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第九話 躍進せよ

9 初参戦


 一晩中、延々とシミュレーターでの訓練を行っていたが、この体は睡眠を必要としないので、眠気を感じることはない。なので活動に全く問題はないはずなのだけれど、何故か怠いような眠いような若干の疲労がある気がする。中身の精神性が只の凡人でしかないからか……。


 蠍擬きに散々魔術の矢(マジックミサイル)で撃たれたせいか、今も頭の中で光矢が飛び交う光景が過る。自然とそれにつられて身体が回避運動を取りそうになって苦笑する。ゲームでコントローラーを介して操作しながら、何故か身体も一緒に避けてしまうような感じだ。

 ちょっと頑張り過ぎたかもしれない。どっかで休憩を取ろう。


 士官養成学校のカリキュラムは騎士科であっても座学が多い。保有魔力量による活動限界が存在し、実機やシミュレーターでの訓練時間に制限があるためだ。

 GVの操縦訓練はカリキュラムに予定されているものは一日に一度、実機の慣熟訓練かシミュレーターでの操作訓練のどちらかで、それを熟せば終わり。割合は実機での慣熟訓練が一に対してシミュレーターが九って感じだ。

 魔力は一晩睡眠をとれば回復するが、それ以外でも魔力回復を補助する食品や、ポーションで回復させる事も出来る。食品の方は殆どの製品で回復速度もゆっくりで即効性が薄いのでそう高価な物でもないけれど、ポーションは飲めば即座に魔力の大半を回復させてくれるので非常に高価だ。食品は魔力の枯渇症状の緩和に、ポーションは魔力の不足分を無理矢理補うことに使われることが多い。

 魔力枯渇による疲労や苦痛を考慮して、カリキュラム以外での訓練は自主性に委ねられているけれど、これらの回復手段を自腹で用意して、シミュレーターで訓練をしたりGV搭乗時間を稼ぐことは特に禁止されていないし、訓練時間の観点からは寧ろ推奨されている。

 上を目指したければ、苦痛を飲み込んで自腹を切れ、といったところだろう。

 これのせいでGVの訓練時間や個人の習熟度には、保有魔力量と財力による格差が生じることになる。

 


 本日の操縦訓練はシミュレーター。内容は、模擬戦だ。

 シミュレーターは士官養成学校だけでなく、領内の通信網で繋がっている各種訓練施設ともリンクしているので、本来ならば学内の筐体以外とも戦えるようになっているし、そのおかげで時間を問わず模擬戦のマッチングが可能だ。

 しかし、授業で行う模擬戦の時にはリンクは学内のみ。そしてその戦績は独自にランキング形式で集計される。通常の模擬戦では比較的戦績が近い者がマッチングされるようにはなっているが、ランキングの様な物は存在していない。学内ならでは、というやつだ。

 ランキングの順位は成績に直結する。カリキュラムや保有魔力の関係で、授業での模擬戦は何日かに一度ぐらいしか予定されていないし、その日も一戦しか出来ないこともあって、みんな真剣だ。

 授業中の対戦相手は、その時にシミュレーターに接続されている訓練生の中からランダムに選ばれるのだけれど、そもそもシミュレーターの使用順は実技の成績順なので、似たようなランキング位置にいるもの同士が当たるようになっている。

 首席と戦いたくとも、上位まで成績を上げなければチャンスすらない。アルフォンスは首席をキープし続けている。彼と戦うには、最低でも学内の模擬戦成績で上位に喰い込んで、シミュレーターの同時接続枠に入らなければ話にもならない。


 ランキング上位の者達の模擬戦が大型モニターを分割して映し出される。

 操縦後は魔力枯渇の疲労に陥る可能性があるため、上位陣から試技が行われる。下位陣は上位陣の動きをちゃんと見て勉強しろという趣旨である。

 逆に上位陣は下位陣を気にする必要がないため、仮に魔力枯渇の症状が出ていなくても、自分の模擬戦が終わればさっさと学内のカフェに引き上げる者までいる。カフェで魔力の回復に効果のある飲み物でも頼んで、魔力回復に努めるほうが有意義だと考えているのだろう。

