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7/7

7、結界

 今夜は外に行くぞ、と言われた。

 忙しすぎて気にしていなかったが、俺はここに来てからほとんど外に出ていない。やることは全て屋敷にあるし、買い出しはフィリスが買ってきてくれるし、出る必要がないからだ。

 そんな毎日だったこともあって、確かに少しくらい広い空間に出たいとは思っていた所だった。

 しかし、外には木しかない。一人で迎えば必ず迷うと言われている森だ。それに異界は現世と勝手が大分違う。一般人が入れば必ず死ぬ、とのこと。こっそり抜け出して、数日遭難しただけで済んだやつは余程運が良かったんだろうな。

 俺は方向感覚に自信がないから、入ったら確実に死ぬ。

 だが、今回はフィリスの付き添いで森に入ることになった。なんでも”結界”の確認をしに行くらしい。その行為に俺は不要だが、散歩程度の距離なので来たいなら来ればいいと言われた。

 もちろん、二つ返事でOKした。外に出たいし、ここら辺に何があるのかを知っておきたい。

 今は執事服を着て玄関で待機中だ。この屋敷には執事服とメイド服と寝巻みたいな服しかない。

 今の森は秋っぽい気候だ。薄いジャージだと心もとない。機能性より断熱性を選んだ結果、いつもの執事服を着ることにした。

 この執事服、ジャージほどではないが意外と伸縮性があるから着やすいんだよな。使用人って肉体労働が多いからかな。


「待たせたな」


 フィリスが二階から降りてきた。服装はいつもの黒を基調としたドレスだ。金色の髪によく似合っている。俺が言えたことではないが、もう少し動きやすい服でいいんじゃないかと思う。


「俺も今来たところです」

「ふふ。では行こう」

 

 このセリフ一度言ってみたかったー!ちょっとフィリスに笑われた気がするけど。久しぶりの外で舞い上がってしまったのかもしれない。

 外に出ると満点の星空が広が……雲に覆われていた。この屋敷付近はずっと曇っている。異様な気候だ。月すら見えない。

 この世界に月はあるのだろうか?異世界の月と言えば、2つあったり、赤かったり、そもそもなかったりする印象がある。昼と夜の概念があるから太陽は存在するんだろうけど。

 まあ、いいか。あんまり考えていても仕方ない。

 空から森に目を移すが、相変わらず暗くてよく見えない。日中になると少し見えるようになるが、奥までは見えない。道とか整備すればいいのに。

 時折、鳥のさえずりとか聞こえるから生物はいるんだろうけど、それにしても量が少ないし、リスとかの小動物になると全く見当たらない。


「そうだ。忘れるところだった。お前、これを持て」


 古いランタンを投げ渡してきたので、慌ててキャッチする。火が灯っていない鉄制のランタンだ。

 フィリスが指をならすとランタンの内部が煌々と燃えた。


「おお~」


 思わず声を上げてしまった。炎魔術すごーい。


「それは私の魔術で燃えるようになっている。終わったら返せ」

「ありがとうございます」


 フィリスは道のない森の中を進んでいった。遅れないように跡をついていく。はぐれたら一巻の終わりだからな。

 光源もないのによく進めるものだ。吸血鬼だから夜目が効くのだろうか。何かあったとしてもフィリスは強いからな。どうにかなるんだろう。


「これから確認しにいくのはこの屋敷を守る結界の魔石だ」

「それって重要なんですか?」

「ああ重要だとも。本来この森にはアンデットがうようよしてるからな」

「あ、アンデット!?」

「そうだ。動く死体とか、骨とか、あと……吸血鬼とかだな。死塊の森なんて呼ばれていて、滅法人が近づかないことで有名だ」

「じゃあその結界っていうのは……」

「そうだ。屋敷を守るための結界だ。アンデット共に屋敷を荒らされたくないからな」


 アンデットいるんか……そりゃそうか。屋敷の主が吸血鬼なんだもんな。よりにもよってアンデットの森に転移してたんだ俺。

 俺グロいのに耐性あるかどうかわからないんだよな。試したことがない。あんまり見たこともない。今まで避けてきたから見た瞬間に吐くかもしんない。骨はともかく腐った死体は危ないな。


