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推しのアイドルは昔好きだった幼馴染み

作者: 佐古昭博

 かつて僕には好きな子がいた。しかし、彼女は中学になる目前に僕の前から去って行った。


「待っ……待って……」


 ジリリリリとスマホの目覚まし時計が鳴る。僕はハッと目を覚ます。


「夢か……」


 最近昔に起きたことを夢で見るようになった。

 僕は甲斐谷優、容姿普通、成績普通のどこにでもいる高校2年生。高校は県内で一応少しだけ偏差値の高い高校に歩いて通っている。そして暫く歩いていると、


「眠そうね。どうかした?」

「江美……」


 こいつは、河合江美。僕の昔からのご近所で幼馴染みだ。成績優秀、容姿端麗の校内有数の美女だ。背中まである少し茶色がかった髪をポニーテールにし、目は二重のぱっちりで性格は底抜けに明るい。部活は女子テニスでレギュラーである。ファンクラブまであるそうだ(実態は知らない)。


「最近、よく夢を見てさーっ。眠りが浅いっぽい」

「どんな夢?」

「それは……」

 

 江美には分かると思い、夢の内容を話した。夢を見る原因は分かっている。おそらくあれだろう。最近人気急上昇のアイドルグループ、スマイル8の一員の皆越(みなこし)ユウを見たからだ。その子が昔から僕が好きで転校していった花野結羽(ゆう)に顔がそっくりなのだ。


「あぁ、結羽ちゃんの夢を……」

「そうなんだよ」

「それってもしかして、スマイル8のユウちゃんを見てから?」

「あぁ、まあな。やっぱり似てると思うか?」


 彼女はコクンと首を縦にふった。

 僕は結羽ちゃんにもう二度と会えないと思い、記憶の隅に彼女を葬っていた。しかし彼女にそっくりなアイドルを見てふつふつと昔の気持ちが蘇ってきた。どうしよう、スマイル8のユウちゃんに小遣いを貢ごうか考える段階にまで来ていた。


「顔が似ているとはいえ、それだけで彼女が結羽ちゃんとは限らないわ」

「けど名前が似ているし……」

「そんなの偶々かもしれないじゃない」

「……」

「それに彼女達は虚構の存在。遠い存在にいるから良いのであって、身近にはそんな子いやしないわっ」


 それに……と彼女は続ける。


「女なんて成長するに性格が変わるし、ああいう集団にいるんだから、本当はかなりドロドロしてたり……」

「あー、分かったよ! そう言うなって!」


 全く、珍しくすぐ幻滅させることを言う奴だ。

 結羽ちゃんかー、今頃どうしているだろうか。彼氏いるのかな? そう思うと胸がキュッとした。……考えるの辞めよう。

 そしてしばらくして気づいたら、スマイル8のグッズが僕の部屋に散乱するようになっていた。CDなんて10枚買っている。お目当ては勿論ユウちゃんである。手紙も事務所に送っている。読んでくれているだろうか? というか使いすぎてそろそろ小遣いの底をつく。

 あちゃー、こんなに集めてやっちまった。どうしたものか。知り合いにこの部屋を呼びにくくなってしまった。そう思っていたら、1階からピンポーンとチャイムが鳴る。誰だろうと思い降りて見ると白のワンピースを着た江美が立っていた。


「ど、どうしたんだ江美!?」

「ど、どうしたって、今日、あんたん家で宿題と映画見る予定だったじゃないっ」


 そうでした、忘れてました。部屋の片付けしようと思っていたが、忘れていたっ!!


「ちょ、ちょっと待ってくれっ。部屋を片付けているところだから」

「えー!? 外は暑いから待つのきついわっ!」

「5分、5分でいいからっ!」

「はぁ、分かった。5分ねっ」


 そして急いでそれらのグッズを納戸にいれて、彼女を呼んだ。


「あー、涼しいわっ」

「はい、麦茶」

「ありがとう」

「何の映画見るんだ?」

「マイセレクションのDVDを持って来たわっ」

「おー」


 こいつはかなりの映画マニアだ。洋画、邦画どれもいける口で、こいつの選ぶ映画なら大体面白い内容が多い。キネマ○報もびっくりだ。そして彼女は僕のパソコンに接続する。しかし……、


