5話
落とし穴に落ちたら、異世界だった。
ガラス張りの水槽や、発泡スチロールがふんだんに敷き詰められている落とし穴ではない。ついでに、ドッキリ、と、書いてある手持ちの板を出す人もいない。
だから、街の外に出れば動物の他に魔力をため込んだり、使う魔物がいるし、金銀財宝と魔物が住まう迷宮なんてものあるし、それを倒す技術、格闘技や、剣、槍、斧といった道具を使う技術や、魔法なんてものがある。
教会で特別な技能、言うところのスキルを受けることができたり、時折、光の柱が天から降りることがあるらしいから、目に見えて神はいるというのが常識。ついでに、一夫多妻、多夫一夫も問題ないらしい。なんか、異世界っぽい。
異世界の名前はない。
多数を占める光の女神様の名前で呼んでいるが、神は光の神以外にもいるわけで、創造主を祀り奉る地域もある。光以外の神を崇める地域もある。
そういったことで、確定している名前はないのだろう。神がいる世界なのだから、お告げ的なことで世界に知らせたという真実もなければ過去もない。ついでに言えば、世界の果てがあるのか、なくて球体なのかも不明。
文明技術的には前世よりも旧時代に感じる。
科学技術よりも魔法の方が劣っているからということはない。ただ単に生活に直結した技術というのが少ない過ぎるせいだろう。
日常的に死が近い世界で戦闘技術は進化するも、それ以外は後回しになっているようだ。命が安い世界で、生き残るのが大変ということ。
テレビのニュースで、どこかの国で紛争している、過激派の宗教団体が銃をもって武装蜂起している、ミサイル発射した等々、物騒なことが流れているが、当事者意識がなければ他人事。よっぽどのことをしない限り、命に危険はない。
つまり、夢から覚めたら、ということにはならない。全部本当だった。流行りの異世界転生に乗っかったということになる。
貰ったチートは、魔力に対する親和性、感受性が極端にある。そうでなければ、魔力、魔素の流れを何の道具も力も使わない状態で見えるわけがない。これが、落っこちる際に言っていた何かだろう。
ただ、転生先が剣術を主体とする武家の家だったので、全くと言うほど使えなくはないが、使いどころが少ない。
せっかくの転生特典もうまくいかせない。
結果、才能なし、として勘当同然で分家へ放流隙を見て脱走したのはしかたがない。だって、接近戦とか怖いじゃん。
教え方も実戦形式で物すっごく痛いし、刃を潰した剣は重いしでいいことがない。
画一的な統一規格を生み出す教育から個性を少しは尊重する教育に変わっていくように、得意なことを伸ばしていければいいと思う。
よくある冒険者ギルドはないが、それに近い迷宮探索者組合というものがある。
ここは、貧困政策として、7、8歳から登録できるので身分証の入手も問題なく、そこから、魔法先進国に渡り、なんやかんやあって、いま、胸から剣の先が突き出ている。
意味が分からなくはない。
魔法の先進国イコール人類の敵が治める国、という風潮がある。
光の神以外を全否定する姿勢はいかがなものかと思うのだが、人族のほとんど、大半がそうであり、それ以外は人ではない、という考えであるので、人のほとんどがそうである、ということらしい。
駆逐してやる、と、実際に言ったかどうかは知らないが、人対それ以外の人、という構図が出来上がり、戦争が開始。
1年と少しの混戦後、停滞、小競り合いをしていたと思えば、味方から背中を刺された。いまここ。
前世、死ぬ時も特殊だったが、今世も割と一般的ではない死に方をした気がする。いや、命の値段が安い子の世界なら、もしかしたら、一般的とまではいかなくてもよくあることかもしれない。
そうだったとしても、
「運にバッドステータスついているじゃないのか。」
と、思うのはしかたがない。
「本当ですよ。」
「ですが、せっかくの機会なので、勇者をしんでしまうとはなさけない。」
「こういうの一度やってみたかったんですよね。」
「どうしました。」
気がついたら、転生したときと同じような空間で、転生の時の女神様が目の前に。ただあの時よりも若干砕けた感じがるが。でも、
「勇者じゃないんですけれど。」
「知っていますよ。それぐらい。様式美というやつです。」