「結界がある限りお前が見ることはないだろう。安心しろ。結界が壊れたことは今まで一回しかない。それも私がまだ結界に不勉強だった時のことだ」

「なるほど」


 見ることがないなら……安心か。でも折角異世界に来たんだからビジュアル的に幻想的な生物を見てみたい気もする。

 グロを見るのが不安という考えと矛盾しているけど、ドラゴンとかペガサスとか、そこら辺は見てみたいかな。


「この世界にドラゴンとかはいるんですか?」

「いるとも。多分」

「多分?フィリスさんは見たことないんですか?」

「龍種は存在しているらしいが、数が少ない上に見たものは生きて帰ってこないらしいのでな。私も見たことはない」

「フィリスさんより強いのか……」


 ドラゴンといえば男のロマン。でもないが、幻想生物の中では強いイメージがある。俺はフィリスと比べると貧弱だから、逆にそこら辺をうろつかれて襲ってこられても困るか。消し炭になってしまう。


「ん?聞き捨てならんな。確かに龍種は特殊な(ブレス)と強靭な肉体を持ってはいる。強いよ。確かにな。だが、私ほどではない」

「吸血鬼ってそんなに強いんですか?」

「吸血鬼というよりかは私が強い。あ、夜の間の話だぞ。日光があっては動けんからな」

「すごいですね」


 褒めるとフィリスはフフフと笑った。俺の前を歩いているので表情は見えない。

 そんなに強いのか吸血鬼って。いや、口ぶりから吸血鬼の中でもフィリスが強いのか。

 心強いなぁ。

 森を進んで数分。暗い夜道が続いている。


「そろそろ着くぞ」


 道を抜けた先にあったのは花畑だった。視界いっぱいに色とりどりの花が広がっている。森とは逆だ。まるで木が見えない。

 明るい。奥まで見える。花が映えるようにライトアップされている。これは宝石か?電灯じゃない。宝石が白く光っている。


「ここは……」

「見ての通り花畑だ。壮観だろう?」

「森の木は軒並み葉っぱが散ってるのに、奇妙な場所ですね」

「花が生えている場所のみに地脈が集まっているんだ。確かに奇妙な場所だな」

 

 遠くに小さな建物が見えた。 今夜は外に行くぞ、と言われた。

 忙しすぎて気にしていなかったが、俺はここに来てからほとんど外に出ていない。やることは全て屋敷にあるし、買い出しはフィリスが買ってきてくれるし、出る必要がないからだ。

 そんな毎日だったこともあって、確かに少しくらい広い空間に出たいとは思っていた所だった。

 しかし、外には木しかない。一人で迎えば必ず迷うと言われている森だ。それに異界は現世と勝手が大分違う。一般人が入れば必ず死ぬ、とのこと。こっそり抜け出して、数日遭難しただけで済んだやつは余程運が良かったんだろうな。

 俺は方向感覚に自信がないから、入ったら確実に死ぬ。

 だが、今回はフィリスの付き添いで森に入ることになった。なんでも”結界”の確認をしに行くらしい。その行為に俺は不要だが、散歩程度の距離なので来たいなら来ればいいと言われた。

 もちろん、二つ返事でOKした。外に出たいし、ここら辺に何があるのかを知っておきたい。

 今は執事服を着て玄関で待機中だ。この屋敷には執事服とメイド服と寝巻みたいな服しかない。

 今の森は秋っぽい気候だ。薄いジャージだと心もとない。機能性より断熱性を選んだ結果、いつもの執事服を着ることにした。

 この執事服、ジャージほどではないが意外と伸縮性があるから着やすいんだよな。使用人って肉体労働が多いからかな。


「待たせたな」


 フィリスが二階から降りてきた。服装はいつもの黒を基調としたドレスだ。金色の髪によく似合っている。俺が言えたことではないが、もう少し動きやすい服でいいんじゃないかと思う。


「俺も今来たところです」

「ふふ。では行こう」

 

