プロローグ
以前書いてた小説をリメイクしたものです。
もし良ければ評価やコメントよろしくお願い致します。
―――日の出とは、これほど美しいものだっただろうか。
水平線の彼方で一面に広がる草原が途切れ、そこからまだ朧気な太陽が、空を支配する闇を押し出していくようにゆっくりと顔を出す。
日に1度は訪れるものでありながら、尚も人の心を虜にする酷く幻想的なそれを一瞥し、彼は幾年振りにそんな感慨を抱いていた。
見渡す限りの草原で静かに日の出を見つめるのは「珍しい」はずの黒髪黒目の青年。
傍から見れば奇怪に思われることは間違いないが、しかし幸運にもその場には誰もいない。
―――否、「いなくなった」の方が適切だろうか。
突如生まれた妙な感慨を追い払うように頭を振ったその青年は、日の出に見蕩れて止まった足を再び動かしながら視線を前方へと戻す。
「――――」
前方に広がるその光景に、しかし青年は欠片の動揺も見せない。
正面を見すえる黒瞳は一切の揺るぎもなく、それは眼前の「地獄」を日の出より見慣れたものとして切り捨てていた。
そうして、再び歩き出す青年の足に、何か柔らかい、ねばねばとした感触が伝わった。
反射的に下を向いた青年の視界に入ったもの、それは――――
切断された、人間の腕部だった。
ごつごつとした、固く武骨な掌はまるで何かを求めるかのように大きく開かれていて、だが何も握られていない。
形からして右腕だろうか、しかし残念なことに番の左腕は見当たらず、またあるはずの肘から先は全て消失していた。
どうやら、「これ」につまづいてしまったらしい。
青年はそれを朧気に理解すると、まるで道端に転がる石を蹴りあげるように何気なく、それが日常のひとつであるかのように自然に、その腕を蹴り脇へと転がした。
その動作に、彼が腰に帯びていた鉄の剣から無機質な鉄の音がカチャカチャと僅かに鳴る。
それは、気味が悪い静寂の中で異様な程に響いて。
転がる腕から血が流れることはない。
血はもう、全て大地に吸収させてしまったのだろう、その腕は呆れる程軽く草原を転がっていく。
やがてはそれも別の「それ」に受け止められ、そしてまた、この地獄のほんの一部、些細なパーツとして溶け込んでいって。
そんな、名も知らぬ誰かだったものの末路を気にもとめずに、青年は再び歩きだす。
「―――」
最早見慣れてしまった人間の死に、死体に、身体の一部に、彼が思考を割いている余裕などない。
今の彼の、吸い込まれるような黒瞳に宿るのは、ただ悲壮なまでの決意だけ。
まだ正常な人間性が残っている者であれば、そもそもこの地獄絵図が展開された道を通ることすらままならないだろう。
しかしそれを、彼は己が決意の為に突き進む。
青年の鋭利な印象を与える切れ長の瞳に宿るのは、人の身に余る程に圧倒的な憎悪、怒り、苦しみ。
それらを全て、自分にその感情を与えたあの男に思い切り叩きつけるために。
その為だけに、彼はきっと生まれてきたのだろう。
その思考が、最初の目標から明らかに逸脱してしまっていることに、しかし青年は気付かない。
気付こうともしない。
誰もいない、もう、誰もいなくなってしまったこの平原で、死体へと集る夥しい数のハエの羽音が、まるでこの地獄に流れるBGMのように、青年の決意を後押しするかのように、響いていた。
「絶対に、殺す――――!!!」
ただ、響いていた。
今日中に序章は全て投稿するつもりです。
面白そうだと思ったら追っていただけるとうれちい。