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第六話 だが男だ

6 だが男だ


 物理を含めた高度に理知的な会話によって、ビリーは事の経緯、背景、展望を彼の知り得る限り誠実に話してくれた。


 彼の話では、今回の借金はやはり何者かに仕組まれたものである可能性が高そうだった。

 彼自身は、怪しげな仮面を着用した『軍部高官に依頼を受けた』という男に、近日中に俺が何等かの問題を抱えて此処を訪れるだろう事を教えられ、その時には手段は問わないので此方のお願いを聞いてくれるように立場を縛るよう依頼を受けたらしい。その際、やり易い様に俺の詳細なプロフィールも受け取っている。


 一体何をどう仕込めば俺をこの店に誘導出来るのだろうか?

 用意出来そうなものが全部仕込みだったと仮定しても、各々の過程にはヨギ君の意志が介在しているし、その選択自体ただの思い付きで理由のないものもある。結果の予測は無理なんじゃないだろうか。

 少なくとも仮面の男は、ヨギ君がこの店に来ることを確信している。今の俺になら掛からないが、精神誘導系の呪術でも使ったか……。それなら幾ら考えなしの直情型だからって、あんな怪しげな儀式を実行したのにも頷ける。


 仮面の男は、ビリーを強制労働施設に送り込めるだけのネタを持っていた。それをチラつかせながら、成功すれば依頼主が手を回してこれまでの罪を無かったことにした上で、三千万クレジットを支払うと言った。

 成功したかどうかは、彼方側が勝手に把握するからと言われ、指示も一方通行なものしか受け取ったことが無く、連絡方法も分からない。

 ビリーの話では、仮面の男は最近この辺りに進出して来た犯罪組織集団の一員で、恐らくそいつも何処かからの依頼で動いているのだろうとの事だった。要はビリーは下請けの下請け、孫請けって事だ。

 態々軍部高官とかって言ってたが、まず嘘だろうと。

 だが、少なくとも今まで巧妙に証拠を消してきたビリーを追い込めるだけの材料を持ってきたことから、それなりの諜報系組織が裏にいるのはわかったし、仮面の組織にしても、盗みから殺しまで何でもやるとの噂で、そんなのに着け狙われるのは勘弁願いたかった。

 やり口は気に入らないが、俺に対して義理がある訳でもない。そもそも断れる類の話でもなかったようだ。

 尚、依頼だけを考えると、普通に借金をさせた時点でほぼ達成している形だったのだが、欲をかき金額を釣り上げたうえで有り金迄巻き上げようとしたのは、彼の個人的な計画。そのせいで痛い目に遭ったわけだが……。


 この件と繋がりがあるのか不明だが、最近スラム界隈はキナ臭い噂が絶えず、彼方此方で領軍関係の人間の名前を聞くらしい。金であったり、女であったり、ドラッグであったりと系統はバラバラだが、被害者を辿ると妙に領軍の関係者に行き着くことが多い。ビリーの所感ではあるが、俺の話も、それの内の一つなのではないかと。

 大体、計画自体杜撰過ぎる。成果の確認方法もおざなりだ。まるで、成功しても失敗してもどうでもいいかのような適当さ。無差別テロに近い。


 ――――だとすれば、裏にいるのは、ガイア帝国の中枢じゃねぇかなぁ。


 領軍を荒らして力を削ぐことで得をするのは、力を付け過ぎている公爵領を危険視している帝国中枢しかない。

 彼はそう言って締めくくった。



 一応の落とし前として、店にあったお高い魔力ポーションを差し出してきたので、取り敢えず、今回の件は借金の帳消しと取引記録の完全な消去、今後も買い取りなどで便宜を図るという事で許してやることにした。

 話した感じ、ビリーは金に汚いが使える人間だと判断したからだ。話の内容が全て本当かというと、そうではないだろうし、肝心のことは漏らしていないのだとは思うが、その辺りを含めても今の処は俺に実害はなさそうだしね。

