっ! あーはっはっはっは」
(意味がわからない)
「じゃあ、俺達は、中の守りっすね。魔王ノムさん、ゴーレムは、室内でも作れるっすか?」
ジャックさんとレンフォードさんは、イロハカルティア星からの遭難者を守るんだな。いや、みんなで順に、竜人にゴーレムを着せていくという感じかも。
「微調整はできんが、まぁ、問題はない」
「それでいくっすよ。族長さん、広場にいる住人を、順に、さりげなく塔へと誘導してほしいっす」
「ええ、わかったわ。だけど……」
族長さんの顔色は悪い。広場に、強制転移させるたびに、侵略者達も、招き入れているからかな。
神スチームが失敗ばかりなのは、族長テルマさんに似たのかもしれないな。たぶん、安全にここに移動させる方法は、あったはずだ。
「じゃあ、僕達は行きますね。適当に、蹴散らせばいいんですよね」
「他の星の神が居たら、すぐに始末してくださいっすよ」
「わ、わかりました」
(あれ? もう赤いワンピースの少女がいない)
「ライト、あのバカを一人にするな」
「魔王ノムさん、わかりました。ゴーレムは、お願いします」
僕は、シャインと一緒に、階段を駆け降りた。
塔から広場へ出ると、赤いワンピースの少女が、出入り口を塞ぐように仁王立ちしていた。
(よかった、まだ何も起こってない)
「いい加減にしなさいよっ! あたしの友達の故郷なんだからねっ」
「は? 子供が何を……ぷぷぷ、また、子供が出てきたぞ。この区画は、子供しかいないらしいな」
「竜は、なぜ、こんな場所に逃げたんだ?」
「この建物の中に、白き竜が二体いるぞ」
「ふん、竜の巫女と、神スチームか。ククッ、なんて、ラッキーなんだ」
侵略者達は、竜を探るサーチができるみたいだ。でも、イロハカルティア星の遭難者達には気づいていない。
(あっ、そっか、未来人だもんな)
未来人は、サーチが効かないと言っていたっけ。ジャックさんやレンフォードさんが、遭難者達に窓から離れるようにと言っていたのは、そういうことかな。
見られなければ、ここに、イロハカルティア星からの遭難者がいることは、気づかれないんだ。
「さっさと帰りなさいよっ!」
魔王サラドラさんも、サーチされないんだろう。サーチできないことを、弱すぎるからだと判断しているみたいだ。
「ぷぷぷ、白き竜がいるなら、建物内の方が魅力的だな。だが、神スチームは、ちょっと厄介だが」
「だよな、殺しても何も得られない」
「最低限の能力しかないからだろ。星を壊せば、神スチームは消滅するんじゃないか」
「それは困るな。竜が、あちこちに逃げてしまう」
(コイツら、最低だな)
僕は、サラドラさんの前に出た。
「ちょ、ライト! あたしの前に立たないのっ」
「サラドラさんは、出入り口を守ってください。僕が交渉します。竜以外は、絶対に通しちゃダメですからね」
「なっ? 何よ。チビのくせに〜」
(あー、これは、ごねる。言い方を失敗した)
「名探偵サラドラさん、奴らは、貴女の隙をついて、扉をくぐり抜けようとしますよ? 完全にそれを封じるようなことは難しいですかね〜」
「なっ? 通れないようにするなんて簡単だわ。何の謎もないわよっ」
「出入り口を燃やしたりしちゃ、謎解きになりませんよ?」
ギクリとする赤いワンピースの少女……。
(燃やす気だったのか)
「俺達は、こっちの餌でいいぜ」
離れた場所にいた侵略者が、竜人を斬りつけた。斬られると、人化が解除されてしまうみたいだ。
(リュックくん!)
そう、心の中で叫ぶと、僕は、黒い鎧に包まれた。
僕は、斬られた竜の前へと、駆けた。やはり、リュックくんの鎧があると、速い。走っている間に、僕の両手には剣も現れた。
キン!
竜に斬りかかった奴の剣を弾く。
「へ? 何だ? ワープしやがった」
(してないよ!)
「狩りの時間は、終わりです。もう帰ってくれませんか」
「ガハハ、ふざけたことを言ってるぜ」
竜人達は、シャインが誘導して、塔の方へと移動している。だけど、出入り口には、サラドラさんと対峙している奴らがいるんだよな。
「もう一度言います。さっさと帰りなさい。じゃないと、殺すよ?」
リュックくんが脅せと言うんだ。だけど、全然、効果がない。
「あははは、俺達を殺す? ガハハ」
離れた場所にいる一人が、手に魔力を集めている。
(はぁ、仕方ないな)
僕は、地を蹴った。




