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102、スチーム星 〜マーテル似の族長

 ドラゴン族マーテルさんの眷属の彼の必死な表情に圧倒されて、話を聞いていた遭難者達は、思わず頷いているようだ。


 だけど、助けてくれと言われても、そんなに弱い竜を、次々と狙ってくる襲撃者から、どうやって守ればいいんだ?


 いま、他の星系からの襲撃者を追い払っても、僕達がこの星を離れると、結局、同じことになってしまう。



「ふん、それでマーテルは、ワシに、ライトにつけと言っていたのだな。ならば、このワシに頭を下げて依頼すべきだろう?」


 ノームの魔王ノムさんは、不機嫌そうに眉をしかめている。すべては、マーテルさんの計画だったのかな。


 確かに、ノムさんが居なかったら、こんな風に探し当てることは難しかったよね。魔王サラドラさんのゴーレムを操る不思議なチカラも、きっと必要だったんだ。



「魔王ノムさん、眷属の彼に文句を言っても仕方ないっすよ。迷宮にいた魔王は、マーテルさんに信頼されてるってことっすよ。無駄のない人選だと思うっす」


 ジャックさんがそう言うと、魔王ノムさんの表情は、少し柔らかくなった。でも、うん、ほんとに少数精鋭だし、的確な人選だと思う。


「だけど、どうするべきでしょうかね。今いる襲撃者を追い払えという依頼なら、まだ何とかなりそうだけど」


 レンフォードさんは、頭を抱えている。彼は警備隊の所長だから、こういう作戦的なことには、慣れているみたいだけど。



 僕の目の前で、ピコピコと花が揺れている。ちょうど、目障りな高さなんだよな。


「そんなの、簡単じゃない。何を暗い顔してるのっ」


(えっ? 簡単?)


「おまえ、また、バカなことを言い出すんじゃないだろうな」


 魔王ノムさんが、冷たい視線を向けている。だけど、赤いワンピースの少女は、気にしない。


「爺さんがゴーレムをいっぱい作って、住人を隠せばいいんだよっ。衣装が変わると、竜だと気づかないよっ。あたしも、赤いワンピースを着ていなかったら、名探偵サラドラだと気づかれないもんっ」


(そんなに大量のゴーレム?)


「おまえな、バカだろ。おまえの場合は、何を着ていてもバカなサラマンドラだとバレてるぞ。だが、ゴーレムか……ふむ……」



 魔王ノムさんは、ゴーレムに閉じ込めている監視者に視線を移した。そして、階段の近くにいたゴーレムを、ヒョイと引き寄せている。


 そして、ゴーレムを切ったようだ。監視者の頭の部分を覆っていたゴーレムの頭部が、ゴトっと床に落ちた。


 中から顔を出した人は、焦った表情をしている。捕獲されているんだもんな。


 そして魔王ノムさんは、床に落ちたゴーレムの頭部を回収し、何かの作業を始めた。分析かサーチをしているのだろうか。



 赤いワンピースの少女が、突然、マーテルさんの眷属の彼をビシッと指差した。いつもの決めポーズだ。


「眷属ちゃんっ、爺さんのゴーレムに、あなた達なら、ぴっちょりできるわよねっ」


(ぴっちょりって何?)


 すると、彼は、監視者に近寄り、その身体を覆うゴーレムの内部を調べているようだ。


「魔王サラドラ……いえ、名探偵サラドラさん、確かに、人化していなければ、ゴーレムに皮膚を同化させることは可能です。もう少し、土の密度が低ければ、同化させた後に、人型の大きさに変わることも出来そうです」


 その意見を聞き、魔王ノムさんは、頷いている。


「どの程度だ? 竜の姿になってみてくれ」


 そう言うと、監視者を覆っていたゴーレムが、土のカケラとなって崩れた。



 監視者は、逃げようと考えたのか、階段の方に視線を移した。


 すると、マーテルさんの眷属の彼が、表情を引き締め、口を開く。


「貴方がこの場から逃げれば、交渉決裂だ。この時代で、スチーム星の竜は絶滅する。二度と、白き竜は、助けには来ない」


(うわっ、こわっ)


 強い口調だな。彼が、こんな話し方をしたのは初めてかもしれない。


 監視者は、雷に打たれたかのように、硬直している。その目はうつろに見える。強いストレスで失神しそうだよね。


 だけど、何かを迷っているようだ。簡単に従うわけにはいかない意地があるのかな。


 シーンと静かになった。重苦しい空気感だな。




 しばらくすると、階段を上がってくる足音が聞こえた。


「白き竜、我々を助けに来てくれたのですね」


(あれ? マーテルさんに似ている)


 階段を上がってきたのは、ドラゴン族のマーテルさんに似た雰囲気の色っぽい女性だった。


 イロハカルティア星の遭難者達が、少し緊張したのが伝わってくる。マーテルさんの姉妹?


