1、始まりの地 〜目覚め
初めましての皆様、毎度おなじみの皆様、お久しぶりの皆様、どうぞよろしくお願いします。
「ハハハ、愚かな死霊め! おまえは、もう終わりだ。だが安心しろ。我が星に連れ帰り、新たな生命を授けてやる。俺の忠実な下僕としてな」
青の神ダーラは、勝利を確信していた。だが……。
「な、何?」
荒れ狂う漆黒の闇が、全能であるはずの神ダーラのバリアを破壊していく。
「青の神ダーラ、僕は、女神イロハカルティア様の番犬です。この身を犠牲にしてでも、貴方を消滅させてみせる!」
いつも通りのやわらかな笑みを浮かべながら、ライトは、二つの闇を掛け合わせた。そして、禁忌とされている神殺しの極黒雷魔法を放った。
ドウゥウゥン!!
◇◆◇◆◇
クリスマスのイルミネーションが輝く駅前、最終バスを逃した僕は、忘年会の余韻を楽しみながら、ふわふわとした気分で、家にどうやって帰ろうかと考えていた。
ふと、足元に、見たことのない猫のような生き物を見つけた。奴は、僕をポスポスと殴っていたが、僕がそれに気づくとサッと離れ、ジッと僕の顔を見ている。
(迷い子の猫?)
なぜか、僕を誘っているかのように、僕の帰り道を進んでいく。だけど、変なんだよな、奴はまるでワープでもするかのように、移動している。
(うーん、酔ってるのかな?)
捨て猫なら、飼ってあげたいところだけど、ウチはペット禁止なんだよね。
そして、何となくついていくと……突然、ぐらりと強いめまいのような、落下するような感覚を覚えた。
(嘘、こんなとこに、落ちる場所なんて……)
視界が真っ白になり、僕の目は何も映さなくなった。
◇◇◇
「おーい、起きるのじゃ、いつまで寝ておるつもりじゃ?」
「えっ、ここは……」
目の前には、思わず呼吸を忘れてしまうほど、美しい女性がいた。少し幼さの残る可愛らしさと、吸い込まれそうな強い目ヂカラ……20代後半だろうか。淡い黄色のドレスがよく似合う。
しかし、上品な雰囲気とはあまりにもズレた、変な話し方をする女性だな。
「時間がないのじゃ。一度しか言わぬから、よく聞くのじゃぞ。妾の落とし物を拾いに行ってくれぬか?」
「いや、僕は、明日は休みですけど、仕事が……」
「あっちのキミは、もう居ないのじゃ。仕事なんて行く必要はないのじゃ」
「はい? どういうことですか」
「光田翔太は、27歳で死んだのじゃ。キミには、妾の落とし物係として必要な『眼』『器』『能力』を与える。あと、しょぼい基本魔法を操る力と、『リュック』も渡しておくのじゃ」
(死んだ? まさかね)
「リュックなんて、見えませんけど」
「当たり前じゃ。今のキミは霊体じゃからな。身体を得たら見えるようになるのじゃ。それでは、よろしくなのじゃ」
(ちょっと、何? この人は誰?)
「ぬわっ、妾としたことが、自己紹介をしておらぬかったか。妾は、この星を守護する女神イロハカルティアじゃ」
(えっ? 僕の考えていることがわかるのか?)
「いろはかるた?」
「ちがーう。イロハカルティアじゃ。落とし物を拾って来たら、いろはちゃんと呼ばせてやってもよいのじゃ」
「いろはちゃん?」
「ちがーう! 重要極秘任務の取って来いができるまでは、イロハカルティア様じゃ」
「は、はぁ……イロハカルティア様」
(夢か……僕は酔って、どこかで寝こけているのかな)
「夢ではないのじゃ。これはキミの現実なのじゃ。さっさと受け入れるのじゃ。ってことで、よろしく、なのじゃ!」
◇◆◇◆◇
(暗い……)
僕は、真っ暗な場所で目覚めた。起き上がろうとしても、何かに包まれていて自由に動けない。
(ここはどこだろう?)
僕は、なんだか急に、猛烈に悲しくなってきた。
「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー」
(は? はい?)
僕は自分の口から発している声に驚いた。いま、僕は、おぎゃーって泣いてる? 僕は、27歳だ。それに、そんな妙なプレイをする趣味はない。
すると、上の方から光が差し込んできた。隙間が見える。はぁ、僕は酔っ払って、どこかに入り込んで寝ていたのかな。
(ま、眩しい……)
僕は、強い光に手を……。手を……。ちょっと、どういうこと? 手が短い。いや、手首なんて、ボンレスハムのように、ムチムチしている。
(まだ、酔いが残ってる?)
