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ステータス

面白そうだったら評価やコメントお願い致します……

石造りの部屋にあった小さな椅子に座っていた奏多がその言葉を赤ローブの男から聞いたとき、奏多はやはり額に汗をかいていた。


とは言っても、それはやむを得ないだろう。

当然のことだが、彼は元の世界でも、上の立場の人間と言葉を交わしたことなどない。


せいぜい学校の校長程度で、その時も相当緊張していた程なのだ。

つまり、彼は立場が上の人間と話すのが極端に苦手だった。


それは昔からずっとで、その為奏多にとって一国の王との謁見など地獄でしかない。


今になって汗をボタボタと垂らす奏多に男たちは気付くことなく、彼は逃げ出したい気持ちを堪えてなし崩し的に男たちへとついていくしかなかった。

周りの男たちが先導し、彼は先程質問を投げかけていたリーダー格の老人の横に並び石造りの部屋を出る。


「うわぁ!」


部屋を出た彼の視界に入ってきたのは、中の殺風景な光景からは想像がつかないような景色だった。

それは、いわゆる中世ヨーロッパの世界観。

現代人である彼が見ても息を呑む程大きな城がすぐ目の前に聳え立ち、頭上に広がっている空は見た事がないほど青い。


奏多が召喚される前は深夜だったはずだが、どうやらこちらの世界では真昼らしく、丁度脳天に差し掛かった太陽のようなものが、彼の黒髪をギラギラと焼いていた。


突然の光に目が眩むのも気にせず、彼はその非現実的な光景にしばらく魅了されていた。


先程までいた石造りの部屋はどうやら城の庭に作られた別室のようで、周囲一面に広がる広大な庭は完全に手入れが行き届いている。

まばらに見える鎧を着た兵士たちに、奏多は自分が異世界に来たのだということを実感させられる。


そうして感極まる奏多を赤ローブの男たちがやけに苛立ちながら急かしてきたため、奏多はあともう少しこの光景を眺めていたい衝動を必死に抑えながら庭の中を突き進んでいった。



ーー心の中では微かに、勇者という立場のはずの自分に文句を言う彼らに釈然としない所もあったが。


先程との態度の違いに、ほんの僅かな不安が奏多に芽吹くが、それでも今の彼にそのことを問い詰められるほど余裕も、勇気もなかった。


そんな違和感を無理やり押し殺し、彼は自分たちが今どこへ向かっているのかを、近くに歩いていた赤ローブの男に尋ねる。


「ああ、私たちは今王城に向かっているんですよ。あの石室から城までは、この裏庭を通らないと行けないので……」


その男によると、どうやら奏多たちは城に向かって歩いているようだ。

ただ、庭は広い上に花畑を避けて決まった砂利道を通らないといけないため、着くのにはかなり時間がかかりそうだった。


そうして庭を歩き始めて数分後、ふと思い出したように老人が無表情で呟いた。


「まず勇者様には、ステータス確認をさせてもらいます。」


その言葉を聞いたのは、奏多が庭を越えて裏口の小さい(それでも規格外のサイズだが)門を通り抜けて城に入った直後に言われた言葉だ。

豪奢な設備と多くの人々が行き交うその光景に奏多は当然目を奪われたが、しかし先程と同じように男たちに急かされてしまった為に彼は泣く泣く城の見学を諦めていた。


因みに、今奏多がいる位置のちょうど真反対が城下町らしいのだが、巨大な王城に隠れて見ることは出来なかった。


「ステータスの、確認……?」


「そうです、勇者様は代々自分のステータスが見えないので、我々が記録しお伝えすることになっています。」


ステータス。

彼が見た異世界ものの小説にもそのシステムはあったので、なんとなくだがどういうものかは理解できる。

様々な表記方法があるので一概には言えないが、基本的には自分の身体能力を数値化したものだろう。


身体能力を数値化したものが見える。

それがあると言われても奏多はもう驚かないが、しかしいわゆる勇者と言われる存在がそれを見れないのはかなり不便な気がしていた。


ましてや、今の彼は特に力が湧いてきている訳でもなく、むしろあり得ない程の身体の重さもあって自分が勇者だという実感があまりない。

勇者というのは案外弱いのかもしれないなんて突拍子もないことを脳内で考えながら、しかし奏多はもうひとつの異世界システムがあることを期待していた。


正直、そのシステムが適用されていなければ奏多は一般人のままなので、流石にそれくらいはあると思いたいが。


「ここがステータス記録用の部屋です。」


煌びやかなシャンデリアや調度品が置かれた広大な城の中をしばらく進んだ彼は、ようやく1つの部屋に案内された。

扉を開けて見ると確かに中は広く、それなりに高そうな家具も置いてはあったが、少なくとも彼には一切特別な部屋には見えなかった。


この部屋を奏多の知識で表すのならば、それはいわゆる客室と呼ばれる類のものだ。

わざわざこの部屋ですることに何の意味があるんだろうかと奏多は疑問に思いながらも、男たちに差し出された黒い装飾が施されている客室の椅子に腰掛けていた。


なぜか、赤ローブの男たちは特に会話をすることも無く直立不動で突っ立っていた。

先程までの興奮した様子とは大違いだが、それでも興奮したおじさんをずっと見るよりはマシだろうと奏多は理由のない不安を振り切るように頭を振る。


そうして思考に沈みながらしばらく待っていると、1人だけ慌ただしく動いていた老人が奏多の前で立ち止まり、ローブから紙と筆記用具のような物(おそらく羽ペン)を取り出した。


説明は何も受けていないので彼は何をしていいのかよく分かっていないが、おそらく自分のステータスを確認する作業に入ったのだということはなんとなく理解できた。


老人は奏多の顔をじっと見つめているが、その表情はさっきまでと変わらず無表情で、特になにか変わった様子は見られない。

別の男から老人の前にいれば良い、と言われていた彼は、特に何もすることなく適当に待っていると、老人は手に持っていた羊皮紙にすらすらと奏多のステータスを書いていく。


「これが、貴方のステータスです。」


(勇者様だろ!)


彼は反射的に内心で突っ込みをいれながら、しかし溢れ出る好奇心を抑えきれずにいた。

異世界もの自体は好みではなかったが、それでも奏多は中学生2年生なのだ。少なからずそうしたことに対する憧れや好奇心はあり、そして非現実的な今の状況でその好奇心は最高潮に達していた。


奏多は別に生まれつき運動神経が悪かった訳ではないので、少なくとも相当酷いということは避けられるはずだろう。

とはいっても、この世界の平均がどの位なのか分からないのでなんとも言えないが。


「じゃあ、見ますね。」


老人に断りをいれた奏多は、少し息を荒らげながらその羊皮紙を受け取った。

なにかすごい技とかあるのだろうか、なんて淡い期待を抱きながら、奏多は老人が書き込んだ羊皮紙をゆっくりと覗き込んだ。


ーーーそれが、絶望の始まりであることも知らずに。

1時間後に次話投稿しますのでもし良ければ次も見てみて下さい!

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