レベルアップ
この旅の中でおよそ5回ほど遭遇した、遭遇率の高い魔物。
二足歩行でとことこと歩くその姿は愛らしいが、初めて奏多がこの魔物と遭遇したとき、手にした枝で喉を掻っ切られそうになったせいで、彼の中では既に立派なトラウマになっている。
あれは本当に危なかった。大蜥蜴が助けてくれなかったら、奏多は〈犬人〉に殺されていたかもしれないのだ。
故に、彼は絶対に油断しない。
のそのそと、犬人を警戒しながら進む大蜥蜴の脇腹を軽く二回蹴る。それは、全身鎧の兵士に教えられた、突進の合図。
その衝撃に秘めた野生の本能を刺激され、理知的に様子を見ていた大蜥蜴が目の前の矮小な獲物へと一直線に走り出す。
「グ、オオオオオオオオォォオオオ!!!!」
猛烈な雄叫びをあげながら犬人に突進する大蜥蜴の背に奏多はバランスを崩しながらも必死で捕まり、なんとか腰の剣を抜く。
錆びた剣身が顕になり、奏多はそのまま覚束無い足元でなんとか剣を構えた。
その速度は体感でおよそ40キロくらいだろうか、突然の急加速に奏多の体が悲鳴をあげるが、それよりも恐怖を覚えているのはあの犬人のはずだ。
一度チャンスを逃すと、この魔物を追撃するのは難しい。
逃げ足が早く、奏多の強化された脚力でも追えないばかりか、犬人の身体は小さく見失いやすい。
変に深追いしてもあの枝で反撃されないとも限らないので、確実にこの一撃で仕留めなければならない。
覚悟を決め、奏多はその時を待ち体制を整える。
手が震えているのを意識的に無視し、剣を身体の中心で構える。
剣の構え方なんて、奏多は習ったことすらない。
故に、自分が一番斬りやすい構えで彼は必死にその時を待った。
犬人は、突然の攻撃にまだ対応できていない。突進に巻き込まれ、その矮躯が圧倒的な質量に蹂躙される直前ーーー
「キャン!」
犬人が、甲高い声で叫ぶ。
一見恐怖に竦んだようにも見えるその雄叫びは、突進する大蜥蜴の足を止めた。
いや、正確に言えばつまづいたのだ。
犬人の叫びに呼応するように、突如地面から盛り上がってきた土壁に。
それは脆く、大蜥蜴が体当たりすれば簡単に壊せるようなものでしかなかったが、その土壁は大蜥蜴の足元までしかない。
故に、大蜥蜴は無防備に衝突。呻き声と共に大蜥蜴の巨躯は静止し、しかし必死に背へしがみついていた奏多は、慣性の法則にしたがってそのまま前方へ吹き飛ばされた。
その土壁の低さは、犬人が知恵を絞ったのではなく、単純な神紋性能の低さによるものだが、それをこの時の彼に知る由もない。
闘いで重要なのは、原理などではない。ただただ、飛ばされたという事実に重きを置いて。
宙を舞う奏多は、くるくると回る視界の中でなんとか犬人の姿を捉えた。
脳が掻き乱される感覚に眉を顰めながらも、それを唇をかみ締めて無理やり封じる。
準備は整った。後は、成功させるだけ。
かなり綱渡りではあるが、恐らく大丈夫だろう。この戦法に、奏多はもう慣れている。
「犬人が追い詰められた時にその魔術を使うのは、残念だけどお前の仲間のお陰で分かってる……!」
風圧を感じながら、彼は地面に衝突するギリギリで体制を整え、既に抜いてあった鉄の剣を犬人の脳天目掛けて振り上げる。
普段なら当たるはずのない無理な挙動は、彼の強化された身体能力と闘いの高揚感に確かな軌道を描きながら振られていた。
これはさすがに想定外だったのか、犬人は呆気にとられていて、あの土壁を発動させる暇もない。
「これで、終わりだーーーッ!」
そして、奏多は自由落下に従い、その勢いのままに剣は犬人の脳天に突き刺さった。
白い毛に覆われた皮膚が抉れ、脳漿が視認できるようになった犬人の頭部には、錆びた鉄の剣が凶悪にめり込んでいて。
「キャ、キャウゥン……」
全身に響く強い衝撃、そして犬人の、助けを求めるような小さな声と共に、剣を握る右手には確かに頭蓋骨を砕いた感触。
落下の衝撃で動けないまま犬人を一瞥すると、その小さい頭から真っ赤な血が噴水のごとく吹き出した。
その血は大森林の恵まれた土を赤く染め、戦いに勝利した奏多を、大蜥蜴を、まるで祝福するかのように降り注いだ。
無防備に地面へと叩きつけられ、息ができない感覚にあえぎながらも、彼は勝利したことへの安堵、そして求めていたとある感覚を覚え、思わず頬を歪めた。
「レベルアップ……きたぁ!」
近藤 奏多 人族 Lv7
筋力 13 (1)
防御 21 (1)
素早さ 29 (1)
体力 22 (1)
神紋性能 E (10)
SP:34
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通常スキル
剣術:Lv1 (5)
不意打ち:Lv1 (5)
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称号スキル
〈異世界人〉 (50)
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従属魔物
〈大蜥蜴〉C-級 Lv29
筋力 71
防御 65
素早さ 58
体力 64
神紋性能 C
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通常スキル
突進Lv3
狩りLv1
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称号スキル
〈乗用魔物〉 〈猪突猛進〉
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11時に次話投稿するので良ければ見てください