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第一話 暗渠の産声

1 暗渠の産声


 此処ではない何処か。

 いつとも知れない時。

 時の流れの概念さえ違うかもしれない星々の揺蕩う銀河ネブラ・マクラの彼方で……。



 『不死者の王』と呼ばれる怪物がいる。

 無限の知識を求めた魔術師が、永遠の命を得るため、若しくは神を目指して、その持てる魔術の粋を駆使し理外の生物へと転生を果たした姿。或いはそのなれの果て。

 自らの意思で人であることをやめ、生命輪廻の理から外れ、冥府魔道に落ちた者。弱者は近付いただけで魂を抜き取られ、強者であっても触れられれば忽ち生命力を吸い取られる。

 転生によりその本質が魔に近付いたためか、膨大な魔力を有し、高度な魔術を手足のように操る。

 不老不滅のクリーチャー。


 数多のクリーチャーが跋扈するこの世界であっても、今や御伽噺の類でしか語られることが無くなった古代魔導王国期の存在だ。


 僅かに残されている真偽不明の情報を寄せ集めると、転生には通常、死霊魔術ネクロマンシーに対する高度な知識と理解、それを実行出来るだけの実力、複雑な儀式、高価な触媒、様々な代価が必要とされる。

 そして、それらを揃えたとして、転生儀式が望む形で成功するかどうかは、魔導全盛の当時でさえ、それこそ神のみぞ知ると言われるほどの難易度を誇っていた。

 神へのきざはし、その端緒に辿り着ける確率は如何程か……。



 街の地下。下水道から通じる秘密の通路の先にある隠された石室。

 思ったより広さのあるその部屋は、篝火の頼りない光で照らされている。何処からか空気の流入はあるようで、ゆっくりと流れる風が篝火を揺らして、室内に影を躍らせる。


 中央に安置された儀式台の上で身を起こし、暗闇が見通せるようになった視界で辺りを見回す。こうなる前には篝火の僅かな明かりが届く範囲しか見通せなかったが、今はまるで陽の光に照らされているかのようにはっきりと見える。古ぼけた石畳には年月を湛えた何とも言えない色をした苔が生え、部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、湿気の張り付いた壁際を鼠どもが駆けて行く。床には埃が積もっているが、準備の時に俺が移動した場所だけ、新雪を踏んだ後の様に足跡が残っている。

 クリアな視界で、冷たい石造りの儀式台の上で足を投げ出して座り込んだ格好の自分の身体を確認した。

 丈夫な布の下衣に革のブーツ。上半身は裸だ。手足に欠損は見られず、何とか五体満足で済んだようだ。見た限り元の姿を保っている。

 右の掌を見つめ、意思通り動くのかと握ったり開いたりしてみた。


 うん。大丈夫。動くね。自分の身体だ。

 しかし、これは……。


「ヨギ君……やっちまったなぁ……」


 君付けで呼びたくなるほどの年齢差があったであろう無鉄砲な青年を思い溜息を吐いた。


 儀式台の横に設置された遺物レリックに目をやる。

 死と再生の神――パーズアンゾーニの香炉。

 両腕で抱えなければならないほどの大きさのアンティーク調の香炉で、死者転生を可能とする遺物レリックだと説明された。既に稼働させるのに使用した多数の魔晶石は何処にも見当たらず、香炉の中央に設置してあった核結晶も消え失せ、立体的に彫刻された魔法陣からは光が失せている。


「本当に死者転生の遺物レリックだったのか。それなのに……魔晶石の中に紛い物が混ざっているとか……。何て言うか、ついてないな。可哀相に」


 信じる方がおかしいレベルで希少な不死者の王の核結晶に、伝説ですら聞いたことが無い死者転生の香炉という遺物レリック。これらは怪しげな呪術師に譲り受けたのだけれど、こうして不死者の王への転生が成功しているのを見ると驚くことに本物だったらしい。

 とは言え、聞いていた効果とは全く違ったわけだし、自力で必死に買い集めた魔晶石の中に粗悪品が混ざっていたせいでこのざまなのだけれど……。

 儀式を執り行うのに必要な星回りの日が迫っていて、逃せば次は十年後と言われたものだから、焦って集めたのだ。品質のチェックが甘かったらしい。急いては事を仕損じるってやつかね。

 

