表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

第四話 魂喰らい

4 魂喰らい


 クリーチャーの使う魔術や魔法は二種類ある。

 一つが個体として備わっている『権能』。

 権能は、自身の肉体に刻まれた魔術式を媒介にして行使しているのに等しいので、呪文や触媒を必要とせず、個体や種族、進化系統によって元々その身に備わっている魔法。

 もう一つが、通常の魔術。

 此方は知識を基に、自らの魔術領域に魔術式を構築、詠唱と魔力操作を必要とし、高度な物は更に触媒などが必要になる事もある。基本的に自身が生み出したオリジナルの魔術以外は、その魔術の仕組みや術式を知らなければ使うことは出来ない。

 その習得に関するプロセスから、知能や学習能力のないクリーチャーは使う事が出来ない。

 権能が生まれ持った能力なら、魔術は学習や努力によって得られる後天的な能力だ。


「――――ポルタンテ・マルウモノ・カジェ・トロンパンテ・ヴィアジ・オクロン」


 深夜、俺は自分に『認識阻害』の魔術を掛けて、寄宿舎を抜け出し街の防壁を乗り越え、人知れず森を目指していた。

 この『認識阻害』は自分に対する認識を誤魔化す魔術で、効果時間中は誰かに直視されても輪郭が黒い靄の様にぼやけ、人型の靄が揺らめきながら移動している様にしか見えない。そう言うものなので、そこに誰かがいる事は分かっても、それが俺だとはまずバレない状態だ。

 姿を完全に隠す光学迷彩の様な魔術の方が良いのかもしれないけれど、種族柄、光の特性を操るのは骨が折れる。魔力が十全ならばゴリ押しも出来ないではないけれど、今の不完全な状態ではコスパが悪すぎるのだ。まぁ、個人さえ特定されなければ、何とでもなるだろう。

 幸いな事に、空から防壁を越えるクリーチャーに反応して歩哨に警告を発すると同時に自動で迎撃する魔導タレットは俺に反応する事はなかった。外から来る物には反応しても、中から出る物には反応しないのだろう。

 この理屈だと帰りが危険なのだけれど、寄宿舎の自室をポイント指定してあるので、帰りは棺桶コフィン経由で戻れるので問題ない。まぁ、例え魔導タレットに攻撃されたとしても、魔法障壁が抜かれる事はないだろうけど……。



 夜の間に、森でクリーチャー狩りをしようと思ったのだ。


 いやぁ、シミュレーターで遊ぶより先に、魔力量の向上と金策をしとかないといけなかった。


 森までは少し距離があったが、魔力操作による身体強化によって高速で移動することで大して時間を取られず到着した。


「よし。頑張ろう」

 

 気合を入れ、種族特性で生命の気配を探知しながら、昼間の様に闇を見通せる視界を頼りに森の中へ分け入って行く。

 結構鬱蒼とした森だ。

 羽虫の類も飛び回っているようだが、寄ってくる様子はない。

 不死者の王だからか、魔法障壁が常時展開されているからか、虫に悩まされることはないようで安堵している。


 暫らく前にヨギ君が金策に通っていたので、浅層にいるクリーチャーについては大体把握している。

 尤も、彼は昼間にしか来ていなかったが。


 夜はクリーチャー達が活性化する時間帯。昼間とは勝手は違う事だろう。

 少し入ると、前方から三つの気配が迫って来た。暗い森の中なのに結構な速度だ。

 向こうもどうやってか此方を捉えているようで、迷わず真っ直ぐ向かって来ている。

 森の浅い所で、この速度……。


「多分、黒髭だな」


 黒髭は、森の浅層全域に生息する下級のクリーチャー。

 正式名称は黒髭角獣。狩人達は黒髭とかウィスカーハウンドとか呼んでいる。

 頭部に小さな角を持ち、顎の両側から長く黒い触手を生やした狼に似た黒毛の四足獣だ。見た目通り匂いに敏感なのか広い索敵範囲を持ち、何処からともなくよって来る。四足なので移動距離、速度にも優れ、活動範囲が広いのだろう。

 

