第五話 金貸しのビリー
5 金貸しのビリー
明るい光が照り付ければ影が出来る様に、勝者がいれば敗者がいる。一握りの富める者は、多数の貧困に喘ぐ者達の上に立っている。
それを裏付けるかの様に、資源に恵まれ比較的豊かな惑星ルドラの領都でさえ、貧困層が犇めくスラム街を抱えている。
星系は広く、探せば仕事など山の様にある。
にもかかわらず、スラム街は小さくなる様子を見せない。
此処にいるのは、何らかの事故や争い、戦争、クリーチャーの襲撃などで肉体的或いは精神的後遺症が残るような怪我を負い日常生活が精一杯な者。労働意欲そのものが無くただ漫然と日々を過ごすのを望む者。違法な改造手術やドラッグ、安全性の確保されていない食物などで肉体に不可逆な変異をきたして普通に生活出来なくなったり、頭の中身をやられて正常な判断力を失ってしまった者。捨て子や棄民、何らかの理由で逃げ込んだ者。そんな彼等の子供は戸籍を持たず、それを得るための金銭もないため、やはりここの住人となる。最後に、此処に住むそれらの人々を相手に商売をしたり、搾取したり、隠れ蓑にしたりしているイリーガルな裏社会の住人。
スラム街の闇は深く、都市の衛兵隊の目も殆ど届いていない。
スラムにはスラムの独自のルールがあり、彼等なりの秩序を保ってはいるらしいのだけれど、市民街や貴族街に住む一般人からすれば治安は頗る悪く、一歩足を踏み入れれば命の危険を伴うような場所だ。
一応は街の防壁の中であるというのに、森や魔境と危険度は大差ない。少なくとも一般人のイメージではそうだ。
森での狩りの翌日、俺はスラム街のとある店に来ていた。
看板が上がっているわけでも、目印が付いているわけでもない武骨なビルの三階。
一階は安酒を出す寂れた酒場で、二階は酒場とつながった連れ込み宿。三階へは外付けの石階段を上る。
建付けの悪そうな音を立てる扉を開け、中に入り、奥に設置してあるカウンターに向かう。
手前のテーブルでは昼間からアルコールを片手にカードに興じる集団が陣取っている。
いつ来ても、酒と煙草と汗と鉄錆の饐えた匂いがする。
カウンターの向こうには両腕を機械化した草臥れた印象の男が座り、片目用の拡大鏡で魔晶石を覗き込み品質を見極めていた。無精髭を生やした三十代後半のガレンタール人で、にやけた口元で笑顔を作っているがやや落ち窪んだ眼窩の奥の眼は笑っていない。
「ビリー。買い取り頼むわ。見積もり見てから返済額を決める」
木製のカウンターに薄汚れた布の巾着を載せる。中の核結晶がじゃらりと音を立てた。
結局、三十匹を超えた辺りで満腹感が襲い、同じ数ぐらいを追加で狩って核結晶だけ回収して来た。殺した後に胸を切り開いて核結晶を取り出すのに時間を取られ、これぐらいで空が白んだため切り上げた。
此処に着く頃には満腹感は薄れたので、吸収同化に必要な時間は三、四時間ってところか。
「坊ちゃん。久しぶりじゃないか。期日に来ないから死んだか、踏み倒す気かと思ったぜ」
「色々あったんだ。悪いな。次はないから安心してくれ」
「……ま、違ったんならいいさ」
「この通り、ピンピンしてるよ。返す気も満々の優良債務者さ」
此処は仕事の斡旋から、武器弾薬の販売、クリーチャー素材の売買、魔晶石の売買など手広くやっている所謂万屋。
こんな所で看板も揚げずにやっている店なので、出所不明の品も買い取るし、イリーガルな仕事の斡旋もやる。
そんな店なんだが、店主のビリーの本業は金貸しらしい。
借金の形に、有形無形の色々な物が持ち込まれるようになり今の様な営業形態になったそうな。
表向き、此処は店でも何でもないので、取引内容は一切の表の記録には残らず、足跡を残さず目的を遂げたい何かしら後ろ暗い事柄を抱える者達が次々と訪れる。
俺もその一人だ。
俺って言うか、ヨギ君だけれどね。