 そもそも全面的に信頼し合うような関係にはなれないだろう。その必要も感じない。

 今回の件の周辺情報だけは無理のない範囲で集めさせる事にする。

 仮面からの接触があった場合、借金で縛っている体で話を進める様に言い含めたが、取引記録を抹消したので、何処まで誤魔化せるか……。接触が無い可能性の方が高そうだ。



 昼時。

 士官養成学校の訓練生用食堂で昼食を摂る。

 食べる必要はないのだけれど、食べないと心配されたり、妙な勘繰りを受ける可能性があるため、ちゃんと食べに来ている。味も分かるし、異世界料理興味深いしね。


 日替わり定食をトレイに乗せて、いつもの指定席へ。中庭が見える窓際の一番後ろの四人掛けテーブルだ。

 エレノアール様が中庭の四阿で食事とお茶を楽しむのが見える位置、らしい。

 実際は植木や何やで身体の一部がちらりと見えるかなって程度。

 今の俺には興味も関係もない。


 本日の日替わり定食は、大皿は何か良く分からない白身肉のソテーと緑と赤のグラデーションが映える白菜っぽい葉っぱ、ジャガイモに似た物を揚げて添えてある。どろりとした紫のスープ。原料不明の小枝状のスティックが白いソースで和えてある小鉢。各種ビタミン類や不足しがちな微量元素を補助するブロック状のビスケットに似た物。酸味のあるお茶代わりの飲み物。


 一つとして前世で見た事はないけれど、ここでは馴染みのある料理だ。

 特に栄養補助ブロックは、種類も豊富であり、軍や狩人の携行食としても利用されるこの星の主食に近い食品だ。ご飯やパンのような扱いだな。魔力回復用とか特殊なやつじゃないものは、不味くはない。

 でも、連日これだと、おにぎりとかパンとか食べたくなるなぁ。確か、飲料水やパンを創り出す魔術があったはずだ。苦手な分野の魔術だが、ホムンクルスを創るより簡単な筈だから、今度トライしてみよう。目指す味とか形、食感を知っているわけだから、理論上は創り出せるはず。どんな天才でも概要も知らない他の魔術師では無理だ。


 白身肉は記憶では培養された食肉で、鶏肉っぽい味だった。培養工場見学で見た光景は思い出さない方が良さそう。野菜類も各々プラント内で管理栽培された物。外の畑で作られた地面から取れる野菜はクリーチャーがいるせいでコストが嵩み、一般的ではない値段になるので高級品だ。食料生産用のコロニーってのもあるから、食糧難になることはないが、コロニー産の食物は輸送費が乗るので、やはり少しお高い。

 学食に並ぶのは、コストの安い食材って事だね。

 エレノアール様がここで食べない理由だ。


 培養肉よりは高いが、庶民的に良く食べられているのは食用に適したクリーチャーの肉。こっちは湧いて出てくるわけで、まさに無限狩猟が可能だけれど、狩られる可能性もあるので値段もそれなり。核結晶と並ぶ狩人たちの収入源だ。因みに、野草や果実、薬草の類も自生しているけれど、危険度が割に合わないのでそれをメインにしている狩人は聞かない。それなりの金額で依頼でも出して、ピンポイントで採取して貰わないと手に入れ難いだろう。


「ふぅ、食後のこの酸っぱいお茶擬きが慣れないなぁ」


 コップに口を付けながら小さく呟く。


 今までは中庭に全神経を向けて来ていたのだが、今日改めて食堂内を見渡してみると、そこそこの数の学生がグループに分かれて食事していた。

 食堂の壁にはスクリーンがあり、政権放送だの、事件事故のニュース、プロパガンダっぽいCMが流れている。変わったところでは、農業コロニーへの移民募集とか。そんなものを士官養成学校で流してどうするのか、と。放送内容は民間も一緒って事だろうね。映画やドラマとか娯楽映像の文化もあるけれど、そっちは個人の小型情報端末で見るのが主流で、公共の場では、領政が管理している放送しか流れていないのが普通。

 ヨギ君は多分役者だと思われる渋いおっさんが、路地裏とかの酒場へ行き、そこでしか見掛けない怪しげな宇宙食材で作ったツマミを食べながら飲むって言うチャンネルが好きだったなぁ。酒飲まなかったはずなのに……謎だ。ちょっとファザコンの気があったのかもしれないね。


