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5、疑念?

 あれから数日、具体的に言うと3日後。

 色々と分かったことがあった。というかフィリスに聞いた。

 まず、外観は二階しかないのに三階やそれ以上の階があることについて。

 

「ああ、そのことか。この屋敷は歪んでいてね。無限に上に続いているんだ。三階までは安全だけどそれ以上は魑魅魍魎が跋扈している。紀葉人が入ったら即死だろうね」


 とのこと。にわかには信じがたいが、入るメリットもないので近づくのはよしておこう。


 次に屋敷の現代化。この屋敷にはなぜかwifiが通っている。wifiは三階の入るなと言われているフィリスの部屋に近づくにつれて強くなるので、あそこにルーターがあるんだろう。

 それも含めて聞いてみた。


「私は現世と異界を行き来できるからな。買い物くらいするさ。電気設備は大変だったが、勉強して改築したんだ」

「できるんですかっ!?いきき!?」

「いや、お前はできんぞ。歪みから来た人間はなぜか連れて行けんのだ」


 これもにわかには信じがたいが、異界では魔法みたいなのが使えるらしい。実際、フィリスが手の平から火を出していたし、存在はしてるっぽい。

 その他、異界について聞きたいことはたくさんあるが、今度まとめて講義という形で教えてくれると言っていた。ちょっと楽しみだ。

 ということで今日も掃除だ。この屋敷は広い。無限階あるらしいから実際は広いなんてもんじゃないが、三階あるだけでも十分広い。そして、ほとんどの部屋は高級ホテル並みに清掃が行き届いている。

 俺はこの三日間。清掃が行き届いた箇所を更に綺麗にすべく、いろんな場所を転々としていた。最初は意味がないと思っていた作業だが、やっていく内に細かい汚れ排除することへの快感を得るようになっていった。あとついでに屋敷の間取りを覚えることができた。

 あと、さすがに使っていない部屋は埃が多かった。俺が間借りしてる部屋とかな。

 収穫は他にもあった。書斎で料理本を発見したことだ。最近の料理本を一冊だけ見つけることができた。


「よし、やっか」

 

 この屋敷、内装は高級ホテル並みに綺麗だが、屋敷の主の料理の上手さは比例していない。その逆、とんでもなくクソまずい。

 フィリスはとことん料理に頓着がない。この三日間、フィリスが食事している所を見たところがない。

 その上、料理は夜にしか出されないし、料理の内容も卒倒するくらいまずい。昨日は虹色に輝く正方形を食わされた。もちろん気絶した。

 流石に命が持たなそうなのでフィリスに台所の使用許可を貰った。食材はあるから自由に作っていいようだ。

 今は台所で料理本を片手に冷蔵庫を開いている。料理しない癖に業務用の大きな冷蔵庫だ。中身はひじきとほうれん草、小松菜、レバー、牛肉、などなど。どれも新鮮で、腐っている様子もない。あの奇天烈料理も元はしっかりした食材だったのだろうか。

 でもこの食材じゃ料理本にあるやつは作れそうにないな。フィリスに買い出しを頼もうかな。

 でも、牛肉と小松菜を醤油と一緒に炒めればご飯に合うズボラ飯の完成だぜ。冷蔵庫の隣に米櫃と炊飯器があるから白米は食べ放題だ。

 あとは調味料を探すだけだが、冷蔵庫の中にはなさそうだ。


「あれ?」


 牛肉パックの下に何かがあるな。

 牛肉を手に取って下の物体を確認する。


「輸血パック?」

 

 プラスチック製の袋に赤い液体が入っている。ラベルが張られているが何も書かれていない。真っ白だ。

 大きな冷蔵庫をくまなく探したが、他に輸血パックは見当たらなかった。何に使うんだろうか。研究?

 フィリスはこういう面があるからまだ信用しきれない。聞きたいことはまだあるが、生活時間が違うこともあって中々聞けない。

 とりあえず、これは見なかったことに……。


「ただいま」

 