彼は例の遺物を稼働させるための魔晶石の購入代金の一部をビリーから借りていた。借金したというか現物の魔晶石の先渡しなので、ツケで買ったような形だ。
大量の魔晶石の使い道を詮索されたくなかった上に、購入を焦ったため、正規の店では取引出来ず、非正規の店で唯一知っていた此処に来ることになった。
この店の事は、その少し前に士官養成学校の卒業生である先輩に連れられて来たことがあり、その先輩に教えられた。先輩は彼女と楽しむための非合法なドラッグを購入しに来ていたのだけれど、流石に一人では物騒なのでガタイの良いヨギ君に付き添いを頼んだらしい。素行と柄の悪い先輩だったけれど在学中世話になった事があり、断り切れなかったようだ。
そんなちょっと付き添いで来たことがある程度の人物に、大した査定もせずに金を貸した段階でおかしいと思わなければいけないのだけれど、当時のヨギ君は全く疑問に思っていなかった。
まぁ、何だかんだ言っても良いとこの坊ちゃんだったからね。鍛錬と勉強しかしてこなかったわけだから、仕方が無いっちゃ仕方が無い。適度に悪い遊びが出来る様な器用さを持ち合わせていれば、今の様な状態にはなっていなかっただろう。
あの段階で、こちらの素性は把握されていた事だろう。士官養成学校の生徒であること。男爵家の人間であること。親が軍の准将であること。取りっぱぐれる事はないと踏んだに違いない。そうでもなければ、此方から申し出た訳でもないのに、猫撫で声で暗にツケを勧める提案などしないだろう。
「ってか、何で慎ましやかに普通の生活を送っている俺が死んだなんて思ったんだ? クリーチャー狩りでしくじるとでも?」
「そうは思ってないんだが……ちょっと前に市民街と貴族街の境目辺りで謎の集団殺害事件があったんだよ。知らないのか?」
「知らないなぁ」
「都市放送ぐらい見ろよ。何でも、数十人がほぼ同時刻に騒ぎもせずに死んだらしい。どいつも普通に生活してる最中みたいに、食事に突っ伏してたり、洗濯物に倒れ込んでたり、風呂に沈んでたり、寝室で横になったまま死んでたりしてたんだとよ。夜だったんで、出歩いてた奴がいなかったのか、道で死んでた奴はいなかったらしいがよ。ガスみたいな毒物を使ったテロなんじゃねぇかって噂だが……」
「…………へぇ」
「まぁ、何処も物騒って事だな。気を付けな」
数十人の死因不明者。真夜中。市民街と貴族街の境目、ね。
何かちょっと心当たりあるなぁ。
そうだよなぁ。生贄も無しにあんな儀式が成立するわけないんだよ。
うーむ。聞かなかった事にしよう。気のせいかもしれないしな。
「結構な量だが、うちで買い取ると表より安くなるがいいのか?」
「ん? ああ、構わない」
考え事をしている内に、ビリーが巾着袋を検めて確認して来た。
表とは、普通に商売をしている狩人協会や商業ギルド、魔導具店等の事だ。核結晶は需要が高いので何処ででも買い取ってもらえる。
それは知っているのだけれど、そういった真面な店で売却すると、都市の記録に取引履歴が残るのだ。
クリーチャーを狩って核結晶を売ること自体は違法でも何でもないのだけれど、寄宿舎で生活しているはずの俺がこれだけの量を何処からどうやって調達してきたのかとか、その金を何に使ったのかとか、調べられると面倒になることが色々あるため、極力記録を残したくないのだ。
「なら、下級は一万五千が二十三で三十四万五千クレジット、二万五千が八で二十万クレジット、中級のは四十万クレジットってとこだな」
「相変わらず、結構ぼるなぁ」
クレジットは全宙域統合企業連合が価値を保障している電子通貨で、この世界で最も信用があり、広く一般的に使われている。主に小型情報端末上でやり取りされるので、硬貨や紙幣はない。クレジットは電子データではあるが、全宙連のクラウド上の個人口座に保管され、IDと紐付けられて管理されているので、端末が壊れたぐらいではなくならず、大企業達が威信をかけて変質的なまでの防壁を築いているため、ハッキングで盗むこともまず出来ない。