「……何これ?」

「? あっ!?」


 パソコンの中にスマイル8のライブのDVDを入れっぱなしだった。

 しまった~。こんなところに忘れて物がーーっ。

 彼女はみるみる不機嫌な顔になっていった。そしてキョロキョロ見始めたと思ったらバッと立って僕の部屋をくまなく調べ始めた。


「お、おい、何やって……」


 彼女は何も答えない。そして、ついに納戸に手をかけた。


「あ、止め……」


 僕が彼女を引っ張った拍子に納戸のドアが開き、雪崩のようにグッズが出てきた。


「……」

「……」


 見られた。どうしよう……。やばい、恥ずかしい。そして彼女は無表情でこっちを見てくる。


「ふーん。スマイル8のファンになったんだ」


 僕は何も答えなかった。他人が見て明らかにも関わらずである。


「他にもアイドルグループはあるのに、どうしてスマイル8のグッズだけなの?」

「えー、それは……」

「結羽ちゃんそっくりのアイドルがいたから?」

「……」


 図星だった。彼女はため息を吐きこう言う。


「前にも言ったけど、アイドルは虚構なの。結羽ちゃんそっくりのアイドルがいたとしてもそれは結羽ちゃんじゃないし、別人のそっくりさんを追うのはただ単に彼女の幻影を追う様なものよ」

「……それぐらい分かっているさ」

「そんなに金を使っているのに?」

「……」

「結局会えないのに、無駄な資金ね」


 僕は少しムッときた。


「握手会があるじゃないかっ!」

「あんなの滅多に当たらないじゃない」

「そんなの分からないだろ? 可能性に賭けるのは!」

「そんなにお金を使って馬鹿みたいっ!」

「なんだと!?」


 僕達は久しぶりに喧嘩をした。スマイル8の話になるとなぜか彼女は厳しい顔になり嫌な言葉を放つ。他は寛容なのに。


「握手券なんとしても当ててやる!」

「無理よ」

「当てる!」

「……夢を追ってないでそろそろ近くを見たら?」

「? どういう意味だ?」

「……別に」


 馬鹿なんだからと彼女は言ったが、僕は無視した。

 そして数週間後、ついにユウちゃんの握手券を当てた。

(ほら見ろ! 握手券当たったぞ!! ざまあみろ!!)

 その日は一日中自分の部屋で歓喜した。

 そして握手会当日。僕は緊張のあまり手が汗でびちょびちょになっていた。

(こんな状態で握手したらユウちゃんに幻滅されそうだ)

 僕はワクワクと不安に駆られる。これでねんがけていた彼女を近くで拝める。楽しみだっ。そして2時間経って大分列の前にいけた。

 長いなーと思っていると、何やら後ろががやがやしている。何だろうか? と思ったが、そこまで気にしなかった。

 そして遂に僕の番が来た。


 こんにちはと僕が言った時、彼女は目を見開いた。


「優……君?」


 え?


「もしかして結羽ちゃ……」


 その時、後ろがドッと騒がしくなった。見ると、一人の黒服の男がこっちに走って来た。


「色んな男に愛想振りまくりやがって。この売○めっ!!」


 血眼の目で男は罵詈雑言を吐きながら、鈍器を持ってこっちに来る。

 ヤバいと思った僕は無意識に彼女の前に立った。そしてゴッと顔に鈍い音を鳴り僕は倒れた。その後、男は彼女の近くにいた護衛が取り押さえたのを一瞬見た。


「大丈夫ゆうちゃ……」


 僕はそれ以上言えず意識が朦朧とした。


「優君……! 優く……」


 そう聞こえた気がしたがよく分からなかった。そして病院に運ばれた僕は命に別状は無かったが脳しんとうと頬骨の骨折をしていた。

 次の日。スマホで芸能欄を見るとニュースになっており、暴漢が来て皆越ユウの握手会は中止になったそうだ。


「優大丈夫?」

「あぁ」


 江美にはしつこく訊かれたので、渋々答えた。めっちゃ顔に包帯巻いているから分かるか。


「しばらく握手会はなさそうね」

「……まあな」


 ただでさえ彼女に会う可能性は低いのにこれで、もっと会えなくなる……。あぁ……、僕の生きがいが……。

 それから数日後。


「おい、なんかうちのクラスに転校生が来るらしいぞ」

「まじか!? 男子、女子?」

「女子だって。かなり可愛いらしいぞ!!」

「まじかっ!」


 かなりクラスは盛り上がっていたが、僕はそんなのどうでも良かった。そして担任が来て、


「転校生を紹介する」


 そう言ってからドアの音が聞こえ、少しして男女ともにおぉ、歓声が上がる。黒板に書く音が聞こえ、彼女は言う。


「……ゆうです。宜しくお願いします」


 聞いたことある声だなと思い前を見ると、スマイル8の皆越ユウにそっくりな人がいた。そして黒板を見た。


『花野結羽』


 僕は目を見開き席を立ち上がると、どこからか嫌な音が聞こえたような気がした。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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