 儀式のときに金気を身に着けてはいけないと警告を受けたため、確認のために設置しておいた姿見の前に立つ。


 短く刈り込んだ赤毛に青い瞳。金や地位に飽かして見目の麗しい者を取り込んで来たであろう貴族の血統を引いているだけあって端正な顔立ちをしている。

 長身でギリシャ彫刻の様に鍛え込まれた身体。

 脳筋だとか、格闘バカとか言われていただけの事はある。

 ガレンタール人という人種らしいけれど、髪や眼の色は兎も角として、俺が知っている人間と大きな差異はなさそうだ。

 僅かにでも、振られた運命の賽の出目が狂っていれば、死霊のような姿になり果てる可能性もあったのだから、ホッとせずにはいられない。


 鏡の中の青年の名は――ヨギ・オルレアン。

 この星系国家の男爵家の長男で今年で二十歳。男爵位という決して高くはない身分でありながら、ルドラ軍で准将の地位にまで登り詰めた父に憧れ、軍人を志し、現在はルドラの士官養成学校に通っている。

 幼い頃から鍛錬を積んだだけあって身体能力は高く、それを生かした格闘戦では既に達人の域に達しようかと言うほどの腕前を誇る。

 しかし、軍人、特に騎士を目指す彼に重要だったのは剣術の才能。残念な事に、こっちはまるで備わっていなかった。

 それでも血の滲むような努力の末、人並み程度には形になってはいる。けれど、それ以上を目指すのはかなり厳しい。俗に言う、才能の壁というやつだ。

 そしてもう一つ騎士になる上で大事なのは保有魔力量。

 現代では後天的には殆ど増えないと言われている生まれ持った才能。これに関しても、彼の魔力量は士官養成学校の騎士科合格ラインぎりぎりだった。

 これらをもって、彼の実技面での成績は平均より僅かに下回った辺りで低迷している。

 実際のところ、軍での出世を望むのならば、騎士科ではなく他の科への転属を考慮すべき事態なのだけれども、艦隊を指揮する父とは違う道で最も分かり易い形で認められる可能性が高いのが騎士であり、騎士科に通ってからは、勝ちたい相手も、誇りたい相手も出来たため、騎士になる事を諦めたくはなかった。

 努力家である彼は必死で足掻き、座学で良い成績を収める事で、何とか踏みとどまっているといった状態だ。

 『行動してから考えろ。悩む時間があれば鍛錬しろ』と父に教わり、脳筋気味に育った割には決して頭が悪いというわけではないのだ。

 そう、頭は悪くない。地頭は悪くはないのだけれど、何と言うか直情的で、悩みを抱えると視野が狭くなり、激しい思い込みでもって突っ走る傾向があった。

 まぁ、若さだと言ってしまえば、そうなのだけれど、ちょっと今回のこれは若気の至りでは済まされないだろう。


 他人事ながら、どうしてこうなった、と思わなくもない。

 いや、他人事、とはもう言えない。

 何せ今現在ヨギ・オルレアンは俺なのだから……。

 

 以前の彼は人を辞めただけでなく、自分という人格さえも投げ捨てて、虚無の彼方へと旅立ってしまったらしい。



 不死者の王への転生の儀式というのは、転生前の知識、経験、人格等を保ったまま、その不死性を手に入れるというのが本来の効果だ。


 術者は自らを対象として儀式魔法を執り行い、それを手に入れる。

 なので術者は高位の魔術師のはずであり、この儀式魔法に関する知識は勿論、魔術全般への造詣も深く、熟達もしている。登り詰めた魔術師が魔導の極みに挑むため、その全てを投げうつ覚悟で行う様な儀式なのだ。


 ヨギ・オルレアンには魔術の知識も、熟達の腕も、魔力量も、何もかもが足りていない。


 その何もかもが足りていない状態を、埒外の力を秘めていた遺物レリックと内蔵されていた不死者の王の核結晶、膨大な量の魔結晶で埋めたらしい。


 件の呪術師の説明によれば、このパーズアンゾーニの香炉という遺物レリックで死者転生の儀式を執り行えば、生来増えることが無いとされる保有魔力が仮初の死を介した疑似転生によって爆発的に増加する……はずだった。