『――――――――先日起きました集団不審死事件の続報です。毒物の撒布が疑われ、該当地区への立ち入りが制限されていた本件ですが、有毒物質が一切検出されなかったことから、立ち入り制限は解除されております。魔術的な痕跡が見られるとの話もあり、政府は反体制派による何等かの工作の可能性を示唆しています』


 流れる都市放送のニュースに彼方此方で始まる会話が耳に届く。


「反体制派って本国の工作員だろ? 一般人まで巻き込んで何を企んでるんだか……」


「被害地区って軍事工場の技術工員とかが多く住んでたって話だぜ。工廠の生産性でも落としたかったんじゃね?」


「それか、前から噂があった、新型の……何だっけ?」


「ルドラ産高規格GVとか超級戦艦の話か?」


「そうそう、それ。それの開発関係者、とか」


「どうだろうなぁ。だとしても末端の作業員だろ」


「少しでも遅らせたかったとか、どうよ。今まではガイア帝国製を買わされてたんだものな。それさえ完成して、ラインが整えば……いよいよ独立か?」


「ばっか。独自生産出来るようになったって、いきなり独立はねぇよ。数だって揃えるのはキツイ。中央の奴等に払う金が減らせるってだけさ」


「そっかぁ。あいつ等俺等の事を未踏宙域から来る宇宙型クリーチャーに対する肉壁ぐらいにしか思ってねぇだろ。そのくせ田舎者扱いで資源吸い上げようとするし……やっちまえば良いのに」


「大手の軍事企業でもバックについてくれればワンチャン……」


 ルドラの人々の帝国中枢に対する反感はかなり強いみたいだね。

 元々豊かな星系で、開拓地的な扱いだったので、中央に頼らなくても成り立っていたものだから、独立気運自体はあったみたいだけれど。

 現公爵当主であるルシアン・ギネ・ゾロと、ガイア帝国皇帝サルバトル・カル・ガイアは腹違いの兄弟にあたり、仲が悪かったらしく、何かと嫌がらせをされているというのがルドラ民の印象だ。

 まぁ、そういう風に情報を操作している可能性もある。


 どちらにしても、件の事件の原因に心当たりがある俺としては、複雑な心境だ。

 見た事もない皇帝陛下及び工作員の皆さま……ご迷惑をお掛けします。いや、これを狙って工作員に仕込まれていたって可能性も微粒子レベルで……ないか。


「君は、またそんな端っこで食べてるのかい?」


 考え込んでいると、何時の間にかテーブルの向かいの席に座った同期から声が掛かった。

 アルフォンス・グラスコード。

 声まで無駄にかっこいい。

 実技の成績が上がらず、皆が馬鹿にする中、本人は足掻きに足掻いて無駄にストイックな鍛錬を重ねていたため、友人付き合いも悪くなっていき、人間関係が悪化の一途を辿っていたにも関らず、変わらず接してくれている数少ない友人。