 このセリフ一度言ってみたかったー!ちょっとフィリスに笑われた気がするけど。久しぶりの外で舞い上がってしまったのかもしれない。

 外に出ると満点の星空が広が……雲に覆われていた。この屋敷付近はずっと曇っている。異様な気候だ。月すら見えない。

 この世界に月はあるのだろうか?異世界の月と言えば、2つあったり、赤かったり、そもそもなかったりする印象がある。昼と夜の概念があるから太陽は存在するんだろうけど。

 まあ、いいか。あんまり考えていても仕方ない。

 空から森に目を移すが、相変わらず暗くてよく見えない。日中になると少し見えるようになるが、奥までは見えない。道とか整備すればいいのに。

 時折、鳥のさえずりとか聞こえるから生物はいるんだろうけど、それにしても量が少ないし、リスとかの小動物になると全く見当たらない。


「そうだ。忘れるところだった。お前、これを持て」


 古いランタンを投げ渡してきたので、慌ててキャッチする。火が灯っていない鉄制のランタンだ。

 フィリスが指をならすとランタンの内部が煌々と燃えた。


「おお~」


 思わず声を上げてしまった。炎魔術すごーい。


「それは私の魔術で燃えるようになっている。終わったら返せ」

「ありがとうございます」


 フィリスは道のない森の中を進んでいった。遅れないように跡をついていく。はぐれたら一巻の終わりだからな。

 光源もないのによく進めるものだ。吸血鬼だから夜目が効くのだろうか。何かあったとしてもフィリスは強いからな。どうにかなるんだろう。


「これから確認しにいくのはこの屋敷を守る結界の魔石だ」

「それって重要なんですか?」

「ああ重要だとも。本来この森にはアンデットがうようよしてるからな」

「あ、アンデット!?」

「そうだ。動く死体とか、骨とか、あと……吸血鬼とかだな。死塊の森なんて呼ばれていて、滅法人が近づかないことで有名だ」

「じゃあその結界っていうのは……」

「そうだ。屋敷を守るための結界だ。アンデット共に屋敷を荒らされたくないからな」


 アンデットいるんか……そりゃそうか。屋敷の主が吸血鬼なんだもんな。よりにもよってアンデットの森に転移してたんだ俺。

 俺グロいのに耐性あるかどうかわからないんだよな。試したことがない。あんまり見たこともない。今まで避けてきたから見た瞬間に吐くかもしんない。骨はともかく腐った死体は危ないな。


「結界がある限りお前が見ることはないだろう。安心しろ。結界が壊れたことは今まで一回しかない。それも私がまだ結界に不勉強だった時のことだ」

「なるほど」


 見ることがないなら……安心か。でも折角異世界に来たんだからビジュアル的に幻想的な生物を見てみたい気もする。

 グロを見るのが不安という考えと矛盾しているけど、ドラゴンとかペガサスとか、そこら辺は見てみたいかな。


「この世界にドラゴンとかはいるんですか?」

「いるとも。多分」

「多分?フィリスさんは見たことないんですか?」

「龍種は存在しているらしいが、数が少ない上に見たものは生きて帰ってこないらしいのでな。私も見たことはない」

「フィリスさんより強いのか……」


 ドラゴンといえば男のロマン。でもないが、幻想生物の中では強いイメージがある。俺はフィリスと比べると貧弱だから、逆にそこら辺をうろつかれて襲ってこられても困るか。消し炭になってしまう。


「ん?聞き捨てならんな。確かに龍種は特殊な(ブレス)と強靭な肉体を持ってはいる。強いよ。確かにな。だが、私ほどではない」

「吸血鬼ってそんなに強いんですか?」

「吸血鬼というよりかは私が強い。あ、夜の間の話だぞ。日光があっては動けんからな」

「すごいですね」


 褒めるとフィリスはフフフと笑った。俺の前を歩いているので表情は見えない。

 そんなに強いのか吸血鬼って。いや、口ぶりから吸血鬼の中でもフィリスが強いのか。

 心強いなぁ。

 森を進んで数分。暗い夜道が続いている。


「そろそろ着くぞ」


 道を抜けた先にあったのは花畑だった。視界いっぱいに色とりどりの花が広がっている。森とは逆だ。まるで木が見えない。

 明るい。奥まで見える。花が映えるようにライトアップされている。これは宝石か?電灯じゃない。宝石が白く光っている。


「ここは……」

「見ての通り花畑だ。壮観だろう?」

「森の木は軒並み葉っぱが散ってるのに、奇妙な場所ですね」

「花が生えている場所のみに地脈が集まっているんだ。確かに奇妙な場所だな」

 