 そう……彼は魔力を増やしたかっただけで、決して、死にたかったわけではないし、死霊になりたかったわけでも、まして不死者の王への転生などと言う大それた事をしようと思っていたわけでもなく、本来の死者転生の儀式がそういうものだとは欠片も理解していなかった。

 

 確かにこんなもので不死者の王への転生の儀式が出来るなんて普通考えないものね。

 今の俺には不死者の王としての魔術に対する知識が備わっている。その俺から見ても、この骨董品で何をどうしたら不死者の王への転生が成功するのか皆目見当がつかないのだ。

 今は既に力が失われ、遺物レリックの要であった核結晶も役目を終えてなくなっているし、組み込んであったであろう魔法術式も負荷に耐えきれず自壊してしまっているようなので、どうひっくり返して調べても原因の究明は出来そうにない。

 少なくとも何等かの死霊魔術に関する補助効果はあったのだろうとは思う。

 多分、古代魔導王国期の魔導具なのだろうけれど、当時でさえ死霊や動屍体を作るのが精々だったはずだ。どこかに俺の知らない秘匿された魔導具が存在していたのだろうか? 

 あの呪術師がどういうつもりでこれをヨギ君に売り込んだのかは分からないが、死者転生の遺物レリックだと説明した限り、名前は知っていたようだ。これで彼が語ったように保有魔力が増やせると思っていたかどうかは怪しいものだが、まさか本当に死者転生が成功するとも思っていなかったはず。儀式の高度さに比べ魔導具の規模が小さすぎるからだ。普通は使えば成功失敗関わらず死霊になり果てる様な呪具の類だと思っていたのかもしれない。

 現状を見るに、それは成功確率があまりに低かったために成功例が無かっただけで、実際には謳っている効能通りの能力自体は秘めていたようだが。

 でもそれならば、俺を殺す気だったということだろうし、死霊と化した後に問題を起こさせるのも目的だったのかもしれない。

 ただ、そもそも全部が出鱈目で、ちゃんと稼働するとさえ思っていなかった可能性もある。どちらかと言えば此方が本命だろう。

 遺物レリックに備わっていた核結晶にしてもそうだ。まず本物の不死者の王の核結晶だとは知らなかったはず。大方鑑定不明で何の核結晶かわからず、穢れを多く含んでいる事からあまり良い類の物だとも思っていなかったのだろう。仮に本物だと知っていれば、捨て値でも城の一個や二個は買えるほどの価値はあるはずなので、遺物レリックを破壊してでも手に入れていた事だろう。付属品感覚で譲ったりはしないに違いない。

 そう考えると、あの呪術師は、呪われそうで不吉な核結晶がついた怪しげな呪術的雰囲気だけを漂わせるガラクタを、世間を知らなそうな思いつめた青年を言い包めて、彼的には良い値段で売りつけたってのが事の真実じゃなかろうか。もうあの路地裏にその姿はない事だろう。

 まぁ、普通に詐欺師にカモられただけ、ってわけだ。

 本来なら、何の結果も得られず、貯め込んでいた金を注ぎ込んで買ったガラクタと、それを動かすためにクリーチャー狩りに精を出し、やっと買い集めた魔晶石を抱えて途方に暮れているはずだったのだ。


 ところが――――。

 そのはずだったものが、核結晶が本物だったのと、本人は知る由もない事だが、彼の魂に類稀なる死霊魔術への親和性があったことで儀式が成立してしまったらしい。

 それでも本来なら、入手困難な希少触媒の数々や、少なくとも数十人の生贄、儀式場に穢れが入り込まぬようにする高位の結界が必要であり、儀式自体も数日に渡る時間が掛かるはず。

 こんな下水道脇の闇ギルドが麻薬取引に使っていたであろう部屋で、何の触媒の用意もなく、生贄の魂という代価も用意せず、一日も掛からずに儀式が成功するなんて、ちょっと考えられない。


 いや……成功と言うと語弊があるかも知れない。

 肉体を損なうことなく不死者の王への転生はなったが、直前までクリーチャーを狩り続けて穢れを溜め込んでしまっていたのと、魔晶石が粗悪品だったのも手伝って、何の結界も張っていない儀式場に何処からとも知れない雑霊を呼び込むことになり、結果として俺と言う何の力もなかったはずの存在に乗っ取られる事となったのだから。