 思った通り、黒い四足獣が奥の茂みから飛び出してきた。


 先頭の一匹の頭を身体強化に任せてぶん殴る。


「あっ……」


 湿った音を立てて頭部が爆散した。

 そう力を込めたつもりはない。

 五メートルはあった防壁は飛び越えられたし、矢鱈と速く走れたことからも薄々気が付いていたが、この身体のポテンシャルに不死者の王としての魔力による身体強化が加わると、身体能力は尋常じゃなく跳ね上がるようだ。おまけに、体表に展開された五重の強固な魔法障壁が合わさると、拳には殴った感触すらほとんど残っていないというのに、殴った頭部が爆散するほどの驚愕のダメージを叩き出している。


「これじゃどっちがクリーチャーだか――――」


 ――――そうだった。俺もクリーチャーだったわ。


 あっさり一匹仕留めてしまったのだけれど、目的を考えるとこれはいけない。

 少し遅れてきた二匹目は、脛に囓り付こうとしてきたところをサイドステップで躱して、横からヘッドロックの形で抑え込む。

 直ぐに三匹目も跳び掛かってきたが、こっちは取り敢えず無視だ。魔法障壁が牙も爪も通さないので、じゃれつかれているのと何ら変わらない。咬み殺そうとするその顔は、無駄に怖いけれど、甘噛みにすらなってない。


「『魂魄吸収ソウルアブソーブ』」


 抱え込んだ黒髭に権能を発動する。

 『魂魄吸収ソウルアブソーブ』は接触した相手のソウルを吸い取り自分の力に変える能力だ。ソウルはそれ即ち魔力の器。奪い取ることで俺の魔力の最大値が増大していく。

 保有可能な魔力の最大値が増えるというのは、魔力によって身体能力を強化し、魔法障壁で防御を固めて活動する俺にとっては、純粋に個体としての強化に直結する。

 言ってみれば、レベル等というシステムの存在しないこの世界に在って、こうやって他の生物から魂を奪う事で、一人だけレベルアップが出来る様なもの。

 失った力を取り戻すのが先なので、マイナススタートといったところだけれどね。

 山があれば登るでしょう。レベルがあれば上げるでしょう。それが摂理と言うものだ!

 GVの操縦をした時にも思ったけれど、前世の俺は結構ゲーム好きだったみたいね。

 RPG的なレベル上げや、ロボットゲームの練習が自分の人生の糧になるとか……幸せな環境だなぁ。


 因みに取り出された状態の核結晶も『魂魄吸収ソウルアブソーブ』で吸収する事は出来るし、それでも魔力は増えるのだけれど、生きて活動しているクリーチャーからソウルを吸収した時と比べるとその量は微々たるものだ。効率が段違いだね。死体から取り出した核結晶にはソウルは殆ど残っていないし、死体の核結晶以外の部位からは全く吸収出来ない。

 ソウルの依り代は間違いなく核結晶なのだろうけれど、死後は其処からさえ拡散し、何処かへと還っていく。残されるのは魂の残渣のみって話だ。


 都合の良い事に、ヨギ君の徒手格闘技術は達人級。組み技はお手の物だ。能力の発動条件が接触で、吸収にも時間が掛かるので、組み技で抑え込むのと非常に相性が良い。魂の吸収効率が良い活動状態のまま『魂魄吸収ソウルアブソーブ』を行使するには打って付け。どんどん仕留めて行こう。


 『魂魄吸収ソウルアブソーブ』でソウルを吸い尽し絶命させた黒髭を投げ捨て、未だじゃれついている三匹目の首に腕を回す。キュッと絞めれば大人しくなった。


 魂を吸い尽すとその体からは生命は失われ、生前の生気は無くなり、核結晶も消失してしまう。

 クリーチャーによって素材として売れる部位は違い、黒髭の場合は、核結晶に牙や爪、角、毛皮。肉は食えない事もないが、硬くて不味いので買い取ってはくれない。

 どんなクリーチャーでも、素材の中で最も金になるのは核結晶だ。『魂魄吸収ソウルアブソーブ』で核結晶が無くなった死体を解体しても、手間に見合った利益は得られないと思われる。

 何だか、食い散らかしているようで、行儀が悪い気もするが、殴り殺してしまった一匹目の核結晶だけ確保して他は捨て置く事とした。


「さて、次は何処かな……」


 まだ大した量ではないが、それでも確実に増大した魔力量に思わず口角が上がるのを自覚しながら、次なる気配を探っていく。


 今が夜中で、先ずこんな時間に森に入っている狩人はいないから良いが、クリーチャーを絞め殺して猟奇的な笑顔を浮かべているところなんて誰かに見られたらどうなることやら。