 努力出来るのも才能だとか、格闘戦では一番なのだから剣術なんか気にするなとか、いつも励ましてくれる。

 一方的に恋のライバル認定しているが、彼に勝ちたい理由はそれだけではなかったようだ。

 仲の良い友人に負けっぱなしというのも悔しかったんだろう。


「ここから見える、窓の外の景色が良いんだよ。可愛い子も見えるし」


「……へぇ。鍛錬一徹の君にしては、珍しい発言だね」


「俺だってお年頃だからね」


「女性に興味が無いのかと思っていたよ」


「まさか。アルフォンスこそどうなんだ?」


「僕にそんな余裕はないよ。平民が士官になるってだけで大変なんだから。地位の安定が優先さ」


「お前なら直ぐに昇進してそれなりの地位を獲得するさ」


「そうなれば良いけどねぇ。どっちにしても確定してからじゃないと、怖くて脇見なんて出来ないよ。僕の道には躓き易そうな意地悪な石がゴロゴロ転がっているからね」


「こんなこと言いたくはないけれど、女性も相手によってはステータスの一助になるんじゃないのか?」


 特に何処かの王女様とか。道は綺麗になると思うんだよね。行先は確定しちゃうけれど。


「考えた事もないな。君が思っているほど、僕は器用な人間じゃないんだよ。両立するなんてとてもとても……」


「そういうものか?」


「そういうものさ」


 これは……同期の男連中が心の平安を得るのは随分と先の話になる様だ。可哀相に。

 アルフォンスのトレイにはサラダと栄養補助ブロック、ハーブっぽい匂いにする飲み物が載っているだけだ。


「相変わらず、女子の様な食事だな。もうちょっとがっつりしたものを食べたらどうだ? そうすれば筋肉も付くかもしれんぞ」


「ははは。僕は肉類は食べられないからねぇ」


 上品に食べているのに、食事速度は速いという器用な事をしながら、朗らかに笑う。性別を知っていなければ見惚れそうになる様な可憐な笑顔だ。

 アールバン人は種族的に菜食主義だ。足りない栄養は補助食品で補う事が多い。

 此方も種族的な問題だが、彼は自分の中性的な見た目や線の細さを気にしていた。男性的なゴツイ体型に憧れがあって、良く俺の様に筋肉を付けたいと羨んでいた。


「最近、鍛錬場に来ていないけれど、何かあったのかい?」


 クリーチャーに転生してから、生活スタイルが完全に変わり、毎日籠っていた鍛錬場に行っていなかった。

 今となっては、鍛錬場で身体を苛め抜くより、森でクリーチャーを狩る方が身になるからね。


「ちょっとした心境の変化でね。やり方を変えようと思って、色々と模索してるんだ」


「ふぅん……。そう言われてみれば、魔力の流れが以前よりスムーズになってる気がするね。簡単な事じゃない。努力してるんだね」


 これもアールバン人の特性の一つだ。

 視覚的にはっきり見える訳ではないらしいけれど、魔力の流れを感覚として感じる事が出来るらしい。

 当然、自身で魔力を扱うのにも長けている。

 普通の人族に妖精の因子が混ざった種族と言われるほど、魔術との相性が良く、保有魔力量も優れた者が多い。人種別でみると、アールバン人からは優秀な魔術師が多く輩出されている。

 彼自身は魔術はそうでもないが、魔力は量も扱いも流石のもので、それはGVの操作に活かされている。


 クリーチャー狩りで日々増えていく魔力を活かして、毎日欠かさず素脈管ナーディーの訓練をしているからね。俺の感覚からすれば、まだまだなのだけれど、元のヨギ君と比べればそれはもう相当違いが出ている事だろう。


「気が付いた事が沢山あるのさ。その内、シミュレーターで結果を出すからな。待っててくれ」


「……何か雰囲気が変わったね」


「そう?」


「うん。顔から険がとれたように見える。ちょっと前は変に追い詰められて、酷い顔をしてたよ」


 ああ、確かにそうだったんだろうなぁ。儀式に手を出すぐらいだしね。眼に浮かぶようだ。


「酷い顔、か。少しは見れる顔になったか?」


「その台詞が言えるなら、もう大丈夫そうだね。ゆとりが出てるよ」


「御心配をおかけしました」


「…………本当に、君、何があったんだ。今までそんな台詞使った事ないだろう?」


 金糸の様な長髪を耳に掛け、ハーブ系飲料の入ったカップを優雅に口に運びながら胡乱気な眼で此方を窺う。一瞬ぞくりとさせられる仕草で、何もかも正直に話してしまいたい心境に駆られる。

 拙いな。会話で違和感を持たれたか。

 人格違ってるんだから仕方が無いじゃないか。


「新しい鍛錬での効果が出始めて浮かれ気味なんだよ。テンションが高めなのは自覚してるから、見なかったことにしてくれ。今必死で秘密特訓中なのさ。目途が付いたら、模擬戦にでも付き合ってくれよ」


「いや、まぁ、それは何時でも大丈夫だけれど……秘密特訓って……」


 はい、クリーチャーを狩りまくって魂を食べる事です。

 なんて言える訳ない。


「ははは。内緒だ内緒。お前に模擬戦で土をつけるのが目標なんだから、手札は明かせないよ」


「そっか。じゃあ楽しみにしておくよ。頑張れ。応援してる」


 まだ訝しんでいたけれど、最後は良い顔で声援をくれた。

 何とか誤魔化せたか?

 しかし、本当に良い奴だなぁ。

 何で男なんだ? 彼が女なら惚れていただろうに。

 ああ、だからモテるのか。納得。


@9


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