光が差し込む隙間が、突然パッと大きく広がった。すると、見たことのない景色が現れた。僕の住む街には、こんな自然豊かな場所はない。以前、旅行で行った秘境の温泉地よりも、さらに秘境な感じだ。
キョロキョロと辺りを見回すと、周りには樹木しかない。この場所は、密林の中に作られた人工的な広場なのだろうか? キャンプ場?
(うん? 石碑?)
僕は、広場に設置された石碑の台の上にいるようだ。少し高さがある。立ち上ろうとしたけど、なぜか立てない。僕の首から下は、巾着袋に覆われている?
(誘拐されて、袋詰め?)
いや、酔っ払って寒くて自分で入ったのかもしれない。僕を誘拐しても何の特にもならないもんな。あっ、トラックの荷台か何かに乗り込んでいて、死体と間違えられて捨てられたとか?
(ここは、どこだろう?)
スマホを探そうと、僕が入っている巾着袋の中を探ってみたけど、何も手に触れない。というか、やはり、なんだか手が短い。それに、僕は服を着ていない?
(あれ? 何かが光った?)
上を見上げると、石碑に刻まれた文字が目に入った。日本語ではない。英語でもない。見たことのない文字だけど、僕には読めた。
『女神様の番犬、ライト様、生誕の地』
(番犬? ライト?)
そのとき、ピューッと不思議な風が吹いた。すると、空に巨大なスクリーンが現れた。そして、見たことがあるような女性が映し出されている。
(何、ここ? なんちゃらシアター?)
スクリーンに映る金髪の女性は、夢の中に出てきた長い名前の女性に似ている。外国の女優さんだったんだ。変な予知夢だな。
そういえば、いろいろなことを聞いた気がする。内容を思い出そうとするけど、思い出せない。なんだか、あの夢を見たのは、遠い昔のことのように感じる。
『皆さん、この星を守護する女神イロハカルティアです。この数ヶ月間の戦争は、昨日、いったん終結しました。黄の星系を奪おうとする他の星系の神々による侵略戦争でした』
(へぇ、珍しい戦争モノの映画だな)
『青の星系の覇者である青の神ダーラは、私の側近の中でも最強のライトを狙い……ライトは、青の神ダーラを消滅させるために禁忌魔法を使ってしまいました』
(あっ、ライトって、この石碑の人かも)
『それによって両者は消滅……ですが、青の神ダーラは、おそらく自分の星で復活を遂げるでしょう』
(悪役が復活? それを阻止しようという映画かな)
スクリーンの映像は、女神役の女性の切なげな表情を映している。すごい、名演技だ。思わず惹き込まれる。
ということは、ここは、映画のセットの一部なのか。日本でこんな映画を撮っていたなんて知らなかったな。でも、石碑は日本語じゃないのに読める……なんだか少し違和感を感じるけど。
『これから私は、戦争で傷ついたこの星、そして黄の星系に、再生回復魔法をかけます。それと同時に、星の保護結界が発動します。星の再生回復が完了するまで、星から出ることも入ることもできなくなります。ご不自由をおかけすることをお許しください』
(へぇ、ファンタジーだな)
『これには、100年前とは比較にならないほどの莫大なエネルギーを消費します。星の保護結界が解除されると、再び、神々による襲撃を受ける可能性が高い。その備えに必要な依頼を、私の名でギルドに出します。冒険者の皆さん、力を貸してください』
(ほぅ、ほぅ)
『私は、再生回復魔法を発動した後、眠りにつくことになるでしょう。100年前と同じく、私の番犬16人が、女神の仕事を代行します。あっ、ライトは、もう居ないので……代行者は15人ですね。皆さん、よろしくお願いします』
そして、映像は消えた。映画の予告編だったのかな。
辛そうな表情を浮かべた女神役の女性の姿に、僕は、胸を締め付けられた。すごい演技派女優だな。
ピューッ!
不思議な強い風が大地を駆け抜けていく。すると、突然、大きな地震が起こった。
(えっ……怖い)
「おぎゃー、おぎゃー」
(ま、また、赤ん坊プレイ?)
地震が続く。あちこちが騒がしくなってきた。密林の中で何かが暴れている。僕は恐ろしさに震え、ひたすら泣くしかなかった。
『やっと見つけたのじゃ。なっ、なんじゃ? チビすぎるのじゃ!!』
何か聞こえた気がするが、今の僕には、全く余裕はなかった。
「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー!」
皆様、見つけて読んでいただきありがとうございます。
本作は、約2年前に完結した作品の続編ですが、初めて読んでいただいても問題ないように綴っていきたいと思っています。
なので、初めましての方も、すっかり前作を忘れたという方も、ちょっと覚えてるよという方も、大丈夫です。主人公ライトもすっかり記憶を失っていますので。
しばらくは、毎日投稿予定です。
どうぞ、よろしくお願いします。