 乗っ取ったってのは聞こえが悪いな。

 態とじゃないんだよ。ごめんね。俺にその気はなかった。ハッキリとした自我さえもなかったんだ。

 自発的に何かをするような状態じゃない。


 俺は多分浮遊霊のような存在だったんだと思う。

 こうなるまで確固とした意識は戻っていなかった。

 この世とあの世、次元の狭間を漂う魂の欠片。記憶の断片。誰かの人生の残渣。ひょっとすると更にそれらの残響エコーだった可能性も。

 そんな、酷くあやふやな存在。

 そもそも取り戻した元の自分の記憶からすると、俺はこの世界の人間じゃない。

 俺が生きた世界にはクリーチャーなんていう怪物どもはゲームの中にしかいなかったし、魔法だってなかった。科学を基盤に生活し、ちっぽけな星にしがみついて発展していた。まぁそのせいでちょっと環境汚染が心配になって来ていたけれども。此処とは違って、惑星間の移動など夢のまた夢だったし、大体からして生存可能な他の惑星も見付かっていなかった。そういうのは物語や映画、空想の中だけの物だった。

 争いが無かったわけではないけれど、概ね平和な世界。その中でも特に平和な国で生きていた。あまりに平和過ぎて平和ボケしているとまで揶揄された国。サブカルチャーに溢れ、異常なまでの食へのこだわりを見せていた愛すべき国民性。

 そこで特に不自由なく暮らし、仕事をして、家族を作って、それなりの年齢まで生き……多分死んだんだろう。かかわった人の顔が浮かんでは消えていくけれど、細部は思い出せないし、自分の名前も思い出せない。虫食いだらけの前世の記憶だ。

 ただハッキリとここではない世界だったことだけは断言できる。

 何故なら、俺と言う人格の前世の記憶も持ち合わせているのと同時に、この肉体の持ち主だったヨギ君の記憶もあり、更には不死者の王としての知識や記憶も持ち合わせているからだ。不死者の王の方は、どうやら元々確固たる人格を持っていなかったようで、魔術に対する知識的妄執に取りつかれたなれの果ての存在だったみたい。魔術と自身の権能に対する知識ぐらいしか残っていなかった。それらの記憶、知識から得られる世界の成り立ちに関する齟齬が、明確に此処が異世界であると示していた。


 斯くしてヨギ・オルレアンと言う個人は、俺と言う人格のヨギの肉体を持った不老不滅のクリーチャーとなり果てたわけだ。


 皮肉な事に、彼が最も望んでいた『保有魔力量を爆発的に増やす』ことにだけは成功したことになる。望んでいた形とは全く違うのだろうけれど……。


 よし。

 もう今更考えてもどうしようもない事をグダグダと考えるのは止めよう。

 職場の後輩ちゃんにも悪い癖だって言われたじゃないか。

 ん? あの後輩ちゃん何て名前だったかな? 顔も靄が掛かったように朧気で思い出せない。良く酒代を集られたのだけはしっかり覚えているというのに。

 まぁ、いいか。

 何の因果かもう一度生きる権利を得た訳だから……しかも異世界とか……楽しまなければ損だ。

 厳密に言えば、不死者の王って生者かと聞かれれば首を傾げるしかないし、本来なら発見され次第討伐隊が組まれかねないような災害指定レベルのクリーチャーなのだけれども、幸い見た目はこの世界で一般的な成人男性だ。不老なのでずっとこのままの見た目だろうから、その内に不審には思われるだろうけれど、少なくとも暫くは大丈夫。直ぐにクリーチャーだとバレたりはしない。バレなければ問題ない。……バレないよな? 厳密に言えば、通常のクリーチャーとも違うわけだし、大丈夫だと信じたい。