各国も独自の通貨や電子通貨を発行したりしているが、大抵その支配星系でしか使えず、価値も安定していない。
その点、全宙域統合企業連合は様々な宙域を代表するような企業が参加し取引に使用しているので、何処でも通用するし、価値も安定している。国が亡びる事はあっても、銀河中の大企業が一度に消え去る事はないのだ。
価値としては、星系の物価にもよるが、基本的な一食分で五百から千クレジットといったところ。
核結晶はそれを持っていたクリーチャーの階級が反映される。各々の階級の核結晶にも優劣があり、色が濃く傷が少ないものが高価とされているが、この辺りは買取側の目利きによるところが多い。要は大体の相場は決まっているが、後は買取側の胸先三寸って事だ。
因みに森に入る前の草原にいる様な小型クリーチャーは低脅威度クリーチャーという下級の下に分類され、俗に低級クリーチャーと言われる。低級クリーチャーからは、クズ結晶と言われるようなものしか取れず、これは一個五百クレジットから三千クレジット。
森で遭遇した黒髭やニブルは下級クリーチャーで、表の買い取りなら税を引かれた上で二万から四万クレジット。
中級にもなると、GVのジェネレーターの素材に使われたりするので価値は跳ね上がり、最低でも五十万クレジットにはなる。
買い取りに出した中級はイーラがくれたやつで、多分然るべき場所で売れば八十万ぐらいになるんじゃないだろうか。そんな物を訓練機の搭乗順に割り込むためだけにポンと出せてしまう彼の家は相当金持ちなんだろうね。
何にしても、相当買い叩かれている。
「仕方が無いか……。それで良いから、五十万クレジットを返済に回して、残りを口座に振り込んでくれ。口座の番号は……」
「あいよ。ほれ、確認してくれ」
小型情報端末で口座に入金されたのを確認する。
「確かに。これで残りは二百万クレジットか……もうちょっと掛かるな」
借りたのは二百万クレジット。利息が五十万。合わせて二百五十万クレジット。ヨギ君にとってかなりの金額だ。魔晶石ってのは高いのだ……。
これ、今の俺だから森に籠れば何とかなるけれど、元のヨギ君はどうやって返すつもりだったんだろうか? 何も考えてなかったんじゃなかろうか。
「いやいや、坊ちゃん。巫山戯て貰っちゃ困る……残金は後、四百五十万クレジットだぜっ?」
「……はぁ?」
「坊ちゃんの借金は額面五百万クレジットだ、って言ってんだよ」
ビリーがニヤニヤしながら宣う。
「……どういう事だ?」
「どうもこうもねぇよ。オルレアン家のお坊ちゃん。融通してやった魔晶石の相場が上がったのさ。あんたが持って行ったのは五百万分の石だって言ってんだよ」
ビリーがカウンターの上に端末を滑らせ画面を指し示す。そこには五百万クレジット相当の物品授受確認証明と、借入契約書。ヨギ君の受諾入力証明もされている。
丁寧に記憶を探ってみるが、そんな記憶はない。薄っぺらい借用書にサインをしたぐらいだ。今時紙媒体ってと思ったが、これが最も表に出難くて確実だからと言われたのを覚えている。
「今の時代、紙媒体が廃れたのは偽造が容易いからだぜ。偽造防止処理のされた特殊契約紙以外にサインするのはお勧めしない。良い勉強になっただろ? 坊ちゃん」
「そんなもん出るとこ出れば、直ぐにバレるだろう?」
「出れたら、な。男爵家の長男で准将の息子が、スラム街の金貸しに繋がりがあった何て話、事実でもそうでなくても表に出た時点で、准将の失墜は確実だろうぜ。金を借りたのは事実だし、権力の中枢にいる奴等は羽虫を巨大クリーチャーに仕立てるのは得意中の得意だぞ」
こいつの言ってる事は間違ってない。親父は、軍務での功績と誠実さだけで愚直にやって来た堅物だ。本人の粗を探すことは難しいだろう。けれど、後ろ盾が薄く、こういうスキャンダルに対しては多分滅法弱いはず。原因を作ったヨギ君は、親より先に死ぬという最大の親不孝をしてしまった後だ。これ以上の親不孝はさせられない。