 玄関の方から声が聞こえた。フィリスだ。

 珍しいな。この時間、昼以降はいつも三階の自室で寝ているはずなのに。

 俺は一応、この屋敷の召使い?という立場だからここは迎えに行った方がいいのかな。主に対する礼儀作法については何も言われてないからなー。

 でも、帰ってきて無視されるのは嫌だろうから迎えにいこうか。


「おかえりなさい。フィリスさん……どうしたんですか、その格好と荷物」

「ああ、お前が昨日、料理したいって言ってただろう?冷蔵庫にある食材じゃ足りないと思って買い出しに行ってきたんだ」


 フィリスはいつもの黒ドレスの上に厚手のコートに、布の帽子、サングラスにマスクだ。汗をだらだら流しているので余程暑かったんだろう。

 そして、片手に日傘、もう片手にぱんぱんに詰まったスーパーのビニール袋を携えている。中には醤油やみりんなどの見慣れた食材が入っている。

 あっち(現世)に行って来たのか。


「私は料理に疎くてな。とりあえず醤油と味噌と肉を買ってきた。野菜も買ったが適当だ」

「ありがとうございます!でも、日光に当たって大丈夫なんですか?」

「厚着をして、直接当たらなければなんとか大丈夫だ。ああ、すごく疲れるが大丈夫だ」


 サングラスを外したフィリスの目の下には濃い隈があった。


「いや、もう寝ましょう!」

「そうだな。すごい眠い。料理は夜からにしてくれないか」

「え?」


 今から作ろうと思っていたんだが。


「私も作りたい」


 そういうことか。なら、まあ。


「わかりました」

「それじゃあひと眠りするよ」


 フィリスがあまりにもふらふらしていたので、肩を貸して部屋まで行くことにした。

 フィリスの部屋は三階に上がってすぐにある。俺はほとんど三階に行ったことがない。初日のトイレ掃除くらいだろうか。

 だから、ほとんど何があるかわからない未開の地だ。しかも日中は部屋に入るなと言われているので、三階自体が行きずらいのだ。

 階段を一階、二階と昇っていく。


「あ~眠い」

「あともうちょっとです。頑張ってください」


 フィリスの体は俺より小さいから肩を貸すときは姿勢を低くしなければならない。

 当たり前みたいに敬語使ってるけど、背丈は中学生くらいなんだよなぁ。顔も良い趣味をした男がほいほいついていきそうなロリロリだ。

 威厳と恰好で絶対に中学生には見えないけど。あと底が見えないところか。深夜は起きてるらしいけど何してるのか知らないし。


「着きましたよ。あれ?寝てる?おーい起きてください」


 完全に目をつぶっている。あ、これ寝てるわ。重くなってきた。

 これ……入っていいんだよな。仕方ないよな。あとで怒られるの怖いけど。だからと言って他の所で寝かせる訳にもいかないしな。

 肩を貸したまま動こうとしないので自分で扉を開けることにした。


「わあー」

 

 フィリスの部屋は広かった。本棚には書斎と同じくらいの量の本が並べられている。書斎と違ってこちらはまだ読める言語の本が多い。あっち(現世)の本だろうか。

 他の部屋より暗いなここは。カーテンが閉じられていることもあるが、それにしても暗い。窓に細工でもしているのだろうか。

 社長が使うような大きい机の上には散らばった資料とデクストップパソコンが置いてある。資料は……英語で書かれている。よく読めない。英語の勉強しとけばよかった。

 机の隣には膝くらいの大きさの冷蔵庫がある。中には何が入っているんだろう?作業用のエナドリとかな?気になるけど確かめるのはまた今度にしよう。

 そして、ベッドがない。いつも寝るときはこの部屋に入ってるはずなんだが。


「フィリスさん、いつもどこで寝てるんすか~?」


 揺さぶっても反応がない。熟睡されておる。

 いつも椅子で寝てんのか?確かに椅子はフカフカだが、これじゃ腰を悪くするだろう。

 そろそろ引きずるのが辛くなってきたので椅子に寝かせておく。

 電気をつけてもベッドらしきものは見当たらないが……その代わり棺桶を見つけた。部屋に入ってすぐに横に置いてあったが、暗くて見つからなかった。

 黒い棺桶だ。全体に骸骨の意匠がなされている。骸骨の意匠は普通なら趣味の悪い印象を受けるが、この骸骨は美術品のような美しさを感じさせる。

 棺桶を開けると中身は空だった。中はソファーのような材質でベッドと言えなくもない。

 ここで寝てるのか?楽しい趣味をしてるな。まるで吸血鬼みたいだ。

 よく見ると頭を置くであろう部分に金色の髪の毛が数本落ちている。冗談じゃなくて本当に寝てたんだろう。他にベッドらしきものはないし。


「ちょっと失礼しますよっと」


 椅子からフィリスを持ち上げて、棺桶まで移動させる。曲がりなりにも主人であるフィリスを棺桶に寝かせるのは気が引ける。

 棺桶はフィリスの体にすっぽりと入った。オーダーメイドで作ったんだろうか。

 起こさないように蓋をゆっくり閉めて、部屋を後にした。


 フィリスは日中に棺桶で寝る。日光に弱い。食事をあんまりしない。次元を超える力を使える。

 フィリスって本当に吸血鬼なんじゃなかろうか?

 キッチンの冷蔵庫にあった輸血パックも非常用だと考えれば合点がつく。

 無限階ある屋敷に住んでる時点で人外なのは察していたけど吸血鬼かぁ。実年齢いくつなんだろう。にんにくとか食えないのかな。

 いったん自室に戻って血を吸われてないか体中を確認してみたが、痣も牙の跡もない綺麗な体だった。眷属とかにはされてないようだ。ひとまず安心。

 夜になるまで何をしよう。まずは飯だな。この屋敷にうまい料理はないが、白米は無尽蔵にある。ここ数日は白米にひじきで生活してきた。

 フィリスの部屋の本を読んでみたいが、いそいそと入れる部屋でもないしな。屋敷の清掃でもするか。風呂の掃除をしよう。トイレ掃除は午前にやったし。

 この屋敷はどのような原理かどこもピカピカだが、フィリスは俺がどこを掃除したか把握してる。理由は謎だが、夕食の席で褒めてくれるのだ。


「お前、わかってきたじゃないか!今日の風呂もピッカピカだったぞ!」

 

 こんな感じに褒めてくれる。

 何を分かってきたのか分からないが、褒められると嬉しい。

 夕食の後、フィリスは話をしてくれる。主に俺について質問することがほとんどだ。好きなものとか、部活の話とか、家族の話とか。彼女は聞き上手で俺の言葉足らずな話を補足してくれたり、

 フィリスはあまり自身の話をしたがらない。どこで生まれたのか、どんなものが好きなのか。俺は何も知らない。

 信用したいが、何かを隠してるような気がして信用しきれない。

 俺の帰るべき場所とはどこだろうか。フィリスの言う帰るべき場所とは何なのだろうか。なぜ、俺に優しくしてくれるのだろうか。聞けばわかるが、聞くのが怖い。

 俺に帰るべき場所などないのかもしれない。


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