 因みに模擬戦の映像はアーカイブに保存されるので、後で個人の小型情報端末を使って閲覧することも出来るようになっている。


 こうやって眺めると、見事に全機リッターギア『ケレス』だ。

 個人設定で機体カラーを選べるので、色取り取りだし、武装やオプションの種類が豊富でぱっと見にはとても同じ機体には見えない。索敵用の装置のアンテナなのか頭部に角が生えてるのがいたり、機動性の調整の為にバーニアを増設していたり、逆に機動性を捨て装甲を厚くした重装仕様までいて、機体シルエットも意外と違う。

 こういうセッティングは、卒業後に領軍から支給される自機には反映出来ない。ほぼ全機規格品で個人セッティング用の予算など組まれていないからだ。では何故このようなことが許されているのかというと、これはこれで各オプションや武装のデータが取れるからという事らしい。奇抜なセッティングでも実績を上げれば制式機体のオプションとして採用されるかもしれない。それも一つの名誉であるらしい。


 白を基本色に各部装甲パーツを金色のラインで縁取ったアルフォンスの機体が華麗に舞う。

 相手の機体が二刀流なのに対して、彼は小型の盾とブロードソード型の片手用ビームブレードというオーソドックススタイル。どちらの機体も銃火器を携行しているようだが、バックパックに格納したままの状態で使用するそぶりすら見せない。

 白いアルフォンス機が激しく打ちかけられる二刀を盾で綺麗に往なし、跳ね上げ、出来た隙に打ち込んでいく。その狙いは正確で、関節部や腕の稼働のためにどうしても装甲が薄くなる腋窩部に攻撃を集中させている。二刀の手数で圧倒する筈だった相手が攻め切れなくなって、手が止まった瞬間を狙ったようだ。

 あっと言う間に、相手の左腕は使い物にならなくなり、まだ動く右腕を盾で弾きながら、死角となった胴体左側の装甲の隙間に深々と剣を突き立てた。斥力フィールドのエネルギー変換光が罅割れる様に散った。実機ならばコクピットブロックが破壊されているところだ。ジェネレーターが無事でも搭乗者は無事ではないだろう。


 ランキング上位でのマッチングだから、相手も強いのだろうに、全くそれを感じさせない圧倒ぶりだった。流石としか言いようがないね。今のを見ると、アルフォンス相手に近接戦を挑んでも勝てるビジョンが一切浮かばない。


 しかし、どの対戦を見ても近接武器で斬り合っているのには違和感を覚える。上位陣に一人ぐらい射撃が得意な人がいても良いんじゃないだろうか?

 剣戟主義と言おうか、もう此処迄くれば一種の信仰の域だと思う。恐らく、トップエリート達の模擬戦闘が近接戦闘に偏っているせいで、それを動画などで参考にして、後追いで訓練をする訓練生達も同様の戦い方になるのだろう。射撃戦闘は模擬戦なんかの一対一では思ったより敷居が高いしね。

 ただまぁ、流石に全員が刀剣類しか装備していないって訳でもない。いや、腰には佩刀はしているのだけれど、メインで振り回している近接武装には結構なバリエーションがあるみたいだ。斧槍や薙刀、フレイルのようなものも見掛ける。この辺は個性もあるだろうけれど、多分操縦者が習得している流派が違うんだろうなぁ。

 絶対に剣じゃなければいけないってわけでもないのなら、銃器や実弾兵器を持ち出しても良いと思うんだけれど……。

 時々いる騎士の礼のような格好で武器を掲げて挨拶してる奴とか、ポーズをとっている間に榴弾とかの広範囲に炸裂する砲弾でも撃ち込んでやれば、射撃精度に自信がなくとも一発なんではなかろうか。

 コストのかかる武装はシミュレーターでは使えないようになってはいるので、実際に試す事は出来ないのだけれど、その辺り、どう考えているんだろうと疑問が浮かぶ。


 実際の軍事行動では、銃火器の類を一切携行していないなんてことは、まずない。

 どの戦場でも遠距離からの砲撃戦で始まるので、射撃技術は必須だし、何処かで各自射撃の訓練も行っているはずだ。確かに回避行動を必要としないシミュレーターでの射撃訓練のみであれば、低反動の銃器を選択している限り、操縦に使う魔力は極々僅かで済む。模擬戦等とは別の機会に行っているのだろう。

 そのような射撃訓練の結果は、小型情報端末に記録され、当然成績にも含まれる。最低ラインに達していなければ、卒業資格を得られない。それぐらいのは重要度もあるのは誰もが知っているはずだが、シミュレーターでの模擬戦となるとこうだ。理解に苦しむ。


 これはあれか? 模擬戦では遠距離攻撃してくる相手がいないから、それに対する備えもしていないって話か?