 周辺に人がいないかは警戒しておくべきだろうね。


 樹上から跳び掛かって来た森林斑蛇と呼ばれる体長三メートルほどの蛇に似たクリーチャーを、両手に一匹ずつぶら下げて『魂魄吸収ソウルアブソーブ』を発動する。

 つがいだったのか、二匹で連携して襲って来た。毒のある種類だが、俺には効果がないので、咬まれるままに固定された首を掴めば出来上がりだ。十カウントほどで吸い切った。


 死骸を近くの茂みに投げ捨てて進む。

 生命の気配を頼りに寄って行っても全てのクリーチャーが襲ってくるわけではない。

 大きな鹿っぽい樹角鹿や、体表に鎧を纏った猪である甲殻猪には近付いただけで逃げられた。

 殊更、気配を隠したり、忍び寄ったりしているわけではないので、警戒心の強い奴には逃げられても仕方が無い。ただ逃げられた二種はどちらも肉が旨い筈なので、そのうち何とか方策を考えて狩ってみたい。

 合間に襲ってくる黒髭を処理しつつ、奥を目指す。


 次に遭遇したのは、ニブルと呼ばれる人型のクリーチャー。

 人型といっても尻尾があるし、腕が長く、それを地面に着くように移動するので、完全な二足歩行って感じではない。シルエットは猿の類に似ているけれど、体毛らしきものはない。そののっぺりとした頭部には目や鼻が無く、乱杭歯を湛え大きく裂けた口だけがあり、そこから二股に裂けた赤く長い舌がべろりと垂れている。

 結構奥で遭遇したけれど、森の浅層に多数生息していて、黒髭と並んで遭遇率が高いクリーチャーだ。


「ゲヒッ」


 感覚器官が見当たらないのにどうやってか此方を認識したようで、笑うように口を歪めて襲い掛かって来た。

 低い姿勢で距離を詰めてから、雑に右腕を振り回し殴りつけてくる。

 当たってやっても何の痛痒も無いだろうけれど、何となく殴られるのも不愉快だったので、伸ばしてきた右腕を手首の位置で掴み、引き込みながらニブルの左脇に俺の右腕を差し込む。そのまま反時計回りに身体を捻り、ニブルの身体を腰に乗せる様にして投げた。

 こっちで何と呼ばれているかは知らないが、柔道の大腰のような投げ技だ。

 叩き付けると死んでしまうかもしれないので、地面に着く瞬間に引き手を引いて身体を浮かし、落下の衝撃を和らげてやる。

 無様に転がったニブルを、そのまま地面に袈裟固めの形で抑え込んで『魂魄吸収ソウルアブソーブ』を発動する。


「ゲ、ゲッヒャァ」


 何を言っているのかはさっぱり分からないけれど、驚いているか痛がっているかだろう。必死で体をくねらせ逃れようとしている。死の恐怖を感じるほどの知能があるかどうかは分からない。表情を形成する要素が口しかないしね。

 下草や落ち葉で滑る地面をバタバタ蹴ったり、抑え込んで無い方の手で、俺の身体を引きはがそうとしたり必死だ。

 いや、もう、この体勢になったら筋力で勝ってないと無理だよ。


 時間と共に抵抗が弱まっていき、魂を吸い尽されて沈黙した。


 うん。人型だと技が掛け易くていいね。

 さて、こいつがいたって事は近くに他の個体がいるはずだ。ニブルは群れで行動するクリーチャーだから。


「美味しくいただきましょ」


 夜明けにはまだ時間がある。


 周囲にあった気配を片っ端から襲撃していく。ニブルの群れだ。群れって言っても、四匹のと五匹のものの二つ。計九匹だったのだけれど、最後の一匹は何故か泡食って逃げて行った。


 ――――ニブルって恐怖とか感じるんだな。


 初めて知った。ヨギ君が狩りに来ていた時は、何匹倒しても逃げるような素振りは見せなかったと思うのだけれど。


「ふぅ、ちょっと休憩」


 結構奥の方まで来たようで、視線を先に向けると、あるところから樹木の葉っぱがボンヤリ光を発していた。蓄光塗料を塗ったものが発するような、淡くボンヤリとした緑がかった燐光。