「金さえ払えば満足なのか?」
「取り敢えずは、金だな。その内に色々と頼むことになるだろうけど」
つまりは、それで済ますつもりはないって事か。
骨までしゃぶるつもりなんだろうが、何となく他にも目的があるような気がする。俺をハメるのに手が込み過ぎているからだ。確実性も薄い。彼方此方に違和感を感じる。
何処からが仕込みだろうか? 呪術師からか? 先輩からか? 流石にそれは竅ち過ぎか。しかし偶々にしては整い過ぎている気がする。
前世で「借りた物は返しましょう」と習ったので、大人しく返済しようとしていたんだが、これは……。
「自分の立場を理解したなら、さっき受け取ったクレジットは俺等が貰ってやるよ」
考え込んでいると、何時の間にか背後から顔の横にナイフが差し出されている。
振り返ると、手前のテーブルでカードに興じていた男達が下卑た笑いを浮かべてナイフをひけらかしていた。
三人の柄の悪い男達。店に入った時はもう少し人数がいた様な気がするが、今はこの三人しかいない。ひょっとすると誰も入って来ない様に外を封鎖しに行っているのかもしれない。
ナイフを持ってるのは声を掛けてきた茶髪に鼻ピアスの男だけ。後ろには青髪と紫髪の男。こいつ等はニヤニヤと侍っているだけだ。出してないだけで懐に忍ばせてるのかもしれないけれど。銃器の類は見えない。
「支払いの済んだ後の金がどうなろうと、俺の知ったこっちゃねぇからな」
背後のカウンターからビリーがそう宣言する。
「へへへ。だとよ。幾らかでも借金返済に回せて良かったじゃねぇか。大体、坊ちゃんよ~。スラムに丸腰で来る馬鹿がいるかよ。ほれ! 早く端末よこせや!」
鼻ピアスが左手のナイフをひらひらさせながら寄って来る。
そのまま俺の頬をブレードの側面でペタペタと撫でた。
「どうした? ビビッて声も出ねぇのか? これからの人生を思って絶望しちまったのか?」
確かに丸腰ではあるが、それは必要性を感じなかったからだ。威嚇目的で何かぶら下げておくべきだったか?
さて、どうするか。
殴っちゃうと爆ぜて酷い事になりそうなんだよな。クリーチャーで練習したけど、打撃の手加減ってやつは物凄く難しかったのだ。投げ技とか組み技は上手く加減出来たんだけどねぇ。
殺しは拙い。何のためにこんな所で取引をしたのかわからなくなるからね。都市の衛兵隊に介入されたら流石に色々バレる。
外傷を残さない『魂魄吸収』ならと一瞬思ったけれど、核結晶さえ持たないような人族の魂なんて吸収しても殆ど腹の足しにならないし、さっき聞いた集団殺害事件と関連付けられたら目も当てられない。
魔術を使うって手もあるにはあるんだけど……触媒の用意がないし、面倒臭いなぁ。
多少なりともムカついてるし。
よし、組み技で落とすか関節を砕くかにしよう。
うん。もうそれでいいや。
「黙ってねぇで、何とか言えやっ!」
「……はぁ。絶望、ねぇ。お前ら面白いこと言うね。それで……全員、敵対するって事で良いんだね?」
「頭、お花畑かよ!? まだ分かんねぇのか?」
「了解した」
普段、身体の奥底に収めている不死者の王としての気配を開放する。
これから絶望するのがどちらか。何者に対して脅迫をしたのか。不死者の王を前にして生きているだけでも幸運だというのに……。
大体こいつ、ナイフが魔法障壁に阻まれて頬に接していない事にさえ、気が付いていないんじゃないだろうか。尤も、例え障壁が無くとも、魔が宿っているわけでも、聖別されているわけでもない普通の武器では俺に傷一つ付ける事は出来ないんだけどね。
無防備に武器を曝しちゃって……反撃される可能性とか何も考えてないんだろうなぁ。
さっさと制圧しよう。
頬に当てた鼻ピアスの左手を右手で被せる様に掴む。