 だとすると、俺にとっては凄く都合が良い状況が出来上がっているのかもしれない。


 色々と考えている内に順番が回ってきた。

 俺は当然のようにランキング下位陣なので、最終組だ。

 指定された番号のシミュレーターに搭乗する。

 座席につくと小型情報端末の設定が読み込まれ、各種設定が反映されていく。昨晩同様マグスギア『パラス』がメインモニターに映し出された。武装も特に変更しない。

 準備完了のボタンを押すと、模擬戦のマッチング申請が送られてくる。


「それじゃ……初陣と行きますか」


 俺としては初の学内模擬戦。ここからだ。


 モニターに表示されたマッチング申請に了承を返すとカウントダウンが始まり、カウントの終了とともに模擬戦が始まった。

 戦闘環境設定は、昨日散々戦った荒野。昼間の設定。遮蔽物が少なく射線を遮られないので射撃戦がしやすいシチュエーションだ。

 学内模擬戦の場合、対戦相手も戦闘環境の設定もランダム。逃げ場のない狭いフィールドとかじゃなくて良かった。

 索敵するまでもなく、既に対戦相手の機体が視界ぎりぎりに小さく見える。結構近距離で始まったようだ。

 対戦相手は、紫とショッキングピンクでカラーリングされた『ケレス』。装備はこの距離では良く分からない……けれど、あの派手なオウムみたいな悪趣味なカラーリングには覚えがある。この距離でさえ眼に痛いぞ。


『貴様、誰だ? 模擬戦でマグスギアとか、巫山戯ているのか!?』


 リッターギアとマグスギアではシルエットの傾向が随分違う。リッターギアががっしりとしたシルエットならば、マグスギアはほっそりしている。様々なオプションを入れてもその辺りの印象は極端には変わらない。

 この距離でも一目で此方がリッターギアではないことはわかったようだ。


 実機では通信設定でその都度回線のチャンネルを指定するのだけれど、模擬戦ではオープンチャンネルに固定され、対戦相手と指導教官がモニターしている監督室に会話が繋がっている。申し合わせて練習する時や、条件を想定して練習する時、教官が指示を出す時などに必要だからだ。会話は記録に残り、不正等がないかはチェックされるが、基本的に模擬戦中に教官が口を挿むことはない。


 予想していた通り、イーラ・イバンカルの声。

 前に偉そうなことを言っていた気がするけれど、同じ下位グループだったらしい。

 とは言っても、全体の人数はかなり多いし、下位陣でも幅は結構ある。

 下から数えた方が早い俺とは違うのだろう……多分。


『おい、何とか言ったらどうなんだっ!』


 まだ通信越しに何か言っているが、答える義務はないし、その気もないので放って置く。

 余程マグスギアで出て来たのがお気に召さないようだ。

 もうとっくに模擬戦は始まっているはずだが、イーラの機体は開始位置から動こうとしていない。

 これ……攻撃しちゃってもいいんだよね?


 始まっているのに動かない相手が悪いのだが、何となく後ろめたい感じがしたので、ゆっくり魔導ライフルを構えて、撃ちますよとアピールしてみる。

 こちらの機体が動いたことは気が付いたはずだけれど……まだ動かないな。

 ひょっとしてこの距離ではまだ何もしてこないと思っているか、撃っても当たらないと思っているのだろうか? あ、遠距離武装をそもそも想定していなかったり……。


 もう、いいや。


 しっかり狙いを定めてトリガーを引く。

 魔力導管マナダクトを通じて魔導刻印へ魔力が注がれ、魔術を構築、銃口の先の魔法陣から低いハムノイズとともに魔術が発動される。


『…………は?』


 一瞬の息を呑む声。

 発射された核撃光槍ヘリオスランスの極太ビームが、紫とショッキングピンクの機体を飲み込んで、その胴体部ど真ん中を消し去った。


 メインモニターに敵機撃破の文字が浮かび、模擬戦の勝利が告げられる。

 何とも言えない初陣の勝利となった。

 まぁ、勝ったんだから良いか。


 シミュレーターから出ると、奥の方からイーラが肩を怒らせて向かってくる。

 対戦相手の名前は分からないが、対戦した相手の使っていたシミュレーター番号は分かる。相手を確認しに来たのだろう。

 俺の顔を見て更に怒りのボルテージを上げる。その顔はもう赤を通り越して、ややどす黒い。血管切れるぞ?