 この惑星には月が無いので、夜闇では星の瞬きぐらいしか灯りはないのだけれど、まるで月に照らされているかのように明るくなっている。


「綺麗だなぁ」


 それはもう見惚れる様な幻想的な風景。

 だけど、それが表しているのは――――――――あそこから先は森の中層。魔境に分類される危険地帯だという事だ。


 夜間に生えている樹の葉っぱが光ってる所は、魔境。腕に自信がないものは決して侵入しないように。


 この惑星での常識だ。

 ここから奥には中級以上のクリーチャーが出没するし、更に奥に行けば、植物や環境が穢れに汚染され変質している事がある。クリーチャーでもないのに襲ってくる樹木とかあるらしいし、幻覚を見せられて沼に引きずり込まれたリ、良く分からないものに遭遇したりするらしい。

 中層の奥には深層があり、植物や環境の脅威は殆ど深層からだと言われているけれど、浅層と中層の境目の様に分かり易い現象は、中層と深層の間にはないし、同心円状に層が移り変わっている保証もない。

 侵入する場所にもよるが、中層に入って数メートルでもう深層に踏み込んでたって場合もなくはないのだ。

 ベテランの狩人達の中には中層や深層で活動している者もいるけれど、そのノウハウは秘匿されていて、簡単に教えてくれるようなものではない。まぁ、飯の種なので当たり前だと思う。

 そういう、どこら辺から侵入したらどのぐらいまで中層で、どうなったら深層なのかとか、各層で狩場に出来る場所、近付いてはいけない場所、用意が必要な物品等という情報が無ければ、まず生きて帰れないので、侵入するべきではないのだ。


「今日の所は、中層には近付かずに浅層で狩ろう」


 正直な所、このまま奥へ奥へと侵入しても、俺的には問題ない。中級クリーチャーであろうと、上級クリーチャーであろうと、更にはそれ以上であろうと対処することは出来るから。

 でも、現時点では……面倒臭いので行かない。

 中級はまだしも、上級以上になると拘束するのは難しいし、屠るのにそれ相応の手間や時間が掛かる。

 拘束すること自体は、『強直』や『虚脱』といった動きを封じる系の魔術を使えば問題ないことは問題ないんだけどなぁ。

 俺の今の状態なら、中級一匹吸収する間に下級五匹吸収したほうが効率が良さそうなんだよね。しかも中級ぐらいのクリーチャーって基本群れないから、探す手間もかかるしね。


 というわけで、カモン! 黒髭。ウェルカム! ニブル。

 どっかで大規模な集落でも構築してないもんだろうか……。歩き難い森の中を歩き回るの、しんどいです。


 そして、さっきから薄々そうじゃないかと思ってたんだけれど……。

 これ、一晩で幾らでもソウルを吸収出来るわけでもなさそうだ。


 昼間に普通に食事をしている時は、味はちゃんとわかるんだけれど、満腹になるといった感覚は無かった。逆に空腹を感じる事も無かったので、俺にとって人類種の食事は嗜好品に近い扱いなんだろうと思っていた。

 勿論食べた分はマナとして吸収され、魔力も微増するので丸っきり無駄って事もない。無駄ではないが、誤差の範囲なので、どうしても食べなければいけないといったものでもなかった。

 それが、森に入ってクリーチャーから『魂魄吸収ソウルアブソーブ』でソウルを奪っていると、少しずつではあるものの空腹が満たされていく感覚がある。

 腹にたまっていくのだ。

 どうやら、俺にとって本当の食事は『魂魄吸収ソウルアブソーブ』だったようだ。


 この感じから言って、どれぐらい吸収出来るかは分からないけれど、その内、満腹になると思う。

 言い換えると、吸収した魂の器が俺の体に馴染んで、魔力量を押し上げるのに、少し時間が必要だという事だ。

 前世の知識では、人が食事をして、消化するのに八時間から二十四時間。排泄迄考えれば実に四十時間も掛かる。

 自分の魔力量の上昇具合を考えるに、多分、同化と言うか消化と言うかにそこまでは掛からないと思うけれど、一旦満腹になったら四、五時間は吸収できないかなぁ。


 ちょっとこの辺、何匹食べられて、同化にどれぐらい掛かるのか、把握しておく必要があるね。


 そんで、忘れていたけれど、金策も必要なんだった。

 さっさと満腹まで吸収して、その後は核結晶とか単価の高い素材を集めよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