 以前の彼には悪いが、今日この時からは俺がヨギ・オルレアンだ。

 彼が何のために魔力を欲したのか、それで何をしたかったのか。そこら辺の事情も理解している。

 その全てに応えてあげることは出来ないけれど、細やかな罪滅ぼしも兼ねて、ある程度は達成してあげるつもりだ。

 その後は……そうだなぁ、この世界を見て廻るのも楽しいかもしれない。

 何せ、異世界。そして此処の人類はその勢力圏を宇宙にまで広げている。星系からして違うだろう。広さや多様さで言ったらとんでもないことになるんじゃないかな。

 終わった人生の余禄としては有り得ない程に破格の環境。

 今度の人生の時間は長い。じっくりゆっくり堪能できる。多少回り道をしても何の問題にもならないしね。楽しみで仕方が無い。



 いつまでも怪しげな下水道脇の小部屋で一人でぶつぶつ言っているわけにもいかない。

 余計なものと遭遇する前にさっさと撤収しよう。

 此処は曲がりなりにも不死者の王への転生の儀式がなされた場所。魔力や魔術の反応に敏感な者に勘付かれないとも限らない。


 とは言うものの、何を置いてもやっておかなければいけないことが一つ。


 不死者の王の知識を掘り起こして、権能を発動する。


「『棺桶コフィン』」


 低い呟きと共に、眼前、腰高辺りに亜空間への扉が出現した。

 縦横一メートル程の片開きの武骨な黒い扉。表面はつるりとしているけれど材質は不明。まるで死体安置所の扉だ。

 術者である俺にしか認識出来ず、他の者からは見えない。

 外から中の様子は窺い知ることは出来ないけれど、中からは外が見える様になっていたはず。


 扉の右端についているハンドルに手をかけ引っ張ると、音も無く開いた。


 中は扉のサイズと同じ縦横一メートル程で、奥行きが三メートルぐらいある。壁も天井も練色のクッション地で覆われている。扉の丁番がついている側の壁の下方に二十センチ幅の黒く細長いサイドテーブルが奥まで伸び、その下の隙間から間接照明が室内を照らしている。床面はサイドテーブルより僅かに沈み込んでいてマットレス様の質感を再現している。

 この魔術を発動する時にイメージしたまま、良く使っていたカプセルホテルの個室と良く似ている。

 原典のまま発動すると、本気で棺桶が出現するので改変してみた。

 古い映画の吸血鬼じゃないんだから、黒塗りの棺桶が寝床とかは無いだろう。創造する亜空間の体積が似た様なものなら維持に必要な魔力量は変わらない。流石に創る時には少し多く魔力を使ったが、これからずっと使う大事な場所なので、棺桶みたいなのよりはこっちの方が良いだろう。


 中に入って扉を閉める。これで外からは感知できない。

 此方からはまるでマジックミラーのように外の様子が確認できるのに、だ。


 うん。良い硬さのマットレスだ。今度、毛布と枕も仕入れて入れておこう。


 この空間の一番奥の壁の中央にあるニッチに、権能で造った自分の核結晶の分体を安置する。

 核結晶ってのは、クリーチャーの心臓に当たるもので、霊的魔法的な中枢も兼ねている。亜空間に自分の魂を分けて保管しておくことで、万が一、この身が滅びたとしても、この分体核結晶を使って此処で再生される。再生時に消費されるわけではなく、どちらかと言えば複製に近い処理と、記憶領域のバックアップがなされるので、分体核結晶を直接破壊されない限り、何度でも再誕出来る。

 言ってみれば、この分体核結晶は不死者の王の不滅の源泉。神は何の備えもなく不滅らしいけれど、不死者の王の不滅には種も仕掛けもあるのだ。

 不死者の王の肉体は物質界アッシャーに存在していても本質的には形成界イェツィラーの存在なので、簡単には傷付けることは出来ない。仮に手段があったとして、並大抵の強さではどうにもならない位の生物としての格は備えているので、心配し過ぎって話もあるが……。

 『棺桶コフィン』で造った亜空間は、常に俺の傍に空間を越えて存在し、俺にとっては絶対領域、安全地帯、避難場所であり、再誕リスポーン場所でもあるわけだ。

 これだけは何を置いても造っておかなければならない。何事も備えは大事。


「ふぅ。疲れた」


 不完全な儀式のせいか俺の状態は完全ではない。棺桶コフィンを造ったせいで今使える魔力はほとんど使い切ってしまった。維持量は自然回復量で十分賄えるので問題はないけれど、早急に力を取り戻す必要がある。

 まぁ、まだ焦る必要はないか。一番大事なものは確保したし、後は徐々にでいいや。


 此処でやるべきことは終わったので、扉を開けて外に出る。出口を開くことが出来るのは、入った場所か事前に指定しておいた場所かの二択。今は造ったばかりでポイント指定はしていないので、必然的にさっきの下水道脇の小部屋に出る。

 さて、今度こそ撤収だ。


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