「お前、だったのかっ!! この俺がお前のような雑魚相手に開始位置から動けもせず撃破判定を喰らうなど……一体どんな小狡い手を使った?」


 どんなって……普通に魔導ライフルで遠距離射撃を命中させただけなんだが……。

 そう教えてやっても良かったんだけれども、言ったら言ったで文句を付けて来そうだったので、馬鹿にするように鼻で笑ってやった。


「なっ!? きっ、貴様ぁぁ」


「訳の分からない難癖をつける前に、ログを確認するなり、録画を確認するなりしたらどうだ?」


「う、うっ五月蠅い。マグスギアの魔導射撃を喰らったことぐらい、わかっている。だが、一撃で撃破などと……お前の保有魔力量であのような攻撃は有り得んだろうがっ!!」


 ああ、一応魔導ライフルで撃たれたことは理解しているわけだ。

 でも、威力に納得がいっていない、と。


「知らんがな……」


 他に答えようがない。つい怪しい関西弁が口を衝いて出た。


「何という態度だ。ただでさえ騎士道の何たるかを疎かにする様な行動を取った上に、釈明もせんとは……。何か後ろ暗い事でもあるのだろう? 遂に不正に手を染めたか。そうなんだな? そうに違いない」


「騎士道精神ってお前……」


 射撃で勝ちを収めることは、騎士道精神に反する。

 そして理解出来ない威力の攻撃は何らかの不正の産物である。

 と言うのが、イーラの主張であるらしい。


 あほらしい。付き合ってられん。


「まぁ、納得いくまで模擬戦の記録を確認して、教官と話し合って来ればいいんじゃないか? 此方は困らない。好きにすればいいさ」


 聞いてやるだけ無駄だった。

 まだ何事か喚き続けるイーラを無視してその場を後にした。

 初戦がこれか。先が思いやられるな。



 学内にいると五月蠅そうなので、街へ出てビリーの店を訪れている。


 序でに幾つか溜まっている核結晶の売却をする。ここで売る事で、俺は出所を探られなくて済むし、ビリーにも利益が出るので双方にとって都合が良い。

 核結晶は無理に狩り集めた物ではなく、不可抗力で貯まってしまったような物。毎晩満腹まで狩りをしようとすると、最後の獲物が群れであったり、戦っている内に近くのクリーチャーを呼び寄せてしまったりで、満腹になったから丁度そこで終わり、という訳にもいかない状況が発生する。そういう言ってみれば端数のクリーチャーは無理に吸収しても意味がないので、さっさと片付けて核結晶のみ回収する事にしている。尤も核結晶を取り出す手間が面倒臭いので、大抵の場合、核結晶が露出する辺りまで消し飛ばして、核結晶を回収したら残りは放置するといった感じにしている。血の匂いが濃い死体は直ぐに他のクリーチャーや動物の餌になり処理される事だろう。


 例の仮面からの接触はやはりないらしい。

 一応、借金で縛っている風に見せるため、買い取り代金などは殆どチャージ専用のプリペイドカードでの支払いにしてもらっている。適当な額ごとにカードにしてもらい、棺桶コフィンに突っ込む。なので俺の名義の端末にはクレジットは僅かしか入っていない。

 小型情報端末のクレジットの情報などは非常にセキュリティレベルが高いので、普通は調べたり閲覧したりは出来ないものなのだけれど、念には念を入れた。今の処、その努力は報われていない。


「坊ちゃん。今回分もID指定なしのプリペイドカードにすればいいのか?」


「ああ。それで頼む」


「なぁ、これ必要かぁ? 手数料を取られるし面倒なんだが……」


「念のため、ってやつさ。俺が損をするだけなんだから、やってくれ」


「へいへい」


 チャージ専用のプリペイドカードは言ってみれば、データでしかないクレジットを可視化して保存若しくは使用するための物で、小切手の様に額面を区切ってカードにすることで疑似的な通貨として扱うことが出来る。小型情報端末を経由しない取引を行うには便利なので、様々な用途で使われている。

 只、セキュリティがしっかりしているクレジットデータと違って、一旦カード上にのみデータが存在する状態となるので、カードの紛失、破損が起これば完全に失われてしまったり、カードキャッシュに関しては全宙域統合企業連合の保障の対象外と見做されたリ、カード化する際に手数料がかかるなどデメリットも存在している。