「族長か。神スチームを生み出した巫女ですね」


 マーテルさんの眷属の彼も、少し表情が固くなっている。神を生み出した巫女って……めちゃくちゃ凄い女性なんだ。


「ええ、私は、族長のテルマですわ。神スチームを生み出す手助けをしただけですよ。神を創る力などありません。マーテルが、貴方達をここへいざなったのね」


(マーテルさんの名前が出た!)


「私の主人は、マーテル様ですが、他の方々は違います。マーテル様が暮らす星の方々です。マーテル様自身は、このスチーム星を救う術を持たれていません」


「あら、マーテルの下僕ではないのですか。イロハカルティア星には、それほどの……」


「族長さん、貴女は何もわかっていない。これは、主人からの伝言です。白き竜が神に次ぐ尊き生き物だという思考は、間違いです。他の星を知らない愚か者が統べるから、いま、スチーム星は窮地に立たされている」


 マーテルさんの眷属の彼は、緊張した顔で、族長テルマさんを真っ向から批判するようなことを言っている。


(やばいんじゃないの?)


 族長テルマさんは、その笑顔が怖い。絶対に怒ってる。なんだか、冷たいオーラが漏れているみたいだ。



「そのようなことを堂々と口にするということは、マーテルは、とんだ自信家になったようですわね」


「違いますよ。主人の言葉を伝えて、族長さんが気分を害したとしても、貴女には私を殺す力がないからです」


(嘘だ、眷属くん、ビビってるじゃん)


「あら、貴方も、とんだ自信家ね。試してみる?」


 族長テルマさんが、妖しく微笑んだ。

 


「やめておく方がいいっすよ。族長さんにも、俺達の戦力は見えてないっすよね? 未来から来た俺達にサーチは効かないっす」


 ジャックさんが、彼女を止めた。


「あら、貴方も自信家ね」


(止まってない……)


「族長さん、滑稽に見えるっすよ。俺でさえ、その気になれば、この星を潰せるっすよ?」


 ジャックさんが、めちゃくちゃなことを言っている。でも、それができるほど強いのかも。


 ジーッと、ジャックさんの顔を見つめる族長テルマさん……たぶん、魅了か何かの術を使ってるよね。


 だけど、ジャックさんは平気な顔をしている。



「ふぅ、わかったわ。マーテルが敵わない者もいるのね」


「俺、マーテルさんとは敵になると勝てる気がしないっすよ。でも、マーテルさんが絶対に敵わない人が、イロハカルティア星には、何人もいるっすよ」


(マーテルさんって強いんだ)


 族長テルマさんは、何かを悟ったかのような穏やかな表情に浮かべた。


「何人も、じゃなくて、何十人も、じゃないの?」


 なんだか自重気味にそんなことを言うと、彼女はオロオロしている監視者の方に視線を移した。



「彼らに助けていただくわ」


「か、かしこまりました」


 監視者は、返事をすると、姿を変えた。


(うわぁ、長いな)


 ドラゴンというより、ヘビだね。なんだか、空中に浮かぶ姿を見ていると、赤い色をしているからか、巨大な鯉のぼりを思い出すんだけど。



「ふん、短いな。これが、この星の竜か」


(えっ? 10メートルくらいあるよ?)


 魔王ノムさんが呟いた言葉に、族長テルマさんは、少しムッとしているようだ。


「マーテルも、これくらいでしょう?」


「いや、魔王マーテルは、この5倍はある。竜の長さは魔力の差だろう? それで? いま何体生き残っている?」


 魔王ノムさんの言葉に、族長テルマさんは目を見開いている。そして、ふっと笑顔を見せた。先程までとは違う、スッキリとしたような笑顔だ。


「イロハカルティア星は、恐ろしいですわね。もしや、中立の星の中では、最強なのかもしれません。数は、少しお待ちください、確認します」


(中立の黄の星系の、創造神の星だもんな)


 この時代から、10年後くらいだっけ。神戦争が勃発して、女神イロハカルティア様が、黄色の太陽を創り、そして黄の星系を創りあげるんだもんな。


 これがキッカケになり、スチーム星は、青の星系から抜けて、黄の星系に入るんだろう。




 族長テルマさんを包んでいた淡い光が消えた。念話なのかな? こんな特殊結界の外にいる住人にも、伝えることができるのだろうか。


「お待たせ致しました。いま、生存している竜は……地下には、1,021体、そして地上には、神スチームのみとなっています」


 なんだか、その顔色は悪い。


「主人マーテル様は、5〜6万体は居ると言っていましたが」


「私も、数万体は、残っているかと……」


(そんなに狩られた、のか)



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