相手の手の上方から手の甲に親指を当てる様にして、相手の母指球に四本の指を引っ掛ける。親指で押し込むように相手の手首を屈曲させて極めたら、両手で持ち直して、そのまま折らないようにそっと外側に捻る。ついでに男の右側へ腰を入れて左足を出しておけば、手首の痛みから逃げようとして外側に身体が傾き、足に引っ掛かってころんと転倒する。
「……ぐっ」
鼻ピアスは握っていられなくなったナイフが地面に落ちるのを見ながら、自分の身に何が起こったのか理解できず、痛みに顔を顰めた。
そのまま肩をやさしく踏み砕いて、悲鳴が上がる間にさっさとナイフを拾い上げる。素材の解体にも使えないような時化たナイフだったので、指で抓んで丸め、部屋の隅へぽいっと捨てた。
「お、お前っ」
青髪が驚愕を顔に表す横で、紫髪が回れ右してその場から逃走しようと試みる。
危険察知能力は素晴らしいと思うけれど、背中を曝すとか……。
眼の前で曝された大きな隙を逃す手はない。
一足飛びに背中に跳び掛かり、うつ伏せに押し倒した後、両足で相手の身体を挟んで固定。驚きで上がった顎の下に背後から右腕をするりと滑り込ませ、自分の左腕の上腕肘の辺りを掴む。左手を紫髪の後頭部に回しおさえたまま左腕全体を引いて右腕をしぼるように絞めていく。首を飛ばしてしまわないように、飽く迄やさしく、だ。どう考えてもクリーチャーより脆いだろうしね。
ここで気管を潰す様にするとそれはそれで下手をすると死んでしまうし、変に痛いので暴れるのを助長してしまう。
右肘を顎下で上手くたたみ、首の両側に在る頚動脈洞を圧迫する。
圧受容体への圧刺激で頚動脈洞反射を引き起こし、徐脈を誘発。継続して絞め続けると徐脈から血圧低下、脳幹への血液量が低下し、頚動脈洞性失神が起こり意識消失する。落ちるという状態だ。
どんな屈強な軍人も十秒も絞めれば落ちる。
ヨギ君の得意技スリーパー・ホールドだ。
首への絞め技としては手加減用の謂わば練習試合用の技。実戦ならさっさと折る。今の俺がやったら首は千切れるだろうけどね。
紫髪は俺の腕を何とか払いのけようと藻掻きながら十秒もせず落ちた。
よしよし、死んではいないな。
「何してやがる! クソガキがっ」
紫髪が落ちた頃になって漸く、慌てた青髪が走り寄ってきて俺の顔に蹴りを放つ。
こんなもので俺の魔法障壁を抜くことは出来ないのでノーダメージだ。
顔の前の魔法障壁で止まった相手の蹴り足を掴み、上へ持ち上げる様にして立ち上がりながら、軸足を刈り取る。
青髪は何が起こっているのかわからず、驚いたような表情のまま後ろへ倒れ込んだ。
足は離さない。
ノーダメージだったが、足蹴にされたのを許すつもりはない。
保持した足を挟み込むように自分の足をまわす。外側の自足の甲の部分を、男の逆の足の大腿の裏側へ滑り込ませてロックすると相手の膝が軽く曲がった状態で内側に倒れる。青髪の足関節は伸びた状態で俺の脇腹に沿うようになっている。そのまま脇で相手の踵を挟んで締め上げながら身体をさらに内側に捻る。
「が、ぎぃあああああああっ」
足関節技。変形のヒールホールド。このかけ方だと壊れるのは膝関節だ。
乾いた音を立てて膝が砕けた。
投げ捨てるように足を離して立ち上がる。
見渡すと、鼻ピアスは肩を押さえて呻いているし、紫髪は失神、青髪は膝を抱えて大声で呻いている。
最早誰も立ち向かってくる様子もないし、悲鳴を聞きつけて外から増援が来る気配もない。音が漏れてないのかもね。
「お前、一体何なんだ……」
カウンターからビリーの強張った声が聞こえる。
さて……。
「じゃぁ、お話し、しようか?」
ビリーの方へ向き直り、その青ざめた顔を見ながら、ゴキリとこれ見よがしに拳を鳴らした。
「それとも、その機械腕が俺に通用するか試してみるかい? 銃器の類が仕込んであってもお勧めはしないけど……良い勉強になるかもしれないね」