 遠くに小さな建物が見えた。無機質な円柱が四本立っていて、白い屋根を支えている。中心には直方体の台がある。

 可憐な花畑の中心に立つ殺風景な建物はとても目立っている。

 フィリスと共に建物内に入る。床も白い。


「これが魔石だ」


 台座の上には紫色に光る宝石が収められていた。宝石を祀ってる神殿みたいだな。小さいけど。


「すごい光ってますね」

「ああ、花畑の地脈から力を吸い取って結界を張っている。我々が今からするのはこの魔石の点検だ」


 フィリスが魔石に手をかざすと更に光を増す。これが点検か。魔術的に云云かんぬんやってるんだろうな。

 数秒で光量は元に戻った。


「これで終わりだ」

「早いですね」

「まぁ、異常がなかったからな。それくらいこの魔石の効果は強い」

「魔石すごいな」「次だ。行くぞ」


 

 花畑を抜け、元の枯れた木々の道に戻る。景色は先ほどと全くかわらないが、屋敷に戻る道ではない。

 その証拠に道の横に川が流れている。枯れかけていて少ししか水がないが、確かに川だ。

 しばらく歩いていると、池にたどり着いた。蓮の葉が浮いていて、中には魚もいるようだ。

 中央には孤島があり、そこには先ほどと同じような建物があった。桟橋があって渡れるようになっている。

 魚がいる……ここに来てから初めて生命を見た気がする。ちょっと感慨深い。

 魔石があるってことはこの池も地脈とやらがあるのか。花畑にも虫がいたりするかもしれない。


「ここはライトアップされてないんですね」

「光聖石は設置がめんどくさいからな。花畑で力尽きた」

「他の魔石もこんな感じなんですか?」

「そうだ。地脈があるところには生命が宿りやすい」


 そう言ってまた魔石に手をかざす。今度の魔石は青だった。


 あともう一つは洞窟だった。この森は基本的に平坦だが、洞窟付近は地面の起伏が激しかった。

 洞窟内はフィリスが言ってた光聖石が埋め込まれていて明るかった。鍾乳洞みたいで綺麗だ。

 台座は例のごとく奥にあり、色は緑だった。


 最後は……草原だった。面積は野球グラウンドくらい。花畑と同じような不自然な芝生が青々と生い茂っている。

 台座も平原の中央にある。光る石がないから見えずらいけど。


「紀葉人、下がっていろ」


 フィリスは台座を見つめて険しい顔をした。

 

「え?」

「いる」


 確かによく見ると台座の前に人影があるような気がする……。

 まさか結界が壊れてアンデットが入ってきた?最後の魔石が壊れたのか?


『原初の炎よ。焼き尽くせ』


 フィリスが低い声でそう唱えると、空中にこぶし大の火の玉が現れた。


「行け」

 

 一瞬、火の玉が大きく膨れ上がると、勢いよく火の玉が台座へと放たれた。その威力は凄まじく、地面はえぐれ、俺は後ろに吹き飛んだ。

 火の玉がえぐった後は煌々と燃え上り、近くの芝生に燃え移って明るさを増していく。

 台座に直撃した瞬間、轟音が響いた。火の玉は小さな建物と共に爆発した。

 

「——」


 俺は背後にあった木の幹にぶつかった。あまりの衝撃に肺の機能が一時的に停止する。息ができなくて苦しい。

 耳鳴りがする。景色すべてがブレて見える。フィリスはどうした?


「——ゲホッゲホッ!」


 肺の状態がもとに戻ると、今度は煙に喉を焼かれて苦しくなった。

 まだ歪む視界の中、砂煙が晴れていく。フィリスによって爆破されたはずの台座は……全くの無傷だった。そして、燃える芝生に照らされて人影が露わになる。


「ちょっとぉひどいじゃないですか~師匠」

「……」


 大人の女性だ。魔女みたいなとんがり帽子に、魔法少女みたいなフリフリミニスカート衣装だ。

 コミケでしかお目にかかれないような恰好をしているが……それはフィリスも同じか。

 よろよろと立ち上がってフィリスに駆け寄る。全身がめっちゃ痛い。特に腰が。これは良くない痛め方をしたかもしれん。


「誰なんですか……あのコスプレイヤー」

「魔術の弟子だ。元な」

「は?」


 魔術の弟子は俺を見ると体を嬉しそうに体をくねくねさせていた。

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