 良くある使われ方は、見せ金や支払いの担保、個人情報を知らない相手への支払い、口座を持たない相手への支払いとして使う等だが、その性質上、表沙汰に出来ない取引やクレジットの洗浄などにも使われたりするらしい。

 カード化手数料の分目減りするが、入っているクレジットはカードが無事ならば何時でも端末に振り込むことが可能だ。プリペイドカードに切り離したことで俺の実際の所持クレジットを辿ることは不可能になる。


「おし。これで入金は済んだぞ。そんで、やっとこれが手に入った」


 ビリーがカウンターの上に小さな瓶詰を置く。


「……良く手に入ったな」


 ガラス製の瓶の中には保存用の液体に浮かぶように赤い眼球が入れられている。黒い瞳孔は縦長で人の物とは明らかに違う雰囲気を漂わせていた。

 『シミュラクラの狐穴眼』。シミュラクラというクリーチャーの第三の眼で採取するのが難しく、結構レアな品物だ。ルドラには生息していなかったはず。

 色々と用途はあるのだけれども、俺は魔術の触媒として欲しかったので、少し前にビリーに手に入るようなら仕入れてくれと頼んでいたのだ。


「まぁ、前金で貰っちまってたからな。何とかしたのさ。正規の流通品じゃねぇから、出処は聞くなよ。買い取った時点で、こっちは善意の第三者ってやつだ。坊ちゃんにゃぁ変な正義感とか拘りとか……無かったよな?」


「ああ、一欠片もない。自分に火の粉が飛んで来ないのなら、何処の誰の物であったとしても一切気にしない」


「……いい根性してるよ」


 品質さえちゃんとしていて、魔術触媒として使えるのなら文句はない。

 例え盗品であろうが略奪品であろうが、偽物でない限り品質には関係ないのだから。

 使えば消えてなくなるしな。

 

 即座に言い切った俺を見てビリーが苦笑を浮かべる。


「しかし、そんなもん何に使うんだ?」

 

「ちょっとした魔術に必要なんだけど……内容は秘密だ。多分、知らないほうが良い」


「……魔術まで使えるのかよ。本当に、得体が知れねぇな」


「ほんの嗜む程度、さ」


「さいで……」


 恐らく現代には伝わってないだろうからね。逸失魔術ペルディタマギアの扱いになるだろう。この手の知識は知っていることが発覚すれば何者に狙われるか分からない。何時の時代にも、求める知識を得るためには手段を選ばないという輩が沢山いるし、そういう輩が同好の志でもって集った集団というのも必ず存在するのだから。

 ビリーは肩を竦めて好奇心を引っ込めたようだ。こういう危険に対する嗅覚は流石と言える。だからこんな場所で今も生きていけているんだろう。


「それと、頼まれていた民生機体と、それを搭載出来る能力を持つ小型航宙船のカタログデータも届いてるぞ」


「おっ、どこのやつ?」


「一応、メジャーな軍需企業の総合カタログだ。アハシィル、イグジス、ディアルム辺りだろう。各社のカスタム仕様以外は載ってるだろうし、各社への問い合わせも出来るようにはなってるはずだ。マイナーなところは直接そのメーカーからカタログを取り寄せる他ない。希望するメーカーのが載ってなかったら、また言ってくれ。カタログデータは端末に送ればいいか?」


「ありがとう。それでいいよ」


 グランヴァリエや航宙艦艇には、当然民間用の物も存在する。それのカタログデータを取り寄せてもらっていたのだ。いや、まともな新品は直ぐに買えるほど安くはないよ? どんなのが売っているのかとか、相場とかに興味があったのだ。こういうカタログって見てるだけでも楽しくなるよね?

 でも、買うとしたら、中古かジャンク扱いの修繕品になるんだろうなぁ。


 士官養成学校を卒業すると領軍の所属になるので、自腹で民生品を買う必要などはない。

 今暫くは、である。

 不老不滅のクリーチャーの人外生は悠久だ。

 急ぐわけではないけれど、何時かは今の柵から抜け出して、のんびりとこの世界を見て廻れるようになりたい。此処で目覚めて初めに持った目標だからね。

 その為には、自分の船は必要になってくるだろう。

ブックマーク、評価ありがとうございます。……まさかもらえるなんて。


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